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大阪家庭裁判所 昭和38年(少)8410号 1963年8月05日

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一、非行事実

Kは、昭和三八年○月○日午後八時三〇分頃、大阪市生野区○○町○○○の○番地カトリック教会敷地内において、友人Hの彼女であり、かつかねてから顔見知りである○谷○子(一七才)に対し、劣情をおこし、同女を強いて姦淫しようと企て、「兄貴分の前でよう恥をかかしてくれたな」と因縁をつけて、平手で同女の両頬を殴打した上、同女を同区同町○○○番地○○製薬株式会社裏空地に連行したが同日午後一〇時二〇分頃同所において同女の顔見知りであるO、S、Bと意志相通じ、Hが「帰してやつてくれ」と言い、同女も「今晩梅田で待合せしているから帰えして」と哀願するにも拘らず、Bにおいて、「このまま帰れると思うか」と申し向けて情交をせまつて、同女の提げていたハンドバックを下におろさせOにおいて、同女をその場につき倒し、同女の手足を押えつけ、Sにおいて、口をふさぎズロースを膝下まで下げる等の暴行を加えその抵抗を抑圧して強いて同女を姦淫しようとしたか、同女の悲鳴を聞いた第三者の通報で馳けつけた警官に発見されたため、その目的を遂けるに至らなかつたものである。

二、要保護性

知能は良級で○○工業高校に入学したが、帰化前は韓国人であつたため、卒業しても就職はできないと考えて退学し、その後斎○ゴムに工員として、入社した。しかし負けず嫌いで、自尊心が強いため、勤労では欲求が満されず、欲求不満をみたすために、不良仲間にはいつたが、そのため生活態度が在学中と全く異り、急に悪化し、飲酒、喫煙を覚え、夜遊びをつづけ本件共犯の少年達と交際していた。その上、鑑別所での生活態度にあきらかな様に、無気力で気が弱く周囲に支配され易く、追従的な性格のため、日常生活においても不良仲間に追従しているが、上述の如く自尊心が強いため一且自尊心を傷つけられるや、たちまち激昂して自己本位に他人に、いいところをみせようとして行動する。従つて本件非行においても夜遊びのため共犯である少年達をさがして求めて、犯行現場に到着したが、Kから「ようやらんのか、やれやれ」と言われるや、○谷○子に対し、襲いかかり、同女を突き倒した上、同女を押えつけ、同女が「助けて」と悲鳴をあげているのを知つているにも拘らず、更に同女を頭の方から押え続ける等、積極的に行動している。本件においては、警察官に見付かつて未遂になつたのであつて、少年は「パトカーが来ている」とKに言いながら、自分の家に逃げ帰つたのであつて、いわゆる障害未遂であつて、その情状において、既遂と異らない。カトリック教会におけるKの実行着手は、○○製薬株式会社裏空地における強姦罪に包括され一罪を構成する以上、カトリック教会での行為について、少年は責を免れない。また、少年は本件について反省するところが全然なく、本件犯行に至つたことにつき、その責任を共犯者に負担させるに急であつて、被害者の人権を尊重する態度は全くみられない。

このような、少年の意思が弱くて他人に追従的である反面自尊心が傷つけられるや前後の見境なしに目標に突進する自己本位な性格、在学中は真面目であつたが、退学後は一変して不良と交遊し夜遊びを続けていた生活態度、鑑別所におけるやる気のない全く不真面な作業態度本件非行における少年の役割、母が入院中のため少年に対する家庭の躾が不十分で、少年が夜遊びをしているにも拘らず全く放任している父、近隣には朝鮮人多く生活態度が低い等の家庭環境等を考える時、在宅保護は困難であり中等少年院送致が相当である。

適条

強姦未遂につき刑法一八一条一七七条六〇条

少年院送致につき少年法二四条一項三号

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