大判例

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大阪家庭裁判所 平成16年(少)2053号 決定 2006年3月23日

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は,A1(以下「A1」という。),A2(以下「A2」という。),A3(以下「A3」という。)及びA4(以下「A4」という。)と共謀の上,帰宅途中の年輩のサラリーマンから金員を強取しようと企て,平成16年2月16日午後8時35分ころ,大阪市<以下省略>所在のaマンション南側路上において,徒歩で帰宅途中のA5(当時61歳,以下「被害者」という。)に対し,A4が被害者の後方から体当たりして同人を路上に転倒させる暴行を加え,さらに,少年,A2,A4及びA3が,こもごも被害者の周りを取り囲んで,「金出せ。殺すぞ。」などと脅迫して,その反抗を抑圧し,被害者から現金約6万3000円を強取し,その際,上記暴行により同人に対し,入院加療51日間,その後通院加療約3か月間を要する骨盤骨折の傷害を負わせたものである。

(事実認定の補足説明)

文中,略称を用いる場合は,以下の例による。また,以下の人名については,姓若しくは名のみで表記する場合がある。

(以下の例省略)

証拠を引用する場合,審判手続の更新の前後を問わず,便宜,当裁判所の審判廷における供述(証言)を「○○の審判供述(証言)」,成人刑事事件の公判調書中における証言を「○○の公判証言」などと表現する。検○○という記載は検察官送致証拠を,弁○○とある記載は付添人弁護士申請証拠を,それぞれ当裁判所が作成した証拠目録に記載された標目番号で示したものである。

年の記載がない月日は,いずれも平成16年を示す。

第1争点

付添人弁護士(以下単に「付添人」という。)及び少年の主張の要旨は,本件において,検察官は,少年の共犯者とされるA3の自白調書,A4の自白調書及び審判証言,少年の自白調書等を非行事実認定の主たる根拠としているが,これらの供述,証言はいずれも信用性に乏しいものばかりであって,少年が「非行事実」記載の非行(以下単に「本件非行」という。)を犯した事実を何ら証明するものではない,むしろ,少年には,非行事実と同一時刻に,A3を含めた家族らと自宅にいたというアリバイが存し,他の共犯者にもそれぞれにつき確固たるアリバイが存する,現場付近の防犯ビデオの画像鑑定の結果,共犯者とされるA2及びA3が,犯人でないことは明らかであり,少年が本件非行を犯したとは到底認められず,非行なし不処分とされるべきである,というものである。

当裁判所は,付添人及び少年の主張を排斥し,少年が本件非行を犯したことを認定したので,以下,その理由を説明する。

第2A3の供述の信用性

1  A3の自白調書の信用性

A3は,検察官調書(検77,78)において,概要,次のとおり,自己が少年らと共に本件非行を犯したことを認める供述をしており,警察官調書(検138,139,149ないし152)においてもこれに添った供述をしている。

・ 2月16日の夕方ころ,僕が少年と自宅にいたところ,確か,A4から少年の携帯電話にワンコールが入った。僕が,携帯電話でA4に連絡を入れたところ,A4から遊びに誘われたので,少年と一緒に自転車で玉出西公園に行った。

・ 玉出西公園には,A1,A4,A6,A7,A8がおり,A1のマンション前まで移動し,さらに,宮脇書店に行った。

・ そうしたところ,僕の携帯電話にA9からワンコールが入り,僕がかけ直して,A1らと宮脇書店にいることを話すと,A2が運転する車にA9とA10が乗って来て,僕らと合流した。

・ A2とA1は,車内で何か話をしており,その直後に,A2が,みんなに聞こえるように,「今からカツアゲに行くぞ。」と声をかけ,A9,A10,A4をかつあげのメンバーに選び,同人らは,A2が運転する車でかつあげに向かった。

出発前,A2から「帝塚山の方に行っているから。お前らも後でそこに来いや。」と指示された。

・ 僕らは,午後7時半ころ,宮脇書店からマクドナルドに移動したが,それから4,50分ほどしてA2らが戻ってきた。A2は,A1にかつあげに失敗した旨言っていた。

・ A1とA2は,僕らが集まっていた所から5,6メートルほど離れた所に移動して話し合いをしていたが,その後,戻ってきて,A2が,「親父いわしに行くぞ。」,「▲▲,▲▲,▲▲,一緒に来い。」と命令した。

・ 僕らが親父狩りに向かおうとした時,A1が「今度は,俺も見張りをするから。」,「適当な親父が来たら,ワンコするから。それをやってくれ。」などと指示した。

・ その後,僕,A2,A4,少年の4名はマクドナルドから南港通りを渡り,さらに,電車道を渡り,ラーメン屋「ごん」の前を通って,犯行現場まで移動した。

現場には,僕とA4が先頭になって行ったが,A2が「そっちの方へ行け。」などと言って指示を出した。

・ 僕ら4名が,マンションの出入口付近と道路を挟んで反対側にあった駐車場の前辺りをウロウロしながら,5分くらい待機していると,A1から少年の携帯電話に合図のワンコールがあった。

・ 僕らが,A1が見張ってくれていると思われる西側の方を見ていたところ,被害者が僕らの方に向かって歩いてくるのが分かった。

A2から「▲▲と▲▲,行け。」と命令され,僕とA4で被害者を襲うべく,A4と並ぶようにして先頭になって被害者と一旦すれ違った。僕らの後ろからA2と少年も付いてきていたはずである。

・ 僕が被害者とすれ違い,すぐUターンしようとした時,A4が被害者の後ろ側に回って,ラグビーのタックルのようなやり方で肩で被害者の腰付近にぶち当てた。

・ 僕は,被害者が立ち上がってきそうであれば蹴りを入れるつもりですぐに駆け寄り,A2や少年も側にやって来たが,被害者は倒れ込んだまま,うめき声を上げただけで動かなかった。

・ A4は,「金出せ。」と言ったが,被害者はすぐに金を出そうとせず,僕やA2,少年が口々に「金出さへんかったら殺すぞ。」,「こらっ,殺すぞ。」などと脅しつけると,被害者は,確かコートの内ポケットから黒色で横に長い札入れを取り出し,その中からお札を取り出して,A4の方に差し出したので,A4がそれを奪い取った。

・ 誰かが「もうないのか。」と言ったところ,被害者は財布の中を開けて見せて,金がそれ以上ないことを示したので,僕らは被害者が来た方向とは反対方向に逃げ,マクドナルドに戻り,A1らと合流した。

・ 犯行後,A1のマンション前まで移動したが,A2の車の車内でA1とA4が奪った金のやりとりをしていたようである。3人が軽トラックから降りてきたころ,帰宅したので,その後のことは分からない。

そこで,以下,上記供述の信用性を検討する。

(1) 上記検察官調書は,内容的に詳細かつ具体的であり,臨場感,迫真性に富んでいる上,現場で自ら被害者に対して,蹴りを入れようとして駆け寄ったことや,他の共犯者らと共に被害者を脅迫したことなど,自己に不利な事柄に関しても供述されており,供述内容には不自然な点はない。

(2) 本件非行に関して,最初に非行事実を認める供述をしたのはA3であり,その意味で,A3の自白の位置づけは重要である。

すなわち,A3は,A11に対する恐喝未遂事件(以下,単に「A11事件」という。)で,4月28日以降,警察で任意の取調べを受け,本件非行に関しても事情聴取を受ける中で,当初は否認していたものの,5月19日になって,まず,自分,A4,「▲▲▲」,「年下の年齢不詳の子」が実行犯であり,A1も関与している旨供述し,さらにその後,本当は,自分,A4,A2が実行犯であることを認めるに至り,同日4時ころには犯行現場の引き当たりが実施されている。

A3がかかる供述をする以前には,A6が,自己を含めたA1,A4,A3,少年,▲▲▲▲,▲,▲▲,「▲▲▲▲」らが本件非行に関与している旨の供述をしたり(検16,22等),A4が本件非行をほのめかす内容の自供書(弁54ないし56)を作成するなどしていたものの,本件非行の共犯者の氏名やその人数,役割分担等についてはいまだ不分明な状況にあったことから,このような状況下において,A3が,それまで共犯者として名前の挙がっていなかったA2を含めた共犯者らの名前を供述している点で,A3の供述の信用性は高い。

(3) A3には,共犯者について虚偽の供述をする理由がなく,この点でもA3の供述の信用性は高い。

すなわち,少年はA3の実弟であり,兄弟間に特に軋轢等はなかったことから,A3には,少年を少年院送致等の重い処分が十分予想される強盗致傷といった重大犯罪の共犯者とするために敢えて虚偽の供述をする動機は全く存しない(後述するように,むしろA3は,当初少年の役割について単に見張りをしていたに過ぎない旨,少年を庇う供述をしていたほどである。)。

この点は,他の共犯者についても同様である。とりわけA2に関しては,A3は,他の共犯者に先んじてA2を本件非行の実行犯であるとして供述しているが,A2は,A3より年上であり,また,A2のことを元暴走族の総長であると認識し(この点については,A2自身,かつて警察官調書において暴走族への加入歴を認める供述をしていたことが認められる。検290),同じく年長者であったA1同様,怖い人物であると感じていたというのであるから,嘘の共犯者として容易に名前を出せる相手ではなかったにもかかわらず,同人を共犯者として供述している。

さらに,A3は,検察官の取調べ時に,担当検察官(德久)からA3の供述に基づいてA1とA2を逮捕することになると言われ,「うれしいです。」と答えているところ,これは検察官から強要されて言わされた言葉ではなく,A3自らが自発的に述べた言葉であり,A2,A1が真実本件に関与しているからこそ出た発言と見るのが自然である。

このように,A3が,敢えて少年らを共犯者として供述したのは,それが真実に合致することを強く推認させるから,検察官調書の信用性を支える事実といえる。

(4) 前述のとおり,A3は,本件非行の犯人に,自分,少年,A4の3人が含まれていることについては,5月19日の段階から認めており,少なくともその点については,捜査官のみならず,勾留質問や観護措置の担当裁判官はもとより,面会に訪れた付添人の内海弁護士,実母であるA13に対しても一貫して認める供述をし,自身の審判においても,裁判官や付添人からその供述内容の真偽を問われても,本件非行を一貫して認める供述をしている。

もっとも,A3の捜査段階の供述は,①5月19日の段階では,少年は,本件非行の実行犯ではなく,犯行現場付近で見張りをしていただけである旨供述し,同日の実況見分においても同様に指示説明していた点,②5月19日から同月21日まで,実行犯としてA2を挙げていたが,同日になって共犯者をA2からA12に変え,さらに6月2日には再びA2が共犯者であった旨供述を変遷させている点,③被害者からカバンを強取したと供述していた点,④A2,A4らと待ち伏せをしていた場所について,マンション南側の道路向かいにある駐車場(▲▲方西側駐車場)であると説明していた点などについて供述の変遷が見られる。

そして,付添人は,このような点は,真に体験した者であれば供述を誤るはずがなく,単に記憶違いといえる類のものではないことは明白であり,こうした客観的状況との齟齬や変遷は,A3が記憶に基づかない供述をしたことを強く窺わせる事実であり,供述の任意性や信用性を疑わせる事情であると主張する。

しかし,①の少年の関与に関しては,A3は,検察官調書(77)及び審判供述等において,それまでの取調べでは,本件非行時に少年は,A3の指示で見張りをしただけであると供述していたが,それは少年を庇ってのことであり,被害者の供述を基にして警察官から追及された結果,少年も自分たちと一緒にいたと供述せざるを得なくなった旨,変遷理由について合理的な説明をしている。

②の共犯者のメンバーの変遷に関しては,その変遷の時期が,共犯者に関する少年の供述の変遷時期とも近接していることなどから,供述の変遷理由については,慎重な検討が必要である。

この点,A3は,A2からA12に共犯者を変遷させた際には,それまでA2の名前を出していなかった理由について,A1やA2の名前を出したことが判明した場合に,同人らから仕返しをされることが怖かったので,A2を逮捕してもらうためであった,と説明していたが(検76,86),極めて不自然かつ不合理な説明といわざるを得ない。

これに対して,再度,A2を共犯者として供述した後になしたA3の供述では,一連の変選理由について,「A11事件で警察の取調べを受けていた時に,A1らから同人やA2の名前は出すな,A2の代わりにA12の名前を出せなどと口止めされ,その指示に従って否認したが,取調べ担当の刑事から正直に話すよう説得を受け,考え直して,A2の名前を出した。」,「A2の名前を出した後,A1から口止めをされていたことを思い出して怖くなり,再度,A12が実行犯である旨供述を変えたが,刑事から追及を受け,うそが見抜かれているのではないかと思い,また,自分のした虚偽の供述でA12が逮捕されることを申し訳なく思って,真実を話すことにして再びA2の名前を出した。」旨説明しており(検139,77),このような説明は,A3が年長者であるA2,A1らを恐れていたこととも符合するものであり,変遷理由には合理性がある。

なお,A3は,A12からA2に共犯者を戻す前に,共犯者としてA9の名前を出したり,家庭裁判所送致後の6月中旬ころには,一時実行犯をA2からA1に変遷させるなどしているが,これらの変遷も年長者であるA2,A1らを恐れていたために,同人らを別人物に置き換えて供述しようとしたものと合理的に考えられるから。このような事情は自白調書の信用性を減殺するものではない。

この点,付添人は,少年,A4,A6らは,2月14日にA1と仲良く焼肉を食べに行くなどしており,また,A3や少年は,A2とは日常ほとんど接触する機会がなかったことから,A3や少年らが,A1やA2に対して,恐怖心を抱いていた事実はないし,A1とA12は,面識がないから,A1がA3に指示して,A12の名前を出すように言うはずがないなどと主張する。

しかし,付添人が指摘するような事情をもって,A3や少年らがA1やA2を恐れていなかったとは言い難い。また,A1とA12の面識がなかったとしても,A1が,他の者との会話を通じてA12の名前を知ることはあり得ることである。

したがって,この点に関する付添人の主張には理由がない。

③は,A3が供述した時点では,犯行から約3か月が経過していたことに加えて,被害者からカバンを強取したのがA4であったことから,A3がこの点について明確な記憶を有していなかったとしても不自然ではない。

④についても,犯行から相当期間経過していることや,A3がその後に待ち伏せ場所として供述したマンションの玄関前と上記駐車場とは位置的に近接していることなどからすれば,大きな矛盾とまではいえない。

(5) また,A3は,本件犯行現場を案内しているが,この点もA3の供述の信用性を支える事情である。

すなわち,5月19日午後4時過ぎころから,本件犯行現場の引き当たりが実施されているが,A3は,同所がマンションの裏手にある入り組んだ細い路地であるにもかかわらず,現場を案内した上,具体的な指示説明をしており,同所では,少年が自分たちとは離れた場所で隠れていたことや,自分たちが待ち伏せをしていた場所が,▲▲方西側駐車場であったことなど,その後,真実でないことが判明した事柄についても,A3の指示に従った形で実況見分が実施されている(検102)。

前述のように,上記引き当たりの時点では,本件非行の実行犯は判然としていなかったことなどの事情を勘案すれば,A3が自らの意思で現場を案内したと見ることができ,かかる事情はA3の検察官調書の信用性を支える事情といえる。

(6) さらに,A3は,自己の審判に先だって被害者宛に謝罪の手紙(検211)を書き,送付しているが,その内容は,自己が本件非行を犯したこと,それが年長者の指示に基づくものであったことを認めた上で,被害者に反省の情を伝えようとするものである。

A3は,このような手紙を,他人からの指示に基づいて作成したわけではなく,自分の意思で自発的に作成を決意し,その内容についても自分なりに考えて作成したと述べており(このことは,A3が被害者の名前を,「▲▲」と間違えて記載していることからも明らかである。),このような事実は,A3の検察官調書の信用性を裏付けるものである。

(7) 犯行状況に関するA3の検察官調書は,被害者の警察官調書(検17,18)や,後述する少年の検察官調書,A4の検察官調書及び審判証言と主要部分においておおむね符合しており,互いに信用性を高め合っている。

したがって,A3の検察官調書の信用性は高い。

2  A3の審判供述の信用性

A3は,当庁における自己の審判(以下「別件審判」ともいう。)において,上記検察官調書や警察官調書とおおむね同じ内容の供述をする。

A3の別件審判での供述は,担当裁判官や付添人からの質問に対して,自ら積極的に供述したものであり,防犯ビデオに撮影されている本件非行の犯人と思われる人物についても,一人一人人物を特定して説明を加えているなど,内容的に詳細かつ具体的である上,個々の質問に対しても安易に肯定することなく,自己の記憶に従って供述がなされている。

A3は,別件審判において,付添人から,少年は本件を全面的に否認しているが,少年が本件非行の共犯者であることは本当に間違いないか,と尋ねられて,間違いがない旨,明確に答えているところ,前述のとおり,強盗致傷罪は重大犯罪であり,A3は,それを認めることで自分だけではなく,少年も少年院送致となる可能性があることや,成人共犯であるA1及びA2にあっては,相当長期間刑務所に行くことになるということを十分認識していたというのであるから,その供述の信用性は高い。

