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大阪地方裁判所岸和田支部 平成13年(ワ)330号 判決 2002年7月30日

原告

A野一郎

同法定代理人親権者父

A野太郎

同母

A野花子

原告

A野太郎

他2名

原告ら四名訴訟代理人弁護士

片岡利雄

被告

B山松子

同訴訟代理人弁護士

藤井美江

主文

一  被告は原告A野一郎に対し、金二億〇三二九万三六〇五円及び内金一億八八二九万三六〇五円に対する平成一一年九月六日から、内金一五〇〇万円に対する平成一三年六月七日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告A野太郎に対し、金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する平成一一年九月六日から、内金五〇万円に対する平成一三年六月七日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告A野花子に対し、金七四五万七五〇〇円及び内金六七七万七五〇〇円に対する平成一一年九月六日から、内金六八万円に対する平成一三年六月七日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告A野一郎、原告A野太郎及び原告A野花子のその余の請求及び原告A野二郎の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告A野一郎、原告A野太郎、原告A野花子に生じた各費用の五分の四を各原告の負担とし、同各原告に生じたその余の費用と被告に生じた費用を被告の負担とし、原告A野二郎に生じた費用は同原告の負担とする。

六  この判決は、第一ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

(以下、原告A野一郎を原告一郎、原告A野太郎を原告太郎、原告A野花子を原告花子、原告A野二郎を原告二郎、自動車損害賠償保障法を自賠法という。)

第一請求

一  被告は原告一郎に対し、一二億四一三七万四〇一七円及び内金一一億六〇六六万四一六八円に対する平成一一年九月六日から、内金八〇七〇万九八四九円に対する平成一三年六月七日(訴状送達の翌日)から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告太郎に対し、一億一一〇七万円及び内金一億円に対する平成一一年九月六日から、内金一一〇七万円に対する平成一三年六月七日(訴状送達の翌日)から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告花子に対し、一億一三八八万二二〇〇円及び内金一億二五八万円に対する平成一一年九月六日から、内金一一三〇万二二〇〇円に対する平成一三年六月七日(訴状送達の翌日)から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は原告二郎に対し、金一億一一〇七万円及び内金一億円に対する平成一一年九月六日から、内金一一〇七万円に対する平成一三年六月七日(訴状送達の翌日)から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記交通事故により重篤な状態に陥った原告一郎とその家族であるその余の原告らが加害者両の運転者である被告に対し、原告らの受けた損害の賠償を求める事案である。

一  前提事実(争いがないか、《証拠省略》により認められる事実)

(1)  交通事故の発生(次の交通事故を、以下、本件事故という。)

① 発生日時 平成一一年九月五日午前一〇時四三分頃

② 発生場所 大阪府和泉市万町二六八番地の一先の交通整理の行われていない、かつ、被告進行方向から見て右方道路が見通しのきかない交差点(以下、本件事故現場又は本件交差点という。)

③ 被害者 自転車(以下、原告車という。)を運転していた原告一郎

④ 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(《ナンバー省略》・以下、被告車という。)

⑤ 事故態様 西から東に向って進行中の被告車と南から北に向かって進入中の原告車とが本件交差点で出会い頭の衝突をし、衝突後原告一郎は被告車のボンネット上に跳ね上げられた後、路上に転倒した。

(2)  被告の責任原因

被告は、本件事故の際、被告車を自己のために運行の用に供していた者であり、自賠法三条により原告一郎らの被った損害を賠償する責任がある。

(3)  原告一郎の受傷

原告一郎は、本件事故により外傷性脳内血腫、脳挫傷等の傷害(以下、本件傷害という。)を受けたところ、本件傷害は平成一二年六月三〇日症状固定したが、原告一郎は頭部外傷後遺症のため、植物状態にあり、意思疎通がはかれず、両上肢屈曲硬直位、両下肢伸展硬直位にあるという後遺障害(自賠法施行令二条別表所定の後遺障害等級第一級三号に該当するが、以下、本件後遺障害という。)が存する。

(4)  損益相殺

① 被告側は、原告一郎の損害に対するものとして、六七二万〇三七五円を支払った。

② 自賠責保険からの填補

原告一郎は、自賠責保険から三〇〇〇万円の支払を受けた。

③ 以上合計は、三六七二万〇三七五円となる。

二  争点

(1)  本件事故態様と過失相殺の要否(以下、争点一という。)。

(2)  争点一に関する当事者の主張の要旨。

① 原告ら

ア 本件事故態様

被告は、被告車を運転し、西から東に向かって進行していたが、本件交差点右方は見通しが悪いのであるから、交差点手前で徐行した上、右方の安全確認を十分にして進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、徐行せず、カーブミラーを十分に見ず、漫然と見て、右方からの交通がないものと軽信し、漫然と時速約四〇キロメートルの速度で本件交差点を直進したところ、折から右方道路から来た原告車と出会い頭の衝突をし(被告車はノーブレーキの状態で、横断終了寸前の原告車左側部に被告車前部を衝突させた。)、衝突後原告一郎は被告車のボンネット上に跳ね上げられた後、路上に転倒した。

イ 被告の後記過失相殺の主張は争う。原告一郎は、本件事故当時、小学校五年生であったこと、原告一郎が本件交差点に先に進入したことなどを考慮すると、本件事故につき、原告一郎に過失相殺されるほどの過失はない。

② 被告

ア 本件事故態様

原告車は、幅員の狭い南北道路から十分に安全を確認しないまま、かつ減速しないで本件交差点に進入したところ、折から幅員の広い東西道路を西から東に向かって進行していた被告車と衝突した。

被告は、本件交差点手前で道路左側に設置されているカーブミラーを見たが、原告一郎の姿を確認できなかったので、時速約四〇キロメートルの速度で本件交差点を直進しかかったが、右前方四・七メートルに原告車を発見したので、急ブレーキを掛けたが、原告車が被告車の前に飛び出してきた状態であったため、間に合わず、右発見地点から四・三メートル進んだ地点で原告車に衝突した。

