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大阪家庭裁判所 昭和46年(家)288号 審判 1971年4月27日

申立人 安田守枝(仮名)

相手方 松村茂夫(仮名)

未成年者 松村満夫(仮名) 昭四〇・七・一〇生

外一名

主文

未成年者両名の親権者を相手方から申立人に変更する。

相手方は申立人に対し未成年者高二を引渡せ。

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、その申立の実情としてつぎのように述べた。

申立人と相手方とは、昭和四五年二月四日、未成年者長男満夫同二男高二の親権者を相手方と定め、同人において二児を監護養育することとして離婚した。ところでその後、相手方が二児を自ら監護養育していないことが明らかとなつたので、申立人はさきに長男満夫を引取つて手許で監護養育してきたが、相手方の父とその婚外女性のもとで養育されている二男高二について監護上不安があるので、できれば同人も引取つて、申立人が自ら二児の親権者としてその監護に当ることを希望する。

相手方は、離婚ことに親権者指定の経緯にてらし、申立人が、いまになつて二児の親権者の変更と二男の引渡しを求めるのは、自己本位に過ぎるし、申立人の実家の家庭事情のことを考えると、二児を申立人に託する気になれず、むしろ離婚後いままで相手方の祖父母らが愛情をもつて二男の養育に協力してくれたし、また、相手方の妻ら近親者も二児を引取り監護することに賛成してくれているので、できれば長男も引取り、近い将来自ら二児の監護に当る意向であるから、二児の親権者の変更二男の引渡しの求めには応じられない、と述べた。

本件は、昭和四五年三月一七日調停事件として申立てられ、当裁判所調停委員会において一〇数回の期日を重ね調停をつづけたが、同四六年一月一六日調停不成立として審判に移行したものである。

よつて審案するに調査の結果によるとつぎの実情が認められる。

一  申立人と相手方は、昭和四五年二月四日、未成年者両名の親権者を相手方と定め、同人において二児の監護養育に当ることとして協議離婚した。このように子の親権者を相手方と定めその監護を同人に委ねたのは、主として、申立人の近親者が、離婚後年若い申立人が女手ひとつで二児の監護に当ることを案じ、また申立人の将来を考慮し、同人が二児を引取ることに賛成しなかつたため、申立人もやむを得ずその意向に従つたからである。

二  相手方は、離婚にさいし、二児の親権者となり監護に当ることを約したものの、監護能力も十分でない若い父親としては二児を押しつけられたも同じように感じたが、とにかく二児の監護養育に当らねばならないので、相手方の父母(子からみると祖父母、以下適宜祖父母と略記する)と相談し、二児の監護をいつたん○○に住む祖母に託したが、その後祖父母の生活状況とくに祖母の年齢・監護能力を考え、長男の養育は祖母に、二男の養育は祖父および同人と同居する婚外女性森田清子に、それぞれ託することにし、じ来長男は引きつづき祖母のもとで、二男は○○に住む祖父のもとで事実上監護養育されてきたものである。

三  ところで申立人は、近親者の意向に従い二児を相手方に託したものの、子の母としてその後一日も二児を思わぬ日とてなく、二児の監護・成育状況を案じ、なんとしても二児を引取り自らその監護養育に当ることを強く念願するようになつた。また、申立人の父母ら近親者も、申立人の子を思う気持を理解し、子の引取りに賛成し引取り後の申立人ら母子の生活の援助を約してくれた。そこで申立人はかねて相手方の親族を介し子の監護状況をたずね、また子の引き渡しを求めていたが、相手方は子を引渡すといつたり引渡せないと答えるなどその態度が明らかでなかつたところ、二児は、相手方が自ら監護に当らないで、上記のように祖父母らに託されていることが明らかになつたので、申立人は子の母として一日もそのままにしておくことができない気持になり、子を引取りたい一念がつのり、遂に同年四月二六日相手方に子を引取る旨を電話で知らせ、直ちに○○の祖母のもとに赴き、感情の激するあまり、玄関のガラス戸を割るなど不穏当な行為に出て、相手方の承諾を得るまで待つように話す祖母の申し入れをふり切つて、長男を引き取つた。その夜、あとでかけつけた相手方と話し合い、双方の間で十分な了解が得られなかつたが、結局相手方もさし当つて申立人が長男を引き取ることを、やむを得ず了承したかたちで、申立人が長男を連れて実家へもどつた。

四  申立人は離婚後直ちに実家へもどり父母ら近親者の庇護を受けて生活してきたが、現在では父の経営する会社の経理事務に従事するほか、寮母として従業員数名の炊事などを担当し、毎月三万三千円程度の給料を得ており、他に父母らから毎月約一万円の援助を受ける外、内職による収入もあり、住居も同会社から六畳の間三室の提供を受けて無償で使用し、長男と毎日の生活をともにし、同人を引取つた直後である五月一日から従兄弟の通園する志紀保育園に入園させ、母としてできるだけの努力をつくしてその監護に当つており、その監護・成育状況は良好である。

