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大阪簡易裁判所 昭和61年(ト)974号 1986年11月12日

申請人

中野徳継

井上誠

右両名代理人弁護士

小林保夫

被申請人

梅田交通株式会社

右代表者代表取締役

古知愛一郎

右代理人弁護士

下村末治

三瀬顯

野間督司

近藤正昭

林一弘

右当事者間の頭書仮処分申請事件につき、当裁判所は、当事者双方を審尋のうえ、申請人らに保証を立てさせないで、次のとおり決定する。

主文

一  被申請人は、申請人中野徳継に対して金三一万四二九八円を、同井上誠に対して金四七万四九三二円を仮に支払え。

二  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

(用語の意義)

本決定においては、用語の意義を左記のように統一して使用することとする。

賃金 労働の対価として一月ごとに支給される金員。

<賃金> 被申請人において賃金と主張するもの。

臨給 例えば賞与のごとく、労働の対価として一月を超える期間ごとに支給される金員。

給与 名称の如何を問わず、労働の対価として支給されるすべての金員。

(当事者の求めた裁判)

一  申請の趣旨

主文一項と同旨

二  申請の趣旨に対する答弁

申請人らの申請をいずれも却下する。

(当事者の主張)

一  申請理由

1  被申請人梅田交通株式会社(以下「会社」という。)は従業員五〇名、営業用自動車二四台を擁してタクシー事業を営むものであり、申請人中野徳継(以下「申請人中野」という。)は昭和五一年三月、同井上誠(以下「申請人井上」という。)は同年二月、それぞれ会社にタクシー運転手として雇用され、同社で稼動中の者である。

2  会社における申請人らの賃金は、会社入社時から左の基準(以下「本件基準」という。)にしたがって、毎月二八日の給与支給日(前月二一日から当月二〇日までを基礎とする。)に支払うこととされ、現に支払われてきた。

(イ) 一月の総営業収入(以下「総営収」という。)が二五万〇〇一〇円以上(ただし月間一二乗務(一乗務は二日勤務で実働一六時間)以上)の場合は、その六〇%

(ロ) 総営収が二二万五〇〇〇円以上(ただし月間一〇乗務以上)の場合は、その五五%

(ハ) 右(イ)、(ロ)以外の場合は、総営収の五〇%

3(一)  本件基準にしたがって、申請人らの昭和六一年六月二一日から九月二〇日までの間(以下「本件期間」という。)の賃金を算定すると、左のとおりとなる。

(1) 申請人中野について

七月分 一八万四六〇二円(三〇万七六七〇円(総営収)×〇・六(一二乗務))

八月分 一一万〇六三〇円(二二万一二六〇円(総営収)×〇・五(九乗務))

九月分 二二万八五一六円(三八万〇八六〇円(総営収)×〇・六(一三乗務))

(2) 申請人井上について

七月分 二二万三一八四円(四〇万五七九〇円(総営収)×〇・五五(一一乗務))

八月分 二二万四八四四円(三七万四七四〇円(総営収)×〇・六(一二乗務))

九月分 二四万二五一四円(四〇万四一九〇円(総営収)×〇・六(一二乗務))

(二)  会社は、申請人らに対し、右各月の給与支給日に左の金員のみを<賃金>として支払った。

(1) 申請人中野について

七月分 七万一八七〇円

(手取額 五万四三八七円)

八月分 六万〇一五〇円

(手取額 四万八四四〇円)

九月分 七万七四三〇円

(手取額 六万八二三九円)

(2) 申請人井上について

七月分 六万六三一〇円

(手取額 四万二三一三円)

八月分 七万一八七〇円

(手取額 六万一一五〇円)

九月分 七万七四三〇円

(手取額 六万八三七三円)

(三)  その結果、右各月の未払賃金((一)の賃金から(二)の既払額を控除)及びその総額は左のとおりとなるが、会社はこれを臨給と称して、同年一二月一五日まで支払わないと宣している。

(1) 申請人中野につて

七月分 一一万二七三二円

八月分 五万〇四八〇円

九月分 一五万一〇八六円

合計 金三一万四二九八円

(2) 申請人井上について

七月分 一五万六八七四円

八月分 一五万二九七四円

九月分 一六万五〇八四円

合計 金四七万四九三二円

(四)  会社が突如このような措置(以下「本件措置」という。)に出たのは、会社が不当な利を求めて申請人らの健康保険法及び厚生年金保険法上の標準報酬月額を偽って著しく低額に申告していることに対し、申請人ら(申請人中野については昭和六一年七月一日、同井上については同年六月一九日受理)が、大阪府社会保険審査官に対し審査請求を行ったことに対する報復、嫌がらせにほかならない。(なお申請人井上については、同年六月分の賃金から本件措置をとられているが、六月分の未払賃金は同年七月一五日に支払われた。)。