なお、本件交差点における交通量は、被告の進行した東西道路の方が原告一郎の進行した南北道路より圧倒的に多い。

イ 過失相殺

上の事故態様によると、原告一郎にも相応の過失(三割を下らない。)があるので、過失相殺がなされるべきである。

(3)  原告らの損害額は幾らか(以下、争点二という。)。

(4)  争点二に関する当事者の主張の要旨。

① 原告一郎

本件事故により原告一郎が被った損害は次のとおりである。

ア 治療費関係 計四四九万四七四九円(受領済み)

A 和泉市立病院 五万八一四九円(受領済み)

通院 平成一一年九月五日の一日

B 泉州救命救急センター 一九一万二八六〇円(受領済み)

入院 平成一一年九月五日から平成一二年一月二〇日まで一三八日間

C 市立泉佐野病院 九万八六六〇円(受領済み)

通院 平成一一年一一月一八日、平成一二月二〇日、二一日の三日間

D ベルランド総合病院 二四二万五〇八〇円(受領済み)

通院 平成一二年一月一七日の一日

入院 平成一二年一月二〇日から一〇月三日まで二五八日間

イ 付添看護関係

A 入院付添費(原告花子付添) 二七七万二〇〇〇円

入院日数三九六日(平成一一年九月五日から平成一二年一〇月三日まで)七〇〇〇円(一日)×三九六日=二七七万二〇〇〇円

B 将来の介護費用 七億四七七三万三八〇一円

原告一郎は、前記治療の甲斐もなく、植物人間状態として症状固定しており、終生付添看護が必要であるところ、両親とも働いており、介護費用の計算は次のとおりである。

a 看護婦・家政婦各一名

一日二万二二〇〇円×二名=四万四四〇〇円

b 訪問看護(毎日の入浴等)一名

一日換算 二五〇〇円

c 交通費(医師回診) 一日換算 四〇円

d 電気代増加分 一日換算 三二〇円

計 一日当たり 四万七二六〇円

原告一郎の平均余命は六七年(平成一〇年簡易生命表による)、物価上昇率を三年毎、五%上昇として、計算した(なお、中間利息の控除については、低金利の実情に鑑み、法定利率の五%ではなく、三%で計算・以下同じ)。

ウ 入院雑費・交通費 計九〇万一〇九六円

(内六九万三八六四円は受領済み)

平成一一年九月五日から平成一二年四月四日まで 六九万三八六四円(受領済み)

平成一二年四月五日から一〇月三日まで 二〇万七二三二円

エ 医師への謝礼 七万〇八二〇円

オ 文書費 二万三八三〇円

カ 消耗品費等

A 消耗品費(紙おむつ等) 三一二〇万七五〇〇円

今後、原告一郎が成長して大きくなることを考えると、一日当たり三〇〇〇円を下らない。

三〇〇〇円×三六五日×約二八・五(三%で計算し直した複利年金現価表の六七年係数)=三一二〇万七五〇〇円

B 散髪代 一七三万七二一七円

一か月に一回五〇〇〇円として、平成一二年は五〇〇〇円(退院後)、平成一三年以降一日換算(÷三〇)一六七円で

一六七円×三六五日×約二八・五(三%で計算し直した複利年金現価表の六七年係数)=一七三万七二一七円

キ 自動車・床暖房装置購入費 四八四六万一六四七円

A 現在使用分購入費 四八九万一一三八円

四五五万三二九〇円(自動車)+三三万七八四八円(床暖房装置)=四八九万一一三八円

B 将来購入分 四三五七万五〇九円

原告一郎の平均余命は六七年(平成一〇年簡易生命表による)、耐用年数一〇年、物価上昇率を三年毎、五%上昇として、計算した。

C 以上合計 四八四六万一六四七円

ク 介護用器具一式 六二二二万八八四五円

A 現在使用分購入費 三五七万八四七六円

B 追加購入分 四七万三九五〇円

七万八〇〇〇円(家具)+三九万五九五〇円(洗濯機、冷蔵庫)=四七万三九五〇円

C 将来購入分(A+B=四〇五万二四二六円) 五八一七万六四一九円

原告一郎の平均余命は六七年(平成一〇年簡易生命表による)、耐用年数三年、物価上昇率を三年毎、五%上昇として計算した。

D 以上合計 六二二二万八八四五円

ケ 家屋改造費 一五七一万円

原告一郎が終生、自宅で生活するためには、家屋の改造が必要であり、既に支出した分(一部改造済み)も含め、最低限上記金額は改造費用として損害となる。

コ 後遺障害による逸失利益 一億七五五一万一二七六円

算式

基礎収入×(六七歳-事故時の年齢・一〇歳)年のライプニッツ係数-(就労開始の年齢・一八歳-事故時の年齢・一〇歳)年のライプニッツ係数→X円×(二七・一五〇九-七・〇一九六九=二〇・一三一二一)

原告一郎は、長男であり、父親である原告太郎の経営する会社で働き、後継者となることが予定されていたものであり、原告一郎の年齢ごとの支給額(月)を基礎に生涯平均年収を計算すると、次のとおりである。

期間 支給額(月) 年額 累計

一九歳~二二歳 一八万円 二一六万円 八六四万円(四年)

二三歳~二六歳 三二万円 三八四万円 一五三六万円(四年)

二七歳~三〇歳 四五万円 五四〇万円 二一六〇万円(四年)

三一歳~三五歳 六〇万円 七二〇万円 三六〇〇万円(五年)

三六歳~六七歳 九〇万円 一〇八〇万円 三億四五六〇万円(三二年)

合計 四億二七二〇万円

四億二七二〇万円÷四九年=八七一万八三六七円

そして、前記算式に八七一万八三六七円を基礎収入として計算すると、八七一万八三六七円×二〇・一三一二一=一億七五五一万一二七六円

サ 慰謝料

A 入院慰謝料 五〇〇万円

入院日数三九六日(平成一一年九月五日から翌一二年一〇月三日まで)

