大阪家庭裁判所 平成21年(少)2750号 決定 2009年10月19日
少年
A (平成○.○.○生)
主文
本人を中等少年院に送致する。
少年院に収容する期間を平成21年10月19日から1年間と定める。
理由
(ぐ犯事由及びぐ犯性)
本人は,平成18年10月31日に大阪家庭裁判所堺支部において中等少年院送致(一般短期処遇勧告付き)の決定を受けてa学園に入院し,平成19年4月23日に同学園を仮退院した(平成21年8月28日に期間満了により仮退院に伴う保護観察終了)ものであるが,この保護観察中の同年4月14日に換金目的のマンガ本万引き窃盗事件を起こし,同年8月20日に大阪家庭裁判所において新たに保護観察決定を受けたにもかかわらず,生活費に窮する中,同年9月11日にさらに換金目的のマンガ本万引き窃盗に及び,同月14日には放置自転車をほしいままに乗り去ろうとした。
本人は,家賃滞納により住んでいたアパートを追い出され,両親も本人の監護に消極的なことから実家で生活することもできず,野宿したり友人方で生活するなど住居不定,無職の状況にある。
以上のような本人の行状によれば,本人は,自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖があって,このまま放置すれば,その性格及び環境に照らして,将来窃盗等の罪を犯すおそれが高い。
(法令の適用)
少年法3条1項3号本文,同号ニ
(処遇の理由)
本件は,保護観察中の本人について,更生保護法68条2項により少年とみなされ,同条1項によって,保護観察所長からぐ犯通告された事案である。
本人は,平成17年4月に高校に進んだものの,非行や家出を繰り返し,平成18年6月には原付窃盗の非行で保護観察決定を受け,平成18年10月には侵入窃盗等の非行で前記のとおり中等少年院送致(一般短期の処遇勧告付き)の決定を受けた(なお平成19年12月には家出中のカッターナイフ所持等のぐ犯で別件保護中を理由とする不処分決定)。本人は,同年4月の中等少年院仮退院後実家に戻り数か所で就職したものの,いずれも長続きせず,同年11月ころには家出し,平成20年8月ころからはホームレス状態となり,同年11月には担当保護司の勧めで更生保護施設○○に入寮したものの,就職のあてがあるとして2週間で退寮した。本人は,この就労先は2~3日で辞め,数か所での短期就労後,前回のマンガ本万引きの非行に至った。この万引き当時(平成21年4月14日),本人は,家賃の継続支払を条件として前の仕事先の借り上げアパートに居住し,コンビニでアルバイトに就いていたが,給料前で金がないとし,換金目的で16冊のマンガ本を万引きした。本人は,同年8月20日のこの前件非行による審判において保護観察に付されたが,直後の同月末ころコンビニを解雇され,家賃不払でアパートも追い出され,住居不定,無職となったなかで同年9月11日に前件同様換金目的でのマンガ本21冊の万引きに及んでいる。この非行については,父は引受を拒んだが,連絡を受けた担当保護司が出向き,代金の約半分を負担して買い取り(約半分は本人が所持金で支払い,マンガ本は本人が換金処分),被害届は出されなかった。本人は,その後も同様の生活を続け,同月14日には,付き合いのあった女性と路上にあった自転車に乗ったところを職務質問されている。
本人は,中等少年院仮退院後ほとんど実家に寄り付かず,すでに2年余り保護観察を受けているが,真剣に保護観察による指導を受ける姿勢はなく,担当保護司等に不満を述べたりする一方,他方では金を無心するなどしており,保護観察による指導は限界に達している。父母は,前回保護観察決定後も就職用の履歴書用紙購入のためという金を渡すなどしてはいたが,度重なる本人の不良行状にあきれて引き取りの意思はないし,本人もまた,実家に戻る意思はない。
本人については,幼稚な自己中心性が強く対人協調性に乏しい,被害意識が強く他罰的である,自己保全のための虚言が多い一方で受容的な者に対しては過度に依存的である,基本的な生活習慣が身についておらず根気がない,口先だけで無計画,無責任な行動が続いている,万引き等の犯罪行為についての罪障感が乏しいなどの指摘がなされている。就労が長続きしないこと,場当たり的な生活状況,そのなかで極めて安易に万引き窃盗を繰り返していることの背景として,この指摘は正当である。
本人は,コンビニは整理解雇された,就労活動をしており,ホストクラブに採用されたところであった,今後は更生保護施設に入寮して就労先を探すなどと供述しているが,このホストクラブは確認できないなど,本人の供述は必ずしも全面的に信用しにくいし,なによりも,従前の生活状況に照らすと,今後も就労や生活は不安定で,金に窮すると安易に万引き等の犯罪に及ぶおそれは高いといわざるを得ない。なお,本件では,保護観察の遵守事項違反を理由とする警告から入る施設送致申請の手続(更生保護法67条)によらず,同法68条の手続によっているが,前記本人の状況によれば,再度窃盗等の犯罪行為に及ぶことを防止するための緊急の必要性があったといってよいと解される。
本人はすでに成人に達しており,従前中等少年院送致の処分歴(ただし一般短期)を有するが,上記のとおり幼稚な自己中心性が強い等の問題を抱えているものの,今のところ非行集団への帰属や反社会的不良文化の取り込みは特に見受けられないので,少年院に収容して矯正教育を施すことにより,規範意識の涵養,基本的生活習慣を身につけさせること,職業訓練によって安定就労を図ることが期待できると思われる。
そうすると,長続きしないとはいえ本人に就労経験はあること,非行も万引き等にとどまっていることなどの事情を考慮しても,本人を再度中等少年院に送致するのが相当である。そして,少年院に収容する期間は,長期処遇の標準的収容期間に準じて,本決定の日から1年間と定めるのが相当である。
よって,更生保護法68条1項,2項,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用し,本人を中等少年院に送致することとし,更生保護法68条3項により,少年院の収容期間を本決定の日から1年間と定める。
(裁判官 小島正夫)