そして,A3の別件審判での供述は,上記1で検討した同人の検察官調書や警察官調書とも整合性が認められ,相互にその信用性を補強し合っており,各供述の信用性は高い。

したがって,A3の別件審判での供述は信用性が高い。

3  A3の本件審判及び公判証言の信用性

A3は,本件審判や成人事件の公判において,要旨,次のように証言し,さらに,後述するように,自分には少年と共通のアリバイが存在すると述べる。

・ 自分は本件非行には関与していない。

事実を認めたのは,5月19日に警察官から,A4が自分の名前を出している,ポリグラフ検査の結果,「6万円のところで(反応が)出ているぞ。」,「機械はうそつけへん。」などと言われ,胸ぐらを掴まれたり,ノートの角で叩かれるなどの暴行を受け,自白を迫られ,それに耐え切れなくなり,自白すれば直ぐに自宅に帰れると思ったからである。その後の取調べでは警察官からの強い示唆や誘導があり,それに従って犯行の経緯や状況等を供述した。

・ 警察の取調べで,A4,少年,A2,A1の名前を出しているが,これは警察の人から犯人の人数が3,4人だと言われたからで,誰の名前を出してもよかったが,身近な人で,たまたま出たのが大人の人の名前と,自分の弟の名前だった。大人の人の名前を出すのはやばいとは思ったし,弟のことは気にはなったが,名前を挙げた後,その人たちがどうなるかということは多分考えていなかった。少年院などに入るのではないかという心配もしていなかった。8の名前は,何かの理由があって,名前を出したわけではなく,当てずっぽうで出した。

・ 5月19日付け自供書(検25)は,犯行状況について,自分で考えて書いたものである。同日付け自供書(検28)は,4人の服装について,写真を見せられて,適当に答えたものである。

・ 5月19日以前に犯行現場に行ったことはないが,事前に警察官から事件現場にバツ印をしている地図を見せられたので,それを暗記して犯行場所を案内した。

・ 同じ日に,検察官の取調べを受けたが,後ろに僕が一番怖かった,警察の主任の部下みたいな人がいたので,やっていないとは言えなかった。

・ 共犯者について,当初,A2と述べていたのに途中でA12に変遷させたのは,警察官から防犯ビデオに映っている人物の中にA2のような背の高い人物はいないと言われたため,みんなが知っているA12の名前を出したためである。

・ 事前にA1から口止めを受けたことはなく,少年とも口裏合わせはしていない。その後,共犯者をA12からA2に変えたが,それはA14から本当にA12なのかと詰め寄られ,A9の名前を出したところ,A14が怒って,「お前は何うそついとんねん。」などと言われ,机を持ち上げ床にたたきつけられるなどしたので,A2の名前を出したら,それが収まって納得したような様子になったので,そう言って欲しかったのかな,と思って言っただけである。

・ 少年鑑別所に移ってから最初に警察官が来たときに,実行犯の名前をA2からA1に変えたが,3回目に責任者の警察官が来て,話を変えたら再逮捕する旨言われたので,再逮捕されてまた警察署で暴力を振るわれるのが怖くなり,本当のことが言えなくなった。

・ 知人からは少年院に行けば,再逮捕はされないと聞いていたので,再逮捕されるよりも少年院に行く方がましと思ってしまった。A11の恐喝未遂の事件には関与しており,同事件に関わった他の子も少年院に入っているので,仕方がないという気持ちもあった。そのため審判では,再逮捕されるよりも少年院に行く方がましと思ってしまい,付添人,調査官,母の誰にも本当のことを言わず,審判廷でも非行事実を認める供述をした。

・ 謝罪の手紙は,鑑別所にいたときに書いている人がおり,自分がやったことにしている手前とりあえず書いておいた方がよいと思い書いた。

・ 自分の審判が終わった後に,少年の審判が近づいてきていて,どうしても少年がかわいそうになり,みんなのことを考えて,自分は,ここまで悪い条件を持っていってるから,このまま終わらすわけにはいかないと思い,鑑別所の日記に相談したいことがあると書いたが,先生に気づいてもらえなかった。たまたま,7月5日の朝に母が鑑別所に面会に来てくれたので,本当はやっていないということを話した。

付添人は,①A3の警察官調書は,捜査官が,暴言を吐くなど,不当な誘導を加えて作成したものであり,任意性,信用性がない,②検察官調書も警察段階の違法捜査の影響を排除する措置を何ら講じていないから同様である,③審判供述についても,A3の置かれた状況に照らせば,非行事実を認めれば少年院に行かなくて済むと考えたA3の心理も十分理解できることから信用性がない,④これに対して,公判証言は,A2,A1にとって必ずしも有利とならない事項を含めて,率直に事実を述べたものであり,A3らがA2,A1を畏怖していた状況はないことから,極めて高い信用性がある,などと主張する。

しかし,A3の本件審判及び公判証言は,以下の理由により信用できない。

(1) 自白の端緒において,警察官から自白を強要されたとする点については,A3が示されたというポリグラフ検査の結果は,測定不能であり,それ自体で本件に関する自白を強要できる程に具体的な内容ではない。A4が名前を出していると言われたとする点については,A4が実際に自分やA3が本件に関与している旨供述し始めたのは,前述のように,6月以降であるから,警察官が,本件についてA4がA3の名前を出している,などと言って自白を迫ったとは考え難い。

(2) また,警察官から暴行を振るわれたとする点については,暴力を振るわれた契機についてのA3証言は曖昧である上,A14は,公判廷でかかる事実を明確に否定している。

むしろ,A15は,A3が共犯者の名前を出すに至った経緯について,要旨,「A3は,自白後,まず共犯者としてA4の名前を挙げた。その後,『せっかく自分がやったということを正直に話しているのだから,お母さんのためにも真実を語ってくれ。』などと言うと,少年の名前を出した。午後からの取調べで,『ほかにも絶対いるはずだから,実の弟の名前まで出せたんだから他の者をかばう必要はないから,正直に話しなさい。』と説得したところ,午後3時ころ,半泣きになりながら『▲▲くんです。』とA2の名前を出した。A3に『ほんまか。』と聞き直したところ,A3はうなづいて『はい』と答えた。」と証言するところ,同証言は,詳細かつ具体的であり,その信用性は高い。このような供述状況からは,A3が真摯に反省した上,本件非行を自白した状況が窺われる。

この点,付添人は,A15は,公判廷において,初日の取調べの際に,居眠りをしていたA3に対して,「寝るな」と大声で一喝したことなどを認めているところ,このような事実からは,任意捜査の段階から取調官とA3との間に,支配,被支配の関係があり,捜査官が自白獲得に邁進する姿勢が見て取れるなどとして,本件非行に関する捜査のあり方を批判するが,居眠りに対して,一喝したことをもって,直ちに捜査が違法となるとはいえないのであって,この点に関する付添人の主張は採用できない。

(3) A2からA12に変遷した理由に関しては,防犯ビデオの写真は鮮明な画像ではないことから,警察がビデオの写真を示して,A2の関与について供述を迫ったとすること自体に疑問がある上,既に述べたとおり,A3は,検察官調書において,変遷理由について合理的な説明をしている。

(4) 少年の本件への関与については,A3が少年の名前を出した5月19日の時点では,少年の自白はまだ得られていなかったことから,警察官が少年の供述内容をA3に告げて,本件非行の共犯者に少年を加えるように誘導するといったことは困難であるところ,前述のように,A3が,敢えて実弟である少年の名前を出したのは少年の本件への関与を認める方向に働く事情といえる。

(5) 謝罪の手紙については,それ自体必ず書かなければならないという性質のものではなく,また,自分が犯人でもないのにそのような手紙を書くことは無意味であり,被害者に対して嘘をつくことにもなるにもかかわらず,A3は,検察官に対して,お詫びの手紙を書きたいと思っている旨申し出て,自発的に手紙を書いているのであって,この点に関するA3の公判証言における説明は極めて不自然である。

(6) A3は,少年院送致後,否認に転じた理由について,再逮捕への恐怖を挙げるが,A3は,本件非行を認めることにより,自分だけではなく,少年,A1,A2が少年院や刑務所に行くことになることを認識していたにもかかわらず,それと比較して軽微な犯罪(証拠隠滅)での再逮捕を怖れて,自白を維持し続けたということになり,不合理である。また,A3は,本当に再逮捕されるかについて,付添人である内海弁護士らに相談するなどしておらず,確認をしなかった理由についても曖昧に述べるだけである。A11事件へのA3の関与の程度は,同事件の他の共犯者に比して薄く,それのみで少年院送致を納得させるに足りる内容の非行とは言えないことなどの点に照らしても,A3の説明には疑問がある。

(7) そして,上記事情に加え,後述するように,少年及びA3の犯行当日のアリバイの主張は採用できないこと,A3らがA2,A1を恐れていなかったと主張する点については,前述のとおり,そのようには認められないこと,A3は,本件審判において,「少年院送致にならなければ本当のことを言わなかったかも知れない。」と証言しており,自らが少年院送致となったことが,否認に転じる契機となったことを自認していること,などの事情を総合すると,A3が,否認に転じたのは,自己が少年院送致となり,さらに,少年ら共犯者とされる者たちが本件非行を否認している状況を受けたものに過ぎないと評価すべきである。

したがって,A3の本件審判及び公判証言は,いずれも信用できず,これらを前提とする付添人の主張は採用できない。

第3A4の供述の信用性

1  A4の自白調書の信用性

A4は,検察官調書(検197,271)において,概要,次のとおり,本件非行事実を犯したことを認める供述をする。

・ 2月16日に,A2,A1,A3,少年と,本件非行をやったことに間違いない。

・ この日の夕方ころ,僕らのよく集まる玉出西公園,A1のマンション前,宮脇書店などのどこかで,僕がA1と一緒にいたときに,A1が金に困っているということで,かつあげでもして金を手に入れなければならないという話になった。僕の記憶では,少年も一緒にいて,A3だけを電話で呼んだように思う。メンバーは,A1,A2,A3,少年以外にもいたようにも思うが,はっきり思い出せない。

・ そうして,本件非行をする前に,マクドナルドからそう遠くない場所で,中高生,弱そうなサラリーマンを狙って,かつあげをするために1,2時間ほどウロウロしたが,どれもうまくいかなかった。

・ それから,マクドナルドに集合した時に,A1とA2がどのような話をしたのか分からないが,A1が,「おっさん,いこか。」と,おっさんを狙って金を取るということを言った。

そのような話になったとき,A1は,僕らに,「俺は見張りをするから。」,「おっさん見付けたらワンコする。」と言った。犯行場所についても,多分,A1が,僕らがあまり行ったことがなく,人目に付きにくい場所ということで決めたように思う。

・ 本件犯行現場には,僕以外に,A3,少年の他,A2も一緒に行った。

僕が,少年に,「ちょっと付いて来てや。」と言って,無理に誘った。

少年は,こういうことをやろうとするときには,大抵嫌がる方だし,A2も,A1と同じで,僕らにやらせて,直接手を出したりするはずがないと思っていたので,相手を襲うのは,僕かA3しかいないと思っていたが,A3は,僕が電話で呼び出したことで,本件非行に関与することになったので,A3に悪いなあと思って,「▲ちゃん,俺行くわ。」と,自分が相手を最初に襲う役目をする旨言った。

・ マンションの出入口付近で待ち伏せしていた時,多分少年は手伝わされることを嫌がっているだろうなと思ったので,少年に,「▲▲は,せんでいいから。」と言って,被害者を襲う役目はしなくてよい旨告げた。

・ A1は,犯行現場付近にいて,相手のおじさんが通るのを見つけて,僕らに携帯でワンコをして連絡したり,見張りをする役目をしてくれていた。この時も,A1から,僕の携帯か少年の携帯のどちらかに,ワンコが入って間もなくして,被害者が,1人で僕らの方に歩いて来た。

・ 被害者が,道路を僕らの方に向かって歩いてきたときに,A3が先頭になって被害者と一旦すれ違い,すぐ後に,僕が,被害者の後ろ側から回り込んで,その体に右肩をぶち当てて,その場に倒した。被害者が,倒れ込んだときには,すぐに,僕のそばにA3,少年,A2もやって来た。

・ それから僕が,「金を出せ。」などと言って脅した。他の仲間も何か脅し文句を言ったかもしれないが,覚えていない。そうしたところ,被害者がどこからか財布を取り出し,中から金を取り出した。この時,A2と少年は,僕とA3が立っていた所から2,3メートル程離れた所に移動していたと思う。

・ 僕が,被害者に,「これで全部か。」と言ったところ,被害者は,「そうだ。もうない。」と答えたと思う。

・ 僕は,金を手で奪い取ると,そのままポケットにねじ込み,少し先の方に移動していたA2や少年の方に,A3と2人で走って逃げた。

・ それから,マクドナルドで,A1と合流したが,他の仲間がいたかどうかははっきり覚えていない。

・ その後,みんなで,一旦,A1のマンションに行き,僕は,奪い取った金を数えることもせず,そのままA1に渡した。手で掴んだ感じでは,お札だけで5,6万円程だったと思う。僕らは,分け前はもらっておらず,全部A1に渡している。A1の部屋には上がらず,そのまま帰ったと思う。

そこで,上記供述の信用性を検討する。

(1) 上記検察官調書は,犯行直前における共犯者との会話の内容など,犯行状況に関する説明が詳細かつ具体的であり,自ら被害者に体当たりするという実行行為を,他の共犯者に先んじて行ったことなど,自己に不利な事実についても供述している上,他の共犯者や被害者の供述と必ずしも一致しない部分についても,不明な点は不明なまま記憶の有無を区別した供述がなされている。

また,A4は,被害者が,金を出した時点で,少年とA2が,A4やA3が立っていた位置から2,3メートル程離れた場所に移動していたと思う旨供述しているが,これはA4の検察官調書において初めて顕出された事実であり,検察官調書の信用性を高める事情である。

(2) A4は,審判証言において,6月25日の取調べの際,担当検察官(德久)から,自分が,A16とA17が本件非行の共犯者であるとの虚偽の供述をしなければ,2人が逮捕されることもなかったかも知れない旨告げられて,無関係の2人に迷惑をかけたと思い,反省して何度か涙を流したことがあったと述べている。

また,同月30日の取調べにおいて,A4は,初めて本件非行の共犯者としてA2の名前を挙げているが,その際,担当検察官(德久)から,「現在,A1とA2を逮捕しているが,僕が検事として2人を起訴して裁判にかけるということになったら,誤りを犯すことになるだろうか。」と問われて,即座に,「誤りを犯したことにならない。」旨答え,担当検察官から正直に話しをしてくれるか,と言われて,A2の名前を出したことなど,当事者しか知り得ない取調べの際の状況について迫真性のある供述をしている。

これらの事情は,検察官調書の信用性を高める事情である。

(3) A4は,同月25日付け検察官調書(検179)において,少年の本件犯行への関与を認めているところ,同調書では,「犯行時に犯行現場付近の電柱の所が明るかった記憶がある。」として犯行場所の訂正がなされているほか,犯行状況等について,実況見分調書の写真等を基に詳しい説明がなされており,調書全体の信用性は高い。

(4) A4は,少年やA3の友人であり,仲が良く,殊更少年らに不利な虚偽の供述をして同人らを罪に陥れる動機は存在しない。逆に,A4の供述内容からは,同人が最初に実行行為に及ぶなどすることで,少年らを庇おうとしていた様子が窺われる。また,審判廷では,警察に言われたからではなく,自発的に少年の名前を出した旨証言している。

また,A1については,A4は,優しい人で兄のように思っていたが,年長者で怖さも感じていた旨証言しており,また,A2についても,年長者であり,怖さを感じており,いずれも強盗致傷という重大犯罪の共犯者として安易に名前を出せる人物ではなかったことから,A4が,共犯者として少年,A1,A2らの名前を出したことは,これらの者の関与を強く窺わせる事情といえる。

(5) A4は,5月24日,A11事件に関して犯行現場の引き当たりをした際,A14から,A11事件の他にも何か悪いことをしていないか,案内してくれるところはないか,などと尋ねられ,最初はそのような場所はないといった様子であったが,しばらくして指を指して場所を案内する素振りを示し,A14が,A4の指示に従って車を運転したところ,本件犯行現場を通り過ぎたという事実が認められる。

また,5月28日,本件非行に関して犯行現場の引き当たりが行われているが,A4は,その際,A18に対して,「何か悪いことをしたと思うが,その場所に行けば思い出せるかもしれない。」と告げて,本件犯行現場を案内し,帰りの車中で,「僕はやっぱりあそこの場所で親父狩りをしています。だれとやったか分からないけど,あの場所でやりました。」と説明するなどしており,これらの事情からは,A4が自らの意思で犯行現場を案内した様子が窺われる。