B 後遺障害慰謝料 原告ら各一億円合計四億円

上記のとおり、原告一郎は終生、植物状態での生存を余儀なくされるものであり、本人の精神的苦痛には甚大なものがあり、後遺障害慰謝料は一億円とみるのが相当である。

シ アないしサの合計 一一億九五八五万二七八一円

ス 既払金控除

上記のとおり、原告一郎の損害について、治療費四四九万四七四九円、入院雑費・交通費の内金六九万三八六四円の計五一八万八六一三円は受領済みであり、自賠責保険から三〇〇〇万円の支払を受けたから、上の一一億九五八五万二七八一円から三五一八万六八一三円を差し引くと一一億六〇六六万四一六八円となる。

セ 弁護士費用 八〇七〇万九八四九円

弁護士費用は、八〇七〇万九八四九円とみるのが相当である。

ソ 総合計

上の一一億六〇六六万四一六八円に八〇七〇万九八四九円を加えると、原告一郎の損害総合計は一二億四一三七万四〇一七円となる。

タ 中間利息の控除について

現在又は将来において年五%の金利市場は存在しないという低金利の実情に鑑みると、中間利息の控除割合を年三%とするのが相当である。

② 原告太郎

ア 固有の慰謝料 一億円

上記のとおり、原告一郎は終生、植物状態での生存を余儀なくされることになったところ、最愛の長男を一瞬の事故により、その意思疎通すらままならない状態で終生、介護しなければならない原告太郎の精神的苦痛はそれを経験する者にしか知ることのできない想像を絶する凄まじいものがあるのであり、その慰謝料は一億円を下ることはない。

なお、本件事故当日、現場検証を終えた被告は原告太郎に対し、原告一郎が進行した南北道路につき、「あの道は人が通っていい道なんですか。」と聞いてきたので、まるで原告一郎が悪いと言わんばかりの被告の誠意のない言動に、冷静さを保てなかった原告太郎が被告に荒い言葉を発すると、被告は「きたない言葉ですね。」と他人事のように発言し、それ以後も被告は本件の大事故を起こした本人であるのに、他人事のような態度に終始したところ、このような被告の誠意のない態度は原告太郎らの心をいたく傷つけた。

イ 弁護士費用 一一〇七万円

弁護士費用は、一一〇七万円とみるのが相当である。

ウ 合計

上の一億円に一一〇七万円を加えると、原告太郎の損害は一億一一〇七万円となる。

③ 原告花子

ア 休業損害 三九六万円 (内一三八万円は受領済み)

原告花子は、夫・原告太郎が代表取締役社長を務める株式会社C川の社員として経理および労務管理、テントのデザイン作製等の業務もこなしており、会社を経営するについて必要不可欠な人材であるところ、入院中の原告一郎の付添看護のために会社を休まざるを得なかった。

休業日数は三九六日(平成一一年九月五日から翌一二年一〇月三日まで)でこれに日額一万円を乗じると休業損害は三九六万円となるところ、一三八日(平成一一年九月五日から翌一二年一月二〇日まで)分の一三八万円は受領済みである。

イ 固有の慰謝料 一億円

原告太郎と同じである。

なお、本件事故後、原告花子は被告と何度か面会することがあったが、被告は他人事のような態度に終始し、原告花子が何か言えば言い返し、「車が来ていたら普通、自転車は止まるでしょう。」といい、まるで道路を渡っていた原告一郎が悪く、被告は悪くないと言わんばかりの言い方をした上、医師から原告一郎は一生植物状態だと言われた後、原告花子が被告に心からの謝罪を求めた際に、被告から誠意のある謝罪はなかったところ、このような被告の誠意のない態度は原告花子の心をいたく傷つけた。

ウ 既払金控除

上記のとおり、原告花子の損害について、休業損害の内金一三八万円は受領済みであるから、上のア、イの計一億〇三九六万円から一三八万円を差し引くと一億〇二五八万円となる。

エ 弁護士費用 一一三〇万二二〇〇円

弁護士費用は、一一三〇万二二〇〇円とみるのが相当である。

オ 合計

上の一億〇二五八万円に一一三〇万二二〇〇円を加えると、原告花子の損害合計は一億一三八八万二二〇〇円となる。

④ 原告二郎

ア 上の原告太郎と全く同じで、固有の慰謝料一億円に弁護士費用一一〇七万円を加えた一億一一〇七万円が原告二郎の損害となる。

イ ところで、原告二郎は、原告一郎の弟であるが、目の前で兄の重大事故を目撃しており、その精神的ショックは図り知れず(現に本件事故後三か月ほど情緒不安定で通学が困難であった。)、固有の慰謝料は一億円とみるのが相当である。

⑤ 被告の反論

ア 治療費

原告一郎は、ベルランド総合病院の治療費につき、平成一二年一〇月三日までの分を請求するが、症状固定日を同年六月三〇日と主張するのであるから、治療費は上の症状固定日までの分に限られるべきである。

イ 付添看護費

A 入院付添費(原告花子付添)

診断書上「付添看護を要した期間」欄はいずれも空白であり、証拠上付添看護を要したとは認められない。また、原告一郎が集中治療室で治療を受けていた期間や完全看護体制の病院では付添看護は不要である。

仮に、付添看護が必要であったとしても、近親者による付添であるから、日額五五〇〇円とすべきであり、期間については上の症状固定日までとすべきである。

B 休業損害

原告花子は、休業損害を請求するが、これと本件事故とは相当因果関係がない。

原告花子が付添ったことによる損害は、付添看護費として認めれば足り、更に原告花子の休業損害を認めることは付添費用を二重に算定することになる。

C 将来の介護費用

将来の介護費用として、本件事故と相当因果関係があるのは付添看護費日額五五〇〇円とし(常に介護を要する重度障害者に対するものでも日額八〇〇〇円)、ライプニッツ係数により中間利息を控除した範囲に限られる。

