大阪家庭裁判所 平成14年(家)7725号 2003年8月21日
主文
1 被相続人の遺産を以下のとおり分割する。
別紙遺産目録記載の土地は、すべて相手方Cが取得する。
2 相手方Cは、前項の遺産を取得した代償として、申立人、相手方D、同E、同Fに対し、それぞれ一人について金606万6666円を、相手方Aに対し金466万6666円をそれぞれ本件審判が確定した日の翌日から1か月以内に支払え。
3 本件手続費用は各自の負担とする。
理由
(一件記録によれば以下のとおり認定及び判断することができる。)
1 裁判管轄権及び準拠法
被相続人の最後の常居所地を管轄する日本国の当裁判所に国際・国内管轄権があり、法例26条により準拠法は大韓民国民法である。
2 相続の開始及び相続人
(1) 被相続人の相続開始日 1999年(平成11年)1月16日
(大韓民国民法997条)
(2) 法定相続人と法定相続分
被相続人の法定相続人は、被相続人の配偶者であった相手方G、被相続人の子供である申立人、相手方C、同A、同D、同E及び同Fである(大韓民国民法1000条、1003条)。
各人の法定相続分は、相手方Gが15分の3、その他の者が各々15分の2である(大韓民国民法1009条)。
相手方Gは、自己の相続分を申立人、相手方C、同D、同E及び同Fに対し、平等の割合(各々75分の3)で譲渡した。
その結果、相手方Gの相続分はゼロとなり、申立人、相手方C、同D、同E及び同Fの相続分は、各々75分の13、相手方Aの相続分は、75分の10となる。
3 遺産の範囲
別紙遺産目録記載の土地(以下「本件土地」という。)が被相続人の遺産であることについては、当事者間に争いがなく、本件記録に照らして明らかである。また本件記録上他に被相続人の遺産が存在すると認めるに足りる資料はない。
4 遺産の評価
(1) 結論
本件遺産分割手続を進めていく上での本件土地の価格を金3500万円とするのが相当である。
(2) 相手方Aを除く本件当事者全員の意向
相手方Aを除く当事者全員は、当初本件土地を相手方Aを含めた共同相続人が法定相続分の割合によって共有取得することを求めた。その理由は、本件土地上には後記のとおり、所有者の異なる複数の建物が存在し、当該土地建物を相手方Aが利用しているところ(その利用権限の有無及び内容には争いがある。)、その状態を前提として、同人から適正な土地利用料の支払いを受けることを目的としたものである。これに対し、相手方Aからは、後記のとおり自己が本件土地を取得して代償金を支払う旨の分割方法、土地の価格金1000万円との主張がなされた。当該主張は、本件土地の価格の面で折り合わず、相手方Cにおいても金2000万円で取得したい旨の希望も出た。
そのような状況の中で、相手方Aを除く当事者全員は、本件土地の利用状況等から社会通念上現物分割は困難であり、また共同相続人以外に本件土地を有償取得しようとする者の存在の可能性も乏しいこと等から、本件土地の価格及び分割方法について、共同相続人の中で本件土地を取得する意思のある者が、裁判所に対し文書でその基準となる不動産価格を示し、当該価格の内最高価格を示した者が本件土地を取得し、当該価格を基準として他の共同相続人に対し、各人の相続分に応じて代償金を支払う方法によることを希望した。
当裁判所は、相手方Aも含めた当事者全員(代理人を含む。)が出頭した本件第5回審判期日において、別紙1記載の書面を朗読して説明し、当該手続(以下「入札」という。)を実施した結果、相手方Cのみが入札に参加し、その価格は金3500万円であった。
相手方Aを除く当事者全員は、上記の結果発表後、相手方Cが本件土地を価格金3500万円で取得し、他の共同相続人に対し各人の相続分に応じて代償金を支払う分割方法に改めて同意した。
(3) 本件土地価格を決めるに当たり鑑定を実施しなかった理由
ア 本件土地の平成14年度固定資産評価額は、更地評価で金5267万5400円であり、相続税申告に当たり算定される額(平成14年度路線価)は、金1億1633万円余(115000/m2×1011.57)で、借地権価格は60パーセントの地域である。本件土地上には、別紙建物見取図(以下「見取図」という。)記載の各建物が存在し、各建物について別紙建物目録記載のとおり登記がなされている。そして相手方A又は相手方Aが代表者となっている申請外b産業株式会社が、本件相続開始当時から本件土地及び上記建物を現実に利用しているものの、同人らが利用するに至った経緯やその利用権限については争いがある。しかも見取図記載BとCの各建物については、申請外b産業株式会社と申立人の子供が代表者をしている申請外d鋼業株式会社との間において所有権者に争いがある(平成15年7月30日大阪地方裁判所は、申請外d鋼業株式会社の申請外b産業株式会社に対する所有権移転登記手続請求事件(平成14年(ワ)第××××号事件)について、見取図記載Bの建物に関して請求を棄却、同Cの建物について認容する各判決をした。)。
更に上記各建物相互間の土地利用範囲を明示する塀や杭等の指標もない。
イ 相手方Cが本件土地の価格として示した金3500万円は、上記固定資産評価額等の価格や本件土地の現状に照らして十分合理性のある価格であるといえる。
ウ また、本件土地の利用状況が上記のとおりであることから、本件土地の適正価格を鑑定することは著しく困難であるといえる。
エ 相手方Aを含めた当事者全員は、本件土地の価格について相手方Cが示した金3500万円以上であると主張する者はいない。したがって、本件土地の価格の上限についてはその範囲において事実上合意があるといえる。更に、仮に鑑定を実施し、その価格が金3500万円以下であったとしても、本件において相手方Cが金3500万円で本件土地の取得を希望する限り、同人に同土地を取得させるのが相当であるといえる。