4  申請人らは賃金を唯一の糧とする労働者であり、既払分は余りにも少額であって、未払分が早急に支払われなければ生活を支えることは不可能である。

よって、申請人らは、会社に対し、雇用契約上の賃金請求権に基づき、昭和六一年七月分から九月分までの未払賃金として申請の趣旨記載の各金員の仮払を求める。

二  申請理由に対する認否及び抗弁

1  申請理由1は認める。

2(一)  同2は否認する。

(二)(1)  会社内には、従業員(タクシー乗務員のみをいう。以下同じ。)の労働組合としては、唯一交通労連関西地方本部梅田交通労働組合(以下「第一組合」という。)が存在するのみである。

(2)  会社と第一組合は、昭和五九年一〇月一一日、左の賃金基準を定めた協定(疏乙第一五号証。以下「五九年賃金協定」という。)を締結したから、申請人らの<賃金>もその基準にしたがって支払われるべきものである。

月間一三乗務を基本

基本給 一時間一五五円

一乗務二四八〇円

乗務手当 一乗務二二〇〇円

祝祭日手当 六〇〇円

保障給 総営収の二六%

深夜手当、年休は法定どおり

3(一)  同3の(一)は否認する。(二)のうち申請人らに対する七、八月分の既払額は認める。(三)は否認する。(四)は申請人らの誤解若しくは歪曲した事実であって全面的に争う。

(二)  会社においては、各月に支給する<賃金>のほかに、従業員に対し臨給を毎年七月と一二月の各一五日に支給しているが、申請人らの請求する金員はその性質上この臨給に該当するものであるから、会社と第一組合との間で締結された昭和五九年一〇月一一日付臨給協定(疏乙第一六号証。以下「五九年臨給協定」という。)で定まった左の基準にしたがって、昭和六一年一二月一五日に申請人らに支払う予定であるが、現時点において会社がこれを支払う義務はない。

算定期間 第一期(一二月~五月)、第二期(六月~一一月)

一時金等 総営収三〇万円以上(ただし月間一二乗務以上)の場合には、三〇万円を超える部分の五〇%

賞与 総営収三〇万円以上(ただし月間一二乗務以上)の場合には、三〇万円を超える額の一〇%及び月額九万七〇一〇円

総営収二八万円以上(ただし月間一一乗務以上)の場合には、月額八万二〇一〇円

総営収二六万円以上(ただし月間一〇乗務以上)の場合には、月額六万七〇一〇円

総営収一九万五〇〇〇円以上(ただし月間九乗務以上)の場合には、月額三万七〇一〇円

総営収一九万五〇〇〇円未満の場合若しくは月間九乗務未満の場合には月額七〇一〇円

精勤皆勤賞 総営収四〇万円以上の者(ただし所定乗務満勤者で、一乗務につき営収一万円以下の場合がないこと)については月額四〇〇〇円

4  会社と第一組合は、昭和五八年九月二八日、従業員の給与に関し、五九年賃金協定及び臨給協定とほぼ同じ内容の賃金協定及び臨給協定(以下「五八年賃金協定」、「五八年臨給協定」という。)を締結し、会社はそれ以来これらの協定に基づいて給与を支給してきたが、これに対し申請人らは今回まで一度も異議を唱えたことはない。

5  申請理由4は争う。申請人らを除く他の従業員は、前記の支払方法で支給される<賃金>及び臨給で生活しており、申請人らの<賃金>が低いのは稼動状況が劣悪であるためにほかならない。

三  抗弁に対する認否及び再抗弁

1(一)  会社と第一組合との間で五九年賃金協定及び同年臨給協定が締結されたことは知らない。

(二)(1)  会社内には第一組合とは別に、昭和五七年一月二六日に結成された自交総連梅田交通労働組合(以下「第二組合」という。)が存在している。

(2)  申請人中野は昭和五九年七月二五日から、同井上は同組合結成時から、同組合に加入している。

(3)  したがって、五九年の各協定は第二組合に所属している申請人らの賃金算定基準には何らの影響を及ぼすものではないから、申請人らの賃金は本件基準にしたがって支払われるべきものである。

2(一)  五九年の各協定は、そもそも対外的な「表向き」の真意に基づかない仮装協定であり、昭和五九年一〇月に会社と第一組合との間で真意に基づき締結されたのは、左の基準(以下「新基準」という。)を内容とする賃金協定である。