なお申立人は、毎月の給与等のなかから、将来の生活に備え、毎月一万数千円程度の預金をし、現在約三〇万円の預金を有し、将来煙草店の自営や保母などをして自立して生活することを考えており、長男を引取つてともに暮らすようになつてから、とくに二男が、相手方のもとでなく、祖父の婚外関係にある女性のもとで育てられていることに教育上の不安を感じ、一日も早く二男を引取り長男とともに自らその監護に当ることを熱心に希望し、二児の養育費についてはさし当つて自己の能力をつくして負担し、相手方に請求する気持はない。

五  相手方は離婚にさいし二児を引取ることになつたが、若い父親として事実上監護養育に当ることも容易でなかつたところ、祖父母の了解と配慮もあつて、はじめは二児を上記のように○○の祖母に託したが、二児の養育は祖母の監護能力を超えるので、間もなく二男だけ祖父に託することになつた。その後長男は、上記のように祖母のもとから引取られ、申立人に養育されて現在に至つている。

二男は、祖父母が別居しているため、祖父と同居する婚外女性森田清子によつて主に監護されているが、祖母も二男の監護養育を心にかけ、ときには○○へ連れて帰り数日生活をともにし、身の廻りの世話をするなどのこともあつて、祖父母らのやや寛に過ぎる監護のもとにさし当つては順調に成長しているが、その監護状況は変則的で必ずしも安定的ではない。

相手方の祖父は、相手方が二児の監護に当ることもむずかしい事情にあることを察知して、同人が子をみることができるようになるまで、祖父として孫への愛情もあつて上記清子の協力を得て二男を養育してきたが、これまでも同女が愛情をもつて監護に当つてきてくれたし、祖母も○○で養育に当ることを希望していることでもあるので、二男の福祉のために、事情によつては家族が○○で生活をともにし相手方とも協力してその監護に当ることも計画している。しかし同人は、祖父として孫への愛情は強いが、子を育てるのは親の権利であり責務でもあるから、子の今後の監護をどうするかについてはすべて相手方の意向次第であり、相手方が子の引渡しを了承すればこれを引きとめる権限は祖父の自分になく、またその気持もないし、すべて相手方の考えに従う意向を表明している。

なお相手方は、離婚後間もなく川上ひろ子と結婚しその間に一女(同四六年二月一八日生)をもうけ、祖父の会社に勤め月収約五万円を得て肩書住所近くの文化住宅で親子三人仮寓しているが、乳児の監護のため、いま直ちに二男を引取ることはできないにしても、監護に手を要しなくなり次第、二男を引取り自ら監護に当る意向であり、相手方の妻、近親者らもこれに賛同している。

さて上記認定の実情に本件調停・審判の経過にあらわれた一切の事情を勘案して本件申立の当否について判断する。

申立人が離婚のさい、監護能力も十分でない相手方に二児を引渡しながら、その後間なしに子を引取つた経緯は、申立人の子を思う母としての心情を考慮しても、やや恣意的で穏当を欠くといわなければならない。しかし、離婚後の二児の監護状況と双方の生活状況、二児の監護に対する配慮、意欲、将来の具体的な監護計画、近親者の生活事情および二児の監護に対する考えその他をし細に検討してみると、二男が祖父母のもとでさし当つて順調に成育しているとしても、祖父の婚外女性や祖母のもとで生活しているのは、なんといつても幼児期にある子の監護環境としては変則的で不安定であり、また、相手方が近い将来二児の監護に自ら当ることを繰りかえし主張しているけれども、その家族生活の実情にてらし、実現の可能性に乏しく、ことに乳幼児をもつ相手方配偶者に先妻の子である二男の監護を期待することは適切でなく、ひるがえつて、二児がその年齢からみても兄弟としてともに肉親の母の監護の手を要する大切な時期にある事情(幼少期の児童にとつて、とくに母との肌を接しての監護養育関係、いわゆるスキンシップ的関係が人格形成上極めて重要であること)は重視すべきであり、それに申立人の生活の現況とくに母としての監護の能力・意欲、さきに引取つた長男の教育に対する適切な配慮、近親者の二児の監護に寄せる経済的精神的援助その他本件に現われた諸般の事情をあわせ考えると、二男を、長男とともに同一の生活環境のもとで生みの母である申立人の監護に委ねることが、幼児期にある二児の人格形成のためなによりも必要であり、またその福祉の向上に資するものといわなければならない。

このようにみてくると、二児の現在および将来の利益のため、その親権者を相手方から申立人に変更するのが相当であり、なお本件の場合、申立人が直ちに二男の監護養育に当ることができるよう措置を講ずる必要があると認められるので、とくに相手方に対し、祖父ら近親者に本件調停・審判の経過をできるだけ懇切に話しその納得と了解を得るように努めることを期待し、家事審判規則第七二条第五三条に則り、二児を祖父のもとから引取つて申立人に引渡すよう命ずることとする。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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