大阪家庭裁判所 平成19年(少)2895号 決定 2007年9月19日
主文
この事件については,少年を保護処分に付さない。
理由
1 本件通告事実の要旨は,「少年は,平成18年8月に宇治少年院(平成17年6月に児童自立支援施設を無断外出中,不良仲間に指示されてコンビニ店でカップラーメン1個を万引きしたという窃盗1件により初等少年院送致されたもの)を仮退院後も保護者である母の正当な監督に服さず,家出をして,野宿したり,友人方を転々として寝泊まりしていたほか,不良仲間と盗難自転車に乗っていたところを警察官に発見されてもいるもので,このような行状は,少年法3条1項3号本文,同号イ,ロ,ニに該当し,このまま少年を放置すれば,その性格,環境に照らして,将来窃盗等の罪を犯すおそれがある。」というのである。
2 そこで検討するに,少年の保護事件記録,少年調査記録及び当審判廷における少年の供述によれば,少年が,①平成19年8月20日に保護者である母とけんかをして家出し,②その後は家に帰らず,友人方に泊めてもらうなどし,③同月26日午前11時ころ,盗難自転車に二人乗りしていたところを警察官に見付かって任意同行されたことがそれぞれ認められる。しかしながら,前掲の各記録及び少年の供述によれば,かねてから母の監護能力のなさが指摘されており,母自身,その不遇な成育歴等から相当偏った価値観・人格傾向を身に付け,自己中心の生き方をし,男性遍歴を重ねて8人の子(異父兄弟5人)を次々と生みながらその子らの養育に意を注ぐことがなく,乳児施設に預けるなど母親としての愛情ある適切な関わりが全くできておらず,母の暴力を含む虐待や養育放棄から子らが度々養護施設に保護されたり,子らが家出して問題行動を起こし,母が引き取りを拒否することも一因となって児童自立支援施設や少年院に収容されるという悪循環が続いている(むしろ,少年は施設に入所したいために非行に走ったとさえ述べている。)家庭状況にあって,今回も,母との根深い葛藤を抱える少年が,母の実弟が事実上経営する基礎工事の仕事にまじめに従事していたものの,その給料をすべて管理され,行動も支配されるなど不自由な生活を強いられることに不満を募らせていたところ,平成19年8月に入って母から仕事中の昼食代等を貰えなくなり,このことで話し合おうとしても取り合ってくれないため家を飛び出すに至ったもので,家を出てからは友人方に泊まらせてもらい,(2号観察中の)保護司とも連絡を取り合ってその状況を報告し,これからについて相談もしているほか,自活するために就職活動もしていたこと,そして,同月26日の午前中に仲間の溜まり場に出掛け,初めて顔を合わせた「B」と同人が乗って来た自転車を運転して帰る途中,二人乗りを注意しようとした警察官に止められた上,その自転車が盗難被害に遭ったものであることが判明して警察署に任意同行されたこと,その際,少年が警察官を見て逃走したことや自転車の鍵の解錠番号を知っていたことなどから盗犯の容疑を受けたが,結局,嫌疑不十分として帰されることになったこと,警察から少年の身柄引受けの依頼を受けた母がこれを頑強に拒否したため(本件観護措置取消しの際も同様の対応であった。),少年を保護する必要性が高いとして本件ぐ犯通告がなされたことがそれぞれ認められ,これら認定した事実に照らすと,上記①及び②の点については,むしろ母の監護の在り方に大きな問題があり,他方,少年がそれなりに適切な対処をしていることを考えると,少年に少年法3条1項3号イの「保護者の正当な監督に服さない性癖のある」とまではいえず,また,少年が家を出てからは保護司と連絡を取り合って現状を報告し,今後の相談をしている上,母の受入拒否の態度が頑なで,かなり厳しいものがあることからも,同号ロの「正当の理由がなく家庭に寄り附かない」とはいえず,さらに,同③の点についても,盗難自転車に乗ってはいたものの,盗犯の嫌疑は不十分とされたもので,同号ニの「自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のある」とまでもいえない,と解される。
そうすると,少年には通告にかかるぐ犯事由が認められず,他にぐ犯事由を構成する事実も認めることはできない。
3 したがって,本件については,少年に非行がないことになるから,少年法23条2項により少年を保護処分に付さないこととし,主文のとおり決定する。
(裁判官 大西良孝)