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大阪簡易裁判所 昭和41年(ろ)4139号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判決理由】<証拠>を照合すれば、被告人は、右公訴事実摘示のとおり、普通乗用自動車を運転しその日時場所において自車前部を松下寛運転の自動二輪車に衝突させ、同人に対し右摘示のとおりの傷害を負わせたものであるところ、該場所は南北に通ずる幅員八米の直線道路と東西に亘る幅員八米の直線道路とが直角に交差している十字路であり、両道路は共に歩車道の区別のない全面コンクリート舗装道路で、制限速度が毎時四〇粁とされ、信号機その他交通整理の行われておらず、ただ南側道路から該交差点に入る車両に対し道路標識によりその際一時停止すべき旨の規制がなされており、当時特に普通自動車の往来が割合頻繁で、しかも、西南隅を除いた三隅(三つ辻)は民家が軒を並べているため非常に見とおしが悪いこと、被告人は該交差点に入るに際し、その直前①点(前掲検証調書添附図面表示の②点を言う。以下各点につき同じ。)で一旦停止した上、その西側道路(左方)の交通の状況を確めたところ(交差点の西南隅は空地のため、道路に面して張りめぐらされた金網を透して①点から西側道路の状況はかなり広くその見とおしが可能である。)、右斜前方約三〇米先西側道路上甲点(該交差点の中心よりやや西北寄りの衝突点×点より西方約二五・四〇米先)に東進中の松口博隆運転の軽四輪貨物自動車を認めたが、右被害車両に気付かないまま右四輪車より先に交差点を通過し得るものと考え、ギアーをローに入れて発進し、最徐行のまま該交差点に入つて②点(①点より×点に向つて北方二米先)まで進出したこと、しかし其処では一旦停止(車輪が完全に停止すること)することなく、①点では東側(右方)の交通の状況を確認できないでいたからあらためて②点においてこれを確認し、再度西側道路に目を向けたが、乙点(甲点より×点に向つて東方一二米先地点)附近で前記軽四輪車が減速徐行中であるほかは、他に障害物はないものと判断し、被害車両に気付かないまま、毎時二〇粁(被告人の前掲供述調書中には一五粁乃至二〇粁であつた旨の記載があるが、前車輪のスリップ痕の長さから急制動直前の速度はほぼ二〇粁であつたと推定される。)に加速して該交差点を直進通過しようとしたこと、一方被害者松下寛は、該交差点が事故多発地点であることを熟知しながら、何故か徐行もせず、前方左右への注視を怠り被告人の車を確認せず(交差点の西側道路からその南側道路への見とおしは、同じく前記空地の金網を透して十分可能であり、被告人の車は一旦停止しており、且つ黒塗りで車長四・六〇米あるから、その確認は決して困難でない状況にあつた。)しかも時速約四五粁乃至五〇粁の速度(松下寛の前掲供述調書及びその尋問中いずれも四〇粁であつた旨の記載があるが、他に関係証拠に照し措信することができない。)で該交差点に進入し、先に交差点に入つていた被告人の車を至近距離に迫つて発見し、制動措置を構ずるいとまもなく、×点において被告人の車と激突したこと、なお被告人の車は前掲実況見分調書添附見取図表示の④点に停止し、同点と×点との距離は一・二〇米で右スリップ痕は右側前輪車が二・四〇米であることがそれぞれ認められ、以上に反す証拠はない。<中略>

五、ところで、道路交通法第四三条は単なる出合頭の衝突等の危険を回避するためにとどまらず、幹線道路の優先通行権を保障したものと解し、同法条の措置が同法第三六条第三項のように、交差点における一方の道路をして他方の道路より優先させる効果を与えるものであるとしても、本件の如く四〇粁の制限道路において既に該交差点の直前で一旦停止し終つた車(これから停止しようとし乃至は停止中の車でないことに注意)が今まさに発進しようとしているのに、該交差点の中心点近くの×点より手前西方四〇・六〇米乃至四五・一〇米先を走行中の被害車両の進行を妨げないように引続き待機しなければならないほどの優先権を保障したものとは解されないし、しかも同法第三六条三項は何も優先道路に対する特別の安全確認義務を定めた規定ではないから、優先車両に対し特にその確認を慎重になすべきとの結論は直ちに導かれないはずであつて、その左右道路の交通の状況を確認すべき義務の程度、態様は、当該交差点における交通規制の状況、その交差点の見とおしの程度、形状、広狭前後左右の交通の状況、その他特別に危険の発生が予想されるか否かの諸般の具体的事情を照合して判断すべきものと思料する。

六、そうだとすれば、被告人が①点で停止中に左側道路を確認した際甲点における前記軽四輪車を見付けただけで、その後方の被害車両に気付かなかつたとしても、前叙状況下によれば未だ被害車両は当該交差点に接近しておらず、少なくとも左側道路をかなり広く見とおせる①点でその存在を確認し得ないほど遠くにいる時点(右確認し終つた直前の被害車両の位置が甲点より西方一五・二〇乃至一九・七〇米先地点だから、右確認中は甲点における前記軽四輪車の後方をそれより更に遅れて追随していたことになる。)において、これが確認し得なかつたのは当然であつて、何ら非難することができないばかりではなく、その上、該交差点に進入した被告人が②点で左側道路を確認した際、乙点にまで前進した右軽四輪車を確めただけで、その後方を追尾する被害車両に気付かつたとしても、①点で左側道路の状況を確認し、更に交差点に入つて②点で右側道路の状況を確認した以上、今度はむしろ前方注視に移るべきはずであり(しかも、後続車両は間断なく来るから、何時までも横断しないで停滞していることは、かえつて交差点の交通を混乱させる結果になりかねず、迅速且つ適確な横断も又必要であることを想起すべきである。)あとは特段の事情のない限り、左側道路から該交差点に進入する他の車が交通法規を守つて既に交差点に入つている被告人の車を確認するは勿論、その進行を妨げることなく、その車との衝突を回避するための適切な行動にでるであろうことを信頼して運転進行すれば足り、それ以上に左右の安全を確認して該交差点に入つてもなお、先に交差点に進入している被告人の車を無視し(たとえ優先道路を進行する車両であつても道路交通法第三五条第一項の適用を受けるはずである。)、見とおしのきかず、且つ交通頻繁な交差点を徐行すらせず(優先車両であつても同法第四二条の適用はあるはずである。)、しかも制限速度を超えて猛進疾走して来る被害車両のあることまで予想し、これに何時でも対処すべく絶えず左右道路に対する安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するから、被告人が①乃至②点においていずれも被害車両の存在に気付かなかつた故をもつて被告人に本件事故発生の結果を回避すべき義務懈怠があつたと言うことはできない。

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