大阪家庭裁判所 平成11年(少)775号 1999年3月24日
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、A(当18歳)、C(当18歳)、B(当17歳)及びD(当15歳)と共謀の上、平成10年11月14日午前2時30分ころ、大阪市○○区○○×丁目×番××号「○○」敷地内において、E(25歳)所有にかかる自動二輪車1台(カワサキゼファー、400CC、ワインレッド色、車体番号○○×××○○-××××××、登録番号和歌山め××××号)(時価15万円相当)を窃取したものである。
(法令の適用)
刑法235号、60条
(付添人の主張に対する判断)
付添人らは、本件につき、少年は実行行為に加担しておらず、共謀もしていないから、犯罪は成立しないと主張する。すなわち、少年は、屋外に止めてあった本件単車を他の場所へ移動したり、エンジンキーを壊したり、U字ロックをはずすなどの実行行為はもちろん、エンジンキーを壊すためのハサミやマイナスドライバーを共犯者に貸与することもしていないし、本件犯行に関わるのを嫌い、鋼管(鉄パイプ)を探しに行くと称して、犯行現場を離れていたものであり、共謀もしていないというのである。そこで、以下に検討する。
証人A、同Dの各証言、少年に対する審問の結果及び送付された関係証拠により認められる本件犯行の概要は、以下のとおりである。
前記共犯者、少年及びF(当15歳、中学生)の6名は本件犯行当日午前2時ころ、大阪市○□区○○×丁目××番×号所在○□前で落ち合い、暴走族の単車(族単)を見に行くために、同所からバイク4台に分乗して移動し、同日午前2時10分ころ、本件犯行現場近くの同市○○区○○×丁目×番所在○○×棟西側路上にバイクを一斉に止めた。A、C、少年の3人は族単を見にマンシヨン群の駐輪場を見て回ったものの、族単はなかった。バイクを止めた場所に戻ると、その場に残っていたDらが本件単車を見つけており、DはAらを同所から約20メートル離れた本件単車の置いてある場所へ案内した。本件単車の近くにはFを除く5人が集まり、シートカバーをめくると、U字ロックがかかっていることが一見してわかった。誰かが盗もうという趣旨のことをいうと、Aもその気になり、誰に向かっていうともなく周囲の者に、「それやったら、俺がポッコンするわ。」といった。バイクを止めた場所に戻りながら、Aが、誰にいうとはなく、「マイナス(ドライバー)とメガネ(レンチ)ないか。」と声をかけると、少年が「俺の原チャリにあるで。」と答えた。Aは少年のバイクのメットインを開けてマイナスドライバーをみずから取り出し、Bが少年のバイクのポケットから取り出したハサミを受け取り、また、誰かから受け取ったメガネレンチを手にした。そのころ、少年は鋼管を探しに行くといってDを誘い、Dを同乗させてDのバイクを運転しその場を離れた。少年とDは隣接の大阪府守口市○○町辺りまで走り、途中何か所かで鋼管を探した。建築中の家屋のあるところで、Dがやくざ風の者らに声をかけられたので、少年はDを残しその場をはなれた。少年やDが犯行現場を離れている間に、Aはハサミやマイナスドライバーを本件単車のエンジンキーの鍵穴に差し込んでポッコンし、エンジンキーを解除の状態にし、また、U字ロックにも操作してとりあえず車輪が引っかからないようにした状態にして、Cに後ろから押して貰って、100メートルほど離れた距離にある○○公園まで、本件単車を移動させた。同公園内で、Bに本件単車を支えさせ、AとCとが交代で何回もモンキーレンチで叩いて、U字ロックをはずし、本件単車を走行できる状態にした。そのころ、少年は○○公園に戻って来て、他の者に合流した。その後、Dを除く者らは、車で10分位の距離のある○□公園○○広場東側に移動し、同所で本件単車のナンバープレートをはずして捨て、少年のバイクに積んでいた六角レンチ等で、少年がハンドルの幅を変えたりした。Aはその後同公園内を本件単車で走り回っていた。