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大阪家庭裁判所 平成27年(家)758号 審判 2016年1月22日

申立人

A

B

申立人ら手続代理人弁護士

山根大輔

山口大

相手方

C

同手続代理人弁護士

大西欣也

主文

1  被相続人D(昭和3年○月○日生。本籍・<省略>)の祭祀財産(被相続人の遺骨)の取得者を相手方と定める。

2  手続費用は各自の負担とする。

理由

第1  申立て

1  被相続人D所有の祭祀財産(系譜・祭具・墳墓・遺骨)の承継者を申立人らと指定する。

2  相手方は申立人らに対し祭祀財産を引き渡せ。

第2  認定事実

本件記録によれば,次の事実が認められる。

1  被相続人D(昭和3年○月○日生。以下「被相続人」という。)は,昭和3年○月○日,父E(以下「父」という。)及び母F(以下「母」という。)の三女として出生した。母は昭和12年に死亡し,父は再婚した。被相続人は,経済状況や父の再婚相手との関係を気にした父の意向により,昭和14年に父の妹であるGと養子縁組をしたが,昭和44年に協議離縁した。被相続人は婚姻したことはなく,自ら料理店を経営して生活していた。

2  被相続人は,平成26年○月○日,死亡した。

その法定相続人は,別紙のとおりであり,申立人ら,H,I,J,K及びLの7人(以下「相続人ら」という。)である。申立人らは,被相続人の姉であるM(大正14年○月○日生。以下「M」という。)の子であり,被相続人の姪・甥に当たる。

相続人らは,被相続人の祭祀財産の承継者として,申立人らとする旨合意した。

3  Mは,実父母が同じであることもあって,被相続人とは継続的に親交があり,被相続人が営む料理店の手伝いに赴いたりしたことがあった。

被相続人は,平成20年頃に××ガンに罹患していることが判明し,病院に入院や通院したりするようになった。Mもその頃に××ガンに罹患し,申立人Bは,Mのほか,被相続人を見舞ったり,医師の説明に立ち会ったりし,被相続人が所有し居住していた□□所在のマンション(以下「本件マンション」という。)の区分所有者として必要な措置を講じたりしていた。また,申立人Aは,年に3,4回,本件マンションを訪問したりしていた。なお,Mは,平成26年○月○日に死亡した。

4  相手方(大正15年○月○日生)は,昭和39年○月にNと婚姻したが,Nは,平成9年○月○日に死亡した。

相手方は,被相続人とは親族関係にはないが,約45年前に知り合い,Nが死亡した後は,本件マンションを訪問し,被相続人と生活を共にしていたことがある(相手方と被相続人が本件マンションで生活していた日数については,相手方は月20~25日と主張し,申立人らは月数日であるとして主張しており,その点は本件全資料からは明らかではない。)。相手方は,被相続人とかなりの回数一緒に旅行に出かけたりしていたほか,被相続人との間で数百万円の金銭の授受をしていた(申立人らは被相続人が相手方に金銭の援助をしていたと主張し,相手方は相手方が被相続人に料理店経営の援助をし,その返還を受けたりしていたと主張している。)。

相手方は,近年,△△のために,杖をついて歩く状態である。

被相続人は,相手方との間で,相手方に対し被相続人のすべての財産を死後に相手方に贈与する旨の贈与契約書(乙8)を作成している(ただし,その効力については,申立人らと相手方との間で争われている。)。

5  相手方は,被相続人が死亡した際,葬儀業者に依頼し,喪主として被相続人の葬儀を主宰し,葬儀費用26万0440円を葬儀業者に支払った。また,被相続人の供養料として,住職に25万円を支払ったほか,位牌や戒名の手配をし,その費用を負担し,被相続人の遺骨を所持している。

6  申立人らは,被相続人の遺骨をO寺にあるM家の墓に埋葬することを希望し,相手方は,被相続人の遺骨をP寺に埋葬することを希望している。なお,P寺は合祀をする寺である。

