大阪家庭裁判所 昭和41年(家)5602号 審判 1969年5月10日
申立人 田中則夫(仮名)
相手方 田中孝(仮名)
主文
本件申立を却下する。
理由
申立人は相手方田中孝を申立人の推定相続人たる地位より廃除する旨の審判を求め、その理由として相手方は申立人の三男であり昭和三一年三月中学校を卒業したが、中学在学中から非行があり、昭和三三年四月頃家出をした後はあらゆる犯罪を重ね、その度に申立人は警察から呼出を受けて迷惑したが、相手方には全然改悛の情はない。相手方は申立人の推定相続人たるに適しないので本件申立に及んだ旨述べた。
よつて判断するに、大阪府布施市長作成の戸籍謄本、申立人に対する審問調書、当庁調査官の調査の結果を総合すると、相手方は申立人とその妻カオりとの間に生まれた三男で、現に遺留分を有する推定相続人であること、相手方は幼児期より心身の発育が遅れ、結局昭和三一年三月一七歳で中学校を卒業したこと、卒業後就職したが低知能が原因してかいずれも長続きせず頻回転職して徒遊し、昭和三三年四月頃父親に叱責されて家出をし、その後は全く家に寄りつかず、昭和三六年一〇月一〇日強盗未遂罪により懲役一年六月(三年間執行猶予)、昭和三八年三月三〇日売春防止法違反罪により懲役四月(三年間執行猶予、付保護観察)罰金五、〇〇〇円に処せられた他、昭和三六年六月二七日窃盗(雇人盗)、昭和三八年七月四日誘拐事件を犯し、検察庁において不起訴処分を受け、昭和四〇年一〇月三一日自転車競技法違反事件を犯したこと、相手方の家出直後何度か相手方の月賦の支払の請求が申立人にあつたことが認められ、申立人において相手方が事件を犯す度に大きな精神的苦痛を蒙り、且つ相手方の将来に多大の不安を抱いていることが窺知されないではない。しかし他面相手方の低知能を考慮すれば、同人が他人の助力なしに普通の社会生活を営むことが不可能であることは明らかであり、相手方が上記の犯罪を犯すに至つた主因もその低知能と家出浮浪にあつたものと認められるが、末だ家庭に対する親近感を失つていなかつた相手方を家出に追いやつた原因は申立人の相手方の能力に合つた指導が欠けていたことにあつた疑が強く、且つ申立人は相手方が家出した後何等なすことなくそのまま放置し、相手方が犯罪を犯し裁判に付されてもただ相手方の厳罰を望むのみで、執行猶予になつてもこれを引取ることを拒み結局長兄に引取らせる等相手方の家出、犯罪の一半の責任は父親である申立人にもあることが認められる。
してみると申立人の気持は諒とするも、相手方を推定相続人の地位より廃除する理由はないのでこれを却下することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 木下重康)