そして,本件犯行現場がマンションの裏手にある入り組んだ細い道であったことを考えると,このようにA4が本件犯行現場を案内したという事実は,同人が本件非行に関与していたことを強く推認させる事実である。

この点,A4は,後述のとおり,公判廷において,犯行現場を案内できたのは,警察官の示唆,誘導によるものであると証言するが,検察官調書では,あらかじめ教えられたのではなく,自らの意思で案内した旨供述しており,公判証言の内容は曖昧であり,かつ一貫性がないから信用できない。

(6) A4は,7月16日に入所先の▲▲学園において,本件非行を犯したことにより,家族や仲間,面倒を見てもらっていたA1らに迷惑をかけ反省している旨記載した反省文(検235添付)を,自ら時間をかけて作成しているところ,かかる反省文の存在及び内容からは,A4の本件非行への関与が強く窺われる。

(7) 犯行状況に関する供述は,被害者の警察官調書,少年,A3の検察官調書,A3の審判供述と主要部分がおおむね符合しており,相互に信用性を高め合っている。

したがって,A4の上記供述及び証言はいずれも信用性が高い。

2  A4の審判証言の信用性

A4は,審判廷において,以下のとおり,上記検察官調書におおむね一致する内容の供述をする。

・ 2月16日は,A1から呼ばれて,同人のマンションに行った。その時は僕1人だけ呼ばれて行った。A2は,おらずA1だけがいた。

・ 何時ころかは分からないが,A1の携帯電話で,A3にワンコールをすると,A1の携帯電話に,A3がかけ直してきたので,遊ぼうやと言ってA3を呼び出した。どこに呼んだかは覚えていない。

・ 犯行現場に行く前に,A1,A2,少年とマクドナルドに行った。同所には,A2の軽四と自転車で行った。僕は,少年を後ろに乗せて,自転車で2人乗りで行ったと思う。A3は,後から合流した。A3は自転車で来たと思う。

・ マクドナルドに行く途中で,A1のマンションか宮脇書店か玉出西公園のどちらかに立ち寄った。

・ マクドナルドで,A1が,親父狩りをするという話を言い出した。犯行現場に行こうと決めたのはA1である。A1は一緒には来ておらず,どこにいたのか分からない。

・ マクドナルドで集まったときに,A1から,金を奪う相手が来たら合図のワンコールをする旨言われており,A1から携帯に合図があり,被害者が来たので,一旦,すれ違ってから,被害者の後ろから,僕が体当たりして被害者を倒して,金を出すように脅した。少年,A2,A3も周りにいたが,他の3人が何か言ったか覚えていない。

・ 被害者からは僕が5万円くらい奪い,ポケットに入れて逃げた。僕が金を奪う時,A2と少年は2メートルくらい離れた場所にいた。被害者に「もうちょっとないんか。」ということを多分言ったと思う。

・ 犯行現場に行ってから,少年には,自分はやらんでいいから,と言い,A3には,僕が先に行くみたいなことを言った。

・ 本件犯行後,少年,A2,A3の4人でマクドナルドに戻ると,同所にA1も戻ってきていたが,どこから来たのかは覚えていない。

・ その後,みんなでA1のマンションに行き,A1に奪った金を渡して家には上がらずに帰った。少年やA3も帰った。

上記審判証言は,前記検察官調書ともその主要部分が符合しており,一貫性が認められ,相互に信用性を補強し合っている。

また,A4は,審判廷において,A11事件の現場検証の際に,警察官から親父狩りの現場を案内しろと怒鳴られるなどした旨述べるなど,自己に有利な事柄についても証言しながら,自己や少年を含めた共犯者の本件非行への関与については,特に否定することもなく,明確にこれを認めている。

A4は,審判証言の時点では,少年,A2,A1が,本件非行を否認していることを知っていたもので,A4と少年が仲の良い友人であったことなどからすれば,真に少年らが本件非行の犯人でないのであれば,その旨証言したはずであり,また,それが可能であったはずであるにもかかわらず,少年やその保護者(A13)の面前において,少年,A2,A1らと共に本件非行に及んだ旨,一貫して証言していたものであり,少年の付添人からの質問を受けても,その供述の基本部分は大きく変遷することはなかったことから,A4証言の信憑性は高いといえる。

したがって,A4の審判証言は信用性が高い。

3  A4の公判証言の信用性

A4は,少年審判における証言後になされた公判証言において,要旨,次のように証言を変遷させ,本件非行への関与を否認する。

・ 2月ころ,A1,A2,A3,少年と一緒になって,通りすがりの男の人を襲って現金を奪ったりしたことはない。

・ 4月26日からA11事件で警察の取調べを受けるようになり,児童相談所に入所し,5月の初めころから6月30日まで,約2か月間,同所で本件非行について警察から取り調べを受けた。

・ 土日を除いて1日5時間くらい取調べがあったが,児童相談所の先生が同席していたのは,最初の2,3日だけであり,1日だけ申し出により,担当の先生以外の人に同席してもらった。母が同席できることは知らされなかった。黙秘権の告知はなく,その意味も知らなかった。

・ 警察官からは,児童相談所で,共犯者を言うまで3時間くらい立たされる,髪の毛を引っ張られる,多分,平手で殴られる,首を絞められるなどの暴力を受けた。このことを母に話すと,母は,悔しいと思うけど,やってない証拠を出せるまで頑張りやと言い,警察にも電話をしてくれた。

また,否認していたら少年院に入れるぞなどと脅されたり,A16は認めているなどと嘘を言われたりもした。

・ 当初は,本件非行への関与を否認していたが,6月初めころになって,本件非行を犯したメンバーは,自分,A16,A17,A6,少年,A1であると自白した。最初に,少年,A3の名前を出した。次に,A9の名前を挙げたが,撤回してA1の名前を出した。6月の終わりころ,A2の名前を出した。

・ 本件非行をやったと認めたのは,警察の人に脅されるなどして,嫌になったからである。言葉の内容ははっきり覚えていないが,自分からすれば怖いようなことを言われた。このことは面会の際,母にも話したが,母から何と言われたか覚えていない。

・ 6月の中ごろの母との面会の時に,本当はやっていないのにやったと言ってしまったと言った。母からは,やっていないのなら正直に言いなさいと言われたので,警察官に本当はやっていないと言うと,「やっていないならやっていないでいいけど,証拠を出せ。」と言われ,証拠を出せと言われても分からず,元の供述に戻ってしまった。

・ 少年とA3の名前を出したのは,警察官から,2人が,僕と一緒にやったと認めて,頑張って話をしているのに僕が否認しているせいで邪魔をしているみたいなことを言われたからである。

・ A1の名前は,警察の人に,A1にやらされているのと違うかとしつこく聞かれ,取調べも長く,脅されたりするのが嫌だったので,また後で撤回すればよいと思い,軽い気持ちで言った。

・ 犯行現場へは,その前のA11事件での引き当たりの際に連れて行かれ,その後,警察官から地図を見せられたので案内できた。現場を案内した際,初めに電柱の付近でやったと言ったら,刑事から,明るいところではやらんやろうと言われて,暗い所でやったように訂正させられた。

・ 6月25日に検察官の取調べがあったが,警察の取調べの時に何を言っても信じてもらえず,どうせ言っても無駄だと思い,本当はやっていないとは言わなかった。警察の人より立場が上だから,余計に信じてくれないと思っていた。

・ 6月30日の検察官の取調べの際,検察官から「もし,この話が嘘なら,とんでもないことをしてしまう。」と言われたが,意味があまりよく分からず,犯人ではない人を犯人として裁判にかけてしまうということだということも分からなかった。真実を述べなかった理由は分からない。

・ 審判で証言する前日,警察官の取調べを受け,事実を認める話をしろと言われた。審判では,警察でもやっていないと言っても,信じてもらえなかったので,少年が否認していることは知っていたが,もう,どうでもいいと思って,やったと証言した。事実を認めると,少年にとって不利になることは分かっていたが,あまり考えていなかった。

・ A1には,かわいがってもらっており,優しくて,兄のように思っていた。A2とは,あまり関わりはなかったが,面倒を見てもらったり,かわいがってもらい,いいお兄ちゃんだと思っていた。

・ 今回の件で友達関係がめちゃめちゃになり嫌だったから,早く終わって欲しいと思い,審判で本件非行を認める証言をしたが,僕の嘘のせいで,みんなが納得いかない状態で過ごしていることを考えて,このままではいけないと悩み,▲▲学園の寮長先生に相談したところ,先生から,本当のことを言うように励まされ,本当のことを言うことにした。

この点,付添人は,A4は,公判廷で証言するに当たり,はっきりと記憶に基づいて捜査段階や審判での虚偽自白を否定したいと強く訴え,遮蔽措置を施すことなく,偽証罪の制裁を告げられた上で証言しているから,公判供述は信用できると主張する。

しかしながら,以下の理由により,A4の公判供述は信用できない。

(1) A4の公判証言は,同人が警察官から受けたとされる脅迫文言や暴行の内容,程度,日時,暴行や脅迫をした警察官の名前,取調べ状況等に関する説明が非常に漠然としており,曖昧である。また,これを裏付けるに足る客観的証拠は存在しない。

この点,A4の母であるA19は,公判廷において,A4と面会した際に,同人から,「本当は本件非行をやっていないのに,やったという書類に拇印を押さされた。」,「取調べの警察官からペンを投げつけられた。」,「窓の方に向かって立たされた。」,「首を絞められた。」などと聞いた旨,A4の公判証言に添う内容の証言をするが,同女は,暴力の点については,取調担当の警察官であるA18に対して抗議はしておらず,弁護士等の専門家に相談するなど,保護者であれば当然取るべき行動を取っていない。同女がA4の母であることなどを考慮すれば,その証言を全面的に信用することはできず,同女の証言によって,A4の公判証言が裏付けられているとは認め難い。

(2) かえって,A4の取調べ状況については,A18が,公判廷において証言しているところ,自白の発端となったA4との会話の内容や,その際のA4の態度等についての同人の証言内容は,詳細かつ具体的であり,迫真性に富んでいる上,A4が,少しずつ共犯者等について明らかにしていったという供述経緯ともよく符合しており,証言の信用性は高い。

(3) A4は,検察官調書においては,自ら被害者に対して,暴行に及び,実行犯の中でもかなり責任の重い重要な役割を果たしたことを自認していたにもかかわらず,上記のような捜査段階の不当な取調べについては,公判証言に至るまで,全く主張しておらず,また,A4は,審判廷においては,警察官から暴力を加えられたり,無理に押し付けられて調書を作成されたことはない旨証言していたもので,かかる主張がなされた経緯自体に疑問がある。

(4) A4は,前述のように,審判証言の時点で,少年らが本件非行への関与を否認していることは知っていたというのであるから,自分が虚偽の証言をすることによって少年や他の共犯者が無実の罪で厳しい処分を受けることも十分理解していたはずであり,また,A4には本件非行に関して,敢えて,少年,A3,A2,A1に不利な虚偽の供述をする必要性はなかった。A4は,A19には,捜査段階から,真実でないなら本件非行を犯したと認めないようにと言われ続けており,少年の審判に近接する時期にも同様に言われていたというのであるから,軽い気持ちや,投げやりになって,少年らを共犯者として挙げ,虚偽の供述を繰り返したというのは不自然,不合理である。

また,公判廷において,それまでの供述を真っ向から覆して真実を述べようと思った理由についてのA4の説明も不合理である。

(5) 以上の点に加え,前記1及び2で述べた事情,特に,A4は,A1やA2を怖れており,捜査段階の当初,供述を躊躇していたことなどを総合すると,公判廷ではA1らの面前であるために,真実を証言できなかったと見るのが相当である。

したがって,A4の公判証言は信用できない。

4  以上に対して,付添人は,①A4は,6月24日付け自供書(検186)において,初めて,本件非行の共犯者として少年の名前を出すに至っているが,記憶の保持の仕方や記憶喚起の仕方は極めて不可解である。また,A4は,審判廷において,親父狩りをしたのは本件以外にはない旨証言するが,仮にそうだとすれば,当初から記憶が他の事実関係よりも具体的で鮮明であるはずであるのに,A1からの指示内容や,実行犯とされる者とのやりとりが合理的に説明できておらず,自らが被害者に体当たりした理由等についても曖昧な説明しかできていない。捜査機関は,児童相談所における身柄拘束を利用して,弁護士や保護者から隔絶された状態で脱法的な取調べを行っており,それは上記のような自白の不自然さにも顕れており,A4の自白には信用性がない,②A4は,審判廷において,犯行現場付近で待機中,A1からのワンコールが自分の携帯電話にかかってきた旨証言するが,これはワンコールが少年の携帯電話にかかってきたとする少年やA3の供述と明らかに矛盾している,などと主張し,自白調書や審判証言の信用性を論難する。

①については,なるほど,A4は,5月10日に本件非行への関与をほのめかすような自供書を作成し(弁56),同月26日,27日には,犯行現場付近の地図を描き(弁58ないし60),同月28日には,「親父狩りをしたかも知れない。」旨の自供書を作成して(検132),犯行現場への引き当たりの直後,本件非行への関与を認め(検133),6月1日には,「親父狩りはA1及びA2のためにやったものである。」旨認める供述をしたが(検134),その後は,取調べに対して,犯行状況や共犯者等について詳細な自白をせず,同月24日になって,ようやく自分と少年が実行犯であることを認め(検185,186,189),さらに,同月29日にA3とA1が共犯者であることを認め(検201ないし204,281),最後に,同月30日の検察官の取調べで,A2が実行犯であることを認める供述をしている(検197)。

このように,A4の自白は,共犯者についても少しずつ認めたという点で,一見特異な経過を辿っているかに見える。

しかしながら,A4は,A2やA1が怖かったということについては,検察官調書(検197)で,その旨供述し,さらに,審判廷においても,A1が交際相手であるA29をナンパした男性を殴っている現場を目撃したことがあったことや。A2からは,A3がA1が好意を持っている女性と話をしていたということで,A3と共に車中で脅されたことなどの具体的なエピソードを挙げて,A1やA2のことを怖いと思ったことがあると証言しており,本件非行について,捜査段階の当初,自己らの関与について曖昧な供述をしていたのは,「思い出せなかったということもあるが,名前を出して,呼び出しみたいなことがあって何をされるか分からず,A1とA2が怖かったといった事情も少しはある。」旨,言葉を濁しながらも証言している。

以上によれば,A4が,取調べの当初,本件非行について曖昧にしか供述していなかったのは,A1やA2への恐怖心によるものであると合理的に推察されることから,付添人が主張する供述経緯の不自然性は合理的な説明が可能である。

②については,A4は,付添人の質問後になされた検察官の質問に対しては,「A1からのワンコールはA3の携帯電話にあった可能性もあるとも述べており,結局のところ,本件時に誰の携帯電話にワンコールがあったかについて,A4には,明確な記憶がないことが窺われることから,この点は明らかな矛盾とまではいえない。

したがって,この点に関する付添人の主張は理由がない。

また,付添人は,少年,A3,A4らの検察官調書等では,「犯行当日の夕方ころ,A1かA4からA3か少年の携帯電話にワンコールがあり,A3か少年がかけ直したところ,呼び出しをうけて,A1やA4らと合流し,本件非行に及ぶことになった。」とされているが,携帯電話の通話記録(検222,243,249)によれば,少年やA3の携帯電話からA4やA1に対する通話記録は存在せず,客観的事実と齟齬している旨主張する。(この点は,A3や少年の自白の信用性の問題とも共通する争点であるが,便宜,ここで検討する。)。

しかしながら,上記関係者の供述によれば,少年及びA3が,呼び出しを受けたとされる時刻は,証拠上は必ずしも明確ではないが,犯行当日の夕方ころとされるところ,上記通話記録(検243)によれば,犯行日の午後3時1分,午後3時47分,午後4時28分,午後5時56分,午後7時14分に,それぞれ少年の携帯電話からA4の携帯電話に電話があったことが認められ,これらの通話のいずれかが,少年又はA3が,ワンコールに応じてA4に架けた電話であったという可能性は否定できない。

仮に,そうでないとしても,同人らは本件当時,頻繁に携帯電話のワンコールを多用していたことから,本件犯行時にもワンコールで呼び出した旨記憶違いをしている可能性もあるから,この点は少年らの犯人性を否定するに足る明らかな矛盾とまではいえない。

したがって,この点に関する付添人の主張は理由がない。

第4少年の自白調書の任意性及び信用性

1  少年は,検察官調書(検82,83)において,要旨,次のとおり,本件非行を犯したことを認める供述をする。また,後述のとおり,捜査段階の当初から,警察官調書(検5,40,96,98,144,154)において,少なくとも自分,A3,A4が本件非行を実行したことを認める供述をする。

・ 2月16日夕方,確か,僕とA3が自宅にいた時,A4から電話があり,「ちょっと用があるから来てや。」と呼び出された。A3と共に自転車で宮脇書店に行くと,A1,A2,A9,A10,A6,A7,A8らが集まっていた。

