大阪家庭裁判所 平成8年(少)503903号 1997年2月28日
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
1 非行事実
司法警察員作成の平成8年9月6日付け少年事件送致書及び平成9年2月3日付け関係書類追送書記載の各犯罪事実のとおりであるから、ここに引用する。
2 適条
無免許運転の所為について 道路交通法違反64条、118条1項1号
共同危険行為の所為について 同法68条、118条1項3号の2、刑法60条
3 処遇
(1) 前歴平成5年11月29日 自転車盗で審判不開始
同6年3月29日 単車盗で審判不開始
同8年10月1日 同年2月7日で行われた原付自転車の
占有離脱物横領で一般短期保護観察
(2) 平成8年3月31日に行われた共同危険行為は、多数の暴走族グループが参加して行われた中規模の暴走行為であり、切り込みをするなどの危険な行動をし、少年はAが運転する自動二輪車に同乗していたものであるが、違反行為が3ヶ所において行われた。そして少年は自己の属する暴走族「○○」の2番目の実力者であって、総長のAの指示によって他の暴走族との連絡をする役割を行った。暴走族との一体化が進んでいるものといえる。
同年9月15日に行われた共同危険行為は、車輛約50台が参加する大規模の暴走で、少年は自ら無免許で普通自動二輪車を運転して、○○の中では、Aが少年院に収容されたあとの実質的リーダーとして積極的に中心的な役割を果たした。
少年と暴走行為との関わりは、平成6年の末ころに○○の暴走に追従するようになり、同7年末ころに○○の構成員となった。そして7代目○○の二番目の実力者として暴走を繰返した。そして同8年7月頃にはいわゆる7代目の引退暴走が計画されていたが、同年3月31日に行われた本件暴走によってAが逮捕されたことからその計画は実行されなかった。そして同年7月ころ、その暴走行為について警察の取調べを受けたときに、係官からAは少年院に収容されるであろうという話しを聞いた。それなのに、暴走行為を反省して洞察を深めることをしないまま、暴走を繰返していて同年9月15日の本件暴走行為を行ったものである。そして暴走の回数は全部で約50回、同8年3月31日以降に約20回も行われた。
なお、少年は○○のリーダーであることを否定し、また平成8年3月31日の暴走で引退したので、その後の暴走は○○として行ったものではないから「元暴走族」であると主張しているのであるが、○○の他の構成員や別の暴走族の構成員の多数の供述調書その他の関係証拠の記載に照らし信用することはできない。○○からの引退暴走が少年主導で、同年10月になって行われた疑いもある。
無免許運転については、平成6年の16歳の誕生日に原付免許を取得したが、自動二輪車の運転免許はない。それなのに近々免許がとれるものと考えて同7年10月ころにホンダCBX400Fの自動二輪車を父親が保証人となって購入したが、結局免許は取得しないまま、同8年10月に処分するまで所有していた。同8年9月15日の本件の共同危険行為の際にも運転していた。
なお、少年は捜査の終了近くまで、自己が所有する単車で参加したことを隠し、仲間と口裏合わせをした上、借りた単車を運転していた旨主張していた。常習性の認定を恐れたためである。ところが暴走集団の中で少年の運転する単車が先頭を走っていなかったことを警察に認めてもらいたいと考えたことから、真実を述べるに至ったという自白の経緯があり、自己の責任を軽減しようとする姿勢が強いことが認められる。
少年が暴走行為に惹かれるのは、強い自己顕示性があって虚勢を張りがちであるため、暴走族内の地位、評価に充足感を感じたからであるといえる。
少年の交通要保護性はかなり高いものがあるというべきである。
(3) 少年はかねてから保護者の指導に全く従おうとせず、暴走を繰返してきたものであり、保護者も少年が暴走族に加入していることは薄々は知りながら適切な指導をすることができなかった。また前述のように少年が無免許であるのに自動二輪車を購入する際に保証人となっている。
(4) 少年は捜査の過程において、捜索に赴いた警察官に対して「お巡りは税金泥棒やから俺みたいなまじめな者を捕まえるんや」などと怒鳴り、取調べを受けた際も「現行犯逮捕しろ、芋づるで逮捕して偉いと思うてんのか、俺に聞かんと自分の足で調べろ」などと暴言を吐いたりするなど、ものの見方が主観的で一面的であり、躾不足からくる即行性も窺われる。
(5) 本件は平成8年10月1日に一般短期保護観察に付せられた事件の余罪であるが、その処分を行うに当たっては、少年が同年3月31日に暴走行為を行ったことも一応考慮はされているが、その具体的内容について詳細検討しているものではなく、同年9月15日の暴走及び3月31日からも暴走を繰返していた事実は全く考慮には入れられていないものである。
(6) 保護観察所は本件各違反行為に対する処遇についての意見を明確には述べていない。平成8年9月15日の違反についての勾留に対し準抗告がなされた際、担当保護司が嘆願書を準抗告審裁判所に提出していることからすると、客観的立場からの評価はしにくかったのではないかと推認される。したがって、保護観察所の意見に重きを置くことは相当ではないと考える。
(7) ところで、少年は前記の保護観察になった以降は暴走行為を止めており同年11月に現在の型枠大工になってからは、保護観察の指導にも一応従っていることが認められるのであるが、保護観察所は、少年の家庭内で自己本意に振る舞い、また友人と長電話するなどの問題があることを指摘している。
(8) 少年は現在その後就労生活を続けており、通信制の高校もできれば卒業したい気持ちをもっているなど生活観は比較的に健全であり、非行も交通非行に絞られてきている。また、家庭環境は一応安定していて、そこからの離反も認められない。さらに今回の法的措置を受けたことから、ようやく反省心が芽生えたことが認められるが、反省はやっと始まったばかりであり、しかも依然として自己が○○のリーダー的立場にあったことを頑なに否定していることなどの事情に照らすと、真の自己洞察に至るには、またその非行性を除くためには、まだ相当の教育が必要であるというべきである。
(9) したがって、少年の要保護性は現在もかなり高いので、少年を中等少年院に収容保護して、本件各違反行為の重大性、危険性、反社会性に対する認識をさらに深めさせ、自己の主導的役割を反省自覚させ、自己顕示性の強い性格や不良行動に親和しやすい考え方に対する洞察を深めさせるために、矯正教育を受けさせることが必要である。
(もっとも、前記の(7)(8)に記載した少年に利益な各事情を考慮すると、特修短期課程の教育が相当であると思料し、その旨処遇勧告をする次第である。)
4 結語
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して主文のとおり審判する。
(裁判官 加島義正)