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大阪地方裁判所堺支部 昭和53年(わ)516号 判決 1979年6月22日

被告人 吉川省三

昭一五・一二・一生 水産物卸売手伝い

安田誠七朗

昭八・一・一生 通信機修理業

主文

被告人吉川省三を懲役一年に、被告人安田誠七朗を懲役八月にそれぞれ処する。

この裁判確定の日から、被告人吉川省三に対し三年間、被告人安田誠七朗に対し二年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人両名は共謀のうえ、

一、別紙犯罪事実一覧表(一)記載のとおり、昭和五二年四月初めころから昭和五三年六月中旬ころまでの間前後二〇回にわたり大阪市天王寺区上本町八丁目三六番地貴志ビル四階関西ダビングセンター外四か所において中谷清ほか八名に対し、男女性交の場面等を露骨に録画したわいせつビデオテープ五四巻を総合計四〇六、五八〇円で譲り渡し(但し、同表(一)記載の番号9については合計二〇、八八〇円で、一巻は譲り渡し、二巻は配布し)もつてわいせつ図画を販売し、

二、昭和五三年八月三〇日前記関西ダビングセンターにおいて、販売の目的で前記同様のわいせつビデオテープ四〇巻を所持し、

第二、被告人吉川省三は別紙犯罪事実一覧表(二)記載のとおり、昭和五二年一〇月中旬ころから昭和五三年二月一五日ころまでの間前後四回にわたり、前記関西ダビングセンターほか一か所において寺久保光正ほか二名に対し前記同様のわいせつビデオテープ三六巻を合計七五二、〇〇〇円で譲り渡し、もつてわいせつ図画を販売し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人吉川省三の判示第一・一及び二並びに第二の各所為は包括して刑法一七五条(判示第一・一及び二につき同法六〇条を付加)、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択して、その所定刑期の範囲内で右被告人を懲役一年に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右の刑の執行を猶予することとする。

被告人安田誠七朗の判示第一・一及び二の各所為は包括して刑法六〇条、一七五条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で右被告人を懲役八月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右の刑の執行を猶予することとする。

(判示第一・一及び第二の各所為が刑法一七五条前段所定のわいせつ図画販売罪に該当することについての判断)当裁判所の右判断を以下に付加説示する。

一、刑法一七五条前段のわいせつの文書、図画その他の物を頒布若しくは販売する罪は、性的風俗を害する罪であつて、性的秩序ともいうべき一定の社会生活上の秩序を維持するためにわいせつの文書、図画、その他の物の公表を禁止することを目的としたものであつて、禁止する公表行為を網羅して、「頒布」、「販売」と「公然陳列」に区分けして掲げ、同条後段において営利を目的とする所持のみを処罰する趣旨であるものと考えられるので、右目的等に照らして合理的に解釈すると、同条所定の「頒布」とは「不特定又は多数人に対しわいせつ物を無償で配付すること」であり、また「販売」とは「不特定又は多数人に対し、わいせつ物を有償で譲渡すること(売買、若しくは交換、請負等のわいせつ物の所有権を譲渡する旨約してこれを交付すること)、又は右譲渡にあたらなくてもわいせつ物を有償で配付すること」であると解するを相当とする。

二、前掲各証拠によれば、被告人吉川省三は、録画したビデオテープや映画フイルムを録画されていない生のビデオテープに転写することができる機械器具を店舗に設置して「関西ダビングセンター」の商号で料金をとつて右転写等をなす営業を行い、被告人安田誠七朗は被告人吉川省三に雇用されて右店舗で就労していたものであるところ、判示第一・一の別紙犯罪事実一覧表(一)の番号4、5、19及び20は、被告人両名が共謀で、判示第二の別紙犯罪事実一覧表(二)の番号1ないし4は、被告人吉川省三が単独で、それぞれ、不特定又は多数人である顧客に対し判示第一・一又は第二のわいせつビデオテープを売却交付したものであることが認められるから、右各所為が先に説示のわいせつ図画の有償譲渡に該当することは明らかである。

