大阪家庭裁判所 昭和46年(少)2252号 決定 1971年4月23日
少年 E・S(昭二八・五・九生)
主文
少年を大阪保護観察所の保護観察に付する。
理由
(非行事実・適条)
少年は、昭和四四年八月に勉学を嫌つて高校一年を中退後不良仲間と交際しては単車遊びやボンド遊びにふけつて家業(牛乳販売業)手伝の仕事にも身が入らない状況にあり、昭和四六年一月一八日に交通非行(単車による業務上過失傷害・道路交通法違反)に基づいて当家庭裁判所の審判に付された(当庁昭和四五年少第二〇五一六号・第三七〇一二号・第五一九七〇号、保護観察決定)ほか一般非行(ボンド吸引中に不良仲間と共謀のうえガソリンスタンドへ盗みに入ろうとした住居侵入未遂)に基づいても別途に審判に付され(当庁昭和四五年少第八二九〇号、保護的措置を理由とする不処分決定)、最近においては警察官の継続補導(少年警察活動要綱三五条)を受けるかたわらボンド乱用による中毒症状が心配されることで保健所や日赤病院精神科の診断をも受けている身でありながら、依然としてボンド遊びをくりかえすなど素行が改まらず、昭和四六年三月二八日午後一一時一五分ごろにも大阪市天王寺区○○×丁目××番地先空地においてA子(一七歳)・B子(一七歳)などとボンド遊びにふけつているところを発見・補導されるに至るなど、自己の徳性を害する行為をくりかえす性癖があつて、後記の如き性格・環境に照らし、このまま放置するときは、将来もボンド乱用により判断力が減退した状況下で遊び友達に同調したりして窃盗などの罪を犯すに至る虞があるものである(少年法三条一項三号ニ)。
(処分の理由)
1 少年は、中学三年生であつた昭和四四年のはじめごろから怠学・ボンド遊びなどの問題行動がみられ、その後同年七月に運転免許を取得して後は単車遊びによる交通非行も心配される状況になつてきていたものであるが、保護者の注意・警察官の補導・家庭裁判所の保護的措置・交通非行に基づく保護観察などにもかかわらずいままた本件の如き虞犯非行がくりかえされるに至つている現況であり、就労・交友・余暇利用などその生活態度の全般にわたつて不安定であいまいな面が目立つているほか、興味や関心が遊興的な方向に向きすぎ、モトクロス(悪路走行)などの単車遊びに熱中したり(いわゆる「オトキチ」といわれる現況である)、自ら進んで不良仲間を誘つてはボンド遊びにふけつてみたり、刹那的な快楽を求めては自己の生活を持崩しており、健全な生活を志向していきにくい状況下にあるものと認められる。
2 少年は、能力的にはIQ九二の普通知であるが、精神内容が貧弱で物事を深く考えたり内省したりすることも少なく、その場かぎりの場当たり的な思考に終始している現況であり、さらには、末子ということで甘やかされてきたためか、わがままで依存的な性向が形成されており、意志軟弱で克己心や持久心に欠け、自らの欲求の赴くままにあるいは周囲の状況にとらわれるままに衝動的な行動をくりかえすなど軽佻で雷同的な性向も目立つている現況である。
3 家庭は実父(五九歳、牛乳販売業、病弱)・実母(五七歳、家事)・長兄(三一歳、精神病で入院中)・三兄(二三歳、家業手伝、家業の中心的存在)・姉(二六歳、家業手伝)・少年の六人家族(次兄は昭和四二年に病死)であるが、少年に対して過保護・過干渉にわたつてきた両親の養育態度は少年の人格形成をゆがめかえつて本件の如き非行をみる一因とさえなつてきた観が強いというべく、ことここに至つても少年の現況にとまどい手をこまねいている家族員の現状をも考えあわせるとき、家庭の保護能力は脆弱な実情にあるものと認めなければならない。
4 以上、少年の年齢・能力・性格・生活態度・保護歴・環境・本件非行の内容など諸般の事情を総合してみるとき、少年については、まず前述の如き遊興的な生活態度を克服せしめねばならず、今後かなりの期間にわたつて保護観察による意欲的な指導監督ないしは補導援護を実施していくというのでなければ、その健全な保護・育成を期し難い現況に立ち至つているものと認められる。
