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大阪家庭裁判所 平成15年(少)1431号 決定 2003年5月09日

少年 Y・N (昭和59.5.14生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  Aと共謀のうえ、

1  平成14年10月9日午後9時40分ころ、大阪府寝屋川市○○×丁目×番○○集会所西側路上において、同所を自転車で通行中の○○(当時16歳)の右後方から第1種原動機付自転車に2人乗りして接近し追い越しざまに、同人が右後ろポケットに入れていた同人所有にかかる現金200円位及びキャッシュカード等5点在中の財布1個(時価合計500円相当)を窃取した。

2  同年10月9日午後9時45分ころ、大阪府寝屋川市○△××番地の×○○酒店西側路上において、同所を徒歩で通行中の○△(当時23歳)の右後方から第1種原動機付自転車に2人乗りして接近し追い越しざまに、同女が右肩に掛けていた同女所有にかかる現金1万2000円及びキャッシュカード、運転免許証等在中のショルダーバッグ1個(時価合計1万5000円相当)を窃取した。

第2  B、Aと共謀のうえ、通行人から金品を強取しようと企て、

1  同年10月10日午後7時ころ、大阪市都島区○□×丁目×番○○駅自転車駐車場○○前階段及び同○○前歩道上において、徒歩で帰宅途中の○□(当時20歳)を3人で囲み、「金出せや」と語気鋭く申し向け、少年が○□の後方からその頸部に右腕を巻き付けて両腕で強く締め上げ、Aが右手の拳骨で○□の左唇を1回殴打するなどの暴行を加え、さらに少年が○□の頸部を両腕で抱えるようにして絞めたまま引きずりまわし、Bが○□の背部を何回も拳骨で殴打するなどの暴行を加え、その反抗を抑圧したうえ、Aが○□のズボンの後ろポケットを引きちぎり、○□所有にかかる現金910円位及びキャッシュカード1枚等6点在中の財布1個(時価1000円相当)を強取した。

2  同年10月10日午後10時45分ころ、大阪市城東区△△×丁目×番×号○○北側歩道上において、徒歩で帰宅途中の△△(当時23歳)に対し、少年が△△の前額部を右手の拳骨で1回殴打し、Bが△△の腹部を右手の拳骨で1回殴打し、さらに少年が△△を羽交い締めにしたうえ、地面に投げ倒し、Aが△△の背部を足蹴りにし、こもごも△△の顔面、腹部、背部等を足蹴りにして、すでに抗拒不能となった△△を塀にもたれかけて座らせて、「金出せ」と脅し、さらに、こもごも△△の顔面、腹部等を殴打したり、足蹴りにするなどの暴行を加え続け、少年が△△の髪の毛を鷲掴みにして、△△の後頭部を塀の壁にぶつけるなどの暴行を加え、その反抗を抑圧したが、△△が隙をみて逃走したため、その目的を遂げなかったが、その際上記暴行により△△に対して、約1週間の通院加療を要する前額部、鼻部打撲擦過傷、頸部擦過傷等の傷害を負わせた。

第3  C、B、Dと共謀のうえ、金員の窃取の目的で、同年10月30日午前5時ころ、有限会社○○代表取締役△□の看守する大阪府門真市△□×番×号所在の同社工場内にシャッター横の出入口から侵入し、上記△□管理にかかるパーソナルコンピュータ1台等30点(時価16万円相当)を窃取した。

(通用すべき法令)

非行事実第1の各事実につき、いずれも刑法60条、235条。同第2の1の事実につき、刑法60条、236条1項。同第2の2の事実につき、刑法60条、240条前段。同第3の事実のうち、建造物侵入の点につき、刑法60条、130条前段、窃盗の点につき、刑法60条、235条。

(処遇の理由)

本件は、不良交友と原動機付自転車を用いてひったくりを行った事案、不良交友と路上強盗2件を行い、うち1名に約1週間の通院加療を要する怪我を負わせた事案、不良交友と侵入盗を行った事案である。いずれも動機に酌量の余地がないうえ、特に非行事実第2の各事実については行っている暴行全体が執拗かつ悪質であるところ、少年は被害者を羽交い締めにしたうえ、首を絞めたり、頭を壁にぶつけたりするなど重大な結果を引き起こしかねないような暴行に及んでいる。少年の責任は重い。