三、次に、前記各証拠によれば、前記一覧表(一)の番号1、2及び6は、不特定又は多数人である顧客が生ビデオテープを前記店舗に持込んで、所定の料金を支払うからこれに右店舗備付のわいせつビデオテープ又はわいせつ映画フイルムの画面を転写するよう申込んだところ、被告人両名は共謀のうえ、右申込を承諾し、右店舗備付のわいせつビデオテープ又はわいせつ映画フイルムを前記機械器具を使用して右生ビデオテープに転写し、これにより録画されたわいせつビデオテープを右顧客に交付し、その際、又はその後同人からその料金の支払いを受けたものであることが認められ、この事実によれば、被告人両名の右行為は、顧客との間でわいせつビデオテープ転写の請負契約を締結してこの契約の履行により録画されたわいせつビデオテープを顧客に交付したものであるというべきであるが、この場合注文者の顧客は生ビデオテープを供給しているけれど主要材料は被告人吉川省三が供給しているものというべきであるから、右録画されたわいせつビデオテープの所有権は一旦右被告人に帰属し、これを顧客に譲渡する旨約して交付したものといわなければならない。そうすると、右各所為も先の説示のわいせつ図画の有償譲渡に該当する。

四、更に、前記各証拠によれば、前記一覧表(一)の番号3、7、8、10ないし18は、不特定又は多数人である顧客が前記店舗に対し所定の料金を支払うから前記店舗備付のわいせつビデオテープ又はわいせつ映画フイルムの画面を生ビデオテープに転写してこれを交付するよう申込んだところ、被告人両名は共謀のうえ右申込を承諾し、右店舗備付のわいせつビデオテープ又はわいせつ映画フイルムを右店舗保有の生ビデオテープに前記機械器具を使用して転写しこれにより録画されたわいせつビデオテープを右顧客に交付し、その際又はその後同人からその料金及び右転写に用した数量の生ビデオテープの交付を受けたものであることが認められ、この事実によれば、被告人両名の右行為は、顧客との間でわいせつビデオテープの売買契約を締結、そうでないとしても、右転写の請負契約を締結してわいせつビデオテープの所有権を譲渡する旨約してこれを顧客に交付したものといわなければならない(請負契約であるとしても、材料の全部を被告人吉川省三が全部供給しているものと認められるから、録画されたわいせつビデオテープの所有権は右被告人に一旦帰属し、これを顧客に譲渡交付したものというべきである)。そうすると、右各所為も先に説示のわいせつ図画の有償譲渡に該当する。

五、最後に、前記各証拠によれば、前記一覧表(一)の番号9は、不特定人である顧客が前記店舗に、顧客手持のわいせつ画面を録画した映画フイルムと生ビデオテープ三巻を持込んで所定の料金を支払うからと右わいせつフイルムを右生ビデオテープに転写するよう申込んだところ、被告人両名は共謀のうえ、右申込を承諾し、前記機械器具を使用して右転写を行つたが、右生ビデオテープのうち二巻しか転写できなかつたので、右顧客の了解のもとに残余の一巻には前記店舗備付けのわいせつ映画フイルムを転写して、これらを右顧客に交付して、その際これらの料金として合計金二〇、八八〇円の支払いを受けたものであることが認められ、この事実によれば、右残余の一巻についての行為は前記二に説示の行為と同じであるから、これは先に説示のわいせつ図画の有償譲渡に該当するが、右二巻についての行為は、右顧客との間で右転写の請負契約を締結してこの契約の履行により録画されたわいせつビデオテープを顧客に交付したものというべきであるところ、この場合、顧客が主要材料を供給しているものというべきであるから、右録画されたわいせつビデオテープの所有権は顧客に帰属し、従つてこの譲渡は約されていないものといわなければならない。そうすると、右二巻についての行為は先に説示のわいせつ図画の有償譲渡に該当しないが、右図画を有償で配付したことには該当するものといわなければならない。

六、以上の次第で、いずれにしても、被告人両名の判示第一・一の各所為及び被告人吉川省三の判示第二の各所為は刑法一七五条前段所定のわいせつ図画の販売にあたるものと認められる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎末記)

犯罪事実一覧表(一)、(二)(略)

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