大阪家庭裁判所 昭和51年(家)2400号 審判 1976年10月08日
申立人 寺島礼子(仮名)
主文
本件申立てを却下する。
理由
申立人は、その氏「寺島」を「町田」に変更することの許可を求め、申立の実情として、申立人は昭和五〇年一一月二五日国籍韓国の李達均と婚姻したが、同人の日本での通称名が「町田」であるから、夫の氏「町田」に変更を許可されたく本件申立に及んだと述べた。
筆頭者寺島礼子(申立人)の戸籍謄本および李達均の外国人登録証明書の各記載、寺島栄子、寺島美子および申立人各審問の結果によれば、次の事実が認められる。
(1) 申立人の夫李達均は、一九三〇年一二月九日韓国において出生し、一〇歳位の時(昭和一五年頃)祖母と共に来日し、以来日本に居住し通称として「町田貞夫」を使用してきたが、帰化申請は未だ認められず、現に日本の国籍を取得していないこと。
(2) 申立人は、昭和二八年頃上記李達均と事実上結婚し、長女栄子(昭和二九年一一月二四日生)、次女美子(昭和三二年五月二三日生)、長男政健(昭和三七年七月四日生)の三児を儲けたが、正式に婚姻届出前は主として自己の戸籍上の氏「寺島」を使用し、申立人の子らも父の認知前は主として母の氏を称してきたこと。
(3) 申立人は、昭和五〇年一一月二五日大阪市旭区長に対し正式に婚姻届を提出し、同日付で子らも認知してもらつたが、その前後から申立人および子らは夫或は父の通称である「町田」姓を使用するに至つたため戸籍上の氏と異なり社会生活上支障を感ずるようになり本件申立に及んだこと。
ところで、日本人女性が韓国人男性と婚姻した場合直ちに「止むを得ない事由」(戸籍法第一〇七条第一項)に該当し、韓国人夫の日本における通称への氏の変更が許されると解すべきではなく、その氏が同女の社会生活上重大なる支障を与えこれが継続を強制することが社会観念上不当であると認められるときに始めて「止むを得ない事由」に該当し、氏の変更が許されると解すべきである。
上記認定事実によれば、申立人は、夫の通称名である「町田」を永年使用してきたとはいえず、また申立人の夫は未だ日本への帰化が認められずその通称が戸籍上の氏となつてなく、氏の変更を許さなければ社会生活上重大なる支障を来すとは認められず、その他氏の変更を許可すべき「やむを得ない事由」は認められない。
よつて、本件申立は理由がないのでこれを却下することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 三村健治)