大阪家庭裁判所 平成22年(少)1519号 決定 2010年7月23日
少年
A (平成7.○.○生)
主文
少年を初等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は,平成22年6月27日午後5時31分ころ,東京都○○区○○△丁目△番△号××□□所在の○○△△店内において,同店店長××管理にかかるマンガ本8冊(販売価格合計3352円)を窃取したものである。
(法令の適用)
刑法235条
(処遇の理由)
1 本件は,児童自立支援施設□□学院在院中の少年が,同院を脱走し,単身上京した上,マンガ本を万引き窃取した事案である。
事案は単純で比較的軽微といえるが,少年は,無一文で□□学院を脱走し,あてもなく無賃乗車で上京し,夜を待って泥酔者の懐中狙いをしようなどと考え,それまでの時間つぶしのためにマンガ本を万引きしたというのであり,少年の要保護性は高い。
2 少年は,小学校低学年時に父母が別居し(その後離婚),以後育児放棄的な実父の下で養育され,万引きを繰り返し,実父に体罰を加えられたりするなど不安定な生活を送った。少年は,小学校卒業とともに実母方に引き取られたものの,アルコール依存の実母,高圧的で体罰を振るう実母の再婚相手(継父)の指導に従わず,家財持ち出し,万引き,家出等の問題行動を繰り返し,さらに酷い継父の体罰を招くことが続いた。少年は,平成21年12月に家出して上京し,万引きなどで生活していたところを保護され,平成22年2月1日には児童養護施設(○○寮)に入寮した。しかし少年は,入寮後間もなく無断外出を繰り返し,同月12日,他の寮生らと原付窃盗の非行に及び,同年3月17日,観護措置を経て児童自立支援施設送致の決定を受け,□□学院に入院した。少年は,同院内で所属した野球部の活動には熱心であったが,職員や寮生に対する暴行等で3度の謹慎処分を受けるなど,生活態度は不良で,同年6月26日の昼ころ同院を脱走し,何のあてもないままに上京した上,本件非行に及んだ。
少年は,□□学院脱走の理由として,在院しても何のためにもならない,同院を出ても何も生活は変わらない,ストレスが溜まって事件を起こすかもしれないと思ったなどというが,自己の抱える問題点を見据えようとしない極めて身勝手な考えである。本件非行そのものについても,暇つぶしのために罪悪感や抵抗感もなく万引きに及んでいるのであって,酌むべき事情はない。
3 少年については,劣悪な家庭環境で被虐待体験を重ねてきたことから,対人不信感やひがみが強く,気分や行動が著しく刹那的,不安定である上,人との関わりを求める気持ちは強いがしつけ不足等から協調できず,社会性の乏しさも顕著であるなどとの問題点が指摘されている。少年は,今回の観護措置中にあっても,不満を鑑別所職員に向けて暴行に及んだり,指導や決まりに従わず,反抗的な態度や好き勝手な生活態度に終始しており,少年の抱える問題は根深く,その矯正指導には相当の困難が予想される。
4 保護環境をみると,少年の実母・継父,実父・実兄に対する嫌悪感は激しいし,実父母も少年を引き取る考えはなく,鑑別中の面会も当審判への出席もなかった。同人らの監護に期待はできない状態であるし,他に期待できる社会的資源も見あたらない。
5 そうすると,少年にとって酌むことのできる事情,すなわち,少年の生育歴が不遇であること,潜在的な能力は高いと窺われること,本件の非行自体は比較的軽微であること,今回の審判廷では,実父母らの出席のなかったこともあって,落ち着いた態度がみられ,将来は学校を出て就職し普通に暮らしたいと述べていることなどの事情を考慮してみても,少年については,強い枠組みの中で,社会適応力,感情統制力を養い,規範意識を高め,自立能力を身に付けさせる必要性が高い。
6 よって,少年を初等少年院に送致することとし,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して,主文のとおり決定する。
なお,少年と実父,少年と実母との関係は著しく不良であり,社会復帰の際の少年の帰住先等について懸念は大きいので,別途環境調整命令を発することとする。
(裁判官 小島正夫)
〔参考1〕 環境調整命令書
平成22年8月5日
大阪保護観察所長殿
大阪家庭裁判所少年第2部
裁判官 小島正夫
少年の環境調整に関する措置について
氏名 A
年齢 14歳(平成7年○月○日生)
本籍 <省略>
住居 不定
職業 無職(中学生)
当裁判所は,平成22年7月23日,上記少年について,初等少年院送致の決定をしましたが,下記のとおり,その環境調整に関する措置が特に必要であると考えますので,少年法24条2項,少年審判規則39条により,下記の措置をとられますよう要請いたします。
なお,詳細については,別添の決定書謄本並びに鑑別結果通知書及び少年調査票の各写しを参照してください。
記
1 環境調整に関する措置
少年が少年院を出院するに際し,適切な帰住先を確保すること
2 措置が必要な理由
少年は,小学校低学年時に実父母が別居し(その後離婚),育児放棄的な実父の下で養育され,万引きを繰り返すなどして幼少期を過ごした。中学進学後は,実母方に引き取られたが,アルコール依存の実母と高圧的で体罰を行う継父の下で養育される中,家財持ち出し,万引き,家出等の問題行動を繰り返した。
少年は,平成21年12月には家出して上京し,万引きなどで生活していたところを保護され,身柄付児相通告を受け,一時保護を経て児童養護施設○○寮に措置されたが,平成22年2月12日に他の寮生らとともに原付を盗み,同年3月17日,観護措置を経て児童自立支援施設送致の保護処分を受け,□□学院に入所した。
少年は,同院内で所属した野球部の活動には熱心であったが,生活態度は悪く,実父母の面会も拒否し続けていた。少年は,同年6月26日に□□学院を逃げ出し,無賃乗車して上京し,書店で漫画本8冊を万引きし,平成22年7月23日,観護措置を経て初等少年院送致の決定を受けたものである。
少年は,一貫して実母方に戻ることを強く拒んでおり,実母も,審判への出席を予定しながら当日連絡なく出席しなかったし,監護意欲を失っており,少年が更生しない限り当面かかわらない意向であることを考えると,同所への帰住には多大の困難が予想される。他方少年は,本件審判において,実父方に戻りたいと述べているが,真意であるかに疑問があるほか,中学進学以降交流も途絶えており,実父自身,現実的には少年を引き取るつもりはないと窺われ,従前の経緯からも容易にその関係が改善されるとは考えにくく,実父方への帰住についても,同様に困難が予想される。他に適当な帰住先も見当たらない。
したがって,少年の在院中の早期から,少年院と連携の上,実父母との関係調整を行う必要があり,これが功を奏さない場合には,年齢等にかんがみ,少年のためにしかるべき帰住先を確保する必要性が高いと考えられる。
(環境に関する措置の内容)
1 大阪保護観察所長は,少年の仮退院後の社会内処遇に支障を来さないよう,少年院と連携して,少年の更生状況を踏まえつつ,早期のうちから,少年の実父,あるいは実母に対し,家庭が適切な帰住先となり得るように指導,援助,あるいは働きかけを行い,これが困難である場合には,更生保護施設等適切な帰住先を確保できるよう手配すること。
2 大阪保護観察所長は,少年院と連携して,少年の更生状況を踏まえつつ,少年の実父,あるいは実母に対し,少年院での面会や手紙のやりとり等を通じて,少年との意思疎通を図り,関係改善に向かうよう促すこと。
以上