・ 僕は,A4から「ちょっと付いて来てや。」と言われて,帝塚山学園という学校の近く辺りなどで何件かかつあげをしたが,ほとんど失敗に終わった。かつあげに行ったのは,僕,A4,A9,A10であることははっきりしているが,A1,A2が一緒に行ったかははっきりしない。A4からは,前々から「▲▲さんが仕事もしていないから,お金に困っている。」と聞いていたし,それまでも,A1のために仲間がよく万引きをさせられていたので,かつあげはA1らの命令でさせられることだなと思った。

・ 約1時間後,マクドナルドで他の仲間と合流し,しばらく話していると,A4から,「今度は,親父狩りに行く。金パクるんや。」,「付いて来てや。」と言われ,嫌々ながらも,おそらく命令を出しているにちがいないA1やA2が怖くて,断る勇気がなく,仲間に加わることにした。この時,実際に犯行現場に向かったのは,僕とA3,A4,A2の4名である。

・ A4は,目当ての場所を他の仲間と打ち合わせていたらしく,先頭になって行き,ラーメン屋「ごん」の前を通り,さらに裏道を通り,本件犯行現場の方に行った。途中,A4から「▲▲さんから▲▲の携帯にワンコがあったら,それが相手が通る合図だから,言うてな。」と言われた。

・ 4人でマンション出入口前で待機していると,10分くらいしたところで,A1から合図のワンコがあったので,直ぐにそのことを他の仲間に知らせると,現場に来るときに通った方向の道路から被害者が来るのが分かった。

・ 僕らは,A4が先頭に立ち,その右後方をA3,さらに,その後ろをA2,僕の順番で歩いて行き,一旦,被害者とすれ違ったところで,A4がUターンし,A4が,被害者の後ろから同人の腰辺りに,確か右肩と右肘をぶち当てた。

・ 被害者は,「ワッ。」と声を上げ,一旦両手をついて路上に倒れ込んでから,腰付近を地面に付けて,上半身を少し起こす状態となったので,僕らは,被害者を取り囲み,最初に,A4が「金出せや,殺すぞ。」と言い,僕もその後に「殺すぞ。」と言って脅した。A2,A3も同じ様なことを被害者に言った。

・ そうしたところ,被害者は,どこからか黒色の長い財布を取り出し,中から一万円札と千円札を何枚か取り出したので,A4がそれを奪い,「もうないんか。」と言ったところ,被害者が財布を開けて見せ,それ以上金を持っていないことが分かったので,みんなで一斉にマクドナルドまで逃げて行き,A1らと合流した。

・ その後,A1のマンションにみんなで行ったが,9時の門限が気になったので,A3と一緒に帰宅した。

2  これに対して,少年は,審判廷及び公判廷において,本件非行当日のアリバイや,取調べの不当性について,要旨,次のように供述する(なお,アリバイについては,後記第6で検討するので,ここでは,取調べの不当性に関する部分を中心に検討する。)。

・ 5月20日の午前9時ころに最初に警察官が,自宅に来たが,「一緒に来てくれ。」と言われただけで,用件は教えてもらえなかった。

警察で本件非行について聴かれたので,最初はやっていない,と言っていたが,警察では,皆が,A3や僕の名前を出している旨言われた。嘔吐後の取調べで,否認していると,A20とA21の2人から取調室の中で,1回ずつ首を前から絞められて,壁に押しつけられた。A21には髪の毛を掴まれて,振り回されたが,どう言われて掴まれたかは覚えていない。

自供書(検90,91)は,警察から書けと言われて書いただけで,自分で考えて書いたところもあるが,警察の人がしゃべったことを書いていっただけである。黙秘権の告知はなかった。

その日は,午後7時ころまで取調べがあったが,本件非行を否認したままで,家に帰った。帰宅後,母に,警察で,本件非行について取調べを受けたこと,その際,首を絞められて,壁に押しつけられたり,髪の毛を掴まれたことを話したが,自供書を作成したことは言わなかった。首に絞められた痕が残っているのを母も見ている。

・ 5月21日に警察で取調べを受けた際,やっていない,と言ったが,警察の偉い人から,やっていないということは信じるが,皆が名前を出していることをどう説明するのかと言われた。

警察官からは,明日逮捕するかもしれないと言われ,何で逮捕されなくてはならないのかと思った。警察官の質問に対して,黙って答えないでいると,警察官が両手で力任せに机を叩いたりしてきた。

自供書(検92,93等)を作成したが,これらも自分の記憶に従って書いたものではない。自分で考えて書いたところもあるが,警察の人がしゃべったことを書いただけである。地図は,警察の人が別の紙に地図を書いたものを見て書くなどした。服装は冬場に着ていた服装を言った。

帰宅後,母には,明日逮捕されるかもしれないということは話したが,自供書を作成したことを話したかあまり覚えていない。

・ 5月20日か21日のどちらか分からないが,警察から暴力を振るわれたことについて,母がメモを取っていたことを覚えている。

・ 5月22日は朝から警察の取調べを受け,「見張りをしとった場所を案内せい。」と言われて,昼過ぎに本件犯行現場に行ったが,事前に警察官が持っていたファイルから地図がちらっと見えたので,それを見て,暗記して現場まで行き,分からなくなったところで,適当に案内したところ,偶々,犯行現場に到着した。見張りをしていた場所は,自分で考えて説明した。現場の車の中で警察の人に,「おっちゃんの倒れているのを見たやろ。」と怒鳴られ,「見ました」というと「警察署に戻ったら書け」と言われて,自供書(検94)を作成した。夕方,逮捕され,その時も本件非行を認める供述をしたが,それは,やったと言わなければ,首を絞められたり,髪の毛を引っ張られるなどするし,警察官から,「A3が名前を出しており,A3が間違えるはずがない。」と言われて,自分ではもうどうしようもできないと思ったからである。

・ 5月23日,検察官の弁解録取を受けたが,検察官も警察より立場は上だが,警察と一緒だと思っていたし,後ろにも警察の人がいたので,何を言っても信じてくれないと思ったし,警察の人に暴力を受けたり,怒鳴られたりすると思い,言っても意味がないと思って事実を認めた。A2が本件非行のメンバーと供述したことになっているが,これは,検察官から,A2がいただろうと言われて,あてずっぽうでいい加減なことを言っただけである。

同じ日,勾留質問で裁判官からも事実関係を聴かれたが,裁判官にやっていないということを言うと,警察の人に話が回り,またやられると思い,言えなかった。

・ 当初,共犯者としてA12の名前を出していたが,責任者という人が来て,「お前何で嘘ばっかりついてんねん。」と言われて,ずっと怒鳴られたので,A9の名前を出して,自供書を書いたが,「お前ほんまにこれでええんか。」,「▲▲がおったん違うか。」と大声で机をめちゃくちゃに叩いて言われ,「そうです。」と言うとまた自供書を書かされた。その時,責任者の人から「正直にしゃべらな,二度と帰られへんようにするぞ。」,「警察に嘘をついた罪は重たい。」と言われた。A3からA12の名前を出せと指示されたことはなく,それは自分が作った話である。

・ 最初,自分は,見張りをしていたと供述していたが,警察の人に,「お前ほんまはやったんと違うのか」と何回も何回も言われて,怒鳴られたので,また暴力を振るわれると思い,A3らと被害者を取り囲んで脅したと供述を変えた。

・ 6月に入って,すぐくらいのころに,A20に,「本当はやっていない。」と言ったが,A20からは,「そのやっていないということを信じるから,今まで悪いことをした分を償え。」と言われた。

そのころ,警察の取調べの際に,頭をちょっとパーンとはたかれたことがあった。

・ 検察官の取調べは,何か前にできていた調書を読みながら,これで間違いないんかみたいな感じで言われて,そうでした,そうでしたと答えるような感じで行われた。5月31日に「ワンコ」の話をしたが,それは自分から言ったという記憶はなく,検察官から,僕らの中で,合図があるんと違うかみたいなことを言われて出たものである。

・ 留置場にいたとき,同房者(▲▲▲▲)から初めての鑑別所なら絶対出られると言われたので,鑑別所だけで出られると思っていたが,調査官としゃべっているときに,強盗致傷罪は,大人であれば7年から8年で,子どもの場合でもけっこう重たいというのを聞き,少年院とかに行くのが怖くなり,また,自分がやっていないのに鑑別所に入っていることがすごく悔しくなり,付添人の先生が,味方やから話を漏らすことは絶対ないし,絶対に守るからと言ってくれたので,付添人にはやっていないと言った。

・ 警察の留置場にいるとき,母が面会に来たが,隣に警察の人がいるので,またやられると思い話ができなかった。

・ A2,A1のことは,全然怖くないが,警察の人に,怖いのと違うかといっぱい言われていたので,怖いと言った。

・ 鑑別所に,検察官が来たときに,やっていないということを言ったら,A3に,A2の名前を出したら後々怖いからということで,A12の名前を出せと言われたのではないかと言われた。また,検察官が来る前後にA20ともう一人が,鑑別所に来て,「今までおれにしゃべったことは全部うそか。」,「いじめやがってって言わんのか。」などと言われた。

付添人は,自白調書は,捜査官が違法な任意同行に基づき,暴行,脅迫を用いて作成したものであり,任意性を欠くものであり,また,少年にはアリバイが成立する上,供述には不合理な変遷があり,客観証拠とも整合性がないことから,信用性がない旨主張する。

当裁判所は,少年の自白調書は,任意性が認められ,信用性が高いのに対し,これに反する少年の審判供述及び公判供述は信用できないと判断したので,以下その理由について詳述する。

3  自白の任意性

一件記録によれば,少年の自白調書作成の経緯について,争いのない事実として,大要,次の事実が認められる。

・ 少年は,5月20日午前9時5分ころ,少年宅に赴いたA20,A21らから本件に関して任意同行を求められ,警察で午前9時30分ころから午後7時ころまでの間,同人らの取調べを受けた。

少年は,昼食後の午後の取調べの途中で体調が悪くなり,取調室内で嘔吐したが,A20らは少年を病院に連れて行ったり,A13に連絡するなどせず,取調べを継続した。

その後,少年は,2月16日か17日か18日にA4から呼ばれて,マクドナルドに行ったところ,A3,A4,A1,A6らがおり,みんなでマクドナルドの向かいのマンションの方に行ったこと,同所付近で自転車に乗って待っていたところ,A6が急に走って逃げ出したので,誰かが何かしたと思い,怖くなって家まで逃げ帰ったこと,帰宅後,A4から電話で強盗をしたと聞き,A1の家に来るよう言われたことなど,本件への関与をほのめかす供述をした(検90,91)。

・ 少年は,5月21日午前9時5分ころ,少年宅に赴いたA20及びA21らから任意同行を求められ,警察で午前9時20分から午後7時ころまでの間,同人らの取調べを受けた。

少年は,2月16日はA4と遊んでいたと思うがはっきりしないとして,本件非行について否認したが,その後,自己の関与を認めて,犯行現場の地図も記載し,犯行前にA1ら仲間と共にマクドナルドに行ったこと,A3,A4,A12らと本件非行に及んだが,自分はA3から指示されて見張りをしていたことなどを供述した(検92,93)。

・ 少年は,5月22日午前10時5分ころ,少年宅に赴いたA20及びA21から任意同行を求められ,警察で午前10時30分ころから午後5時50分ころまでの間,同人らの取調べを受けた。

少年は,当初は本件非行を否認していたが,再度,自白に転じ,午後には犯行現場への引き当たりが実施された。

少年は,それまでは,自分は駐車場付近で見張りをしていたと説明していたが,引き当たりの現場で,A14から見張り場所について確認され,「本当は,誰かが逃げろと言った後,A3の方に走って行くと被害者が倒れており,その周りにA3らがいた。」旨供述を変遷させた(検107)。

少年は,午後4時40分,通常逮捕され,弁解録取書(検5)では,「A3,A4,「▲▲▲」,A6,A1らと金を奪いに行ったこと,A3から見張りを指示されたこと,A3,A4,「▲▲▲」らの逃げろという声が聞こえ,声の方向に行くと被害者が倒れていたことなどを供述した。

また,同日付けで警察官調書(検40)及び自供書(検94)が作成された。

A13は,午後5時ころ,警察から少年が逮捕された旨連絡を受けた。

・ 5月23日午後12時19分から,検察官による弁解録取があり,少年は,マクドナルドで親父狩りをしようと話をしたのは,A3,A4,A1,A2,A6,「▲▲▲」などであり,実際に親父狩りを実行したのは,A3,A4,「▲▲▲」,A2であり,自分はA3に言われて見張りをしていた旨供述し(検69),勾留質問でも弁解録取で述べたとおりであると供述をした(検71)。

・ その後,少年は,5月24日付け警察官調書(検96)で,A2が実行犯であることを否定して,実行犯は,A3,A4,「▲▲▲」である旨供述したが,5月26日付け警察官調書(検98)では,犯行前に集合していたマクドナルドにA2,A1がいたので,同人らが本件非行に関与していると思われること,同人らはすごく怖い人であることを供述した。

・ 少年は,5月31日午後1時58分から6時2分まで,担当検察官(德久)の取調べを受け,この時,初めて,本件犯行直前にA1から携帯電話に「ワンコ」の合図があり,それを合図にして本件非行に及んだ旨供述した(検80)。

・ 翌日,少年の勾留が延長され,警察では,前日に供述した「ワンコ」のことについて取調べを受けた。

・ 少年は,6月2日の警察で,A14から共犯者に関して取調べを受けた際,「▲▲▲」は,本件非行に無関係であるとして,一旦,実行犯をA12からA9に変遷させたが,その後,実行犯は,自分,A4,A3,A2の4人であるが,自分は,怖くて下を向いていたので被害者が倒れる瞬間は見ていないと再度,供述を変遷させた(検135,140)。

・ 少年は,6月4日付け警察官調書(検144)で,本件非行の実行犯が,自分,A3,A4,A2である旨供述した。

・ 少年は,6月7日午前中に実施された犯行再現の実況見分の際,「被害者が倒れるところを見ていないと言っていたのはうそである。」,「本件の前にもかつあげをしている。」などと供述し,実況見分終了後,それを敷衍した内容の警察官調書(検154)が作成された。

・ 少年は,6月8日午後3時5分から午後9時19分までの間,担当検察官(德久)の取調べを受け,検察官調書(検82,83)が作成された。

・ その後,本件犯行時の服装や本件前のかつあげに関して6月9日付け警察官調書(検171,172)や,共犯者との関係に関する6月10日付け警察官調書(検174)が作成された。

・ 少年は,本件非行について,6月11日当庁に身柄付で送致され,同日観護措置を執られ,鑑別所に収容された。少年は,観護措置手続きにおいても本件非行を認める陳述をした。

・ 少年は,6月17日,余罪の取調べのため,鑑別所を訪れた警察官に対して,一時本件非行を否認する供述をしたが,再び,本件非行を認める供述に転じた。同日付けで前川直輝弁護士が付添人として選任され,その後,少年は,一貫して本件非行を否認している。

(1) この点,付添人は,①少年の取調べに当たったA20及びA21は少年係ではなく,少年事件の捜査に携わった経験に乏しく,少年の容疑について全く少年や保護者に説明しておらず,保護者の同行や付添いを求めるなどもしていないなど,少年警察活動要綱の規定を全く無視する取調べが行われている,②特に,5月20日の取調べ中に少年が嘔吐した際,少年を病院に連れて行ったり,保護者に連絡するなどの措置をとっておらず問題であるが,A20証言によれば,その直後に少年が自白したとされていることから,自白には任意性がないことは明らかである,③少年に対しては,その後も長時間の取調べが行われており,これらは違法な取調べに当たる,④少年は,審判廷において,5月21日ころ,取調べ中にA20から首を絞め上げられ,A21からは髪の毛を掴んで振り回されるなどの暴行を受けた旨供述しており,これは帰宅した少年の首に絞められた痕があったとするA13証言や,同人作成のメモ(弁1)によっても裏付けられている,⑤A20及びA21は,A3ら他の共犯者の供述状況について,捜査責任者であるA14から説明を受けるなどして情報を得ており,A3及び少年の供述変遷状況が類似しているのは,捜査対策本部の指示による強い影響を受けた予断に基づく取調べの結果に他ならない,⑥また,A14は,少年の取調べの際,少年と1対1の状況で,自らが空手の達人である旨告げるなどしているが,これは威圧的な取調べと言わざるを得ない,などの事情を挙げ,少年の自白には任意性がない旨主張する。

(2) ①ないし③の点については,確かに,少年の本件非行についての取調べに際しては,付添人が指摘するとおり,少年活動要綱への留意が欠けた捜査が一部でなされており,この点は,情操面に対する配慮が求められる少年事件の捜査のあり方として必ずしも適切な対応とは言えない面がある。

