大阪家庭裁判所 平成19年(少)4476号 決定 2008年3月26日
少年
A (○○○○.○.○生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は,
第1 B,Cと共謀の上,平成19年8月15日午前0時20分ころ,大阪府○○市□□×丁目××番地北側路上において,同所を自転車で通行中のDが自転車前籠に入れていた同人所有の現金1万円位及び財布等18点在中の手提げカバン(時価合計6万1600円相当)をひったくり窃取した
第2 E,F,B,C,G及びHと共謀の上,上記Eらが勤務していた「□□○○」経営者I(当時58歳)から金員を強取しようと企て,平成19年9月6日午前11時30分ころ,△△市○○区□□×丁目×番×号□□○○△△店において,上記Bが,上記Iの顔面等をゴム製ハンマーで数回殴打し,少年及び上記Cが,こもごも,上記Iの身体を足蹴にするなどの暴行を加えてその反抗を抑圧した上,同店前路上に駐車していた,上記I所有又は管理に係る現金約40万5000円及びセカンドバッグ1個ほか約28点積載の軽四輪乗用自動車1台(時価合計約23万1000円)を強取し,その際,上記暴行により,上記Iに全治約1か月間を要する左頬骨骨折等の傷害を負わせた
第3 B,C及びJと共謀の上,窃盗の目的で平成19年9月19日午後1時30分ころ,△△市□□区○○×丁目×番所在の△△市営○○住宅××棟×××号室K方に,雨樋をよじ登り,無施錠のベランダ掃き出し窓から室内に侵入し,同日午後1時50分ころ,同所において,上記Kほか1名所有に係る液晶テレビ等33点(時価合計69万円相当)を窃取した
第4 J,C及びLと共謀の上,平成19年9月11日午後0時55分ころ,大阪府○○市□□△×丁目×番○○市JR△△△駅南自転車駐車場において,M所有に係る第一種原動機付自転車1台(時価30万円相当)を窃取した
第5 J,C及びLと共謀の上,平成19年9月11日午後1時ころ,大阪府○○市△△×丁目×番××号○○△△店駐車場において,N所有に係る第一種原動機付自転車1台(時価6万円相当)を窃取した
第6 J及びCと共謀の上,平成19年10月1日午後7時03分ころ,△△市○○区□△×丁目×番××号西側路上において,同所を自転車で通行中のOが自転車後籠に入れていた同人所有の現金1万6900円位及び財布等21点在中のボストンバッグ(時価合計11万4100円相当)を窃取した
ものである。
(適用すべき法令)
第1,第4ないし第6の各事実について,いずれも刑法60条,235条
第2の事実について,刑法60条,240条前段
第3の事実について,刑法60条,130条前段,235条
(処遇の理由)
1 少年は,小学校時代から万引きなどの問題行動を散発させ,平成15年11月(中学2年時)に万引きで審判不開始となり,平成17年7月(高校1年時)には本件共犯者であるCと共謀の上,路上で年下の子から現金を喝取したという恐喝保護事件で,観護措置と約4か月間の在宅試験観察を経て,平成18年1月に保護観察に付された。同保護観察は,平成19年1月に解除されたのであるが,翌2月と7月の2度にわたり,多数の暴走族構成員と共謀の上,共同危険行為を敢行したことから,観護措置を執られた上,同年11月に中等少年院に送致されるに至った(前件)。
本件は,平成19年8月から10月に敢行された前件の余罪であり,少年が地元の不良仲間と共謀の上,ひったくりを繰り返したという窃盗(上記第1,第6),給料を支払わないとして経営者に暴行を加えて,現金40万円余りを強取するとともに,同人に全治約1か月間を要する傷害を負わせたという強盗致傷(上記第2),知人の家に侵入して,手当たり次第金目のものを盗み出したという住居侵入,窃盗(上記第3)及び,原動機付自転車合計2台を盗んだという窃盗(上記第4,第5)の各事案である。
2 少年は,前件共同危険行為の共犯者から,警察から逃げ回るための逃走資金を手に入れるためにひったくりをしようと誘われるや,「ばれなければいい」などという短絡的かつ自己中心的な考えで,平成19年8月上旬ころから,ひったくりを繰り返すうち本件ひったくりに至った(非行事実第1,第6)。少年らは,原動機付自転車の運転役や後部座席の実行役などの役割分担を決めた上,女性に狙いを付けて被害者を探し回り,ひったくりをしては現金を共犯者と案分して遊びに使っていたのであって,少年の罪障感の乏しさ,この種非行の常習性には看過できないものがある。
