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大阪家庭裁判所 平成19年(家)2638号 審判 2007年8月21日

申立人

○○児童相談所長C

事件本人

A

親権者母

B

主文

申立人が,事件本人Aを知的障害児施設(第一種自閉症児施設)に入所させることを承認する。

理由

第1申立ての趣旨

申立人が,事件本人を知的障害児施設(第一種自閉症児施設),情緒障害児短期治療施設,児童養護施設又は児童自立支援施設に入所させることを承認する。

第2事案の概要

本件は,事件本人の親権者である母が,事件本人の養育に当たり,育児を放棄し,健全な養育環境を整えて基本的生活習慣を身につけさせるという責任を果たさず,事件本人を不衛生な生活環境に置いたまま何らの改善もしないので,事件本人を施設に入所させ,事件本人に身辺自立の習慣及び自己表現力を身につけさせることが重要であるのに,母が施設入所に同意しないとして,申立人が,児童福祉法28条1項1号に基づき,事件本人を施設(平成20年×月末までと入所期間を設定している知的障害児施設(第一種自閉症児施設)のほか,次の措置先とすることが適当であると考えられる情緒障害児短期治療施設,さらには,その後の措置先として検討している児童養護施設又は児童自立支援施設)に入所させることの承認を求めた事案である。

第3当裁判所の判断

1  一件記録によると,次の事実が認められる。

(1)  事件本人Aは,平成○年○月○日,事件本人親権者母Bの娘として生まれたが,父は,不明で,Aを認知していない。

(2)  その後,Bは,Aと2人で生活保護を受けて暮らしていたが,平成8年×月ころ,Aの首を絞めたり,叩いたり,風呂場やトイレに閉じこめたりすることがあったため,保育所からの通告によって,児童相談所がAを乳児院に一時保護委託した。

一時保護委託は,すぐに解除されたが,児童相談所の関与は継続された。

Bは,自宅で何匹も猫を飼っていたが,十分な世話をしないため,不衛生な状況であった。

(3)  平成12年×月ころには,Bから児童相談所にAが自宅の金銭を持ち出したり,勝手に家を出て迷子になることがあり,施設に入所させたいとの相談があり,Aは,一時保護された。

そのころ,Aには,Bから叩かれたことによると思われる痣が認められ,Aは,昼夜の逆転した生活を続けていた。

(4)  平成13年×月からAは,小学校に入学したが,遅刻が多く,朝食を摂らずに登校したりした。そして,小学校の担当者がBに接触できないことも多く,Aに痣があり,自宅も不衛生な状況であったことから,児童相談所は,Bに対して今後も暴力が続くようであれば,Aを保護せざるをえない旨警告した。

(5)  その後も通所指導が続けられ,BのAに対する暴力の兆候はほとんどなくなった。

しかし,Aは,小学校1年生のときには10日,2年生のときには40日欠席し,3年生のときには118日,4年生のときには170日,5年生のときには187日欠席して欠席日数が増加し,6年生のときには一時保護されるまでにわずか5日,しかも1時間程度登校したに過ぎなかった。Aは,日中は自宅におり,夕方から外出して夜中まで徘徊するといった昼夜逆転の生活を続けており,朝に起床できないことが不登校の一因となっている。Aは,小学校4年生のころには,夜に外出して深夜1,2時に帰宅することもあったが,これについてBは,よくある話だという態度であった。

また,Aは,月に1,2回程度入浴するのみで,同じ服を繰り返し着たりして,体臭がし,生理で汚れた下着もそのままの状態であった。

自宅には,飼い犬がいて,壁に排尿したりする状況であり,Bは,食器等の片づけをせず,よくコンビニエンスストアで買ってきた食事をしていた。

このような状況下で,Bは,Aの担任教師が家庭訪問をしても,全く面談しない状況であった。

(6)  Bは,平成18年×月以降,申立人の担当者からAの生活環境の改善がない場合には,Aを施設に入所させなければならない旨の注意を受けたが,生活環境の改善は見られなかった。しかし,Bは,Aを施設に入所させることについて同意しなかった。

(7)  そのため,申立人は,平成19年×月×日,BにはAの生活環境を改善する意欲もないとして,Aを一時保護し,同年×月×日,一時保護委託により知的障害児施設(第一種自閉症児施設)に入所させた。

(8)  Aは,基本的な生活習慣が身についておらず,施設に入所後も,トイレの後始末,入浴して身体を清潔に保つことや生理の手当ができず,下着が汚れたまま過ごしたりしていた。また,Aは,ほとんど人と話をせず,相手に極度に顔を近づけ,小さな声でぼそぼそと話をし,他人の問いかけに対し,自分の言葉で説明することができない状況にあり,他の子供と問題が生じた場合には,足で蹴ったり,手で叩くなどの暴力行為に出ることもある。

しかし,Aは,しばらく施設で生活する間に入浴も自ら希望するようになり,院内学級へも毎日通学し,表情も明るくなって,他の子供とも交流できるようになり,急速に,社会生活能力を向上させている。もっとも,Aは,自宅の方が自由だからという理由で帰宅を希望することもある。

また,Aは,現在,小学校4年生レベルの勉強をしている(なお,学力が低いのは,通学していなかったことが主な原因と思われる。)。

(9)  一方,Bは,申立人の担当者との接触も絶ち,家庭裁判所調査官の調査のための呼出に応じないばかりか,自宅を訪問しても接触ができない状況であり,本件審問期日にも出頭しなかった。

2  以上の事実によると,BのAに対する監護態度は極めて不適切であったと認められ,そのためにAは,昼夜の逆転した不規則な生活をして不登校となり,入浴回数も極端に少なく,不衛生な状態で生活してきたこと,しかし,Aは,平成19年×月×日に一時保護委託されて施設に入所後は,急速に,社会生活能力を向上させていること,Bは,学校関係者や申立人の担当者等との接触を避け,その指導に従わず,その改善も当面見込めないことが認められる。

そうすると,BにAを監護させることは,著しく児童の福祉を害することになり,Aには,知的面及び情緒面での治療的な関わりが必要と認められるから,これが可能な知的障害児施設(第一種自閉症児施設)に入所させるのが相当である。

Aは,帰宅を希望することもあるが,その理由は,自宅の方が自由だからという理由であり,現在は不登校もなく,表情も明るくなっていることからすると,Aの上記希望が,前記認定を左右するに足るものではない。

なお,申立人は,知的障害児施設(第一種自閉症児施設)については,平成20年×月末までと入所期間を設定していることを理由に次の措置先となることが想定される諸施設についての承認も求めるが,種々の事情から知的障害児施設(第一種自閉症児施設)での入所に期間の限定があり,次の措置先となる施設が予想されるとしても,情緒障害児短期治療施設,児童養護施設,児童自立支援施設は,それぞれ処遇内容が異なり,単に年齢のみによって区別されるというものでもなく,Aについて,なお知的障害児施設(第一種自閉症児施設)での入所を継続し,その結果を見た上で次の具体的な措置先を決定する必要があると認められるから,知的障害児施設(第一種自閉症児施設)の次の措置先につき承認を与えることは相当ではない。

3  よって,申立人の申立ては,Aを知的障害児施設(第一種自閉症児施設)に入所させることの承認を求める限度で理由があるから,主文のとおり審判する。

(家事審判官 小野木等)

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