大阪家庭裁判所 昭和40年(家)3256号 審判 1965年11月12日
本籍 韓国 住所 尼崎市
申立人 李正良(仮名)
本籍 韓国 住所 大阪市
未成年者 金利子(仮名)
主文
本件申立を却下する。
理由
本件申立理由の要旨は、未成年者金利子の父金公順は昭和三八年一二月二〇日に死亡し後見が開始したが、指定の後見人がないし、また、選定後見人のうち先順位者はいずれも韓国に居住し現実に後見の事務を遂行することができないので、申立人(利子の母の兄)を後見人に選任する旨の審判を求める、というのである。
よつて審案するに、調査の結果(韓国慶尚北道達城郡論工面長作成の住民登録票三通戸籍謄本二通、当庁調査官の調査報告書の記載、および申立人本人審問の結果、並びに尼崎市長作成の出生・死亡各証明書、その他本件および別件当庁昭和三九年(家)第八二〇号後見人選任事件記録中の各証拠書類)によると、つぎの実情が認められる。
一、未成年者利子は金公順と李先美との非嫡出子であるが、父公順は昭和三八年一二月二〇日に死亡したこと(母先美は同三一年六月二五日死亡した)および父死亡後曽慶仁のもとで養育されてきたが、申立人以外の親族とはなんらの交渉なく現在に至つたこと。
二、父公順は戸籍上一九六四年一〇月六日(同年一〇月一六日との記載もある)宋良慶と婚姻の申告(届出)により婚姻したことになつているが、公順はこれよりさき一九六三年一二月二〇日に死亡していたこと。
三、公順の直系血族母金美令および長兄金斗元(一九二〇年七月一七日生)ら兄弟姉妹はいずれも韓国に在住していること(なお斗元は生死不明である)。
四、申立人(一九二〇年四月一四日生)は先美の長兄であること。
さて上記認定の実情によると、公順と良慶との婚姻は、婚姻当事者の一方である公順の死亡後の届出であるから、無効なこと明らかである。してみると、未成年者との関係において、良慶が韓国民法第九〇九条第二項に定める「その家にある母」として親権者たり得ないこともまた明らかであるから、同未成年者につき、上記父公順の死亡により後見が開始した、と認められる(韓国民法第九二八条)。
ところで法例第二三条第一項によると、後見は被後見人の本国法(本件では未成年者の本籍地およびその生活関係からみて大韓民国法)によるべきところ、上記認定の実情によつて同国民法第九三二条九三五条を適用すると、法定後見人として、第一順位にある直系血族金美令が生存しているが韓国に居住していることおよび父公順死亡後の未成年者の生活状況からみて、未成年者が有効な後見によつて現実に保護されていないこと明らかなところ、かかる場合には、同国民法第九三六条第二項第九三五条の趣旨により傍系血族中の先順位者である申立人が法定後見人となる、と解するのが相当である。
してみると、本件未成年者には韓国法上法定後見人が存すること明らかであるから、同国民法第九三六条によつて家庭裁判所が後見人を選定すべきものではない。
よつて本件申立はその理由がないから却下することとし主文のとおり審判する。
(家事審判官 西尾太郎)