5 ところで、少年は、前述の如く、すでに現在少年法二四条一項一号に基づく保護観察(いわゆる一号観察)を受けているものであるが、少年が受けている保護観察は、同じく一号観察ではあつても、交通非行(業務上過失傷害・道路交通法違反)に基づくいわゆる交通事件保護観察であり、「誰を担当の保護観察官・保護司とするか」「どのような内容の指導監督・補導援護を行つていくか」「どれだけの期間を良好解除に至る経過期間として要求するか」などといつた保護観察実施上の諸点において、交通非行以外の非行に基づくいわゆる一般事件保護観察の場合とは異なる特別の取扱いを受けている実情にある(少年法二四条一項一号に基づく保護観察<一号観察>の個別化・類型化・専門化。-昭和四〇年四月一五日法務省保護観甲第二四〇号保護局長通達・昭和四四年四月一日実施大阪保護観察所少年交通事件保護観察取扱要領など参照)こととて、このような交通事件保護観察のみを以てしては、前述の如き問題点を背景として本件の如き虞犯非行をも行うに至つている少年に対する適切な保護観察を実施していくことはかえつて困難な実情にあるものと認むべく、果してそうであるとするならば、現時点において少年を重ねて一般事件保護観察にも付するのが、その健全な保護・育成を期するゆえんであると思料される。
6 よつて、少年法二四条一項一号・少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 栗原宏武)
参考一
昭和四〇年四月一五日付
法務省保護局長通達(法務省保護観甲第二四〇号)
「道路交通法違反少年に対する保護観察の効果的運用について」
(保護月報七二号六頁)
昭和四四年三月三一日付
法務省刑事局長通達(法務省保護観甲第一五八号)
「道路交通法違反少年に対する保護観察実施態勢の整備について」
(保護月報八七号二二頁)
参考二
昭和四四年五月一日付 大阪保護観察時報
「少年交通事件保護観察取扱要領」
第一趣旨
昭和四〇年四月一五日法務省保護観甲第二四〇号保護局長通達(以下通達という)の趣旨ならびに最近の少年交通事件の激増に対処してこれら少年の保護観察をより効率的に実施せんとするものである。
第二対象
家庭裁判所において道路交通法違反、業務上過失致死傷事件、重過失致死傷事件により、少年法第二四条第一項第一号の保護処分を受け(以下交通事件少年という)当庁の保護観察に付されたものとする。
第三交通事件係ならびに交通事件担当官の配置
一 交通事件係
1 保護観察所長は、保護観察官のうちから、交通事件係(一名)を指名する。
2 交通事件係は家庭裁判所その他関係諸機関と緊密な連絡をとつて、交通事件少年の保護観察の実施を円滑ならしめるほかこれら少年の良好、不良措置について交通事件主任官に助言するものとする。
二 交通事件担当官
1 保護観察所長は、自動車運転免許証を有し且つ交通諸法規に精通した保護観察官のうちから交通事件担当官を指名する。
2 交通事件担当官は、当分の間大阪市内に居住する交通事件少年の保護観察事件主任官となるものとする。
3 大阪市以外の保護区の交通事件については、従来のとおりとする。
第四保護観察の実施方法
一 立件前の家庭裁判所との連絡
1 交通担当官は大阪家庭裁判所の交通事件の審判日に同所に駐在して当庁の保護観察に付せられた事件について左の業務を行なう。
(一) 家庭裁判所より「決定通知書」ならびに「道路交通法違反保護事件調査票」等の関係書類を受領すること。
(二) 大阪市内に居住する少年等に面接して、保護観察の心得の説示、特別遵守事項の設定、誓約書、保護票の作成担当者の指名、心理・法規テストの実施等の当初事務を処理すること。