少年は、小学生のころから万引等の問題行動があり、中学生になると、原動機付自転車の窃盗、無免許運転、万引等の問題行動が広がり、中学校卒業後高校に入学するも、万引、恐喝等をしたことがあった。平成13年1月暴走行為に参加し、同年2月ひったくりを行い(この事実は本件発覚後に初めて述べた。)同年6月道路交通法違反保護事件(上記暴走行為)につき、家庭裁判所調査官の調査を受け、同年7月上記保護事件により交通保護観察に付された(少年はそのころ恐喝をしたことがあると述べている。)。その後断続的に就労するも続かないものの、平成14年2月保護観察が解除になったが、同年3月万引を行い、同年4月から事務所荒らしをするようになった。同年6月造園屋で働くようになり、窃盗保護事件(同年3月の上記万引)につき、事務所荒らしにつき秘したまま、家庭裁判所調査官の調査を受け、「もう絶対にこうゆう事はしないと決意しました。」との少年照会書を提出したが、その後も原動機付自転車を盗んだり、原動機付自転車で人身事故を起こし逃げるなどし、同年8月上記保護事件につき、これらのことを秘したまま、審判等で保護的措置を受けたとして不処分となった。同年9月家を出て、造園屋を辞め、1人暮らしを始めたが、ひったくり(非行事実第1)や恐喝をなし、ついには路上強盗に至っている(非行事実第2)。その後侵入盗、車上荒らし等を何件も繰り返した後(うち1件が非行事実第3である。)、同年12月建造物侵入、窃盗、窃盗未遂保護事件により、中等少年院に送致され(なお、前件調査時には、非行事実第1、3の事実は余罪として概ね申告していたが、恐喝をしたことがある旨述べていたにとどまり、前件審判において非行事実第2の各非行は十分斟酌されていない。)、奈良少年院に入院した。少年院内では、表面的には日課を順調にこなし指導を素直に聞き入れていたが、収容前の各非行を進んで認めて償おうという姿勢までには至らなかった。そして、平成15年3月非行事実第2の各事実により逮捕されている。

前件審判においては、非行事実が侵入盗7件であるところ、中学生のころからの逸脱行動を背景に、少年において、主体性に欠け、状況依存的である点、享楽的な生活思考が強く、抑制なく逸脱行動に至っている点等が少年の問題点として指摘され、本件事案の重大性を認識させ、これらの問題点を考えさせるとともに、責任を持った判断、行動をする力を身に付けさせるべく、中等少年院に送致するとの決定がされている。そして、上記のとおり種々の指導を受け「よい子」を演じながらその反面で非行を続けているといった二面性が前件調査等において少年の大きな問題点として指摘されていた。

しかるに、少年の問題点として、本件非行においては、上記各問題点に加え、暴力に対する抵抗感が希薄である点も指摘することができる。そして、特に非行事実第2の各非行は、前件非行とは異種でかつより重大なものである。

以上の諸点に鑑みれば、保護環境が前件審判時に比較し多少改善してきたことを考慮しても、少年の更生を図るには、改めて、少年を矯正施設に収容したうえで、本件非行の重大性に対する自覚を深め、暴力に対する抵抗感の希薄さを含めた自己の問題点を考えさせ、責任を持って判断及び行動ができるように学習させるとともに、他者に対する共感性を身に付けさせる必要がある。

そして、本件非行の重大性、少年の改善すべき問題点が増えている点、前件決定が今後本件決定の確定を待って少年法27条2項により取り消されることが予測され、前件非行の重大性も併せて本件による処遇において自覚しなければならない点などに加え少年の二面性による処遇の浸透の困難さなども考慮すると、全体として2年程度の施設内処遇を要するものと思料される。もっとも、これまで3か月程度教育過程を受けた点については、今後の処遇において別途配慮が必要であろう。

したがって、「通常の長期に比して相当長期の処遇を実施されたい。なお、これまで受けた教育過程に配慮されたい。」との処遇勧告を付したうえで、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 田中寛明)

〔参考〕 処遇勧告書

平成15年(少)第759号、第973号、第1431号

処遇勧告書

少年      Y・N

生年月日    昭和59年5月14日生

決定年月日   平成15年5月9日

決定少年院種別 □初等file_2.jpg中等 □特別 □医療

勧告事項    □一般短期処遇 □特修短期処遇

□医療措置終了後は(□初等 □中等 □特別)少年院に移送担当

file_3.jpgその他 通常の長期に比して相当長期の処遇を実施されたい。なお、これまで受けた教育過程に配慮されたい。

平成15年5月9日

大阪家庭裁判所

裁判官 田中寛明

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