大阪家庭裁判所 平成25年(家)4744号 決定 2014年1月10日
甲乙丙事件申立人
X
上記代理人弁護士
伊藤妙子
利害関係参加人
Z
上記代理人弁護士
田中史子
甲事件未成年者
A(平成12年※生)
乙事件未成年者
B(平成17年※生)
丙事件未成年者
C(平成19年※生)
主文
1 甲事件未成年者,乙事件未成年者及び丙事件未成年者の親権者を,いずれも亡D(本籍・大阪府※)から申立人に変更する。
2 手続費用は,各自の負担とする。
事実及び理由
第1 事案の概要
1 本件は,申立人の元妻であり,甲事件未成年者,乙事件未成年者及び丙事件未成年者(以下,あわせて「未成年者ら」という。)の親権者母であるD(本籍・大阪府※。以下「D」という。)が平成25年※に死亡したことから,未成年者らの父である申立人が,未成年者らの親権者を申立人に変更することを求めた事案である。
2 本件に利害関係参加したZは,Dの母である。
第2 一件記録から認めることができる事実
1 申立人とDは,平成21年9月※,両名の間の長女A,長男B及び二女Cの親権者をいずれも母であるDと定めて離婚した。Dは,平成25年7月※,死亡した。
2 上記離婚後,Dは,住所地において未成年者らを養育していた。
申立人と未成年者らは,申立人とDの離婚後も,休日にはともに食事をしたり,遊園地等に出かけるなどの交流を続けていた。上記の父子交流の頻度は,平成22年の冬から平成25年4月にかけて,年間4回ないし5回程度である。
3 未成年者らは,Dが死亡した後,Dの母である利害関係人に引き取られた。利害関係人宅では,現在,利害関係人,その夫及び未成年者ら3名が生活している。
申立人は,Dとの離婚後の平成25年2月※,Eと婚姻し,現在肩書地において夫婦で生活している。
4 Dは,未成年者らの未成年後見人として利害関係人を指定する旨の平成25年3月10日付自筆証書遺言を作成し,同遺言書は利害関係人が保管していた。利害関係人は,当庁に対し,上記遺言書の検認を申し立て,当庁は,平成25年10月※,上記遺言書を検認した(当庁平成25年(家)第※号。以下,この遺言を「本件遺言」という。)。
同日,利害関係人は,未成年者らに付き親権を行う者がないため未成年後見人に就職した旨の戸籍上の届出をした。
第3 当裁判所の判断
1 親権者変更の可否
(1)上記認定のとおり,Dは,利害関係人を未成年者らの後見人に指定する遺言(本件遺言)をしているところ,利害関係人は,このような事実の下では,未成年者の親権者をDから申立人に変更することはできないと主張する。
利害関係人は,その理由を,未成年後見人の指定を遺言事項とし,その指定がない場合には裁判所が後見人を選任するとする民法の定めからすると,未成年後見人が存在しているのに親権者変更の手法によって未成年後見人の地位を奪うことは,後見人指定を遺言事項と定めた意味をなくするものであり,遺言を残して死亡した者の最後の意思を無にすることであって,遺言制度の趣旨にも反すると述べる。
(2)しかし,離婚の際に一方の親を親権者と定めることを要するのは,離婚した両親にとって親権を共同して行使することは事実上困難であるためであるから,親権者と定められた一方の親が死亡して親権を行う者が欠けた場合に,他方の親が生存しており,未成年者の親権者となることを望み,それが未成年者の福祉に沿う場合においては,親権者変更の可能性を認めることが相当と解される。そして,親権者による未成年後見人の指定がされているときでも,未成年後見制度が元来親権の補完の意味合いを持つにすぎないことに照らすと,親権者変更の規定に基づいて親権者を生存親に変更することが妨げられるべき理由はない。利害関係人は,そのような解釈は遺言制度の趣旨に反するというが,親権であれ,未成年後見であれ,未成年者の利益を重視して運用されるべきものであり,遺言による未成年後見人の指定においては,その適性を審査する機会が全く存在しないことにも照らすと,同指定がされたときには親権者変更の余地がないとすることは,却って未成年者の利益を害しかねないものと考えられる。したがって,利害関係人の上記(1)の主張は採用できず,最後に親権を行う者が遺言により未成年後見人の指定を行っている場合であっても,生存親は,上記最後に親権を行う者から自身への親権者変更を求めることができると解するのが相当である。