しかしながら,付添人の指摘する少年活動要綱への留意の欠如のうち,任意同行の趣旨を少年や保護者に説明しなかったとされる点に関しては,A20及びA21は明確にそのような事実を否定し,むしろ,同人らは,A13が少年に対して,何もしていないのであれば警察に行って説明するよう説得した旨証言している。そして,少年及びA13は,その後の一連の警察の取調べに対して,何ら異議を述べることなく応じており,このような一連の事情を総合すれば,本件任意同行やその後の取調べが違法であったとはいえない。

また,A20,A21,A14らの証言によれば,5月20日に少年が嘔吐した後,A20は,一時取調べを中断した上で,A14に事情を報告し,報告を受けたA14は,調子が悪いのなら少年を病院に連れて行くなどするようA20らに指示をしたこと,それを受けてA20らは,少年の体調を確認した上で,少年に対して,「病院に行くのなら連れて行くので,無理しなくてよい。」旨言ったが,少年自身が,大丈夫である旨述べ,その後は,普通の状態に戻り,取調べに応じたために取調べが続行されたこと,A20は,翌日の取調べの際も少年に体調を確認したが,少年が,体調不良を訴えるなどしたことはなかったことなどが認められ,そうだとすると,少年の年齢,資質等を考慮しても,体調不良と少年の自白との間に因果関係は認められず,体調不良も少年の自白の任意性を否定する事情とはならない。

(3) 次に,④の点については,少年の供述によれば,任意同行の初日から警察官が,少年に対して,首を絞める,髪の毛を掴むなどの激しい暴行に及んだということであるが,当日は,少年が嘔吐するなどしたため,ただでさえ取調べには配慮を要する状態であったこと,仮に,そのような事実があれば,帰宅後,少年から事情を聞いた母らから警察に対して激しい抗議がなされることが予想され,その後の捜査に支障が生ずることも考えられることなどから,このような主張には疑問がある。

この点,A20及びA21は,審判廷において,明確にこれを否定しているところ,これに反する少年の審判及び公判供述は,暴力を振るわれた契機や,その後も警察に抗議するなどせずに,任意同行に応じていた理由に関する説明が曖昧かつ不自然であり,信用性に疑問がある。少年は,第1回審判では,全体的に,本来,積極的に説明できるはずの事柄に関しても十分に答えることができず,沈黙しがちであったにもかかわらず,公判廷では,暴行を含めた不当な取調べがあったことについて,詳細に供述しているが,不自然であり,この点でも上記供述の信用性には疑問がある。

少年の母であるA13は,審判廷において,上記のとおり,警察の取調べから帰宅した少年の首に絞められた痕があり,そのことを相談した友人の助言を受けて,暴行があった事実を記載したメモを作成した旨証言する。

しかしながら,仮に,その証言内容とおりの事実があれば,少年とA3ともに捜査を受けていたのであるから,早期に,少年の首に残っていた絞められた痕を写真に撮るなどして証拠化したり,警察への抗議,弁護士に相談をする,少年を病院に連れて行くなどの保護者として取るべき行動をとるのが通常であるが,A13は,これらの行動を全くとっておらず,不自然である。また,その理由についてA13は合理的な説明をしていない。

また,A13は,警察で供述調書(検34)を作成した際,内容を確認せず署名したとも供述するが,その理由についてやはり合理的な説明はできていない。

A13が作成したメモについても,A13の説明によれば,それぞれの日に記載したもので,後でまとめて記載したのではないというのであるが,仮にそうであるならば,「5/21甲 けいさつで首しめられあとがあった。けられたりかみの毛もひっぱられている。」との記載だけ,裏面に別に記載がされているのは不自然である。この点に関するA13証言は曖昧であり,上記メモの内容の信憑性には疑問がある。

以上によれば,A13証言の信用性は乏しく,少年の審判及び公判供述の信用性を補完するものではない。

したがって。暴行の事実については認められない。

(4) ⑤及び⑥の点については,A20は,「少年にはA3が共犯者として少年の名前を出していることは告げておらず,5月20日から22日にかけて作成された自供書は少年が自発的に書いたものであり,A3の供述の変遷状況については取調べをする上での予備知識として知っていたが,決して先入観を持った取調べはしていない。」旨,A21は,「A3がA12からA2に供述を変えたことを受けて,少年の取調べを開始したことはない。」旨,A14は,「少年が共犯者として名前を挙げたA12に6月2日に事情を聞いたところ,共犯者であることに疑問に感じたことから,その点について,少年に直接確認しようと思い,2人きりになって取調べをしたところ,少年が,A3から口止めされていたが,本当はA2が共犯であると供述したことがあるが,何十分かの出来事であり,大声で怒鳴ったり,机を何度も叩いたりはしていない。」旨,それぞれ,偏見や先入観に基づいた威圧的な取調べによって少年が自白したことを明確に否定する証言をするが,これに反する少年の審判供述は,警察官からどのような方法で供述を押し付けられたり,誘導を受けたりしたかの点などが曖昧で具体性がない。

加えて,少年は,5月21日付け自供書(検92)において見張り役をしていたに過ぎない旨少年にとって有利な内容を述べ,さらに,検察官の取調べに対して,A2は現場には途中までしか付いてこなかった旨述べたり,被害者が倒れる姿は見ていないなどと述べていたもので,A12からA2への供述の変遷理由についても口止めされていた旨合理的な説明をしている。

このような供述経過からは,少年が取調官から押し付けられたり,誘導されるなどして任意でない自白を強要されたといった様子は窺われず,少年の審判供述はにわかに信用し難い。

以上のとおり,本件については,一部取調べ方法に配慮を欠く点はあるものの,その内容及び程度からみれば,そのことによって少年の自白の任意性に疑いが生じるとは考えられない。

したがって,少年の自白調書の任意性を否定する付添人の主張には理由がない。

4  自白調書の信用性

(1) 少年の前記自白調書は,その内容が詳細かつ具体的であり,臨場感,迫真性に富んでいる上,犯行現場において,少年自身が,被害者を脅迫をしたことなど,自己に不利な事柄についても供述がされている。また,被害者がどこから財布を取り出したか分からないということなど,犯行前及び犯行時の自己や共犯者の行動等に関して,記憶の有無を区別して供述しており,供述内容には不自然な点は認められない。

とりわけ,本件非行直前,A1から標的となる人が通り掛かったら「ワンコ」の合図を入れると告げられており,同人からの「ワンコ」を合図にして本件非行を行ったことについては,少年が,5月31日の検察官の取調べにおいて初めて供述した事実であるところ(検80),担当検察官(德久)は,それ以前には本件非行において「ワンコ」が被害者が来たことの合図として使用されていたということを知らず,そもそも「ワンコ」の意味が,「ワン切り」であることは全く知らなかったことから,少年がこのような供述をしたことは,同人が本件非行に関与していたことを強く窺わせる事情である。

また,少年は,6月8日の検察官の取調べにおいて,担当検察官(德久)から犯行現場で被害者とすれ違った際の状況について説明を求められ,図面を作成しているが,その際,自分の位置について,当初は,先頭がA4,そのやや後ろからA3,その後をA2,自分は一番最後であった旨図面を書いて説明したが,検察官の面前口授の途中で,少年から図面について,「自分の位置はA2の後ろではなく,少し右斜め後ろであったと思い出したので,図面を訂正させて欲しい。」と申し出があり,少年自ら図面に訂正を加えたことが認められるが(検83添付の図面①),少年が,真に本件非行に関与していないなら,このような言動をとるはずはなく,かかる事情からも少年の本件非行への関与が強く窺われる。

(2) また,少年は,前述のように,当日の夕方ころ,A4から呼び出しの電話があったのに対して,折り返し電話をかけ直した旨供述しているところ,少年が,本件非行当時に使用していた携帯電話の通話記録(検243)によれば,本件非行当日,A4が使用していたとされる携帯電話に午後3時ころから午後6時までの間に4件の通話(具体的には,午後3時1分<59秒>,3時47分<47秒>,4時28分<1分16秒>,5時56分<23秒>)があったことが認められる。このような事実は,携帯電話の通話記録の保存期間との関係で,捜査段階の当初は,入手不可能と考えられていたため,確認ができていなかった事実であり,少年の検察官調書が作成された後に,それと符合する内容の通話記録の存在が判明したことは,少年の自白の信用性を客観的に担保する事情である。

この点,付添人は,上記通話記録によれば,犯行時刻直前の午後8時21分,午後8時27分に少年からA4に対し,メールの送信があり,午後8時29分に21秒間の通話があることが認められるが,少年は,審判廷において,A4と同席しているか近い距離にいる際には,携帯電話でやりとりをすることはない旨供述しており,犯行時刻前後に少年とA4が,上記のように,頻繁にメールや通話をしていることは,犯行時刻ころに,2人が同じ場所にいなかったことを決定的に示す事実であると主張する。

しかし,近時,若者が,簡易な連絡手段として携帯電話のメールを頻繁に利用することは日常よく目にする現象であるところ,これは少年らについても例外ではなく(少年は,審判廷において,当時,携帯電話を多用して連絡を取り合っていたことを自認している。),少年若しくはA4が,一時的に集団から離れるなどした際に,携帯電話を使用して相互に連絡を取ることは十分考えられることから,犯行時刻直前にA4と少年とが携帯電話でメールの送信や通話をしていたからといって,直ちに少年らの犯人性が否定されることにはならない。

したがって,この点に関する付添人の主張には理由がない。

むしろ,上記通話記録によれば,少年は,午後8時4分から午後8時29分にかけて,合計13回にわたり,メール送信や通話を頻繁に行っていたにもかかわらず,その後は,午後8時53分まで一切メールの送信や通話がなされていないことが認められ,かかる事実は少年が本件非行に関与していたことと符合する。

(3) 前述のとおり,少年は,関与の程度についてはともかくとして,自己が,本件非行に関与していること,少なくとも共犯者にA3とA4が含まれることについては,捜査段階の当初から認めており,その点については,捜査官のみならず,勾留質問や観護措置の担当裁判官に対しても一貫して認める供述をしており,かかる事実は,自白の信用性を高める事情である。

もっとも,前述のとおり,少年は,①本件非行への自己の関与の程度について,5月21日の段階では,A3から指示されて見張りをしていたに過ぎない旨供述していたが,翌日の引き当たりの際には,被害者が倒れているのは見た旨供述を変遷させ,さらに,6月2日には,自分が実行犯であることは認めたものの,被害者が倒れる瞬間は見ていない旨供述し,その2日後には,被害者が倒れるところを見ていないというのは嘘である旨,再三にわたり供述を変遷させている。また,②実行犯に関しても,5月23日の段階では,A2が実行犯であるとしていたが,同月26日には実行犯を日からA12に変遷させ,6月2日にはA12から一旦,A9に変遷させ,再度,A2に変遷させている。

この点,付添人は,このような変遷は,少年が記憶に基づかない供述をしたことを強く窺わせる事情であると主張する。

しかし,①に関して少年は,当初,自己の関与を見張りである旨供述していた理由については,自己の責任を軽減させようと思ったからであると供述しており(検82),これは十分了解可能な理由であり,供述の変遷には合理的な理由が認められる。

また,②に関しても,少年は,共犯者としてA2の代わりにA12の名前を挙げた理由について,A3からA1らの名前を出さず,A12の名前を出すようにと口止めされていた旨供述しているところ,これは,A3が,取調べに対して,A2やA1に対する恐怖心から,共犯者としてA12の名前を一時出していたこととも符合する。後述するように,少年自身,A2やA1のことは,元暴走族の総長と認識していたことから,両名に対する恐怖心から,A12やA9の名前を出したことは十分了解可能な理由であるから,供述の変遷には合理的な理由がある。

したがって,これら供述の変遷は,少年の自白全体の信用性を減殺する事情とはならず,この点に関する付添人の主張は理由がない。

(4) 少年には,共犯者について虚偽の供述をする理由がなく,この点でも少年の自白の信用性は高い。

すなわち,少年が共犯者として名前を挙げた者のうち,A3は少年の兄であり,A4は少年にとって最も仲が良かった友人であり,同人らを少年院送致等の重い処分が十分予想される強盗致傷事件の共犯者とするために敢えて虚偽の供述をする動機は全く見当たらない。むしろ,前述のとおり,A3は,捜査段階の当初は少年を庇う供述をしており,A4もまた本件非行に際し,少年の関与をできるだけ軽減しようとしている。

また,A2,A1については,少年よりも年長の成人であり,少年は2人を元暴走族の総長であると認識していたというのであるから,嘘の共犯者として安易に名前を出せる相手ではなかったにもかかわらず,同人を共犯者として供述している(この点について,少年は,前述のように,公判廷では,「あてずっぽうでA2の名前を出した。」などと供述するが,不合理であり,信用できない。)。

このように,少年が,敢えてA3,A4,A2,A1らを共犯者として供述したのは,それが真実に合致することを強く推認させるから,少年の自白の信用性を高める事実である。

(5) 少年は,本件犯行現場を案内しているが,この点も少年の自白の信用性を高める事情である。

すなわち,少年については,5月22日午後1時過ぎころ,本件犯行現場の引き当たりが実施されているが,少年は,本件犯行現場がマンションの裏手にある入り組んだ細い路地であるにもかかわらず,現場を案内した上,具体的な指示説明をしている。特に,少年は,当時,自分は犯行現場から少し離れた場所で駐車場付近で見張りをしていたところ,誰かが逃げろと言ったので,A3らの方に走って行くと,被害者が犯行現場に倒れていた旨,自己の責任を軽減させる方向に働く虚偽の説明をしていたが,この点についても,少年の指示説明に従った形で実況見分が行われている。

既述のように,上記引き当たりの時点では,本件非行の実行犯は判然としていなかったことなどの事情を勘案すれば,少年が自らの意思で犯行現場を案内したものと見ることができ,このような事情は少年の自白の信用性を高める事情である(この点について,少年は,前述のように,公判廷では,「地図をちらっと見て,適当に案内した。」などと供述するが,不自然であり,信用できない。)。

(6) 犯行状況に関する少年の検察官調書は,被害者の警察官調書(検17,18)や,前記A3及びA4の検察官調書,A3の審判供述,A4の審判証言と主要部分がおおむね符合しており,相互にその信用性を補強し合っている。

以上検討したところによれば,少年の自白の信用性は高い。

第5防犯ビデオの画像鑑定の評価

本件では,犯行現場付近の民家(▲▲方)に設置されている防犯ビデオの画像(以下「本件ビデオ画像」という。)に,犯行時刻ころ,犯行現場方面から走り去る4名の人物が映っているところ,その場所的近接性(防犯カメラが設置されている場所は,犯行現場から西方71.2ないし84.15メートルの位置である。)及び時間的近接性(4名の人物が撮影されたのは,犯行当日の午後8時35分6秒である。),画像内容(赤色の着衣の人物を含む4名の人物が,西方向にある犯行現場から東方向に向かって走行している。)が犯人の人数,逃走方向,服装等の点で被害者の供述と符合していることからすれば,本件ビデオ画像上の4名の人物が本件非行の犯人であると強く推認できる。

成人共犯者の裁判に関して裁判所が選任した鑑定人であるA22(奈良先端技術大学大学院教授)が,防犯ビデオの画像から上記4名の人物の身長を鑑定したところ,最大でも172又は174センチメートルであり,実行犯とされるA3及びA2の身長(逮捕当時のA3の身長は180センチメートル,A2の身長は183センチメートルであった。検252)とは明らかに矛盾するとの鑑定結果が出された。

付添人は,本件は,犯行に関与したとされる少年を含む5名のうち,その1人でも犯人性を否定されれば,そのストーリー全体が瓦解する証拠構造にあるから,A3及びA2の犯人性が否定される以上,少年の犯人性も否定されるべきである旨主張するので,以下,検討する。

1  A22鑑定の信用性

(1) A22鑑定の内容と結果は,要旨,次のとおりである(弁7,A22証言)。

ア A22鑑定は,次の二つの段階を踏んで行われた。

・ 第1段階は,防犯ビデオ画像上の4名の人物(画面に登場した順番に人物A,B,C,Dとする。)の路面(足元位置)から頭頂部までの高さ(以下,「走行中の見かけ上の身長」あるいは単に「見かけ上の身長」という。)を測定するものである。

まず,防犯ビデオの撮影範囲にある道路にメジャーを設置し,防犯カメラと同じ視点で撮影し,作成された鑑定尺度画像を,実際に4名の人物が映っている本件ビデオ画像に取り込んで重ね合わせ,それぞれの人物の見かけ上の身長を測定し,その結果をA22鑑定書-グラフ1「鑑定対象画像に撮影された4人の身長の推定用データ」にまとめた。