そして、これには交通費や電気代増加分など付添看護に必要な諸経費を含むものであるから、別途にこれを加算すべきでない。

ウ 入院雑費・交通費

上の症状固定日までとすべきである。

エ 医師への謝礼

原告らが医師へ謝礼を支払ったと主張する日は、上の症状固定日後であり、本件事故と相当因果関係がない。

オ 消耗品費等、自動車・床暖房装置購入費、介護用器具等一式、家屋改造費

A いずれも本件事故と相当因果関係のある範囲に限られるべきである。

B 消耗品費等につき、将来の紙おむつ等消耗品費として、日額三〇〇〇円とするのは高額に過ぎ、散髪代は原告一郎が植物状態にならなくても、日常生活において当然必要なものであるから、本件事故による損害に当たらない。

C 自動車につき、原告一郎は植物状態であり、外出する機会は少ないはずであり、自動車は不要であり、床暖房装置購入費についても、原告一郎は植物状態であり、不要である。

D 介護用器具等一式につき、これは一般日常生活に必要なものであり、本件事故による損害に当たらない。

E 家屋改造費につき、原告一郎は一五七一万円を請求するが、これは相当性の範囲を超えており、被告の私的鑑定によると一一一七万二〇〇〇円が相当である。

カ 逸失利益(生活費の控除等)

原告一郎は植物状態であり、通常一般人と同様の意味での生活費(服飾費、娯楽費等)を観念できず、生存に必要な費用は雑費や介護費用の項目で計上されているのであるから、被害者が死亡した場合に準じて相当割合で生活費の控除をなすべきである。

また、基礎収入は、原告一郎の症状固定時の年度(平成一二年)の賃金センサスによる平均賃金とするのが相当である。

キ 慰謝料

A 入院慰謝料

症状固定日である平成一二年六月三〇日までとすべきである。

B 後遺障害慰謝料

後遺障害等級一級の一般的基準を用いるべきであり、四億円の請求は高額に過ぎる。

ク 原告一郎の推定余命年数(介護費用、将来の消耗品費、逸失利益に関係)

原告一郎は植物状態であり、植物状態患者の余命年数は一般人の平均余命よりも短い。特に、原告一郎は、平成一三年九月頃骨髄炎、敗血症に罹患し、生命が危ぶまれたこともあったことに照らすと、将来何らかの感染症に罹患するなどして、体力が低下し、平均余命まで生存する可能性は低く、その推定余命年数は症状固定後一〇年ないし二〇年程度とすべきである。

ケ 中間利息の控除割合について

原告は、低金利の実情に鑑み、中間利息の控除割合を年三%と主張するが、実務上大半の判例は法定利率と同様の年五%を採用しており、本件でも年五%が採用されるべきである。

コ まとめ

原告らの損害請求は、高額に過ぎ、損害額の公平な分担という観点から、従前の多数の判例が積み重ねてきた判断が尊重されるべきであり、それを著しく逸脱する本件の損害賠償請求のうち相当性の範囲外のものは排斥されるべきである。

第三争点に対する判断

一  争点一について

(1)  事実認定

前提事実(1)と《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められ、次の認定を左右するに足りる証拠はない。

① 被告は、被告車を運転し、本件交差点を時速約四〇キロメートルの速度で西から東に向かって直進しようとしていたところ、折から本件交差点を時速一五キロメートル前後の速度で南から北に向かって直進しようとしていた原告車と本件交差点内で出会い頭の衝突をし、原告一郎を被告車のボンネット上に跳ね上げた上、約一三・四メートル東方(被告から見て前方)に跳ね飛ばした後、路上に転倒させるという交通事故(本件事故)を発生させた。

② 本件交差点付近の交通規制等の事情

ア 本件交差点は、信号機による交通整理の行われていない交差点である。

イ 大倉建設の建物が視界を遮るため、被告から見て本件交差点の右方の見通しは悪く、逆に原告一郎から見て本件交差点の左方の見通しは悪かった。

ウ 上の見通しの悪さを防ぐ対策として、本件交差点の北東付近にはカーブミラーが設置されていた。

エ 被告の進行する道路は、最高速度が時速三〇キロメートルに制限されていた。

オ 被告の進行する道路の幅員は約五・八メートル、原告一郎の進行していた道路の幅員は約三・八メートルであり、被告の進行する道路の幅員の方が広かった。

カ 日頃の交通量につき、被告の進行していた道路の交通量の方が原告一郎の進行していた道路のそれより多かった。

③ 被告側の事情

ア 被告の進行道路(東西道路)には本件交差点出口付近にカーブミラーが設置されており、被告の進行道路と交差する南北道路からの交通が予定されているにもかかわらず、被告はその交通がないものと軽信し、本件交差点内の本件事故現場の手前約二三・六メートルの地点で上カーブミラーを一瞥しただけで、それ以後右前方(原告一郎の進行方向)の安全を十分に確認することなく、本件交差点に進入したところ、右前方約四・七メートルの地点に原告車を発見し、ブレーキを掛けたが、その制動効果が現われる前に原告車に衝突した。

イ 被告の進行する道路は、最高速度が時速三〇キロメートルに制限されていたところ、本件事故当時被告は被告車を時速約四〇キロメートルの速度で進行させ、かつ、右前方(原告一郎の進行方向)は見通しが悪いにもかかわらず、本件交差点手前で徐行することなく、時速約四〇キロメートルの速度のまま本件交差点に進入したため、原告車と出会い頭に衝突した。

④ 原告一郎側の事情

ア 原告一郎は、原告車(自転車)を運転して本件交差点を南から北に向かって直進しようとしていたところ、左前方の見通しが悪いにもかかわらず、左前方の安全確認をせず、かつ多少スピードを落としただけで、徐行せず、時速一五キロメートル前後の速度で南から北に向かって本件交差点に進入したため、被告車と本件交差点内で出会い頭の衝突をした。

