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大阪家庭裁判所 平成6年(少)307号 1994年2月18日

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(非行事実)

司法警察員作成の平成6年1月21日付け少年事件送致書記載の犯罪事実

(編略)のとおりである。

(法令の適用)

刑法235条

(処遇の理由)

1  本件は、少年が、平成6年1月、路上駐車中の車の中から現金4万円余など在中の手提げバック1個(時価合計約25万円相当)を窃取したという事案であり、少年は、本件直前にも、同様の車上窃盗を2回にわたり試みたが失敗した旨自供している。その犯行の動機は、同棲相手の女性が働いているにもかかわらず、少年が徒遊する生活を続けたため、少年としても同女の手前、生活費の捻出について苦慮していたところ、たまたま駐車中の車内から現金等を窃取する手口を思いついたというものである。

2  このように、本件そのものは偶発的な犯行であると一応認められるが、少年には、その動機と結びつく徒遊生活のほか、以下に述べるような非行その他の要保護性に関する種々の事情が認められる。

(1)  少年は、4歳のときに父母が離婚したため、姉とともに母方祖母のもとで養育された。小学4年生のころまでは、気弱で甘えの強い性格であったことから学校で苛められることが多かったが、同5年生になったころから、苛めを避けようとして年長不良者と結びつき、そのため夜遊び、怠学、家出などで素行が乱れ、祖母の手には負えなくなった。そこで、姉ともども母に引き取られたものの、少年の素行が改まらなかったため、母及び児童相談所の計らいにより、中学入学後まもなく教護院への入所措置がとられた。少年は、中学2年生のときに一旦自宅へ戻ったが、生活が不規則でまともに登校しなかったうえ、中学内の不良集団において中心的な存在となり、仲間を引き連れては傷害、恐喝などの非行を反復した。その原因については、少年の場合、情緒が不安定で感情の起伏が激しく、とりわけ自己の体面が傷つけられたと感じる場面において顕著な抑制力の欠如がみられること、不良集団の中で殊更粗野な言動を取ることによって心情の安定を図ろうとすることなど、小心で自信に乏しいその性格的な問題点が関係保護機関の間では一致して指摘され、これに対する母の監護も極めて不十分なものでしかなかった。そのため少年については、専門的かつ安定した監護状況のもとで、その性格的な欠点を矯正し、年齢相応の学力を身に着けさせる必要が認められたことから、昭和63年12月、家庭裁判所の決定により教護院へ送致された。ところが少年は、翌64年1月初めに教護院から無断で外出し、以後自宅にも戻らず単車を無免許で運転するなど従来同様の不良交遊を続けたため、平成元年2月には初等少年院へ送致(一般短期処遇)されるに至った。

(2)  少年は、平成元年7月、少年院を仮退院し、翌2年に中学を卒業して定時制高校に入学したが、ほとんど登校しないまま、同年6月には退学した。少年は、このころから右翼団体に加入して地上げや債権取立てなどの活動に従事するようになり、左半身に本格的な刺青まで施したうえ、相も変わらず恐喝、傷害などの非行を累行し、その後右翼団体からは脱退したものの、同4年初めころには、暴力団へ加入するに至った。少年は、その後、同年9月に、保護観察中であることを理由として前件(平成4年2月に少年が犯した傷害事件)につき不処分の決定を受けたが、前件発覚直後の1時期を除き、その前後の長期間にわたって保護観察所の指導を全く受けようとせず、暴力団への加入の事実などこの間の詳しい生活実態については、前件に関する家庭裁判所の調査時にも秘匿した。少年は、その後も、健全な就労生活を全く経験しないまま、詳細は不明であるものの、暴力団関係者としての生活を続けたことが窺われ、遅くとも同年暮れころから、少年が自供した分に限ってみても、同5年5月ころまで計50回前後にわたり覚せい剤の使用を続けた(少年は、同4年12月又は同5年1月ころには、姉に対し、覚せい剤の使用を止めるための相談をしたが、結局その使用を断ち切ることができなかった。)。少年は、同年6月、現在の同棲相手と知り合い、同女の就労によって生計を立てつつ、自らは徒遊を続け、前記のとおり本件等の窃盗を敢行するに至ったものである。