(イ) 総営収三〇万円以上(月間一二乗務以上)の場合にはその六〇%

総営収二八万円以上(月間一一乗務以上)の場合にはその五五%

総営収二六万円以上(月間一〇乗務以上)の場合にはその五〇%

総営収一九万五〇〇〇円以上(月間九乗務以下)の場合にはその四〇%

総営収一九万五〇〇〇円未満の場合にはその三〇%

(ロ) 皆勤賞 総営収四〇万円以上の者(ただし満勤者で一乗務営収一万円以下の場合がないこと)については、月額四〇〇〇円

(二)  新基準についても1と同様の理由で申請人らに適用がないことはいうまでもないが、仮に適用があるとしても、それは賃金を定めた基準であるから、申請人らの賃金額に多少変動があっても、会社は昭和六一年七月分から九月分の各給与支給日にそれを支払う義務がある。

3  申請人らは、会社の主張する給与に関する各協定について何ら知らされたことはなく、また従来の基準(本件基準)で算定した賃金の支払を現に受けてきたうえ、本件措置の如き取扱いも受けてこなかったので、今回まで異議を述べなかったにすぎない。

(当裁判所の判断)

一  当事者

申請理由一の事実は当事者間に争いがない。

二  給与の支給基準

1  疏乙第九号証によれば、昭和四九年五月二一日、会社と第一組合(当時会社内に存在した労働組合は、同組合のみであったことは当事者間に争いがない。)との間で、賃金及び臨給に関して、左の内容の各協定(以下、「四九年賃金協定」、「四九年臨給協定」という。)が締結されたことが疏明される。

(1) 賃金

月間一三乗務を基本

基本給 一時間一三〇円 一乗務二〇八〇円

乗務手当 一乗務二〇〇〇円

祝祭日手当 一〇〇〇円(ただし月間一一乗務以上の者)

保障給 総営収の二六・七%

深夜手当、年休は法定どおり。

(2) 臨給

期間配分率 夏期五〇% 冬期五〇%

基準配分金 総営収二二万五〇〇〇円

以上の者については、その二三・三%

生産成果配分金 総営収二二万五〇〇〇円以上の者(ただし月間一〇乗務以上)については、その五%

精勤成果配分金 総営収二五万〇〇一〇円以上の者(ただし月間一二乗務以上)については、その五%

2  ところが、疏甲第六号証の三(大阪府社会保険審査官作成の昭和五九年一〇月三一日付決定書)、第一一号証、疏乙第九号証添付の賃金等台帳によれば、申請人らが入社した昭和五一年ころには既に、会社は、右各協定が存するにもかかわらず、本件基準にしたがって従業員の給与を算定し、これを労働の対価として従業員に支給していたこと、算定された給与の内訳については、四九年賃金協定に基づいて算出された金額を<賃金>とし、その余の残額を臨給とする方法が用いられていたこと、本件基準はその後も継続して用いられ、昭和五八年一二月ころも用いられていたことが疏明される。

なお、右疏明の正確性を示す一例をあげんと以下の如くである。疏乙第九号証添付の昭和五八年度賃金等台帳(申請人らの分はない)の第一枚目にある木村敬司の二月(一月は全く乗務していない。)から六月までの各月の総営収に本件基準の各割合を乗ずるとその合計額は五八万九二四三円となるところ、右期間の各月の<賃金>の合計額は二九万一五一七円となり、これに賞与として支給記載された臨給二九万七七二六円を加えるとその合計額は五八万九二四三円となるのである。このように、右賃金等台帳に記載のある他の従業員についても、一年を一月から六月、七月から一二月の二期に分け、各期間について本件基準(有給休暇は乗務したものとして計算する。)を適用すると、その算出額は、各期の<賃金>合計額に臨給を加えた額に一致するのである。

右疏明された各事実に徴すれば、申請人らの給与の算定については、本件基準を用いて行うことが、会社と申請人らとの雇用契約の内容を構成するに至っていたと解するのが相当である。

3(一)  疏乙第一五ないし第一七号証によれば、給与に関して、会社と第一組合との間で、五九年賃金協定及び臨給協定が締結されたことが疏明される。

さりながら、疏甲第一八号証(第一組合作成の同年一〇月一六日付新賃金早見表)及び審尋の全趣旨によれば、右各協定により定まった給与基準はあくまで対外的な「表向き」の基準であって、両者の間で真意に基づいて合意された給与基準は、再抗弁2(一)記載の新基準であったことが疏明される。

(二)  そこで新基準の通有力について、申請人らの加入する労働組合が問題となる。

疏甲第四、第五号証の一ないし三、第一一、第一七、第二一、第二二号証を総合すれば、次の事実が疏明される。

(1) 会社には従前から同盟系の第一組合が存していたが、その姿勢に批判的な組合員が同組合を脱退して、昭和五七年一月第二組合を結成した(その当時は上部団体として全国自動車交通労働組合に加盟していたが、その後同組合を脱退して自交総連に加盟)。