イ 原告一郎は、本件事故当時一〇歳の児童であった。

(2)  判断

以上認定の事実により、次のとおり判断する。

① 本件事故の態様

本件事故の態様は、信号機による交通整理の行われていない交差点(本件交差点)において、被告の進行道路の幅員及び交通量が原告一郎のそれらより広い又は多い場合の直進車同士の出会い頭事故であり、互いに見通しの悪い交差点での事故である。

② 過失相殺の要否

ア 被告は、右前方の見通しが悪い交差点を直進するに際し、徐行の上、右前方の安全確認をする義務があるにもかかわらず、その義務を怠った点及び制限速度を遵守する義務があるのにこれを怠り、時速約四〇キロメートルの速度で進行した点において、それぞれ過失がある。

被告は、カーブミラーを見たものの、その程度は一瞥しただけであり、また本件交差点に進入する直前ではなく、本件事故現場の手前約二三・六メートルの地点で見たに過ぎないから、右前方の安全確認義務を尽くしたとは到底いえない。

イ 一方、原告一郎も、左前方の見通しが悪い交差点を直進するに際し、徐行の上、左前方の安全確認をする義務があるにもかかわらず、その義務を怠った点において過失がある。

ウ 以上認定の諸事情(本件事故当時原告一郎が一〇歳の児童であったこと、原告車は自転車であるのに対して被告車は自動車であることを含む。)によると、原告一郎と被告の双方の過失が相俟って本件事故が発生したものというべきであり、かつ、本件事故における双方の過失割合は、原告一郎が二割、被告が八割と認めるのが相当である。

二  争点二について

(1)  原告一郎関係

① 治療費関係 計四四九万四七四九円

ア 事実認定

前提事実(3)と、《証拠省略》によると、次の事実が認められる。

原告一郎は、本件事故により本件傷害を負い、その治療のために次のとおり入、通院し、次のとおり計四四九万四七四九円の治療費を負担した。

A 和泉市立病院 五万八一四九円

通院 平成一一年九月五日の一日

B 泉州救命救急センター 一九一万二八六〇円

入院 平成一一年九月五日から平成一二年一月二〇日まで一三八日間

C 市立泉佐野病院 九万八六六〇円

通院 平成一一年一一月一八日、平成一二月二〇日、二一日の三日間

D ベルランド総合病院 二四二万五〇八〇円

通院 平成一二年一月一七日の一日

入院 平成一二年一月二〇日から一〇月三日まで二五八日間

なお、原告一郎は、ベルランド総合病院の前田医師により平成一二年六月三〇日に症状が固定したものと診断された。

イ 判断

A 被告は、「原告一郎は、ベルランド総合病院の治療費につき、平成一二年一〇月三日までの分を請求するが、症状固定日を同年六月三〇日と主張するのであるから、治療費は上の症状固定日までの分に限られるべきである。」と主張するので、この点について判断する。

確かに、一般的には症状固定日以降の治療費は事故との間の相当因果関係を認めることはできないが、本件では原告一郎は植物状態にあり、意思疎通はとれず、一人で生きられず、食事は医療行為としての胃管よりの経管栄養注入によらざるを得ず、そうしないと生存できないことが認められるから、症状固定日以降の治療費も例外的に本件事故との間の相当因果関係を認めるのが相当である。

B そうすると、上で認定した事実によると、原告一郎の治療費関係の損害は計四四九万四七四九円と認められる。

② 付添看護関係 一億三五九三万〇四〇〇円

ア 入院付添費(原告花子付添) 二一七万二五〇〇円

上で認定したとおり、原告一郎の入院日数は延べ三九六日(平成一一年九月五日から平成一二年一〇月三日まで、但し平成一二年一月二〇日は重複するので、正確な入院日数は三九五日となる。)であるところ、《証拠省略》によると、この間原告一郎は常時他人の介護を要する状態であり(本件事故直後頃は生命の危険もあった。)、母親の原告花子が病院で寝泊まりするなどして原告一郎の付添看護をしたことが認められる。

上の原告一郎の重篤な状況と年齢によると、本件事故と原告花子の付添看護の間には相当因果関係があるものというべきである。

そこで、入院付添費を算定するに、近親者の入院付添(看護)費としては、日額五五〇〇円と認めるのが相当であるから、日額五五〇〇円に入院日数三九五日を乗じると、二一七万二五〇〇円となる。

イ 将来の介護費用 一億三三七五万七九〇〇円

A 原告一郎は、上記治療の甲斐もなく、植物人間状態として症状固定しており、終生付添看護が必要である。

B 《証拠省略》によると、原告一郎を十分に介護しようとすれば、その介護費用として、a看護婦・家政婦各一名一日二万二二〇〇円×二名=四万四四〇〇円、b訪問看護(毎日の入浴等)一名一日換算二五〇〇円、c交通費(医師回診)一日換算四〇円、d電気代増加分一日換算三二〇円、以上合計日額四万七二六〇円掛かることが認められるが、損害の公平な分担という観点に照らした上、上記認定のとおり原告一郎の食事は医療行為としての胃管よりの経管栄養注入によらざるを得ず、そうしないと生存できないことを考慮すると、看護婦一名と家政婦又は近親者の合計二名の介護者が必要であり、本件事故と相当因果関係にある将来の介護費用は日額二万円と認めるのが相当である。

C 原告一郎の平均余命

被告は、原告一郎の推定余命年数を症状固定後一〇年ないし二〇年程度とすべきであると主張する。

しかし、《証拠省略》によると、原告一郎は他人と意思疎通はできないものの、若干回復の兆候があり、循環器、呼吸器、肝臓、腎臓、消化管に問題はなく、頭部CTでその後著変がないことが認められる。

上の事実によると、原告一郎の平均余命は本件事故時から六八年、上記入院末日の翌日である平成一二年一〇月四日から六七年(平成一二年簡易生命表によると、一〇歳、一一歳(《証拠省略》によると、原告一郎は昭和六三年一二月二三日生まれであり、本件事故時は一〇歳、上記平成一二年一〇月四日時点では一一歳である。)の男子の平均余命はそれぞれ六八年、六七年である。)と認めるのが相当である。