(3)  なお、当裁判所が平成5年6月から7月にかけて、少年とは直接関係のない覚せい剤の使用もしくは譲渡の罪により、それぞれ少年院に送致したB子及びC子の各供述調書(両名の各審判調書並びに検察官及び警察官に対する各供述調書)によれば、少年と覚せい剤との関わりは、単なる自己使用の域にとどまらず、その密売にまで至っていたことが推認される。すなわち、両名の供述を総合すると、同年前半の時期において、両名は、かねて顔見知りであった少年が覚せい剤の中毒者であり、その密売もしているとの噂を聞き、少年と偶然出会った際に覚せい剤を使用させてくれるよう依頼したところ、少年がこれに応じて、まず自分が使用した後、両名にも使用させたこと、両名は、これを契機にその後も20回くらいにわたり、時には現金の授受を伴う形で少年から覚せい剤を譲り受け、これらを使用したこと、少年が覚せい剤を入手する経路の1つに、Dなる売人が存在し、両名とも少年との関わりのなかでDと知り合うに至ったこと、以上の事実が推認される。少年は両名に対する覚せい剤譲渡の事実を否認するが、日時場所を異にして逮捕された両名の供述が捜査段階から一貫して、この点の核心部分では一致しているうえ、内容的にも特に不自然な点はないこと、さらに両名いずれについても、自分達が覚せい剤を使用するに至ったきっかけにすぎない部分で、あえて少年に罪を着せなければならないような特段の理由は見当たらないこと、他方少年は、初等少年院を仮退院した後本件の調査及び審判に至るまで、関係保護機関に対し、自己に不利益な事柄については一貫して、秘匿もしくはその場しのぎの曖昧な供述を変遷させるという態度を取り続け、本件調査の段階で自供するに至った覚せい剤自己使用の点についても、前記両名の供述をもとに家裁調査官及び付添人が説得と確認を続けたところ、ようやく認めるに至ったものであることなどの諸点を考慮すると、前記両名の供述との対比上、少年の弁解を信用することは極めて困難であるといわざるをえない。

3  以上認定の事実によれば、少年の要保護性の程度は、積年の非行と徒遊生活を通じて収容保護の段階に達したものと認められる。すなわち、少年は、本来小心で自信に乏しい性格的な負い目を不良顕示的な言動とそれを受容する不法集団との繋がりによってしか補う術を知らず、右翼団体や暴力団とまで深く関わり、そのような生活の積み重ねのなかで、情緒不安に基づく自己統制力の欠如を端的に示す粗暴犯(恐喝、傷害)を累行する一方、薬理効果に依存して多数回にわたり覚せい剤の自己使用を継続したほか、その密売にも関与していたこと、その結果、少年には健全な就労生活を顧みようとする姿勢が極めて乏しく、とりわけ、その自供によれば現在の同棲相手との交際を始めて覚せい剤の自己使用を断ったという平成5年の後半に至ってもなお、同女の収入に依存して自らの徒遊生活を改めようとはせず、その点が本件等の窃盗事犯に直結していること、それにもかかわらず少年は、本件による少年院送致の処分を免れることにのみ関心を集中させ、審判廷においても過去の就労状況など自分に不利な事柄については言を左右にするなど、自身の問題性の深刻さにつき内省を進めようとする姿勢がみられない態度に終始したことなどの事実が認められ、これらの諸点を考慮すると、現時点で少年の性格及び生活状況を抜本的に改善しなければ、従来同様の再非行を犯す危険性が顕著にみられると判断せざるをえない。したがって、時期の点も含め必ずしも明確とはいえない少年と暴力団との関わり方や覚せい剤自己使用の事実及び少年が否認を続ける覚せい剤譲渡の点は、その要保護性の程度を判断するうえで補充的に考慮するにとどめるとしても、少年を更生させるに当たり徹底した専門的矯正教育を要することは明らかである。

なお、少年が非行化した背景として、少年の脆弱さを支える適切な監護者が家庭内に存在しなかったという事情も認められるが、その点を考慮したからこそ、長期間にわたり少年を保護観察に付していたにもかかわらず、少年自身がこの社会的な援助を全く顧みようとしなかったこと及び少年と同様の環境で成育した姉が格別非行に走ることもなく成人していることを考え合わせると、少年個人の資質的な問題点こそが非行の最大の原因であると思われる。したがって、本件においては、就労の点も含めて少年の引受けを積極的に申し出ている者が存在し、その真摯な姿勢が審判廷での供述を通じて相当程度感得できた点を最大限考慮しても、現時点では少年の矯正教育を先行させる必要性が高いといわざるをえない。

4  以上に説示した少年の非行の程度、経歴、生活状況、その背景をなす性格上の問題点、これらの諸点に対する従来の保護処分歴、さらに同棲相手の女性が現在妊娠中とのことであり、仮に少年が父親となる場合を想定すると一層矯正教育の必要性が高まることなど、その要保護性の高さを総合考慮すると、成人を目前に控えた段階において、その健全な育成を期するためには、少年を特別少年院に収容するのが相当である。

したがって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 野原利幸)

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