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大阪家庭裁判所 平成21年(家)1695号 決定 2009年9月14日

主文

1  被相続人の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙遺産目録記載1の株式につき、相手方Y1は、a興産株式会社5,456株、b製罐株式会社56,000株、c産業株式会社6,945株を単独取得し、相手方Y2は、a興産株式会社2,728株、b製罐株式会社28,000株、c産業株式会社3,472株を単独取得し、c産業株式会社の1株は相手方Y3と共有取得し、相手方Y3は、a興産株式会社2,728株、b製罐株式会社28,000株、c産業株式会社3,472株を単独取得し、c産業株式会社1株を相手方Y2と共有取得する。

(2)  別紙遺産目録2宝飾品については、相手方Y1・2分の1、相手方Y2・4分の1及び相手方Y3・4分の1の割合で共有取得する。

(3)  (1)、(2)の遺産取得の代償として、相手方Y2は、申立人らに対し、それぞれ3692万2864円を、相手方Y3は、申立人らに対し、それぞれ3692万2864円をいずれも本審判確定の日から6か月以内に支払え。

2  鑑定人Aに支払った費用は、これを申立人ら2分の1、相手方ら2分の1の負担とし、その余の手続費用は、各自の負担とする。

理由

一件記録に基づく当裁判所の事実認定及び法律判断は、以下のとおりである。

1  相続の開始及び相続人

被相続人は、平成17年12月23日に死亡し、相続が開始した。

相続人は、被相続人の前妻の長女である申立人X2、長男である申立人X1、二男である申立人X3、被相続人の配偶者(後妻)である相手方Y1、その長男である相手方Y2及び長女である相手方Y3である(別紙相続関係図参照)。

2  被相続人の遺言と遺留分の減殺の意思表示

被相続人は、平成17年5月26日、公正証書遺言をした(甲1)。その内容は、相続分を以下のとおり指定するものであった。

相手方Y1 2分の1

相手方Y2 4分の1

相手方Y3 4分の1

申立人ら いずれも0

申立人らは、相手方らに対し、平成18年7月ないし同年9月にかけて、遺留分減殺の意思表示をした。

このように、被相続人が、相続人の一部に対して、相続財産全体に関して相続分の指定をした場合には、特段の事情のない限り、法定相続分を超過した指定相続分を受けた相続人が、遺留分を侵害された指定もれの相続人に対して、法定相続分の割合に応じて補填させるべきであると解するのが相当である。

その結果、当事者らの相続分は、以下のとおりとなった。

相手方Y1 40分の20

(法定相続分を超過した指定相続分ではないので、指定相続分のとおりとなる。)

相手方Y2 40分の7

相手方Y3 40分の7

申立人ら いずれも40分の2

3  遺産の範囲

被相続人の遺産は、別紙遺産目録記載のとおりであると認める。なお、申立人らは、当初、同目録記載の「1 株式 (3)c産業株式会社」の株式数を13,780株としていたが、これは相続税の申告書に基づき計算したものと思われる。その後、同会社における平成16年6月1日から平成17年5月31日期の被相続人の株式数が13,890株とする証拠(乙1)が提出されていること、被相続人が相続開始までのわずかな期間に上記株式を一部譲渡する事情が見当たらないことからして、遺産としては、13,890株とするのが相当である。

4  遺産の評価額

(1)  本件遺産分割の対象となる別紙遺産目録記載の株式(以下「本件株式」という。)の審判時における各価額について検討する。

ア  本件株式についての双方から提出された意見書(公認会計士B作成の甲8(以下「B意見書」という。)、公認会計士C作成の乙15(以下「C意見書」という。))及び鑑定結果(鑑定人は公認会計士A、(以下「A鑑定」という。))をまとめると、以下のとおりとなる。

遺産の表示

B意見書甲8

C意見書乙15

A鑑定

a興産(株)10,912株

6,219,130,720

247,462,336

571,286,848

b製罐(株)112,000株

501,939,200

79,520,000

159,376,000

c産業(株)13,890株

730,141,740

440,882,490

730,141,740

B意見書は、限定された資料に基づいたことを前提に、原則として、最も客観的な方法であるとして、純資産方式を採用している。資料が限定されており、評価も簡便に行っている。

C意見書は、最も客観的と考えられるとして、類似会社比準法を採用し、税法の類似業種比準法又は純資産方式を併用する方式も参考にして株価を算定している。C意見書については、B意見書において、a興産株式会社については、類似の会社を上場会社から見つけ出すのが困難である、b製罐株式会社も同族会社で株式の譲渡制限も付いているので、純資産方式が妥当である、類似会社比準法において、配当の比較をするのは会社の配当政策に依拠するので相当でない、非流通ディスカウントとして30パーセントを評価減とするのは流通性を前提としたもので相当でないなどと批判されている。

