大阪家庭裁判所 平成25年(家)7620号 審判 2014年8月15日
申立人
X
相手方
Y
未成年者
A
未成年者
B
主文
一 本件各申立てを却下する。
二 手続費用は各自の負担とする。
理由
第一申立ての趣旨
未成年者らの監護者を申立人と指定する。
第二事案の概要
一 前提事実
本件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 申立人(昭和五九年○月○日生)と相手方(昭和五三年○月○日生)は、平成一七年×月×日に婚姻し、平成一七年○月○日に長男である未成年者Aが、平成一八年○月○日に長女である未成年者Bが生まれた。
相手方は、再婚であり、離婚した前妻との間に生まれたC(平成九年○月○日生。)及びD(平成一〇年○月○日生。)の親権者になっており、申立人、相手方、未成年者ら、C及びDの六人で住んでいた。なお、申立人は、C及びDと養子縁組はしていない。
(2) 申立人、相手方ら一家は、平成二四年×月、肩書住所地にある一戸建ての借家(以下「自宅」という。)に転居した。
(3) 申立人は、現在、介護老人保健施設で事務の仕事をしており、手取りで月額一五万円程度の収入がある。勤務は、通常午後五時で終わるが、遅出と呼ばれる日が月三、四回あり、その日は午前一一時四五分から午後八時までの勤務である。
相手方は、飲食店「a」に勤めていたが、平成二二年頃退職し、職を転々とした後、平成二五年×月から飲食店を営む会社(株式会社b)に勤務しており、手取りで月額二六万円程度の収入がある。
(4) 申立人は、相手方が職を転々とすることやパチンコなどの遊興費にお金を使うことなどから離婚を考えるようになり、平成二五年×月初め頃、双方の親を交えて話合いがされたが、まとまらなかったため、自宅を出て、近くの申立人の母親宅に住むようになった。それ以降は、概ね次のような生活が現在まで続いている。
申立人は、月曜日から土曜日までのうち、夕方相手方が不在で申立人の勤務時間が通常勤務(午後五時に勤務終了)の日には、買物をした後、自宅に行き、夕食の用意をして、未成年者らに食べさせるなどし、しばらく一緒に過ごし、午後九時ないし一一時頃に母親宅に戻る。相手方は、勤務を終えて午後一一時か一二時頃に自宅に帰宅する。
申立人の勤務が遅出(午後八時勤務終了)の日は、未成年者らは、申立人の母親宅に帰り、申立人の母親が作った夕食を食べる。申立人は午後九時頃帰宅するので、未成年者らを自宅に送り届ける。
相手方が仕事の休みの日や相手方が早く帰宅する日は、申立人が自宅に行くことはなく、相手方が未成年者らやC、Dの監護をしている。
日曜日は、原則として、第二及び第四日曜日は申立人が、第一及び第三日曜日は相手方が未成年者らと過ごしている。日曜日に申立人が未成年者らと過ごすときは、未成年者らは、土曜日の夜から申立人の母親宅に泊まる。日曜日に相手方と過ごすときは、家事や食事の準備を相手方と一緒にした後、相手方と外出することが多く、CやDが同伴することもある。
(5) 家庭裁判所調査官は、平成二六年×月×日に自宅で未成年者らと面接し、同年×月×日に当裁判所においてC及びDと面接した。その結果は、次のとおりであった。
Cは、申立人と相手方の不仲を機に、申立人のC及びDへの接し方が変わったと感じ、心を痛めていた。申立人への思慕や申立人に裏切られたような感覚、申立人と相手方の紛争に未成年者らが巻き込まれていることへのやるせなさ等、複雑な気持ちを持っていることがうかがえた。今後、家族六人で暮らしたいが、それが無理なら、きょうだい四人は離れたくない意思を示した。
Dは、申立人と相手方との紛争を冷静に見ており、申立人に対しても必要以上に悪感情を持つことなく、申立人と相手方が和合するのが一番良いと考えている一方、現在の曖昧な状況が続くことへの懸念や、申立人と相手方の紛争が続いていることへの苛立ちを感じていることがうかがえた。きょうだい四人は離れたくないという思いを語った。
