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大阪家庭裁判所 平成16年(少)953号 2004年4月14日

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、A及びBと共謀のうえ、通行人から金員を強取しようと企て、平成15年10月10日午後10時35分ころ、兵庫県宝塚市○○町××番××号先路上において、同所を通行中のC(当時43歳)に対し、「おっさん、おっさん待たんかい、金をだせ。」等と申し向けて金員を要求したが、同人がこれに応じないので、所携の脇差様の刃物で同人の背中及び右腕等に切り付け、更に、顔面等を手拳で殴打する等の暴行を加えて、同人の反抗を抑圧したうえ、同人所有の現金約5400円及びキャッシュカード1枚他4点在中の財布1個(時価合計約1500円相当)を強取し、その際前記暴行により、同人に約2週間の加療を要する背部切創、右上腕切創の傷害を負わせたものである。

(法令の適用)

刑法60条、240条前段

(処遇の理由)

本件は、夜間不良仲間と共謀して、刃物を用いて通行人から現金等を強取したうえ、傷害を負わせた悪質・凶悪な路上強盗である。強盗の動機はガソリン代欲しさで酌量の余地がなく、少年は共犯者の提案に躊躇なく同調し、刃物の準備を持ちかけ、実行場面では刃物で無抵抗の被害者に切り付けるなど積極的に行動しており、少年の責任は極めて重い。

少年は、早期に両親の離婚により父と離別し、母からは放任されるなど不安定な家庭環境下で、しつけ指導をはじめとした教育的な関わりを十分に受けられなかったことを背景に、中学生のころから喫煙、怠学、原動機付自転車の窃盗・無免許運転、自転車盗、暴力行為などの問題行動が見られ、平成12年高校に入学したが、同級生との暴力事件で1か月で退学となり、以後低調な生活を送る中、恐喝、暴走行為、シンナー吸引など問題行動を繰り返し、平成14年3月27日監禁、占有離脱物横領保護事件で少年鑑別所入所を経て保護観察決定、同年8月2日強盗致傷、強盗、恐喝保護事件で少年鑑別所入所を経て中等少年院送致(一般短期処遇)決定に付され、収容期間が3か月延長されて平成15年4月3日和泉学園を仮退院した。仮退院後、型枠大工、塗装工などの就労を始めたが、次第に怠業がちになり、一方では、手首などに刺青を入れたり、シンナー吸引、無銭飲食、家出をするなど問題行動に歯止めはかからず、本件非行を引き起こした。

本件事案の重大性、少年の関与度、少年の年齢、少年に少年院収容歴があることなどから、本件を検察官に送致することも十分考えられるが、本件非行が、母子関係のつまづきから家出に至ったことが引き金になっており、金銭利得よりも仲間内で虚勢を張って積極的に行動したことなど保護不適・保護不能とまでは言えないので、保護処分に付するのが相当である。

鑑別結果通知書によれば、少年の問題点として、社会的な判断力や自己統制能力の不足が顕著で、少年にとって非行や不良顕示的なあり方が仲間の承認を得るとともに、自信を維持し、無力感を埋め合わせる唯一の手段になっているため歯止めが効かず、家庭で孤立し、社会にも安定できる場を持たないまま、反社会的な態度を強めていると指摘されている。

少年の抱える問題点、保護環境、犯罪傾向が進んでいること、中等少年院収容歴があることなどから、今回は、少年を特別少年院に収容し、厳しい教育と訓練を施すことによって犯罪性の改善に努めさせるとともに、自己の抱える問題点を自覚させたうえで、これを克服させ、社会のルールに従い、粘り強く生活するために必要な態度と技術を身に付けさせるための矯正教育を施すことが相当である。そして、本件非行態様が悪質であること、少年の人格や価値観の偏りが非行と深く結びついており、対人関係で信頼関係を築いたり、関係を長続きさせることが困難であることなど、その問題改善にはかなりの時間を要することを考えると、通常の長期処遇に比して、相当長期間の処遇を実施するのが相当である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を相当長期の処遇勧告を付したうえ特別少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 村地勉)

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