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大阪家庭裁判所 平成13年(少)3543号 決定 2001年10月26日

少年 M・R(昭和62.7.1生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実等)

少年は、

第1  ○○市立○△中学校2年生に在学中の者であるが、

1  中学校1年生の3学期ころから学校を怠学するようになり、

2  平成13年4月に中学校2年生に進級してからは、保護者の監護に服さずに無断外泊や家出を繰り返し行い、家庭内では実母に暴力を振るい、それが実弟や実妹にまで及ぶようになり、

3  同年7月にはスーパーマーケットで万引きをし、その後の夏休み中にはずっと保護者に居所を知らせずに家出をして、新潟県等で夜遅くまで露店で稼働し、

4  同年9月14日には無断外泊を注意した実母に腹を立て、実母の首を絞めたり腹部を足蹴りして不正出血させ、同月25日にも実母に金銭を要求して断られた腹いせに、実母に対して暴行を繰り返したという状況にある。

以上の行為は、保護者の正当な監督に服さず、正当な理由がなく家庭に寄り付かず、自己又は他人の徳性を害するものであり、少年法3条1項3号イ、ロ、ニに該当し、このまま少年を放置すれば、その性格、環境等に照らし合わせて、将来、窃盗、暴行、傷害等の犯罪を犯すおそれがある。

第2  同月26日午後8時ころ、大阪府○○市○□町×番×号△△眼科医院南側路上において、何者かが他から窃取して放置した□□所有の自転車1台(時価5000円相当)を発見拾得しながら、警察署長に届け出る等正規の手続きを取らず自己の乗用に供するためこれを横領した

ものである。

なお、上記第1のぐ犯事実に関し、大阪府○○警察署長作成の同年10月3日付け通告書には、審判に付すべき事由として、自転車を盗んだ旨の記載が2カ所に見られる。しかしながら、上記第2の非行事実は、かかる少年のぐ犯行状の下にそのぐ犯性の直接的な現れとして行われた犯罪事実と認められるから(しかも、上記通告書中「9月27日に大阪府○○警察署管内において、自転車を盗んで警察官に補導される」との記載は、一件記録によれば上記第2の非行事実及びこれによる補導と認められる。)、この犯罪事実について少年を保護処分に付する以上、自転車を盗んだ旨のぐ犯事実は犯罪事実に吸収され、要保護性に関する事実として考慮すれば足りるものと言うべきである。

(適用すべき法令)

上記第1につき 少年法3条1項3号本文、同号イ、ロ、ニ

同第2につき 刑法254条

(処遇の理由)

1  少年は、小学生のころは問題行動を起こすことはなく、授業も真面目に受け、学級活動にも積極的に参加しており、小学校6年生の運動会では応援団長を務めるなど活発であり、成績も良くてクラスのリーダー的存在であった。中学校に進学後も積極的な姿勢はしばらくは変わらず、中学1年生当初は警察官を目指して剣道部に所属し、技術の向上に取り組んでいた。

しかしながら、一方で少年が小学校5年生のころに実父の借財が発覚し、これを契機に小学校6年生ころから実父母の不和が顕著となり、少年は実父母の不和に心を痛めるようになった。

その中で、中学1年生の2学期に当たる平成12年11月、少年の実父母は協議離婚し、実母が少年及び少年の実妹弟らを引き取った。以後、少年は家計を考えてか進学塾を辞め、それに伴い中学校での成績も下降した。そして、中学1年生の3学期(平成13年1月ないし3月)から、少年は学校を怠学するようになり始めた。

同年4月、少年は中学2年生に進級し、すぐに女子生徒に言いがかりを付けて問題を起こした。同年5月の連休明けからは本格的に崩れ出し、同級生の男子と初めて性交渉を行い、怠学や授業妨害も目立つようになり、髪の毛を金色に染めてピアスも付け、校内暴力や万引きといった問題行動が顕著となった。同年7月からは家出を開始し、その中でシンナーを吸引、同月下旬に中学校が夏休みとなると生活態度はさらに乱れ、同年8月には家出中に新潟県まで赴いてテキ屋を手伝うなどした。同年9月に2学期が始まるも、学校へはほとんど登校せず、登校しても校内暴力、器物損壊、火遊び等に及び、家庭でも実母の腹部を足蹴りして不正出血させたり、実妹弟らにも暴力を振るって実弟にチック症状を惹起させるにまで至った。

その結果、少年は、同年10月3日に警察署に保護され、同日、ぐ犯にて当庁で観護措置決定を受けたものである。

2  少年は、もともと活動性は高いため、いったん逸脱すると抑制が利かなくなり、家庭や学校から離脱し、不良交友の範囲も拡大している。しかしながら、少年は自宅に帰ってやり直したいと述べるのみで、内省は深まっているとは言い難い。一方で、少年の実母は少年の監護について限界を感じており、現に、体調が思わしくない実母に直ちに少年の監護を委ねるのは、少年自身のみならず実妹弟への悪影響すら懸念される。

したがって、少年の更生を図るには、社会内処遇によっては困難であって、少年を矯正施設に収容した上で、情緒の安定を図り、なぜ生活態度が急速に崩壊したか、自己の行為が周囲にどのような影響を及ぼしていたかといった内省を促すなどの必要があると認められる。そして、少年は現在妊娠中であることから、びとまず医療少年院にて必要な医療措置を行い、その後に初等少年院に送致するのが相当である。さらに、少年の崩れは長期にわたるものではないこと、潜在的には高い能力を有することなどから、初等少年院では短期間の継続的、集中的な指導と訓練により、その矯正が期待できると思料される。

よって、医療措置後は初等少年院に移送相当とし、かつ初等少年院での収容期間については一般短期の処遇を実施されたいとの処遇勧告を付した上、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 廣瀬孝)

〔参考〕ぐ犯通告書に記載された審判に付すべき事由

審判に付すべき事由

少年は、現在○○市立○△中学校2年生に在籍しているが、中学1年生の3学期頃から、怠学、いじめ等の問題行動をはじめ、2年生になってからも度重なる保護者や学校教師の指導に対してもいっこうに行状を改めず、喫煙、無断外泊、家出を繰り返すなど行動はますますエスカレートするばかりで、夜遊びを注意した実母に対し暴力を振るい持ち出した包丁を実母の首に当てて、「殺したろか」と暴言を吐き捨てるなどし、最近では

1 今年7月頃に、○○市内のスーパーで化粧品を万引きし、店員に発見されて実母が引き取りに行ったが、その後も自転車を盗む等繰り返す。

2 夏休み期間中、家出をし、年長少年に誘われて、新潟県等に行き、深夜遅くまで露店で稼働していた。

3 9月に入ってからも無断外泊、深夜徘徊が続き、着替え等で帰宅した際に家中をひっくり返し金銭を持ち出す。

4 9月14日に無断外泊を実母に注意されたことに腹立て、実母の首を絞めたり腹部を足蹴りし不正出血させる。

5 9月25日には実母の給料を当てに帰宅し遊興費欲しさに実母に金銭を要求し、断られた実母に暴行を繰り返す。

6 9月27日に大阪府○○警察署管内において、自転車を盗んで警察官に補導される。

7 保護者が引き取って連れて帰ったものの、その日のうちに無断外泊する。

上記1、2、3、4、5、6、7の行状は、少年法第3条第1項第3号のイ、ロ、ニに該当し、少年の性格、環境に照らして、このまま放置すれば将来窃盗、暴行等の犯罪を犯すおそれがある。

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