A鑑定は、基本的には、①a興産(株)とb製罐(株)については、時価純資産法と配当還元法による折衷方式により算定し、②c産業(株)については、時価純資産法を採用し、評価時点はいずれも平成21年2月16日である。

イ  そこで、以下、検討する。

まず、本件は、被相続人が、遺言において、相続分の指定を行ったことから、申立人らが遺留分減殺の意思表示を行い、その結果、相続分が、上記のとおりとなった事案である。この相続分に基づいて遺産を分割することになる。遺産分割は、原則的には現物分割であるが、特別の場合には、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物分割に代えることができる(家事審判規則109条。いわゆる代償分割)。したがって、代償分割の場合において、債務について遺産の分割方法という観点から検討すべきもので、申立人らがいったん取得した遺産としての株式を相手方らに売却する代償金という性質を有しているとまではいいきれない。

そこで、本件株式の価額について検討する。

B意見書は、自らも認めるとおり、限定された資料に基づいており、すぐには採用できない。

C意見書は、本件株式の会社がいずれも上場会社に匹敵するほど大きいとまではいえないこと、B意見書による批判内容からして、類似会社比準法を採用することにすぐには賛成できない。

A鑑定は、①のa興産(株)とb製罐(株)については、被相続人の有していた遺産である株式数からみて、経営権の移動がないと考えられるところから、配当還元方式を基本的に採用し、配当金の原資となる多額の剰余金を有していることから時価純資産法を加味している。非公開会社の株式評価として、大きく問題となることはない。②のc産業(株)については、被相続人の有していた遺産である株式は、議決権割合57パーセントであることから、時価純資産法を採用している。この点は、格別、問題はないといえる。

以上から、A鑑定を採用するのが相当である。

(2)  別紙遺産目録記載の宝飾品の評価額は、同記載のとおり、1611万円である。

5  相続分の算定

(1)  分割時の遺産総額

以上から、分割時の遺産総額は、14億7691万4588円となる(別紙計算書「①遺産の総額」欄参照)。

(2)  各相続人の現実の取得額は、別紙計算書「③取得すべき額(①×②)」欄のとおりとなる。

6  分割についての当事者の意見

(1)  申立人ら

申立人らとしては、相続分に応じた本件株式を取得することを希望する。

(2)  相手方ら

申立人らが、本件株式を取得することは認められない。申立人らは、もともと本件株式自体でなく、遺留分価額相当の金員を求めていた。本件株式の主体である3社は、いずれも非公開会社で、同族会社である。被相続人と相手方らは、これら会社の経営に関与してきていたが、申立人らはいずれもこれら会社の経営に関与してきていない。このような事情からして、本件株式は、そのすべてを相手方らにおいて相続し、相手方らが申立人らに代償金を弁済することにより解決されるべきである。

7  当裁判所の定める分割の方法

遺産の大半が、本件株式であること、a興産株式会社、b製罐株式会社及びc産業株式会社がいずれも同族会社で被相続人と相手方らが関与してきていたこと、申立人らにおいても代償金支払を求めていた経緯もあったこと(本件株式の鑑定をしたことは代償金支払を前提としている。)からすると、相手方らが、本件株式を相手方Y1・2分の1、相手方Y2・4分の1及び相手方Y3・4分の1でそれぞれ単独取得し(相手方Y1について、a興産株式会社5,456株、b製罐株式会社56,000株、c産業株式会社6,945株、相手方Y2について、a興産株式会社2,728株、b製罐株式会社28,000株、c産業株式会社3,472株と1株は相手方Y3と共有、相手方Y3について、a興産株式会社2,728株、b製罐株式会社28,000株、c産業株式会社3,472株と1株は相手方Y2と共有)、別紙遺産目録2宝飾品については、相手方Y1・2分の1、相手方Y2・4分の1及び相手方Y3・4分の1の割合で共有取得し、その代償金を申立人らに支払うこととするのが相当である。

代償金の額は、別紙計算書「⑥相手方らが申立人1人当たりに支払うべき金額(1円未満切り捨て)」欄記載のとおりである。上記代償金の支払能力については、別紙遺産目録記載の遺産以外について、かなりの遺産が分割済みであることから、格別問題はないと考えられる。ただ、代償金額が大きいことから、支払を本審判確定の日から6か月間猶予するのが相当である。

8  手続費用の負担

手続費用のうち、鑑定人Aに支払った費用は、申立人ら2分の1、相手方ら2分の1とし、その余の手続費用は、各自の負担とするのが相当である。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 横山光雄)

(別紙)相続関係図<省略>

遺産目録<省略>

計算表<省略>

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