オ 本件手続においては、寄与分及び特別受益を主張する者はなく、その他本件記録上本件土地の相続開始時の価格を算出し、当該価格を基準として各人の相続分を修正すべき事情を認めるに足りる資料はない。
カ 以上のとおり、本件においては、本件土地の鑑定を実施することなく、その価格を金3500万円としたものである。
(4) 相手方Aの意向
相手方Aは、入札により本件土地の取得者及び価格を決定することに反対し、「<1>本件土地はそのすべてを相手方A及び同人側が主宰する申請外b産業株式会社が被相続人から賃借して長年にわたり事業用地として使用収益してきているので、相手方Aが共同相続人に対し代償金を支払って単独取得することが相当である、<2>本件土地の更地価格は金2500万円であり、本件土地上には既述の建物及び建物賃借権が存在するから、本件土地の価格は金1000万円である。」と主張するので以下検討する。
まず更地価格が金2500万円であると断言する根拠はなく、上記固定資産評価額等に照らせばかえって、当該価格は著しく低額であるといえる。
また相手方Aが本件土地及び上記各建物を利用するに至った経緯や利用権限については同人と同人を除く当事者全員との間に争いがあり、本件記録上相手方Aが主張する権限等をそのまま認めるだけの資料はない。
確かに、仮に相手方Aに本件土地の取得を認めた場合には、同人の本件土地及び上記各建物利用状態をより安定させることになるといえる。しかしながら、上記のとおり同人主張の価格には合理性が無い。また、本件各当事者の法定相続分を修正して相手方Aが主張している代償金額を他の当事者に支払って本件土地を同人に取得させるべき事情を認めるに足りる資料もない。更に別紙1の6項に記載してあるとおり、入札に基づき本件土地を取得する者は、現状における土地利用者との間において当該利用状態を前提に新たに利用権設定に関して協議をする義務を負担しているのであるから、相手方A以外の共同相続人が本件土地を取得したとしても、相手方Aが本件土地及び上記各建物を利用する可能性を失うわけではない。
また既述のとおり、もともと相手方Aの本件土地及び上記各建物の利用権限等に関しては、解決すべき紛争があったものであるから、本件土地を相手方A以外の他の共同相続人の内の1人に取得させたとしても、相手方Aを除く当事者全員の立場を本件土地の取得者が事実上引き継ぐだけであって、これらの紛争を更に拡大させたことにはならない。
以上のとおり、相手方Aの意向を採用しなかったものである。
5 分割方法
これまで認定説示したところによれば、相手方Cが本件土地をすべて取得し、申立人及び相手方A、同D、同E及び同Fに対し、それぞれの上記相続分に応じて代償金を支払う方法が相当である。なお、相手方Cに上記代償金の支払い能力があることは、本件記録上明らかである。
以上によれば、別紙遺産目録記載の土地は、相手方Cが単独取得するものとし、同人が本件遺産を取得した代償として、申立人、同D、同E及び同Fに対し、1人について金606万6666円、相手方Aに対し466万6666円の支払いを命じるものとする。なお、代償金の支払期限については、本件審判が確定した日の翌日から1か月の余裕を置くのが相当である。また本件手続費用は、各自の負担とする。
35000000×13/75=約6066666(円未満切り捨て。)
35000000×10/75=約4666666(円未満切り捨て。)
よって、主文のとおり審判する。
(別紙1)
平成14年(家)第7725号
審判期日平成15年7月18日午後3時30分開始
本件遺産土地(以下「本件不動産」という。)の代償金額決定のために実施する入札(共同相続人の中で本件不動産を取得する意思のある者が、それぞれ当裁判所に対し、文書でその基準となる本件不動産価格を表示すること。)に当たり確認すべき事項
1 本件は、相手方A以外の当事者からの希望・申出に基づき実施するものである。
2 入札に参加できるのは、被相続人の法定相続人(代理人弁護士及び裁判所が許可した代理人を含む。)に限る。
3 入札の方法は、上記審判期日において、裁判所が用意した所定の用紙に金額及び氏名を記入して、所定の袋に当該用紙を入れることによる。
4 入札者は、入札額が本件不動産価格であるとして本件不動産を取得し、他の共同相続人に対し各人の具体的相続分に応じて代償金を支払う。
5 最低入札金額を金1000万円(相手方Aが本件不動産の価格と主張している額)とする。
6 入札者は、本件不動産の現状における利用状況をそれぞれの責任において十分調査認識した上で、入札に参加するものであり、本件土地を取得した場合には、現状において土地を利用している者との間において、土地利用権に関して協議を行う義務がある。
7 相手方Aを除く出頭者全員は、上記2、3、5項の要件を充たす入札者が1人の場合には当該入札者において、入札者が複数の場合には、入札者のうち、最高の価格で入札した者が、本件不動産を当該入札価格で取得することに合意する(以下当該入札者を「本件取得予定者」という。)。
8 本件取得予定者は、当裁判所が指定する次回審判期日に4項記載の代償金を支払うことのできる資金力に関する資料(例えば預金残高証明書等)を持参する。
9 裁判所が、8項記載の資金力を証明する資料が、本件取得予定者の資金力を証明する資料として不十分であると判断した場合には、再度同様の入札手続きを行うものとするが、再度行う入札の際には、上記本件取得予定者であった者は、再度入札することはできない。
以上