次に,少年は,成人の共犯者から給料を支払わない被害者に暴行を加えて現金を強取しようと誘われるや,自ら地元の不良仲間に声を掛けて人数を集めて,本件非行に及んだ(非行事実第2)。少年は,共犯者がゴム製ハンマーで被害者の顔面を数回殴打したのを目の当たりにした上で,さらにその腹部を数回足蹴りするという暴行を加え,分け前として5万円を取得している。被害額は現金40万円余り等多額であるし,傷害結果も全治約1か月間を要するという重いものであり,少年も重要な役割を果たしていることからすると,少年が負うべき責任は大きい。
その後も,少年は,ひったくりよりも効率よく現金を取得する方法として,空き巣をしようと共犯者から誘われるや,以前部屋に入ったことがある同級生宅であれば犯行がやりやすいと提案して,本件侵入窃盗に至った(非行事実第3)。少年らは,あらかじめ雨樋をよじ登りベランダから侵入する役,玄関から侵入して窃盗を実行する役,見張りをする役などの役割分担を決めた上,手袋やドライバーを準備しており,かなり計画的な非行である。白昼堂々と雨樋を使って3階まで上ってベランダから侵入し,約20分ほどの間に,液晶テレビ,ブランド商品,貴金属など金目のものをゴミ袋数袋に詰め込み,見張り役と携帯電話で連絡を取り合いながら,人目に付かないように盗み出すなど,窃取方法も大胆で悪質である。少年らは,盗品を換金しており被害品は一部しか還付されておらず,被害額は小さくない。
加えて,少年は,率先して自分の原動機付自転車に部品を載せ替えるために原動機付自転車が欲しいなどと考え,生意気だと感じていた知人の原動機付自転車を盗み出し,その直後にも,たまたま目についた原動機付自転車を盗み出した(非行事実第4,第5)。窃取方法は,先にキーボックスだけ盗み出して合い鍵を作り,これを使って原動機付自転車を持ち出すという手の込んだものである。
以上のとおり,少年の非行は前件の道路交通法違反から,強盗致傷,住居侵入,窃盗と多岐にわたるとともに,その内容も次第に悪質になっており,少年の非行性は相当進行していると言わざるを得ない。
3 少年は,相当偏った生活観や価値観に基づいて,無軌道に非行を繰り返しており,粗暴な言動や規範を恐れない態度等が「強さ」であるなどと不良文化に依拠した行動傾向を身につけつつある。また,少年には試験観察や保護観察などの枠組みを与えられると,その中で表面的に適応するだけで終わってしまう面がある。さらに,前々件の試験観察等を経ても少年と両親との関係が希薄であり,両親は本件各非行について全く気が付いていなかった。
4 以上のとおり,少年の非行内容がより重大なものに深化しながら拡大の一途を辿っており,この点が前件の少年院送致決定では十分評価されていないこと,約1年4か月にわたる在宅試験観察及び保護観察によって少年の更生を図ることができなかったこと,少年の資質上の問題が根深いこと,保護環境が脆弱である一方,地元の不良集団との繋がりが緊密であることなどを総合考慮すると,少年については,改めて少年院に収容し,自己の行為に対する社会的責任を受け止めさせるとともに,専門的な矯正教育の下,規範意識の涵養と資質上の問題の改善を図る必要がある。そして,これらを十分に実施するためには通常に比べて相当長期の処遇期間が必要と考える。
5 よって,「通常の長期処遇に比して,相当長期の処遇を実施されたい」との勧告を付した上,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし,主文のとおり決定する。なお,訴訟費用(ただし,平成19年(少)第4476号,平成20年(少)第183号,第821号窃盗,住居侵入保護事件は除く。)は,少年法45条の3第1項,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して,少年には負担させないこととする。
(裁判官 堀田秀一)