(三) 当庁管内で大阪市外に居住する少年については、保護観察の心得等を説示するとともに当庁への道順図を交付する等して速やかに当所に出頭せしめること
(四) 右(三)の場合、保護観察実施上の参考事項等は、事前に主任官に連絡すること。
二 立件の特例
1 一般事件受理簿とは別に道交事件受理簿を備えつけること。但し業務上過失致死傷事件については一般受理簿の左欄外に<業>の表示を行うこと。
2 道交事件受理番号は、二万台を基数として表示すること。
3 業務上過失致死傷事件記録ホルダー表紙の左上欄外に<業>の表示をすること。
三 担当者の指名の方針
1 担当者の指名にあたつては、左の一に該当する保護観察官または保護司のうちから指名するようつとめるものとする。
(一) 自動車運転経験者
(二) 自家用自動車を持ち交通諸法規に理解を持つた者
(三) 自動車教習所等の職員
2 保護観察所長は、大阪市内の保護区に配属している保護司のうちから交通事件少年を主として担当するもの(以下交通事件保護司という)をあらかじめ指名しておくことができる。
3 交通事件保護司の数については保護区内の交通事件の数その他の諸条件を勘案して適宜定めるものとする。
4 交通事件保護司は自己の担当する交通事件の保護観察の実施については交通事件主任官の指示を受けるものとする。
四 交通事件担当官と地区担当官との連絡
1 交通事件担当官は立件後速やかに当該ケースの個人別カードを地区担当官に回付し、地区担当官は右カードにより担当別カードに朱書した上、交通担当官に返戻するものとする。
五 指導監督および補導援護
1 交通事件の指導監督については一般事件の例によるほか特に左の諸点に留意するものとす。
(一) 交通諸法規の遵守と自主的に履行するよう指導すること。
(二) 違反および事故に対して常に注意を喚起し面接時には自動車運転免許証等を確認し積極的に違反防止に努めるよう指導すること。
2 補導援護については特に左の諸点について配意するものとする。
(一) 心身の状況により運転不適格と認められる者は保護者と協議し、なるべく転職せしめるよう指導すること。
(二) 自動車運転免許証を有しない者に対しては関係図書の貸与、自動車教習所への入学斡旋等により、運転資格を取得するよう指導すること。
(三) 交通事件担当官は、大阪市内に居住する交通事件少年(移送受理事件を含む)の保護観察事件主任官として担当者と協動して保護観察を実施するものとし保護司組織ならびに関係諸機関団体と密接に連絡をとつて地区またはブロック等を単位とする安全講習会等を自らまたは参加させて行なうほか適宜集団処遇あるいは直接処遇を行なうものとする。
(四) 交通事件担当官の事務処理については別にこれを定める。
六 保護観察成績の推移による措置
1 良好措置
道路交通法違反少年については通達によるほか業務上過失致死傷、重過失致死傷事件少年についても概ね一〇ヶ月を経過した時点で解除の審査をすることができる。
2 不良措置
新たに交友、行状、家庭環境等において少年法第三条第三項の違反事実を発見したときは法第四二条による通告を考慮すること。
第五その他
1 保護観察官、保護司の研修
交通事件担当官、ならびに交通事件保護司は公安委員会、警察関係等の協力を得て交通諸法規ならびに技術研究会を開催するほか努めてケース研究会を行なう等研鑚に努めるものとする。
2 大阪市内の保護司で現に交通事件少年の保護観察を担当している保護司は本要領に拘わらず実施日以降においても引きつづいて担当することを妨げない。
3 交通事件保護司は担当状況により一般事件を担当することができる。
4 昭和三九年一月一日に判定した「少年交通事件保護観察要領」は、これを廃止する。
5 本要領は、昭和四四年四月一日から実施する。