・ 第2段階は,上記のようにして測定した見かけ上の身長から,それぞれの人物の実際の身長を推定するというものである。

A22は,犯行現場及び大学構内の廊下で,身長の異なる5人の学生を,本件ビデオ画像でカメラが捉えた4名の人物と同じコース,同じ歩幅,同じ速度で走らせて撮影し,その画像を解析し,5人の学生の見かけ上の身長がどの範囲で推移したかについて検討した。そして,測定された数値のうち平均から外れる値を特異値として除外し,信頼の置ける平均値の幅をもって見かけ上の身長の最小値から最大値の範囲とした。こうして得られた参照画像における5人の学生の見かけ上の身長の最大値,すなわち信頼のおける平均的な数値のうちの最大である値と5人の学生の実際の身長がほぼ一致すると考察した。

この考察に従い,本件ビデオ画像上の4名の人物についても,見かけ上の身長の最大値をもって実際の身長と推定できるとの結論を導いた。ただ,見かけ上の身長の最大値については,防犯カメラに近い方が誤差が小さくなるので,A22鑑定書-グラフ1のX座標の値がより小さい地点での値を採ることとした。ただし,人物Dについては,第1段階で測定された最大値は174センチメートルであったが,他の数値のほとんどが170センチメートル付近に集まっていることや,参照画像によれば,同じくらいの身長の場合には見かけ上の身長が少し高めに出る傾向があることから,174センチメートルという数値は特異値であると見て,人物Dの実際の身長は第1段階で測定された最大値(174センチメートル)よりも少し低い172センチメートルと見ることとした。

また,参照画像を解析すると,全体として実際の身長は見かけ上の身長よりも低く測定される傾向があったとして,本件ビデオ画像上の4名の人物の実際の身長についても,見かけ上の身長の最大値よりも低い値から幅をもたせた推定も行っている。

しかし,A22がどのような手法や考察によって具体的な身長の幅を推定したのかについては,A22鑑定書及びA22証言からも明確に読みとることはできない。

イ こうして,A22は,本件ビデオ画像上の4名の人物の実際の身長を次のように推定した。なお,かっこ内は,実際の身長の推定値に幅を持たせた場合の数値であるが,A22が測定した見かけ上の身長の最小値から最大値ともされていると考えられる。しかし,何故にこれらが同一の数値を示すのかは明確ではない。

人物Aは,170cm(165~170cm)

人物Bは,166cm(162~166cm)

人物Cは,168cm(160~168cm)

人物Dは,172cm(165~174cm)

(2) A22鑑定は,上記のとおり二段階の手順を踏んで行われているが,以下のとおり,鑑定の基礎となった基礎データや鑑定の手法などに多々問題があり,その信頼性には大きく欠けるものがあるといわざるを得ない。

ア A22鑑定の第1段階の手法は,要するに,本件防犯ビデオが設置されている場所に計測の基準となる升目を置き,鑑定尺度映像として映像に取り込んで本件防犯ビデオ映像に当てはめ,犯人と思料される人物の走行時の見かけ上の身長を測定するものである。そして,後記のA23らも,基本的に同様の手法によって見かけ上の身長を測定しており,手法としては相当なものと認められる。

ところで,見かけ上の身長としてA22が示す数値とA23が示す数値は,ほぼ同一ではあるが,それぞれの数値に持たせた意味は異なる。すなわち,A22鑑定では,上記の数値は見かけ上の身長の最小値から最大値を示す趣旨であるが,私葉鑑定では,見かけ上の身長の最小値を示す趣旨である(A23鑑定では,本件ビデオ画像が不鮮明であって確定的な最小値を測定し難いことから,この最小値を幅のある数値として示している。)。したがって,それぞれの鑑定の信頼性は,それぞれ上記の趣旨で正確に測定されているかにかかる。

見かけ上の身長の最小値及び最大値を測定するには,本来は,一地点(一足)毎の測定の正確性を検討するだけでは足りず,ある程度の走行距離における測定を総合して考察する必要があると考えられる(A22鑑定書の図9ないし図12の5人の走行データからも,見かけ上の身長の最小値から最大値の範囲には一地点(一足)毎にかなりの差があることが認められる。)。

しかし,本件ビデオ画像は,A22自身も認めるように非常に不鮮明で,限られた地点での,限られた枚数の画像によってしか見かけ上の身長を測定することができない(このことは,本件ビデオ画像上の4人についてのA22鑑定書-グラフ1と,5人の学生についての同鑑定書の図4ないし図12とを比べて見ても明らかである。)。このような不鮮明,かつ限られた地点での,限られた枚数の画像から見かけ上の身長の最小値あるいは最大値を測定したとしても,もともと測定の正確性にはかなり欠けるものがあるといわざるを得ない(A22鑑定では,上記のとおり見かけ上の身長の最大値を実際の身長と推定しており,ことに見かけ上の身長の最大値の測定の正確性が重要な意味を持つ。なお,最小値の点ではA23鑑定も同様の問題を生じるが,この点は後述する。)。

イ 次に,A22が実際の身長を推測する際に推論の根拠とした見かけ上の身長のデータにも問題がある。すなわち,上記のとおり,A22鑑定は,比較実験として身長169.3センチメートル,175.9センチメートル,176.9センチメートル,185.9センチメートル,189.3センチメートルの合計5名の人物を走らせている。

そして,本件防犯ビデオの現場で走らせた結果からは,身長よりも少し低い位置くらいのところで見かけ上の身長が計測でき,また,大学の廊下で走らせた同様の実験の結果でも,見かけ上の身長が実際の身長よりも5センチメート低い程度になることを前提として,本件防犯ビデオに撮影されている4名の人物の身長を推定している。

しかし,日常生活上の経験からしても,走っている際の人の姿勢,例えばどの程度前傾するのか,どれくらい腰を落として走るのかということについて,個人差が大きいことは容易に想定できるのであり,また走行速度など様々な要因によって前傾の角度などが変化することも十分考えられるのであるから,これらの理由による沈み込みの差のばらつきは相当に大きいことがうかがえる。

また,比較として走った5人は,いずれも運動経験などが特にない22歳から26歳くらいの学生であって,このような比較実験では,データとしては十分ではないというべきである。

さらに,A22は,本件防犯ビデオに撮影されている人物の歩幅にわざわざ合わせるように指示して学生らを走らせており,これでは自然な走り方とはいえず,この点からも,データとしての正確性には疑問がある。

ウ さらに,A22鑑定は,沈み込みの差について,基礎データの平均値を基に推定している。しかし,比較実験として5名の学生を走行させた実験結果からも,見かけ上の身長が実際の身長よりも10センチメートル程度低くなることがあったとされている。それにもかかわらず,A22鑑定では,沈み込みの差について,上記のような最大の差ではなく,あえて平均値を採用している。

A22は,このような手法が統計的な処理であって,科学的な鑑定であるとするが,統計的な処理はあくまで一般的な傾向を導き出す場合に意味があるにすぎず,一般的傾向を根拠として,それに外れるものが可能性として排除されるということにはならない。

本件に即していえば,沈み込みの差の平均値を根拠として身長を推定したとしても,実際に走行している人物の沈み込みの差が平均値に収まっている保証はなく,本件防犯ビデオに撮影されている人物については,沈み込みの差が最大である可能性をも考慮して,どの範囲の身長であるかが推定されるべきものであり,この点からも,A22鑑定の信頼性は乏しい。

2  A23鑑定,A24鑑定の信用性

ところで,検察官は,成人刑事事件の審理の過程で本件ビデオ画像に映った4人の身長について警視庁科学捜査研究所のA23及びA25(いずれも技官),A24(物理研究員)に嘱託して鑑定を実施しており,本件においても証拠として提出されている。A23鑑定は,本件ビデオ画像に映った4人の「見かけ上の身長」と「走行速度」についての鑑定であり,A24鑑定は,A23鑑定を前提として4人の実際の身長を鑑定したものである。A22鑑定での第1段階に相当するのがA23鑑定であり(但し,A23鑑定とA22鑑定とでは測定した「見かけ上の身長」の概念に差異がある。),第2段階がA24鑑定である。

A24鑑定の結果は,A22鑑定とは異なっており,A23鑑定及びA24鑑定が信用できるならば,A22鑑定の信用性を減殺させる方向に働くことになるから,その鑑定の信用性を検討する。

なお,A22鑑定との対比で鑑定の信用性が問題となるのは主としてA24鑑定であるから,以下,A24鑑定を中心に検討する。

(1) A23鑑定の信用性

A23鑑定の内容と結果は,要旨,次のとおりである(検254,A23証言)。

・ 本件ビデオ画像に映った4人の人物の「見かけ上の身長」を測定するために,A22鑑定で用いられたメジャー画像を本件ビデオ画像に取り込んだ。そして,画像上の人物の片足が地面に接着していて,最も姿勢が沈み込み,地面に対して足元から頭頂までがより真っ直ぐになっている状況の身長を測定した。なお,画像上の人物が大きければ大きいほど計測誤差が少なくなるので,人物が画面手前側に映っている場面が選ばれた。

これによれば,4人の見かけ上の身長は次のとおりに測定された。

人物Aは,約164~168cm

人物Bは,約164~167cm

人物Cは,約160~165cm

人物Dは,約161~166cm,もしくは約167cm~171cm

・ また,4人の走行速度は,足が路面に着地していて,かつ,同じ姿勢をした2場面を選び,2点間の足下位置の距離を求め,2点間の時間で割って求めた。これにより,次のとおり測定された。

人物Aは,時速15.5~16.7km

人物Cは,時速13.5~15.1km

・ 人物Bは,足が路面に着地した画像が1点分しかなかったため,走行速度を測定できなかった。人物Dは,2点分の着地画像はあったが,一方の画像が不明瞭で足下位置を特定できなかったため,測定できなかった。

そこで検討するに,「見かけ上の身長」の測定に関しては,A23鑑定はA22鑑定で作成されたメジャー画像を採用しているところ,前記のとおり,A22鑑定(第1段階)は信用できるものであり,相互に信用性を高め合う関係にあることから,A23鑑定は信用できる。

また,4人の人物の走行速度についても,通常一般に考えられる方法を用いて測定されていて,これも信用できる。

(2) A24鑑定の信用性

A24鑑定の内容と結果は,要旨,次のとおりである(検256ないし258,A24証言)。

・ A24は,実際の身長を推定するためには,画像から得られた「見かけ上の身長」に歩行・走行によって沈み込んだ分や俯いている分を加え,そこから頭髪や靴の厚みを引く必要があるとする。

・ 走行・歩行による「沈み込み」の値は,A24が,平成12年に日本鑑識科学技術学会で研究発表した「被疑者特定のための身長推定方法」の結果を用いて算出された。

A24は,13人の被験者を4回走らせ(そのうち2回は普通の速度で,2回は少し早めに走るよう指示した。),それぞれの場合において,被験者が直立して一番高い位置に立ったときと走行中に一番沈み込んだときとの差を求め,その数値を縦軸とし,走行速度を横軸とするグラフを作成し(A24鑑定書-図1「最大変位と走行速度の関係」),これにより,走行速度が分かれば,その人物の「沈み込み」の程度を推定することができるとした。

A24は,このような研究の結果を基に,本件ビデオ画像の4人の「沈み込み」の範囲について推定した。なお,人物B及びA4の走行速度はA23鑑定では測定不能とされたが,画像上,人物Cとほぼ同じ速度で走行していると観察されたため,人物Cの走行速度と同じとして「沈み込み」の数値を測定した。

・ 次に,俯き具合,頭髪と靴の厚みは,画像が不鮮明なため画像から直接推定することはできなかったことから,一般的な場合を仮定し,俯き具合は1~3センチメートル,頭髪の厚みは1~2センチメートル,靴の厚みは市販されている一般的な靴の厚みである2センチメートルとした。

・ 上記数値を基に,4人の人物の実際の身長は次のとおり推定された。

人物Aは,170~183cm程度

人物Bは,169~182cm程度

人物Cは,165~180cm程度

人物Dは,166~181cm程度,又は172~186cm程度

そこで検討するに,確かに,A24鑑定では,①その基礎としている平成12年の同人の研究結果とは,被験者の走行している路面の状況(傾斜角度等)等の点で条件面に差があること,②本件ビデオ画像に映っている4人の走行速度は時速13~16キロメートルとされるが,平成12年にした研究のデータは,時速10キロメートル付近と,時速12~13キロメートル付近に集中しており(A24鑑定書-図1),走行速度の点においても条件面に差があること,③これらの点について,A24自身も,同人の研究結果は歩行に関する精度は高いけれども,走行についてはそこまで高い精度は出ていないと認めていることなど,信頼性を減殺する方向に働く事情も存する。

しかしながら,A24鑑定は,本件で鑑定嘱託を受ける以前である平成12年に実施された実験結果に基づいて作成された図(A24鑑定書-図1)を基にして,身長を推定しているところ,もちろん,その基礎とされた実験は本件と全く無関係に実施されたものであり,客観性が担保されている上,A22鑑定に比べて,被験者の人数が多く,その年齢も様々であるなど,基礎データは豊富であり,また,被験者の自然な走行状態によるデータが収集されている点において,一般的なデータとしての信頼性は高いといえる。

その上で,A24鑑定は,本件画像の状況から俯き具合,頭髪や靴の厚みなどを考慮して,4人の人物の身長を一定程度の幅をもって推定しているのであるが,そもそも,「沈み込み」の数値は,被験者によって個人差があるところ,本件ビデオ画像に撮影されている4人の人物がどのような走行状態で走行しているか判然としない以上,およそデータにより推測されうる数値はある程度の幅をもって考慮に入れることが鑑定結果の信頼性を確保するためには必要であることから,A24鑑定の手法は合理性を有しているというべきであり,鑑定の結果は信用することができる。

したがって,A24鑑定の全体的な信用性は高い。

この点,付添人は,A24鑑定では,最も沈み込んでいる時の走行時の身の丈に「沈み込み」の差の最大値を加算して人物の身長が推定されているが,その前提となっているA23鑑定では,走行時に最も沈み込んでいる姿勢だけではなく,その前後の姿勢も選択されて走行時の身の丈が推定されていることから,そのようなA23鑑定の結果に,更に「沈み込み」の差の最大値を加算することは,「沈み込みの二重評価」であると批判する。

しかし,A23鑑定は,本件ビデオ画像に撮影されている人物について,足が接地し,膝が曲がった状態で,体が地面に対して垂直になっている時点における地面から頭頂部までの高さを推定しているのであるが,画像が不鮮明であることや,画面上奥に位置する時点の人物の画像については,画像の精度の問題などを考慮すると,誤差が大きく,画像上の高さの最小値と実際の身長の最小値とが一致しない可能性が高いことから,計測精度を上げるため,一場面だけではなく,前後の足元の点が比較的明瞭に撮影されている場面を選定し,更に数ピクセルの幅を持たせて座標を読み取り,そのようにして得られた幅のある数値を,画像に撮影されている人物の走行時の身の丈の最小値と推定している。

そして,A24鑑定は,このようにして得られた最小値に,「沈み込み」の最大値を加算して,身長を推測したものであるから,付添人の批判するように「沈み込みを二重評価」したものではない。

したがって,この点に関する付添人の批判には理由がない。

また,A22は,公判廷において,例えば,百メートル走のオリンピック選手を見れば分かるように,最高速度で走っている場合には,頭の上下動はほとんどないから,A24鑑定書-図1のように,速度が速くなっても上下の曲線が同じ幅のままであるのは不自然であり,幅は狭まるはずである旨証言するところ,付添人は,かかる証言に基づき,図1の飽和曲線には科学的な裏付けがなく,同曲線によって,「見かけ上の身長」に加えるべき「沈み込み」の値を求めるのは不合理であるなどと批判する。

上記A22の証言や付添人の主張内容は必ずしも明確ではないが,A24は,同人が収集したデータ全体の傾向から,走行速度が速くなれば,「沈み込み」の差は大きくなるが,走行速度に比例してその差が無限に拡大するわけではなく,ある程度の数値で飽和していくとの考えに基づき,近似曲線を引いた上(図1の青色実線),その近似曲線を,沈み込みの差が大きく取れたデータと,反対に小さく取れたデータに合わせて,それぞれ平行移動した曲線を設定して線を引き(図1の青色破線),その上下の曲線の範囲で「沈み込み」の差が生ずる可能性が認められるとして,鑑定の根拠とした図1を作成し,それに基づいて身長を推定しているが,前述のとおり,その基礎となったデータ自体は平成12年に行われた実験に基づくものであって,恣意の入る余地はない。のみならず,上記近似曲線及びこれを平行移動した曲線(青色実線及び青色破線)の趣旨からして,走行速度によりこの上下の幅が狭まるとは考え難いところであるが,いずれにしても,図1が実験対象としている走行方法,速度の範囲内において,A22が証言するように,上下の幅が狭まることになるとは言い切れず,A24のした推論が特に不合理であるとは認められないことから,その信用性は高い。

したがって,この点に関する付添人の批判には理由がない。

付添人は,A24鑑定は,推定される身長の幅が広範に過ぎ,標準的な日本人男性であれば,そのほとんどがこれに含まれてしまうことから,もはや鑑定とは呼べないなどと批判し,A22も,公判廷において,同様に証言する。