D 中間利息の控除割合

原告一郎は、現在又は将来において年五%の金利市場は存在しないという低金利の実情に鑑みると、中間利息の控除割合を年三%とするのが相当であると主張するが、現在及び今後数年間は低金利であることは認められるものの、今後数十年間の経済変動を予測することは困難であること、現在の国内の低金利情勢の下においても資産の運用方法は国内の金融商品に限定されないのであって、外貨預金等の途もあること、遅延損害金の法定利率が年五%と固定されていることなどを合わせ考えると、中間利息の控除割合をあえて年三%とする理由は弱く、従来の実務の大勢どおり年五%とするのは不合理とはいえない。

よって、本件で、中間利息の控除が問題になる場合には、その控除割合は全て年五%とすることとする。

E 将来の介護費用の計算

以上の認定によると、原告一郎の将来の介護費用は次のとおり一億三三七五万七九〇〇円となる。

二万円(日額介護費用)×三六五日×{一九・二七五三(上の六八年に対応するライプニッツ係数)-〇・九五二三(本件事故時から上記平成一二年一〇月四日時点までの約一年に対応するライプニッツ係数)}=一億三三七五万七九〇〇円

③ 入院雑費・交通費 五一万三五〇〇円

ア 入院雑費 五一万三五〇〇円

上で認定したとおり、原告一郎の入院日数は実質三九五日(平成一二年一月二〇日は重複するので、延べ入院日数三九六日から一日引いたもの)であるところ、入院雑費は日額一三〇〇円が相当であるから、これに三九五日を乗じると五一万三五〇〇円となる。

イ 交通費 〇円

原告一郎の求める交通費は、近親者の付添等のためのものであるところ、これは本件事故と相当因果関係のある損害ということはできない。

④ 医師への謝礼 七万〇八二〇円

ア 以上認定の事実と《証拠省略》によると、原告一郎は瀕死の重傷を負い、入院して再三手術を受けたこと、そのため原告一郎は七万〇八二〇円の謝礼を医師にしたことが認められる。

イ ところで、医師への謝礼は、社会通念上相当な限度で交通事故による損害と認めるのが相当である。

ウ そうすると、本件事故と相当因果関係のある医師への謝礼関係の損害は、七万〇八二〇円と認めるのが相当である。

⑤ 文書費 二万三八三〇円

ア 《証拠省略》によると、原告一郎は文書費として二万三八三〇円を負担したことが認められる。

イ 上の文書費は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

⑥ 消耗品費等 九七五万〇九五〇円

ア 消耗品費(紙おむつ等) 九七五万〇九五〇円

上で認定したとおり、原告一郎は植物状態にあり、意思疎通はとれず、一人で生きられず、常時介護を要する状態であるから、紙おむつ等を使用する必要があるものというべきである。

《証拠省略》によると、原告一郎の介護のために次のとおりおむつ代等として日額一四五八円かかっていることが認められる。

A おむつ

布おむつ

一九八〇円(単価)÷二〇枚(数量) =九九円

紙おむつ

三九八〇円(単価)÷三〇枚(数量) =一三三円

シートおむつ(二種類)

九八〇円(単価)÷二四枚(数量) =四一円

九八〇円(単価)÷三〇枚(数量) =三三円

一日当たりの枚数・金額

a 布おむつ九九円×三枚=二九七円

b 紙おむつ一三三円×五枚=六六五円

c シートおむつ四一円×五枚+三三円×五枚=三七〇円

d 計 一三三二円

B ティッシュ

普通 一か月 五箱 三九八円(単価)

三九八円÷三〇日=一三円

濡れティッシュ 一か月 三パック 三九八円(単価)

三九八円÷三〇日=一三円

一日当たりの金額 一三円+一三円=二六円

C アルコール

一か月 九八〇円(単価)×二本(数量) =一九六〇円

一日当たりの金額 一九六〇円÷三〇日=六五円

D 紙テープ

一か月 三五〇円(単価)×三個(数量)=一〇五〇円

一日当たりの金額 一〇五〇円÷三〇日=三五円

E 合計

一三三二円+二六円+六五円+三五円 =一四五八円

そうすると、原告一郎のおむつ代等の年額は五三万二一七〇円となるところ、同原告は生涯おむつ等が必要となるから、同原告の症状固定時(上記認定のとおり平成一二年六月三〇日である。)の平均余命六七年を前提に消耗品費(紙おむつ等)を計算すると次のとおり九七五万〇九五〇円となる。

五三万二一七〇円(年額消耗品費)×{一九・二七五三(上の六八年に対応するライプニッツ係数)-〇・九五二三(本件事故時から上記平成一二年六月三〇日時点までの約一年に対応するライプニッツ係数)}=九七五万〇九五〇円

イ 散髪代 〇円

散髪代は本件事故と相当因果関係のある損害ということはできないから、原告一郎主張の散髪代は認められない。

⑦ 自動車・床暖房装置購入費 一〇〇万円

ア 自動車購入費 一〇〇万円

《証拠省略》によると、原告一郎は医師の回診を受けていることが認められるから、通院のために自動車を購入する必要はない。

そして、何らかの理由で出かける必要がある場合には、タクシー等を利用する方法もあるのだから、原告一郎主張の自動車購入費をそのまま認めることはできない。

そこで、上のタクシー等を利用する代金として、将来分込みで一〇〇万円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

イ 床暖房装置購入費 〇円

床暖房装置購入費は本件事故と相当因果関係のある損害ということはできないから、原告一郎主張の床暖房装置購入費は認められない。

もっとも、後記認定の家屋改造費の中で工夫して、床暖房装置を設置することは原告側の裁量に任される。

⑧ 介護用器具等一式 一六二〇万九七〇四円

ア 現在使用分購入費 三五七万八四七六円

上で認定したとおり、原告一郎は植物状態にあり、意思疎通はとれず、一人で生きられず、常時介護を要する状態であるから、各種介護用器具等を購入する必要があるものというべきである。