未成年者Aは、家族や紛争に関する質問には一切答えず、質問の主旨をはぐらかすような回答をすることもあった。調査時、飼猫を激しく叩く行動も認められ、家族や紛争のことを話したくないという思いを持っていることがうかがえた。未成年者Aが明確に述べたのは、「家族みんなで暮らしたい。」という思いだけであり、未成年者Aは、家族の和合を望みながらも実現が難しいことを察し、紛争と向き合うことを避けているのかもしれない。
未成年者Bは、申立人と相手方との不仲を自分なりに分析し、相手方の態度が変われば家族の和合が実現するかもしれないという考えを述べた。未成年者Bは、家族全員への好意的な思いや家族の和合を望む気持ちを無邪気かつ率直に表現しており、本当に家族の和合が実現すると信じているのかもしれないが、一方、申立人と相手方の不仲という現実を受け止めることができず、和合が叶うと信じ込んで気持ちの安定を図っているのかもしれない。少なくとも、未成年者Bが申立人と相手方の不仲に心を痛め、寂しい思いを持っていることが確認できた。
(6) 申立人と相手方との間の夫婦関係調整の調停事件は、平成二六年×月×日に調停不成立となり、現在、当裁判所に離婚訴訟(当裁判所平成二六年(家ホ)第××号)が係属している。
二 当事者の主張
(1) 申立人
相手方は、「a」を職場の不貞行為が原因で辞めて以降、職場を転々としたが、生活態度等に変化はなく、ギャンブル等の遊びにお金を使うのを止めなかった。申立人は、眠れない日々が続き、やむなく別居するに至った。そして、現在の変則的な生活状況は未成年者らにとっても不安定なものであり、離婚訴訟で離婚が決まるまでの間、未成年者の監護者を定めるのが相当である。
監護者としては、①相手方は家事や育児ができないこと、②相手方は、喜ぶものを買い与えたりすることで、未成年者らの気を引きつけようとしていること、③申立人の母親宅は手狭であるが、申立人が未成年者らの監護者となった場合には、新しい住居に転居し、三人で居住するつもりであること、④C及びDとは別々に住むようになっても、未成年者らとの関係が絶たれるわけではないことなどからすると、監護者としては、申立人を指定するのが相当である。
(2) 相手方
本件において、未成年者の監護者を申立人と指定する必要はなく、むしろ指定することは未成年者らの福祉の観点から不当である。すなわち、①現在の監護状況はそれなり安定しており、未成年者らにとって望ましいといえる状態であること、②未成年者らは自宅を離れることを希望していないこと、③本件は離婚自体に争いのある事案であるところ、現状の共同監護状態を変更することは未成年者らの福祉に反することなどからすると、申立人による監護者指定の申立ては認められない。
第三判断
一 未成年者らの監護者を指定する必要性について検討する。
前記前提事実のとおり、現在は、申立人と相手方がほぼ同じ程度に未成年者らの養育監護をしているということができ、共同監護のような状態であるといえる。そして、申立人は、相手方の生活態度等について不満を述べるが、本件記録を検討しても、相手方の未成年者らに対する監護養育に大きな問題があるとは認められず、現在の共同監護のような状態はそれなりに安定していると評価できる。家庭裁判所調査官の調査において、C及びDは、家族が元どおりになるのが最も良いが、少なくともきょうだい四人は離れたくないと言い、未成年者らも元どおりを希望している。
こうした子らの心情や現在の共同監護のような現状からすると、現時点において、未成年者らの監護者として申立人と相手方のいずれかを指定することは、未成年者らが申立人と相手方の双方と触れ合える現状を壊しかねず、相当でないということができる。
二 以上のとおりであるから、未成年者ら監護者の指定を求める本件各申立ては理由がないのでこれを却下することとし、主文のとおり審判する。
(裁判官 大島眞一)