2 親権者変更の当否
(1)もっとも,未成年者らの親権者であったDが本件遺言によって利害関係人を未成年者らの後見人と指定した事実,利害関係人と未成年者らとの関係,申立人と未成年者らとの関係等は,未成年者らの親権者をDから申立人に変更することの当否を判断するに当たって重要な事実であることは否定しがたい。以下においては,上記を前提に,親権者の変更を求める申立ての当否を検討する。
(2)親が子に対する養育の意思を有しており,客観的な養育の環境も整っており,子が親との交流を円滑に行える状況にあり,親と暮らすことが子の意思にも沿うのであれば,最後に親権を行う者が遺言により未成年後見人の指定を行っているとしても,特段の事情がない限り,最後に親権を行う者から生存親への親権者変更を認めることが子の利益に沿うというべきである。
これを本件について見ると,一件記録によれば,申立人は未成年者らを監護養育することについて強い意欲を持っていること,申立人の現在の妻も未成年者らの養育に協力する旨を述べていること,申立人には十分な資力があり,居住環境も未成年者らの養育のために特段の問題はないこと,申立人と未成年者らはDが生存していた当時から一定の交流を重ねており,未成年者らに申立人又は申立人の妻を拒否する傾向はないこと,当庁家庭裁判所調査官の下で行われた申立人と未成年者らとの交流場面観察においても,未成年者らは申立人との自然な交流を行ったこと,未成年者らは申立人と暮らすことについて肯定的な感情を有していることが認められ,特段の事情がない限り,申立人の親権者変更はこれを認めるべきものと解される。
(3)そこで,上記特段の事情の存否について検討するに,本件では,未成年者らにつき最後に親権を行う者であったDが,自らの母である利害関係人を未成年者らの後見人に指定する遺言(本件遺言)を残しているほか,利害関係人は,申立人がDに対して暴力,精神的虐待等の行為におよんでいたこと,子育てのストレスが暴力に繋がるおそれがあることを指摘して,親権者を申立人に変更することは相当でないと主張する。
上記のうち,申立人の暴力について,確かに,申立人はDとの婚姻中,未成年者らの面前でDと揉み合いになったり,Dを羽交い締めにしたりしたことがあると認められるが,その程度については必ずしも明らかでなく,このことにより未成年者らが申立人に対して拒否反応を抱くに至っているとは認められない。また,本件遺言については,Dがこれを作成した動機は明らかでないが,その動機は申立人が再婚家庭において妻に暴力を振るっているとの誤った認識にあるとも考えられること,Dは申立人との離婚の後も先に認定した申立人と未成年者らの交流を容認しており,これからすると,Dは,同人なりに,申立人に対する一定の信頼を有していたと推認することができること等の事実に照らすと,本件遺言の存在を,親権者を申立人に変更することを妨げる事由とまで認めることはできない。
なお,利害関係人は,申立人が所持している平成25年※撮影のD方屋内の写真の入手経路について,申立人は違法不当な方法で同写真を入手したものであり,かかる行為をすることは申立人の親権者としての適格性に重大な疑問を生じさせると指摘する。しかし,上記写真の入手経路について疑問があるとしても,そのことが直ちに申立人の親権者としての適格性を疑わせる事情となるものではないというべきである。
(4)現在,未成年者らは利害関係人により監護養育されており,その監護養育に格別の問題点はない。しかし,上記に認定したところからすると,未成年者らの親権者は,Dから申立人に変更することが相当である。
3 結論
よって,主文のとおり審判する。
(裁判官 川谷道郎)