《証拠省略》によると、原告一郎のためにベットマットレス、ネブライザー(医療器具)、酸素吸入器、ウオーターチェアー、車椅子、リフト(風呂に入れるときなどに使用する。)等の介護用器具等が購入され、その代金三五七万八四七六円の支払も済んでいることが認められる。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある介護用器具等一式(現在使用分購入費)の損害は、三五七万八四七六円と認めるのが相当である。

イ 追加購入分 四七万三九五〇円

《証拠省略》によると、原告一郎のために家具(整理ダンス)、洗濯機及び冷蔵庫(原告一郎の介護のため、必然的に洗濯物が増え、また頭を冷やす氷を作る大きな冷凍庫のある大型冷蔵庫が必要となり、それぞれ買い換えたものである。)が購入され、その代金四七万三九五〇円の支払も済んでいることが認められる。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある追加購入分の損害は、四七万三九五〇円と認めるのが相当である。

ウ 将来購入分一二一五万七二七八円

上のア、イの合計は四〇五万二四二六円となるところ、これらの将来購入分としての損害のうち、本件事故と相当因果関係の認められるものは、その三倍の一二一五万七二七八円と認めるのが相当である。

エ 以上合計 一六二〇万九七〇四円

⑨ 家屋改造費 一三五三万四八六〇円

ア 上記認定の事実によると、原告一郎が終生、自宅で生活するためには、家屋の改造が必要であることが認められる。

イ 《証拠省略》によると、原告一郎の介護をしやすくするために、内装の木工工事、システムバス入替え等の改修工事が行われ、平成一二年九月一四日までに六八九万円が支払われ、その後の増改築工事(二階を増築し、一階のリビングを原告一郎の介護用の部屋に改造し、エレベーターを設置し、トイレを移設するなどの工事)の費用として一五六六万八一〇〇円かかることが認められる。

以上の家屋改造費の合計は二二五五万八一〇〇円であるが、上記掲示の書証を子細に検討すると、原告一郎主張の家屋改造により、他の家族の生活の利便性が向上するものも含まれており、本件事故との相当因果関係を全部認めるのは相当ではない。

ウ 他方、証拠(これは重度後遺障害者用の住宅改造費用の私的鑑定書である。)によると、重度後遺障害者用の住宅改造費用としては一一一七万二〇〇〇円で足りるとの見方もあることが認められる。

エ そこで、本件事故と相当因果関係のある家屋改造費としては、上の二二五五万八一〇〇円の六割に当たる一三五三万四八六〇円と認めるのが相当である。

⑩ 後遺障害による逸失利益 六八九三万八六六三円

ア 基礎収入 五六〇万六〇〇〇円

原告一郎は、父親である原告太郎の後継者として、原告太郎の経営する会社で働くことを前提に、その生涯平均年収を計算し、これを基礎収入にすることを主張するが、原告一郎が原告太郎の経営する会社で必ず働くことは立証されておらず、賃金センサスによる平均賃金を基礎収入とすることとする。

そして、基礎収入は、原告一郎の症状固定時の年度(平成一二年)の賃金センサス(産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計・全年齢平均)による平均賃金(五六〇万六〇〇〇円)とするのが相当である。

イ 労働能力喪失率

上記認定の事実によると、原告一郎の労働能力喪失率は一〇〇%と認めるのが相当である。

ウ 労働能力喪失期間

労働能力喪失期間は、一八歳から六七歳までとするのが相当である。

エ 生活費の控除

被告は、原告一郎は植物状態であり、通常一般人と同様の意味での生活費(服飾費、娯楽費等)を観念できず、生存に必要な費用は雑費や介護費用の項目で計上されているのであるから、被害者が死亡した場合に準じて相当割合で生活費の控除をなすべきであると主張する。

しかし、原告一郎は生きて生活する以上、それなりの生活費がかかることは当然であり、経管による食事をしたり、パジャマを変えたり、音楽を聞いたりすることもあろうし(《証拠省略》によると、植物状態の人間には外的刺激を与えることに意味があることが認められる。)、現に上の意味での生活費がかかる以上、生活費の控除をするのは相当ではない。

オ 計算式

五六〇万六〇〇〇円×一×一二・二九七三(六七歳から本件事故時の一〇歳を差し引いた五七年に対応するライプニッツ係数である一八・七六〇五から、就労開始年齢の一八歳から本件事故時の一〇歳までの八年に対応するライプニッツ係数である六・四六三二を差し引くと、一二・二九七三となる。)=六八九三万八六六三円(円未満切捨)

⑪ 慰謝料 三〇八〇万円

ア 入院慰謝料 三八〇万円

上記認定の本件傷害の部位・程度、入院の実態(入院合計実質三九五日)、その他本件に現われた一切の諸事情(症状固定後も入院していることを含む。)を総合勘案すると、入院慰謝料は三八〇万円と認めるのが相当である。

イ 後遺障害慰謝料 二七〇〇万円

前提事実で認定した原告一郎の本件後遺障害の程度、内容及び認定等級(自賠法施行令二条別表所定の後遺障害等級第一級三号に該当)、その他本件に現われた諸事情を総合勘案すると、原告一郎の後遺障害慰謝料は二七〇〇万円と認めるのが相当である。

⑫ 以上損害合計は、二億八一二六万七四七六円となる。

⑬ 過失相殺による修正

争点一で認定した割合により、過失相殺をすると、原告一郎の損害は上合計二億八一二六万七四七六円に八割を乗じた二億二五〇一万三九八〇円(円未満切捨)となる。

⑭ 損益相殺による修正

二億二五〇一万三九八〇円から前提事実(4)の損益相殺対象額である三六七二万〇三七五円を差し引くと、一億八八二九万三六〇五円となる。

⑮ 弁護士費用の加算

原告一郎が原告ら訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、上の認容額、その他本件に現われた一切の諸事情に照らすと、被告に負担させるべき弁護士費用相当の損害は一五〇〇万円と認めるのが相当である。