そのころ、共犯者らの行方を探していたDはFからの電話による知らせで、同公園で合流した。Aらは同公園では暴走族まがいの者に絡まれそうになったので、更に同所から約500メートル離れた○○□というマンションの敷地内に移動し、同所で、本件単車を暴走に用いるため、A、少年及びCの3人で、少年が自宅に赴いて持出してきた暴走用に改造した直管マフラーを本件単車に付け替えた上、本件単車を同マンシヨン一棟南側に隠しおいた。しかし、本件犯行当日の午前9時30分ころ本件単車を発見した同マンシヨンの管理人から○□警察署へ通報がなされ、盗品の疑いがあるとみなされた本件単車と付近に放置されたはずされたマフラーが領置された。同日夜、A、C、少年及びBらが本件単車を見に行ったが、既に本件単車は領置された後であった。
以上の認定事実に関し、少年は、鋼管を探しに行くといって、その場を離れたのは、犯行に関わることになるのを恐れたので、それを口実にその場を離れるためであった、また、マフラーを自宅から持出してマフラーを交換したのは、早く別れて帰宅したかったからであると、捜査段階及び審判廷で弁解している。
確かに、付添人の主張するように、少年がAに対してポッコンに使用するハサミ等を手渡した点についての関係者の供述には、変遷や相互に矛盾があり、その認定は困難である。しかし、少年がU字ロックをはずすため鋼管(これがU字ロックをはずすためのものであることは明らかである。)を探しに行き、何か所か探したことは、証人Dが明言するところである。少年が本件犯行に積極的に関わろうとしたことが窺える。のみならず、少年は、本件犯行に関わるのを拒否する意思を明示的に示したり、共犯者から離脱して早く帰宅しようとした形跡はなく、Aらが少年のバイクからポッコンのために使う道具を取り出すのを承諾し、更に、本件犯行後とはいえ、本件単車のハンドルの変形や暴走用の直管マフラーの付け替えに関わり、本件単車に並々ならぬ関心を寄せていることに照らすと、少年には本件犯行の共謀が存在したことは優に認められる。少年の弁解及びそれに沿う付添人の主張は採用できない。
(処遇)
本件は、ほか5名との共謀の上での単車盗であるが、罪質、動機、態様に照らし、犯情悪質であり、前記のように、少年は本件犯行に加担しようとしてU字ロックを壊すための鉄パイプを探しに出かけるなど本件犯行に積極的に加担しようとしたものであり、酌むべき事情に乏しい。少年は、バイク盗、放置バイクの横領で、平成9年6月3日短期保護観察の処分に付せられ(同年12月解除)、バイク盗で同年9月25日審判不開始(別件保護中)、平成10年10月30日ひったくり盗、強姦致傷(ただし認定は強姦致傷幇助)、監禁致傷で保護観察に処せられた前歴を有するものであるが、本件は前記保護観察に付せられて間もない犯行であり、規範意識の欠如は著しいというべきである。
平成8年4月○○高校に入学した少年は、欠席がもとで学業が嫌になり同年6月ころ同校を中退し、ガソリンスタンドでアルバイトをしたが、仕事振りを評価されず、すぐにやめ、同年10月ころ暴走族に加入し、夜遊び、外泊等昼夜逆転の生活をするようになった。そのころ、交遊仲間と前記強姦致傷幇助、監禁致傷に及んだ少年は、検挙されないまま、前記バイク盗、放置バイクの横領で検挙され、これらの罪で前記短期保護観察に処せられ、その解除後犯した前記ひったくり盗及びその後検挙された前記強姦致傷幇助、監禁致傷で前記保護観察の処分に付せられたものである。少年は暴走族仲間の妹と親しくなり、平成10年2月同女との間に男児をもうけているが、認知をした形跡はないが、ー児を持つ者としての自覚に乏しく、また、概して頻回転職を繰返し、徒遊期間も長い。前記保護観察に付された後も不良交遊は続き、本件犯行に至っている。両親の監督も甘く、少年を結果的に放任している。少年の生活態度、規範意識、前歴、監護状況等に照らし、この際少年を組織的、継続的に矯正する必要がある。
よって、少年法24条1項3号、少年院規則37条1項を適用し、主文の通り決定する。
(裁判官 政清光博)