しかし,そもそも本件防犯ビデオの画像は,夜間の薄暗い照明下で撮影された不鮮明なものであって,これを基にして犯人を特定するには非常に困難な作業が伴うものであり,このことは,裁判所が命じたA22鑑定自体が信用性に乏しいものにしかなり得なかったことからも容易に推認できるところである。したがって,A24鑑定により鑑定された推定される身長の幅が結果的に広範なものになったからといって,そのこと自体をもって鑑定結果が信用できないとすることはできない。

(3) 以上検討したように,A24鑑定は信頼性が高いのに対して,A22鑑定の鑑定結果には多々疑問があり,その信頼性は乏しいものと言わざるを得ないから,A22鑑定の信用性を前提とする付添人の主張は採用できない。

第6少年のアリバイの成否

1  少年は,第7回審判において,本件非行当時,少年宅で家族4名及びA26の合計5名で夕食をとっていたのであり,犯行日時におけるアリバイがある旨供述し,付添人もこれに同様に主張するので,以下,検討する。

2  少年の審判及び公判供述,A3及びA13の審判及び公判証言,A26の審判証言によれば,本件非行当日の少年のアリバイの内容は,要旨,次のとおりである。

・ A3は,犯行前日の2月15日夕方,当時交際していたA26と岸里駅で会い,その後,朝方まで公園など戸外で遊んでいた。

・ 2月16日午前9時ころになって,A3とA26は,A3の自宅に帰宅したが,既にA13は,仕事に出ており,妹(▲▲)も学校に登校した後で,自宅には少年のみが在宅しており,少年は寝ていたので,A3とA26も,少年と同じ部屋で夕方まで寝ていた。

・ 同日午後6時ころになってA13が帰宅し,A13は,そこで初めてA26が自宅に遊びに来ていることを知ったため,▲▲とA26を連れて,夕飯の材料の買い物に出かけた。その間,A3と少年は,自宅でゲームをしていた。

・ A13らが買い物から帰宅した後の午後7時半ころから,A13,少年,A3,A26,▲▲の5人で鍋をして食べた。

・ 午後8時からは,「世界丸見え」というテレビ番組を見ながら食事をした。

・ 番組の終わる午後9時には食事は終わっており,その後,一人ずつ風呂に入り,風呂を上がってからA3,A26,少年は,家の近くの99円ショップまで菓子等を買いに行った。買い物から帰宅した後,少年とA3はゲームをした。A3とA26は,その日は深夜に寝て,翌日の夕方ころまで寝ており,A3はA26を岸里駅まで送って行き別れた。

ところで,本件において,少年のアリバイが主張されるに至ったのは,A3が自己の審判で少年院送致決定を受けた後の7月5日にA13が,鑑別所にA3の面会に訪れた際,A3が,本件非行への関与を否認し始めたことに起因している。A13は,A3の否認を受けて,A3の友人らと連絡を取り,本件非行当時のA3の交際相手であったA26の連絡先を知り,A3との面会の約10日後にA26と電話で連絡をとり,2月16日のことを聞いたところ,A26が少年宅に泊まったことを覚えていたため,内海弁護士と共にA9A28神戸駅の近くでA26と3人で会うことになり,内海弁護士が,同所で,A26に詳しい事情を聞いたことから,それを基にして,A13及び少年らも,2月16日に自宅で鍋をしていたことなど,アリバイとなる事実を思い出した,ということである。

3  まず,A26及びA13証言について検討するが,同人らの証言は,以下の理由で信用できない。

(1) 両名の証言内容は概ね符合しているが,重要部分について齟齬がある。

すなわち,当日鍋を食べながら見ていたテレビ番組が何であったかという点について,A13は,審判廷では,「世界丸見え」を見た日と鍋を食べた日が結びつくのは,A26と面会した際,A26が「世界丸見え」を見たと言ったからである旨証言するが,A26は,当日何の番組を見たか覚えていない旨これと異なる証言をする。

また,A13は,神戸駅で会った際にA26は2月14日から16日の行動について途切れ途切れであったが,きちんと内海弁護士に話しており,日付で一部自信がないところはなく,はっきり言ってくれた旨証言するが,A26は,内海弁護士らには14日か15日の夕方に友達と天下茶屋まで行ってという話をしたが,14日か15日かという点は曖昧であった旨証言しており,両名の供述内容には齟齬がある。

(2) A13は,鍋を食べたということを神戸駅でA26と面会したときに同人が内海弁護士に話している様子を聞いて思い出したに過ぎず,客観的な手がかりに基づいて記憶を喚起したわけではない。同女は,審判廷では,当日の鍋の内容や,「世界丸見え」の番組内容,2月16日に近いその他の日に見たテレビ書組の内容についての具体的な記憶を有しておらず,記憶の正確性には疑問がある。この点に関して,A13は,「世界丸見え」を見ていたことについては,「A26が言っていたし,正直,毎週見ているからそうだと思った。」旨証言しており,明確な記憶がないことを自認している。

(3) A26は,審判廷で付添人からの質問に対して,当初は,「少年宅に泊まりに行った日は土曜日から月曜日であり,鍋を食べたのが最初の日の夜か次の日の夜かはっきりしない。」旨証言していたところ,付添人のその後の質問に対して,「多分,14日か15日に行ったときに夜中に帰ってきて…,ああ,朝帰ってきて,A3君のお母さんが仕事に行ってから,夜に帰って,それで鍋をしたのはその日です。」と上記アリバイ主張に添った内容に証言を変化させているが,その後になされた検察官や付添人からの質問に対しては,「日付に関しては曖昧な部分があり自信がない。」旨述べており,証言には一貫性がない。

また,同女は,16日には仕事を休んだ記憶があるとも述べるが,それを裏付ける証拠は存在しない。そもそも,A26は,2月16日の出来事について,手帳の記載や勤務先に確認するなどによるのではなく,友人からチョコレートを渡しに行った旨聞いて思い出したに過ぎず,記憶喚起に至った経緯も曖昧であるから,日付の正確性には疑問がある。

(4) 以上に加え,そもそもA26及びA13は,本件犯行日から約5か月経過した後の7月ころになって初めて当日の記憶を喚起し始めたものであり,記憶の正確性には疑問があること,A13は,少年及びA3の実母であること,A26は本件の直接の関係者ではないが,本件当時A3と交際していた関係にあり,A13からA3らが犯行を否認していることは聞いていたことなどの事情にかんがみれば,A26及びA13の証言はいずれも信用性に乏しい。

4  次に,A3の本件審判証言について検討する。

A3の本件審判証言は,アリバイに関して,当日の携帯電話の通話状況について詳細に説明するなど,具体的である。

しかし,前述したとおり,自分の審判が終わるまでは,本件犯行を一貫して認めていたにもかかわらず,審判後,少年院送致が決定した途端,アリバイを主張し始めたという経緯などの点で不自然と言わざるを得ず,信用することはできない。

この点について,付添人は,A3は,逮捕直後からアリバイについて警察官に主張していたが,警察官に相手にしてもらえなかっただけであると主張し,A3も,警察に対して逮捕される前に,当日は彼女といたとか,友人もいたと言ったが,信じてもらえなかったなどと供述する。

しかし,仮に,A3にアリバイに関する記憶が当初からあれば,その旨取調官や周囲の者にその旨繰り返し訴えるはずであるが,A3は,本件審判において,アリバイのことは一番最初に友人男性3名の名前を出したきりで,警察には言っておらず,面会に来たA13にも具体的な話はしていない旨証言しており,同人の行動は極めて不自然である。

また,A3は,公判廷において,アリバイを思い出すに至った経緯について,「審判が終わって,少年院に行くと決まってから,自分のアリバイについてずっと,頭の中に思い出していたが,7月5日に少年院に来てから,彼女といたということが,だんだん分かってきて,そこから付添人らと一緒に話し合うようになった。」旨証言するが,A3は,犯行日の前日である2月15日に,A26と会い,14日に渡して貰う予定であったバレンタインのチョコレートを,一日遅れで貰ったことを記憶していたというのであるから,このような事実から早期に記憶を喚起することも可能であったと思われるところ,少年院送致決定後になってようやくA26が泊まりに来ていたことが分かったというのは不自然である。

以上によれば,A3の本件審判証言は信用することはできない。

5  最後に,少年の審判供述の信用性を検討する。

少年は,第7回審判において,上記内容に加えて,当日,A26が99円ショップでピコラという名前の菓子を買って帰って置いておいたところ,ゴキブリがその中に入り込んでしまい,A26が,「食べられへん。」などと話していたことを覚えている,などと詳細な供述をする。

しかしながら,以下の理由により,少年のアリバイに関する供述は信用できない。

(1) 少年は,自己のアリバイについて,第1回審判では,「ゲームセンターに行っていた可能性が高い。」旨供述していたが,第7回審判において,A3らのアリバイ証言に添った供述をし始めたもので,その理由については,「警察で聞かれた時は,ゲーム仲間と遊んでいたことなどばかりを考えていて,そのことで頭がいっぱいだったが,第1回審判後,A13と話していて鍋のことを思い出した。」旨説明するのみで,説得的な説明をしていない。

(2) 少年は,2月15日に女友達からバレンタインのチョコレートをもらったことを警察の留置場に入っている時から思い出しており。また,審判廷では,2月ころの犯行時刻ころは,自宅でゲームをしていることが多く,午後8時の時間帯はテレビを見ていることが多かったと供述しているが,そのような事実関係を前提として記憶を喚起する作業はしていないほか,2月16日が何曜日かということを考えて記憶を喚起したり,A3やA4の行動から自己の行動を思い出すなどの作業も行っておらず,その理由についても合理的な説明をしていない。

(3) 携帯電話の通話記録(検243)によれば,少年が鍋を食べていたと主張する時間帯に少年が頻繁にメールを送信していたことが認められるが,実兄の交際相手がいながら,テレビを見て食事をしながらメールを打つことは考えにくい。

(4) 少年はテレビは真剣に見ていたわけではなく,番組のことについて何か話をしたことは多分ないと思う旨述べていることから,テレビを見ていた記憶が正確であるかに関しては疑問がある。

(5) 少年は,「世界丸見え」の番組内容を記憶していない上,その前後の週に同番組を見たか否かの記憶もない。同番組を見たことと鍋を食べたことが繋がる理由について,少年は,A26と「世界丸見え」を見ながら食事をしたのが1回しかないためである旨述べるが,記憶喚起の根拠としては薄弱である。

このような事実に照らせば,上記審判供述の信用性は乏しい。

6  以上によれば,少年,A3,A26,A13は一致してアリバイを主張するが,同人らの供述の信用性は乏しいと言わざるを得ない。

したがって,この点に関する付添人及び少年の主張は採用できない。

第7共犯者のアリバイ

付添人は,本件は関与したとされる共犯者の1人でも犯人性を否定されれば,そのストーリー全体が瓦解するところ,本件では共犯者ら4名についてもアリバイが成立すると主張することから,以下検討する。

1  A3のアリバイ

A3の本件非行当時のアリバイについては,少年のアリバイと共通するところ,アリバイが認められないことについては既述のとおりである。

2  A4のアリバイ

付添人は,本件非行当時におけるA4のアリバイを主張する。すなわち,A4は,2月16日午後8時ころから午後10時ころまでの間,自宅マンションの廊下でA27と会って話をしていたから,A4には本件非行時のアリバイが成立し,A4の関与を前提とする少年,A3及びA4の各自白調書は虚偽であり,少年が本件非行を犯したとはいえないというものである。

付添人は,かかる主張を裏付けるものとして,A27及び同人の母であるA28の公判証言及び,A4がA27に送信した携帯電話のメールの内容(検276)その他各証拠を提出する。

(1) A27とA28の証言内容はおおむね次のとおりである。

本件当時,A27とA4は,同じマンションの同じ9階のフロアに住んでいて,A27家は901号室,A4家は903号室であった。A27とA4は,当時,交際しており,2月16日に携帯電話でメールを交換し,A27は母であるA28の了解を得て,午後8時ころから午後10時ころまで,二人が住んでいるマンションの9階の廊下で会った。そのとき,A27は,2日遅れで手作りのバレンタインのチョコレートをA4に渡した。

(2) A4とA27は,2月16日にメールをやりとりしたが,A4がA27に送ったメールは次のとおりであった(弁34。以下「本件メール」という。)。

17:57 ごめんなさいx 朝起きられへんかってんjj 明日こそ行くわ~

18:19 了解。なんしか,ごめんやけど,後でまたメール送るわ~

19:35 ちょうど,今帰って来たところ~(^O^)

19:38 呼びに来てくれw

19:42 そうw

19:48 悪い 1分待って

19:50 下か~@ 上か~@

19:55 了解 もういけるわw おばはんおらんから,インターホンならしてな

21:59 今日はどうもありがとう~ しかもこんな遅くまで~☆★☆★また,会おな 二人っきりで

22:18 わかった。二人っきりな~ 今週いけたら,一緒に学校いけへん@ いけるんやたらやけどぉ~w

22:26 まかしといてぇ~ww じゃあ,今日はゆっくり寝て 明日,また学校で喋ろぉ~ww

22:32 じゃあね おやすみぃ~

(3) 付添人によれば,本件非行当時のA4のアリバイが主張されるに至った経緯は次のとおりである。

A27は,5月ころにA1の交際相手であるA29から指摘を受けて自己の携帯電話に残っていたメールを捜したところ,本件メールを受信していた(ただし,午後7時50分に受信した「下か~ 上か~」を除く。)ことに気づき,これらを別フォルダに保存した。その後の捜査により,A27が,A4から本件メールを受信したことは明らかになっている。

A4の母であるA19は,平成17年1月23日にA27が前項に記載のメールを保存していることを知り,その後,A1の弁護人に連絡した。A1の弁護人がA27に連絡したところ,A27から本件非行当時にA4と会っていたという説明を受けたことから,A4についてのアリバイが主張されるに至った。

(4) そこで,A4につきアリバイが認められるか否かを検討するが,以下の理由により,A4のアリバイを認めることはできない。

ア A27がA4から受信した本件メールの内容からすれば,2月16日午後7時55分から午後10時18分までの間に,A27とA4が,いずれかの場所で会っていたということになるが,その間ずっと二人だけで会っていたことを裏付ける客観的な証拠は存在しない。むしろ,午後9時59分と午後10時12分に「二人っきり」で会うことを強調した内容のメールが2回なされていることからすると,今回は他の人が一緒にいて2人きりになれなかったので,次回は2人きりで会うことを強調したと見るのが自然である。さらに,A27はA4の元交際相手であり,しかも同じマンションに居住していたことから,A4に有利な虚偽の供述をする動機があり,その証言を全面的に信用することはできない。

また,A27は,本件当日以外にも,同様にメールを交換して,A4と会ったことがある旨証言しており,また,本件当日以外にも同所でA4と話をしたことがあったとも証言していることから,仮に,午後8時から午後10時ころまでの間にマンションの9階廊下で話をしたことがあったとしても,本件当日と他の日とを取り違えて記憶している可能性も否定できない(この点,A27は,公判証言において,A4と会っていた間にどのような話をしたのか覚えていないとも証言しており,その証言内容は曖昧である。)。

イ A28の公判証言によれば,2月16日午後8時ころから午後10時ころまで,A27がA4と会っていたとのことであるが,同女は二人が2時間ずっと一緒にいたことまで証言してはいないこと,同日にA27がA4と会っていたこと自体,A27の携帯電話に残されていたメールの日付けから,A27とA4が会っていたのが2月16日であると推測しているに過ぎないことなどから,証言の信用性は乏しいと言わざるを得ない。

したがって,A28の証言をもって,A4のアリバイが客観的に裏付けられているとはいえない。

ウ 仮に,A4とA27が,2月16日の夜に会っていたことが事実であったとしても,A4が住んでいるマンションと本件非行の現場の距離は,通常予想されるルートで856メートル,マクドナルドと本件現場までの距離は263メートルであることから(検265),二人が会っていたとA27が証言する午後8時から午後10時ころまでの間に,A4が本件非行に及ぶことは時間的に不可能なことではなく,A4が本件非行の犯人であることと,本件メールの内容とは矛盾するものではない。

エ A4のアリバイが主張されるに至った経緯については,前述のとおりであるが,このような主張がなされる以前において,A4には,自己のアリバイについて供述する機会が幾度となくありながら,自ら積極的にアリバイについて供述していなかった。

すなわち,A4は,捜査段階において,A18に対して,当初,「本件非行の時間は友達と遊んでいた。」旨供述したが,A18から「その友達を取り調べなければならない。」と言われると,友達と遊んでいたとの供述を撤回している。また,公判廷においては,自白を翻して本件非行への関与を否認したが,検察官から,2月14日がバレンタインデーであり,同月16日はその2日後であるが,そこから何か思い出すということはないかと質問されても,同月14日の行動はA1,甲,A6及びA7と一緒に焼肉を食べに行き,その後カラオケに行ったことを覚えている,としながらも,同月15日,16日の行動は全く覚えていないと証言するなど,2月16日のアリバイについては全く供述していなかった。