⑯ 以上総合計 二億〇三二九万三六〇五円

上の一億八八二九万三六〇五円に一五〇〇万円を加えると、原告一郎の損害は二億〇三二九万三六〇五円となる。

(2)  原告太郎関係

① 固有の慰謝料 五〇〇万円

上記認定のとおり、原告一郎は終生、植物状態での生存を余儀なくされることになったところ、最愛の長男(《証拠省略》により認められる。)を一瞬の事故により、その意思疎通すらままならない状態で終生、介護しなければならない原告太郎の精神的苦痛はそれを経験する者にしか知ることのできない想像を絶する凄まじいものがあることは容易に認められるところ、本件に現われた一切の諸事情(《証拠省略》により認められる被告側が原告側に対して誠心誠意からの謝罪をしていないこと、被告とその夫の言動により原告太郎、原告花子の心が傷ついたこと、原告太郎は各種ストレスにより平成一三年一二月一四日脳出血で入院し、右半身麻痺が残存していることを含む。)に照らすと、その固有の慰謝料は五〇〇万円と認めるのが相当である。

② 弁護士費用 五〇万円

原告太郎が原告ら訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、上の認容額、その他本件に現われた一切の諸事情に照らすと、被告に負担させるべき弁護士費用相当の損害は五〇万円と認めるのが相当である。

③ 以上合計 五五〇万円

上の五〇〇万円に五〇万円を加えると、原告太郎の損害は五五〇万円となる。

(3)  原告花子関係

① 休業損害 一七七万七五〇〇円

ア 事実認定

《証拠省略》によると、次の事実が認められる。

A 原告花子は、夫・原告太郎が代表取締役社長を務める株式会社C川の社員として経理および労務管理、テントのデザイン作製等の業務もこなしており、会社を経営するについて必要不可欠な人材であるところ、入院中の原告一郎の付添看護のために会社を休まざるを得なかった。

B 本件事故当時の原告花子の収入は、日額一万円であったところ、上付添看護のための休業日数は三九五日(平成一一年九月五日から翌一二年一〇月三日まで)であり、これに日額一万円を乗じると休業損害は三九五万円となる。

イ 判断

上記認定のとおり、原告一郎は本件事故により瀕死の重傷を負ったのであるから、近親者(原告花子)が容体の急変に備えて付添看護をするのはやむを得ないところであり、上の休業損害・三九五万円は本件事故と相当因果関係のある損害であるというべきである。

しかし、被告が指摘するとおり、近親者の付添費用と原告花子の休業損害を共に認めることはいわば付添費用を二重に算定することになるので、上の休業損害・三九五万円から原告一郎の損害として認めた「入院付添費(原告花子付添)・二一七万二五〇〇円」を差し引いた一七七万七五〇〇円の限度で原告花子の休業損害を認めることとする。

② 固有の慰謝料 五〇〇万円

上記認定のとおり、原告一郎は終生、植物状態での生存を余儀なくされることになったところ、最愛の長男(《証拠省略》により認められる。)を一瞬の事故により、その意思疎通すらままならない状態で終生、介護しなければならない原告花子の精神的苦痛はそれを経験する者にしか知ることのできない想像を絶する凄まじいものがあることは容易に認められるところ、本件に現われた一切の諸事情(《証拠省略》により認められる被告側が原告側に対して誠心誠意からの謝罪をしていないこと、被告とその夫の言動により原告太郎、原告花子の心が傷ついたこと、原告太郎は各種ストレスにより平成一三年一二月一四日脳出血で入院し、右半身麻痺が残存し、それにより原告花子の不安が増大したことを含む。)に照らすと、その固有の慰謝料は五〇〇万円と認めるのが相当である。

③ 既払金控除

上記認定のとおり、原告花子が自らの損害に対して支払われたと主張する一三八万円は原告一郎の損害から控除済みであるから、ここでは控除しないこととする。

④ 弁護士費用 六八万円

原告花子が原告ら訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、上の認容額(休業損害・一七七万七五〇〇円と固有の慰謝料・五〇〇万円との合計六七七万七五〇〇円)、その他本件に現われた一切の諸事情に照らすと、被告に負担させるべき弁護士費用相当の損害は六八万円と認めるのが相当である。

⑤ 以上合計 七四五万七五〇〇円

上の六七七万七五〇〇円に六八万円を加えると、原告花子の損害は七四五万七五〇〇円となる。

(4)  原告二郎関係

① 事実認定

《証拠省略》によると、原告二郎は、原告一郎の弟であるが、目の前で兄の重大事故(本件事故)を目撃したこと、原告二郎の精神的ショックは図り知れず、現に本件事故後三か月ほど情緒不安定で通学が困難であったことが認められる。

② 判断

上の事実によると、原告一郎の弟である原告二郎は、本件事故を目撃したことにより相当の精神的ショックを受けたことは優に認められるが、原告二郎は民法七一一条所定の近親者慰謝料の主体に該当しないし、原告二郎の精神的苦痛は原告一郎の損害として認めた慰謝料の中で十分に評価しているので、原告二郎に対して固有の損害としての慰謝料を認めることはできないものというべきである。

そうすると、原告二郎に対して固有の損害を認めることはできないのであるから、弁護士費用相当の損害も認めることはできない。

三  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、原告一郎において、二億〇三二九万三六〇五円及び内金一億八八二九万三六〇五円に対する本件事故の後である平成一一年九月六日から、内金一五〇〇万円に対する本訴状送達の翌日である平成一三年六月七日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告太郎において、五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する本件事故の後である平成一一年九月六日から、内金五〇万円に対する本訴状送達の翌日である平成一三年六月七日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告花子において、七四五万七五〇〇円及び内金六七七万七五〇〇円に対する本件事故の後である平成一一年九月六日から、内金六八万円に対する本訴状送達の翌日である平成一三年六月七日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから、認容し、上三名の原告らのその余の請求及び原告二郎の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとする。

(裁判官 片岡勝行)

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