大阪家庭裁判所 平成13年(家)5761号 2002年2月18日
主文
本件申立てを却下する。
理由
第1申立ての趣旨及び実情
1 申立ての趣旨
申立人が次のとおり就籍することを許可する。
本籍 大阪市○○区○○×丁目××番×
筆頭者 X
父の氏名 不詳
母の氏名 B
父母との続柄 女
氏名 X
生年月日 昭和11年○月○日
2 申立ての実情
申立人は、昭和11年○月○日に日本人の母・B(以下「B」という。)の娘として日本で生まれ、その内縁の夫である中国国籍の依仁とともに中国福建省に渡って居住していたこともあるが、1991年(平成3年)ころ日本に帰国し、現在は大阪市内の肩書住所に居住している。したがって、申立人は、日本人であるのに、国籍を中国とする外国人登録がされているだけであり、日本における戸籍がないので、申立ての趣旨記載の事項による就籍の許可を求める。
第2当裁判所の判断
1 本件記録によると、次の事実を認めることができる。
(1) Bは、大正元年11月6日岡山県和気郡○○町でCを父とし、その妻Dを母として出生したものであるところ、中国国籍のEと交際するようになったところ、親族から反対されたため、実家を出て、親族らとは絶縁状態になった。そして、EとBとは、しばらくは四国方面で居住して内縁関係を結んでいたところ、Bは、昭和11年○月ころF(第一子・女)を、同年12月26日申立人(第二子・女)を出産した。
(2) E及びBは、昭和12年ころ子の申立人らとともに中国に渡って、Eの実家のある福建省福清市内で暮らすようになり、同地で子のG(第三子・男)、H(第四子・女)、I(第五子・女)をもうけた。
(3) 申立人は、出生時からE及びBの許で養育されてきたところ、前記福建省福清市内では家事手伝いをして育ち、就学も就職もしなかったところ、17歳から20歳ころまでの間に(申立人の記憶による。)製粉所に勤めるJと婚姻し、その夫婦間に男子4名をもうけた。
(4) Eが1990年ころ死亡して、Bが平成3年にG及びその妻子らとともに帰国したのを契機として、申立人も平成7年3月7日夫のJ及び子らとともに日本で生活するため来日した。そして、申立人は、肩書住所の市営住宅に入居しているところ、その子らもそれぞれ妻子を擁して独立し、近隣に居住している。なお、Bは、平成10年2月14日大阪市△△区内で死亡した。
(5) 申立人の国籍に関して、申立人が中華人民共和国内での入籍証書を交付されたと認めるべき資料はなく、また、日本国内で申立人に関する戸籍が存在すると認めるべき資料もない。しかし、中華人民共和国福建省福清市公証処発行の1994年10月8日付出生証明書及び1995年8月11日付親族関係公証書では、申立人の氏名を桂華、性別・女、生年月日・1936年12月26日在福建省福清県出生、父・依仁(巳死亡)、母・B(現住日本国)とする旨の記載がされている。そして、申立人は、中華人民共和国公安部出入境管理局発行の旅券を有し、日本国内では、申立人に関して、国籍を中国とする外国人登録がされており、その登録上は氏名・桂華、性別・女、生年月日・1936年12月26日、居住地・大阪市○○区○○×丁目××番×-×××号とされている。
2 前記認定の事実経過によると、申立人は、中国当局の発行した旅券を有しているので、中国国籍を有していると推定されるところではあるが、日本国籍をも有しているか否かを検討する。
(1) 申立人の出生した昭和11年○月○日当時には、昭和25年5月4日法律第147号による改正前の国籍法が適用されていたところ、同法は国籍の取得を血統の有無に係らせて、いわゆる血統主義を採用している上、原則的には父系を標準としているから、申立人の父が中国人であるときには、申立人が日本国籍を取得することはないが、父子関係が不明であるか又は父が無国籍の場合を想定して、同法3条では、「父カ知レサル場合又ハ国籍ヲ有セサル場合ニ於テ母カ日本人ナルトキハ其子ハ之ヲ日本人トス」と定めている。したがって、まずEと申立人との間の父子関係について、同条項に定める要件が認められるか否かを検討して、日本国籍を取得したか否かを判断しなければならない。この父子関係を検討するためには、準拠法を定めなければならないところ、EとBとの夫婦関係の成否によって、準拠法を定めるための法律関係の性質が嫡出親子関係(法例17条)であるか非嫡出親子関係(法例18条)であるかの点が決定される。そこで、前記夫婦関係の成否をこのための前提問題として検討する。
(2) 婚姻の成立要件に関する準拠法は、法例13条により各当事者の本国法によるべきである。夫となるべきEの本国である中国では、申立人の出生した昭和11年○月○日当時、中華民国民法が施行されていたところ、同法982条では「婚姻は、公開の儀式及び二人以上の証人を有することを要する。戸籍法の定めるところにより婚姻の登記を経たときは、既に婚姻したものと推定する。」旨定めている。しかし、EとBとの夫婦関係について、同条項に定める儀式や登記がされたと認めることはできない。また、妻となるべきBの本国法である日本国内では、婚姻の成立のためには旧民法775条に定める要件である戸籍吏への届出を要するところ、これがされていない。したがって、EとBとの夫婦関係は、いずれの本国法によっても有効に成立していなかったというべきである。
(3) そうすると、Eと申立人との間の父子関係は、非嫡出親子関係であり、法例18条の定めにより、子の出生当時の父の本国法によるべきである。そして、父となるべきEの本国法は、前記の中華民国民法であるところ、同法1065条では、「婚生でない子であって、その生父が認知した者は、これを婚生の子とみなす。生父が養育したときは、これを認知したものとみなす。」旨定めている。そして、同法1069条では、「婚生でない子の認知の効力は、出生の時に遡及する。」旨定めている。ところで、申立人は、前記認定のとおり、出生当時から結婚当時までEに養育されて成長したと認められる。そうすると、申立人は、中国法により、Eの子として認知されていたというべきである。
(4) したがって、申立人の日本国籍を前記の旧国籍法3条に基づいて認めることはできないといわなければならない。そして、他に申立人が日本国籍を取得したと認めるに足りる資料はない。
3 以上によると、本件申立ては、その余の点を検討するまでもなく、理由がないというべきである。
よって、本件申立てを却下することとし、主文のとおり審判する。