当日は,2月16日と最も寒い時期であり,当日午後8時から午後10時ころまでの気温は5度程度であり(検266),風速1.6メートルないし3.7メートルの北東の風が吹いており(検289),A4及びA27の自宅はマンションの9階で,A4の自宅前の階段や廊下が北向きであることからすると,上記北東の風が外部から吹きさらしの状態でもあったのであり(検267),そのような場所で2時間もじっとしながら話をしていたというのであれば,少なくともA4にとっては印象的な出来事として,強く記憶に残ってしかるべきものと考えられるが,それについて何ら供述していなかったということは,やはり不自然といわざるを得ない。

また,鑑定書(検276)によれば,A4は,A27に対し,本件の前日である2月15日に「まじでw ありがとう 明日,きたいしとくわなんしか,3月1日会えるぅ~@」,「まあねw ▲▲のチョコをいらんってゆう奴はおらんぞぉ~ いるに決まってるやん」,「もしかしたら,ゴミ箱に捨てるかもしらんけど(笑”)嘘×2☆★日本―うまいチョコやからおいしそうに食べるわぁ~」というメールを送っていることが認められるところ,このようなメールのやり取りからは,A4がA27からチョコレートをもらうことに多大な期待を寄せていた様子が窺われる。仮に,A4がA27と会っていたのが,2月16日であったならば,A4は,自己のアリバイとなるこのような事実について早期に記憶を喚起することが可能であったと思われ,A27とA4が会ったのが,真に2月16日であったかについては疑問がある。

以上のとおり,A27の受信したメール,A27及びA28の公判証言によっても,A4にアリバイを認めることはできないから,この点に関する付添人の主張には理由がない。

3  A1のアリバイ

(1) A1は,公判廷において,2月16日のアリバイについて,次のとおり供述する。

・ 2月16日の犯行時刻ころは自宅で,当時交際していたA29と遊んでいた。

・ 当日の夕方ころ,A29が自宅に来て,午後7時前ぐらいに1回家に帰した。その日は別に会うつもりはなかったが,A29が,何か出かける用事があって,自宅の近くに来たらしく,午後7時半から午後8時ぐらいの間に自宅にやって来た。

・ A29は,午後11時ころまで自宅にいたが,その間,テレビを見たり,キャラクターやブランドの文字の混じったような画像を携帯電話で何枚か交換するなどした。ブランドの文字というのはシャネルのロゴで,キャラクターはプーさんだったと思う。テレビはA29が見ており,私は余り興味がなくて見ていなかったので,番組名についてははっきり覚えていない。

(2) また,A29は,公判廷において,次のように,上記A1の供述と符合する内容の証言をする。

・ 2月16日の夜は,午後8時半ころから午後10時ころまでの間,A1宅でA1とテレビを見るなどしていた。このことは,自分の携帯電話に画像が残っていたことから思い出した。

・ 午後7時から7時半ころ,A1に,今から行くわみたいなメールを送信したところ,A1から,間を置かず,分かったみたいな感じの簡単な返信があった。

・ 午後8時過ぎころ,自宅を出て母と自転車に2人乗りして,A1宅へと向かった。移動には約15分かかり,午後8時半ころ,A1宅に到着した。到着した時,A1は,在宅しており,普段と変わった様子もなかった。8時半より前の段階でA1と会った記憶はない。

・ その後,A1宅で,2人でしゃべっていたが,午後9時ころ,テレビをつけたら,「プライド」というドラマが放映されていたので2人で見た。

・ 10時にドラマが終わった後,A1としゃべったり,プーさんやドラえもんの画像や着メロのデータを2回くらい送信し合って遊び,午後11時ころ,母が飲んでいる店まで,A1と一緒に行って別れた。店まで行く途中の宮脇書店の自転車置場にA4やA3ら何人かが集まっているのを見かけた。

(3) 付添人は,①A29は,細かい時刻の点を除けば,捜査段階からその重要部分について具体的かつ一貫した供述をしている上,携帯電話の記録や,同女の母であるA30の証言により,その証言の重要部分が裏付けられているから,A29証言の信用性は高く,A1の公判供述も信用できる,②検察官は,A29の証言内容全体について,細かい時刻の点を除き,ことさら争っていないが,交際相手からこれから家に行くという内容のメールが入ったにもかかわらず,その到着時刻に何ら関心を示さず,単に分かったといった対応をするのは不自然であることから,A1が本件非行に関与していたことはあり得ない,などと主張する。

しかし,A1のアリバイに関する供述はそれ自体では具体性に乏しい上,捜査段階では,2月16日の行動について,A29と一緒にいた可能性について言及してはいたものの(弁81),当日が月曜日であることや,バレンタインデーにA29からチョコレートをもらったことは思い出しながら,A29と自宅にいたことは必ずしもはっきりした記憶を有していたわけではなく,公判段階に至って明確にアリバイを主張し始めた経緯にも疑問がある。

また,これを補強するA29証言も,同女がA1宅に赴くことになった経緯や,その時刻等,A1のアリバイを裏付ける上で重要な事柄に関する供述内容が曖昧である。

この点について,A29は,検察官調書(検264)において,「午後8時過ぎころ,自分の携帯電話からA1の携帯電話に家に遊びに行く旨メールを送った。その後に外出の準備をして,母と一緒に家を出て,午後9時を少し回ったころA1宅に着いた。」旨,公判証言とは異なる供述をしているが,公判廷において供述を変遷させた理由について明確な説明ができておらず,A1宅を訪ねた時刻等に関するA29の記憶の正確性には疑問がある。

また,A29は,2月16日にA1と会っていたことを思い出した根拠として,犯行当日の午後10時21分ころにA1と携帯電話のメールで画像等を送信し合ったこと(弁16)を挙げるが,仮に,同時刻ころにA29とA1が会っていたとしてもそのこと自体がA1のアリバイとなるわけではないし,A29は,当時,週に1回くらいの割合で,A1の自宅でA1と会っており,A1と携帯電話の画像を送信し合ったことも何度もあったというのであるから,上記メールの画像等の存在と,本件犯行時にA1と会っていたこととが明確に結びつくのか疑問であり,別機会の記憶と混同している可能性も否定できない。

この点に関して,A30は,公判廷において,「2月のそのころ,確かに友人と飲みに行った際,A29を一緒に連れて行き,自分のいた店の近くのA1という人の家へテレビを見に行くことを,A29に許したことがある。」旨証言するが,たぶんA1の自宅に行くといっていたと思うといった程度の曖昧な記憶に基づくものであり,また,A30は,A29の実母であり,A29に有利な供述をする要素があるから,A29証言を裏付ける客観的な証拠とは言い難い。

そもそも,A29は,当時,A1と交際していた女子中学生であり,前述のように,A27に対して,A4のアリバイとなる事実がないか尋ねるなどの行為にも及んでいた程であるから,A1と密接な関係にあり,A1を庇って虚偽の証言をする動機もある。

したがって,A29証言をそのまま信用することはできず,仮に,A29が証言するように,犯行当日の夜,同女がA1の自宅を訪ねたことが事実であったとしても,その時刻は,犯行時刻よりも遅い時間である可能性がある。

そして,本件犯行後,A1らは,マクドナルドに集合した後,A1の自宅まで移動し,その後解散していることが認められるところ,捜査報告書(検265)によれば,本件犯行現場からマクドナルドの距離までは263メートル(徒歩3分),犯行現場からA1の自宅までは945メートル(徒歩14分)の近距離にあったことが認められることからすると,本件犯行の約30分後である午後9時ころにA1の自宅にいたことをもって,A1のアリバイを認めることはできない。

以上のとおり,A1のアリバイは成立しないから,この点に関する付添人の主張は採用できない。

4  A2のアリバイ

(1) A2は,公判廷において,2月16日のアリバイについて,次のとおり供述し,捜査段階においても同様に供述する(検194)。

・ 2月16日は月曜日であり,通常どおり,仕事をし,仕事を終えた後,自宅マンションに戻り,自宅のテレビで,午後8時から午後9時まで放送している「ヘイ!ヘイ!ヘイ!」という音楽番組を見た。

・ 同番組には,bとcが出演していた。

最初にcが出演していた。cは,この時久しぶりに見た記憶である。メドレーで「サーキットの娘」「アジアの純真」「これが私の生きる道」の他3曲くらいを歌っていた。

自分は,bもメドレーを歌うのかなと思い,それなら自分の好きな曲である「星空のディスタンス」がかかればいいなと思っていたが,メドレーではなく,「希望を持つ歌」みたいなタイトルの曲しか歌わず,残念に思ったことを記憶している。

・ テレビを見終わった後,午後9時を回ってから,交際相手であるA31を,生野区内にある同女のおばの家まで,車で迎えに行った。9時半ころに着いていると思う。そして,自分の運転する車で,A31と共に自宅に戻った。

・ しかし,前日である2月15日にA2の母らと焼き肉を食べに行った際に,今日が母の誕生日であることが話題に出ていたにもかかわらず,A31から母の誕生日の話題がでなかったことに腹が立ち,30分くらいA31と喧嘩をした。その後,A31は就寝し,自分は,午後10時54分から始まる「マネーの虎」というテレビ番組を15分くらい見た後,就寝した。

(2) また,A31は,公判廷において,次のとおり,A2の公判供述に添った内容の証言をする。また,同旨の供述書(弁172)がある。

・ 2月16日は午後7時ころ,仕事から叔母の家に帰り,9時から10時くらいの間にA2が車で迎えに来た。

・ 車で,A2の自宅に行ったが,同所で,A2の母の誕生日であることを知っていながら,何もしないのかと言われて30分くらい喧嘩になったが,仲直りして,午後11時ころには就寝した。

・ 翌日の2月17日に仕事帰りに,A2の母の誕生日プレゼントとして花束を買って,手紙を添えて母の姉の玄関のドアノブに掛けておいた。

(3) 付添人は,本件犯行当日とA2の母の誕生日が同一であるということは極めて希有なことであり,そのためA2やA31の記憶は正確であるとした上で,犯行当日の午後9時ころにA2がA31を叔母の家まで迎えに行っていたとすれば,A2が本件犯行時間帯に犯行現場にいたことと矛盾するとして,A2にはアリバイが成立する旨主張する。

しかし,A2は,本件犯行時刻ころに自宅でテレビを見ていた事実について,接見に来た弁護人からテレビ番組表を見せてもらって思い出したと説明するが,テレビ番組の内容については,後にビデオで見たり,第三者から番組内容を聞くことによっても覚知可能な事実であり,A2の犯行当時のアリバイを確定付ける事情ではない。そして,A2及びA31証言の他にA2のアリバイを客観的に裏付ける事実は存在しない。

また,A31を車で迎えに行った時刻についても,午後9時から午後10時までの間と幅があり,A2自身,前述のように午後9時を回ったころに自宅を出発し,A31の所に到着したのは午後9時半ころであったというのであるから,A2が本件犯行時間帯に犯行現場にいたこととは矛盾しない。

むしろ,A2の携帯電話の通話履歴(検244)によれば,A2は,本件犯行当日は,午前9時24分から午後6時41分まで,ほとんどひっきりなしにメール等を利用していた事実が認められるが,本件犯行前後の時間帯は,午後8時15分に1回メールを送信しているだけで,その後,午後10時29分まで携帯電話の利用が認められないところ,このような事実は,上記公判供述よりも同人が本件非行に及んでいたことと符合する事実である。

したがって,A2のアリバイは認められないから,この点に関する付添人の主張は採用できない。

第8共犯者以外の関係者(A12,A7)が自白していること

付添人は,本件においては,結果的に本件非行に関与していないとされたA12やA7についても,捜査段階において,本件非行への関与を認める自供書が作成されており,このことは本件の捜査過程において,違法かつ不当な取調べがなされたことの証左である旨主張しており,この点については,確かに,本件非行への関与を窺わせる内容のA12の5月25日付け(弁8,9),6月2日付け(弁10)自供書及び,A7の5月21日付け自供書(弁11)が,それぞれ存在する。

そして,A12は,公判廷において,別件の自転車の占有離脱物横領により任意同行を求められて取調べを受けた際,担当警察官から本件非行について聞かれ,当初否認していたところ,同人から相当な力で髪の毛を掴まれる,首を絞められる,「殺す」などと脅迫される,マクドナルドにいたことが隠しカメラに写っていると言われるなどされたために,やむを得ず本件非行への関与を認める供述をした旨証言する。

しかしながら,前述のように,少年及びA3は,捜査段階の初期から本件非行への関与を認める供述をしていたもので(少年は5月20日,A3は5月19日の段階で,それぞれに自己の本件への関与を認める供述を始めていた。),その後に作成されたA12やA7の自供書が,真実に合致しない事実を含む内容のものであったからといって,直ちに少年らの供述の信用性が損なわれることにはならない。

また,このような自供書が作成された後の捜査の経過を見ると,A12については,同人が警察官を本件犯行現場に案内できなかったこともあって,警察内部においても,本件非行への関与が疑問視されるようになり,それ以上詳細な捜査は実施されておらず,A7についても同様に,同女を本件非行の共犯者として扱う形での捜査はなされなかった。

このような捜査の進展状況に照らすと,捜査機関は,A12やA7から一旦本件への関与を窺わせる自供書は得たものの,その信憑性については,慎重に判断していた様子が窺われるのであって,そうだとすると,捜査の過程において,A12やA7が,本件非行への関与を認めるに至った理由については,必ずしも明らかではないものの,付添人の主張するように,それが捜査機関の違法かつ不当な捜査によるものであるとは認められない。

したがって,この点に関する付添人の主張には理由がない。

第9結論

以上検討してきたように,当裁判所は,主として,少年,A3,A4の検察官調書の供述,A3の別件審判供述,A4の審判証言などは,信用性が高いのに対して,これに反する少年の審判及び公判供述,A3の本件審判証言,A3,A4,A2,A1らの公判証言は,不自然,不合理であって信用できないことなど,本件各証拠上に現れた諸般の事情を総合考慮の上,少年が,本件非行を犯したと認定した。

そして,この判断は,付添人の意見書で主張されているその他の点を逐一検討してみても左右されない。

(適用すべき法令)

刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の同法240条前段(236条1項)

(処遇の理由)

本件非行は,当時,中学3年生であった少年が,成人共犯者や実兄を含む不良仲間らと共謀の上,路上強盗に及び,その際,加えた暴行により年輩の被害者に重傷を負わせたという強盗致傷の事案である。

利欲的かつ自己中心的な犯行の動機に酌むべき点は全くなく,計画性があり,犯行態様は悪質である。被害者には,もとより何らの落ち度もないところ,本件により長期療養を余儀なくされており,同人の被った精神的,肉体的苦痛は察するに余りある。少年は,第14回審判における当裁判所の事実認定の心証開示後も,本件非行を否認して争っており,少年側から被害者に対して,金銭的な慰謝の措置は全くなされていない。近時,若者による「おやじ狩り」と称する路上強盗が社会問題化しており,本件非行が地域社会に与えた影響も軽視できない。

したがって,少年の責任は重い。

少年は,中学1年生1学期途中から不登校となり,中学2年生ころからは,夜遊びをして,窃盗,原動機付自転車の無免許運転などの非行にも関与するようになり,本件非行もそのような不健全な生活状況の下で行われており,少年の要保護性は高かった。

鑑別結果報告書及び少年調査票によれば,少年の資質上の問題点として,気弱,臆病で,他者に依存的な面がある反面,自己の弱小感,劣等感などから目を背けがちで,強がって調子に乗り易く,自己抑制が利かずに衝動的に行動してしまう傾向があること,衝動的に行動した後に自分で軌道修正することが困難であり,かえって頑なになってしまい,柔軟に対応することができないことなどが指摘されている。

少年は,観護措置決定取消後,それまで登校していなかった中学校に登校するようになり,中学校卒業後は,定時制高校に進学するなどしたが,短期間で高校を休学し,その後は就労も安定しない状態に陥っており,上記資質上の問題点はいまだ改善されてはいない。

実母は,このような少年の問題点を軽視し,結果的に放置して,問題性の改善のための有効な手だてを講じてこなかったもので,保護者の監護力は十分ではない。

そうすると,本件犯行における少年の関与の程度は,他の共犯者に比して従属的であること,過去に家庭裁判所への係属歴はないこと,少年は,観護措置を含めた本件の一連の審理手続を,従前の生活態度を反省する良い機会になったと受け止め,観護措置取消後は,前記のように,決して十分とは言えないものの,少年なりに生活改善に向けた努力をし,再非行にも及んでいないこと,実母が,少年に対する指導を約していることなどの諸事情を十分考慮したとしても,少年に対しては,少年院における矯正教育を選択せざるを得ない。

ただし,処遇期間については短期間とするのが相当であると思われるので,別途,その旨勧告する。

したがって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用し,主文のとおり決定する。

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