7  被相続人は,仏壇,仏具,位牌等は所有していなかった。

第3  判断

1  民法897条1項本文は,系譜,祭具及び墳墓の所有権について,相続財産を構成せず,祖先の祭祀を主宰すべき者が承継することを定めている。系譜とは歴代の家長を中心に祖先以来の系統(家系)を表示するものであり,祭具とは祖先の祭祀,礼拝に供されるもの(位牌,仏壇等)であり,墳墓とは遺体や遺骨を葬っている設備(墓石,墓碑等)であるが,被相続人はこれらを所有していなかったのであるから,祭祀財産は存在しない。なお,被相続人の位牌については,相手方が,被相続人の死亡後に依頼して作成したものであり,相手方の所有に属することは明らかであって,被相続人の祭祀財産には当たらない。

以上からすると,被相続人については承継すべき祭祀財産は存在しないといえる。

2  被相続人の遺骨については,生前の被相続人に属していた財産ではないから,相続財産を構成するものではなく,民法897条1項本文に規定する祭祀財産にも直接には該当しない。しかしながら,遺骨についての権利は,通常の所有権とは異なり,埋葬や供養のために支配・管理する権利しか行使できない特殊なものであること,既に墳墓に埋葬された祖先の遺骨については,祭祀財産として扱われていること,被相続人の遺骨についても,本件の関係者の意識としては,祭祀財産と同様に祭祀の対象として扱っていることなどからすると,被相続人の遺骨について,その性質上,祭祀財産に準じて扱うのが相当である。したがって,被相続人の指定又は慣習がない場合には,家庭裁判所は,被相続人の遺骨についても,民法897条2項を準用して,被相続人の祭祀を主宰すべき者,すなわち遺骨の取得者を指定することができるものというべきである。

そこで,以下,被相続人の祭祀を主宰すべき者(被相続人の遺骨の取得者)の指定について検討する。

(1)まず,申立人らは,被相続人が祭祀財産の承継者として申立人らを指定していた旨主張するが,それを裏付ける書面はなく,本件全資料を検討してもその事実を認めることはできない。

(2)また,本件において,祭祀財産の承継者となるべきものについての慣習があると認めることもできない。

(3)そうすると,家庭裁判所が,被相続人の祭祀を主宰すべき者(被相続人の遺骨の取得者)を指定することになるが,その指定にあたっては,被相続人との身分関係や生活関係,被相続人の意思,祭祀承継の意思及び能力,祭具等の取得の目的や管理の経緯,その他一切の事情を総合して判断するのが相当である。

しかるに,本件においては,相手方は,被相続人とは親族関係にないものの,約45年前に知り合い,平成9年に妻のNが死亡した後,被相続人が居住している本件マンションを訪問し,少なくとも月に数日は生活を共にし,被相続人と一緒に旅行に出かけたりしていたほか,被相続人との間で数百万円の金銭の授受をしていたこと,相手方は,被相続人が死亡した際には,葬儀業者に連絡して被相続人の葬儀を主宰し,葬儀費用を負担し,被相続人の遺骨を現に所持し,位牌や戒名の手配をしていることなどからすると,被相続人との生活関係は緊密であり,被相続人としても,近年,生活の一定部分を相手方と共にし,相手方との間で多額の金銭の授受があったことなどからすると,相手方を信頼しており,遺骨についても相手方に委ねる意思を有していたと考えることができる。

他方,申立人らは,被相続人の姪・甥にあたり,近年,病院に被相続人を見舞いに行ったり,本件マンションの管理をしたりなどしているが,相手方と比較すると,被相続人との関係は希薄であるといえること,被相続人の葬儀を相手方が主宰することに異議を述べたり,自ら費用の負担を申し出たりしたことをうかがわせる資料はなく,それを是認していたと考えられることなどからすると,相手方との比較において,被相続人の遺骨の取得者とするのは相当でない。なお,申立人らは,相手方が被相続人の遺骨を納めることを予定しているP寺は合祀を前提としていることを問題視しているが,遺骨をどの寺に納骨するかは遺骨の取得者に委ねられており,遺骨の取得者の指定にあたっての判断に影響を与える事情とはいえない。

3  以上のとおり,被相続人の遺骨の取得者として,相手方を指定するのが相当であり,主文のとおり審判する。

(裁判官 大島眞一)

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