(2) 会社は、第二組合結成当時から同組合を会社内の労働組合として認知しようとせず、また同組合からの団体交渉(社会保険の等級を収入に応じたものにすること等を議題とする。)にも応じようとしなかったため、同年六月大阪府地方労働委員会から会社に対し団体交渉に応じることを旨とする救済命令が発せられ、中央労働委員会の再審査を経たうえで同五八年一〇月同命令は確定した。

(3) 会社は、右命令確定後も第二組合の団体交渉申入れに全く応じなかったため、大阪地方裁判所第五民事部において、昭和六〇年七月一一日(一〇〇万円)及び同六一年七月一一日(一二〇万円)の二度にわたり過料に処せられた。

(4) 第二組合は、組合員八名の少数派組合であるが、申請人井上は結成当時からの組合員であり、同中野も昭和五九年七月二五日から同組合に加入している。

以上の事実に徴すれば、申請人らの加入する第二組合がその結成当時から会社内に労働組合として存在していることに疑いを容れる余地がなく、これに反する疏乙第一七号証(会社代表者作成の報告書)は到底採用し得ない。

(三)  されば、第一組合が会社と合意した新基準が、別組合である第二組合の組合員である申請人らの給与の基準とされるいわれはなく、また申請人ら個人あるいは第二組合が会社と新基準の採用について合意した事実も疏明されないのであるから、申請人らの給与の基準は従前どおり本件基準によって算定支払われるべきものである(もっとも総営収三〇万円を超えて月間一二乗務以上であれば、皆勤賞を除くといずれの基準によるも給与は同額となる。)。なお疏乙第一九ないし第二一号証によれば、会社と第一組合との間で、昭和五八年九月二八日、五八年賃金協定及び臨給協定が締結されたことが疏明されるが、これらの協定についても、前認定(疎明)の各事実に照らすならば、いわゆる「表向き」の真意に基づかない協定である疑いが強く、されば第二組合への加入が右各協定の締結日以後である申請人中野の給与算定基準についても本件基準が適用されることとなるのである。

ちなみに、疏乙第一九号証及び審尋の全趣旨によれば、会社は申請人らの給与についても一方的に新基準を適用して支払いをなしてきたようであるが、疏甲第二二号証によれば、そもそも申請人らに対しては新基準の説明が全くなされていないことがうかがわれ、さらに新基準を適用した結果本件基準を適用したときと較べて給与額が低下した事態の存否、回数の疏明がなく、また前認定の会社の第二組合に対する態度を斟酌すると、これに対する異議の申立が過去なかったことをもって、申請人らがこれを容認していたとか、その旨の慣行が存していたと解することはできない。

三  給与の支給方法

疏甲第三号証の一、二、第六号証の三、第七、第八、第一一号証、第一三、第一四号証の各一、二、第一九、第二〇、第二二号証によれば、会社においては、遅くとも昭和五一年ころから現在に至るまで、毎月二八日の給与支給日に、前記の各賃金協定に基づいて算出した<賃金>から、所得税等の各種公的負担、欠勤減額金、組合費、所得税等預り金(当月分の臨給相当額に対する所得税と推認される。)等を控除した金員を、賃金明細書とともに賃金袋に入れ、他方当月分の臨給相当額(以下一月分の臨給相当額を<臨給相当額>と表示する。)を、特に従業員からその支払いを申し出なくとも当然に他の袋(その金額を会社が袋の表に鉛筆で記入するときもある。なお皆勤賞はさらに別の袋に入れてある。)に入れたうえで、<賃金>と同時に従業員に支給していたこと、反面各臨給協定において、その支給日とされていた各年の七月一五日と一二月一五日に各期の臨給を支給された従業員は従前皆無であって、昭和六一年六月分給与から本件措置をとられた申請人井上が始めてであることが疏明される。

四  <臨給相当額>の法的性質

1(一)  五九年賃金協定に基づいて<賃金>を算定してみると、総営収がどれだけ多額であっても、<賃金>はせいぜい七万円を超える額にしかならず、これから前記各種控除(所得税等預り金を除く。)を行うとその手取額は六万円程度にすぎないのであって、世間相場の賃金と較べて格段に低い額であり、毎月この程度の賃金しか受給できないのであれば、仮に期末に臨給の支給があったとしても、従業員は円滑な生活を営むことが極めて困難といわざるをえない。他方、この<賃金>に<臨給相当額>を加えても、タクシー運転手の賃金として特に高額であるとはいえない。

(二)  疏甲第六号証の三によれば、大阪府社会保険審査官は、会社内の他の従業員の申立に基づき、昭和五九年一〇月三一日、健康保険法及び厚生年金法の標準報酬月額を本件基準により算出した額(<賃金>と<臨給相当額>の合計額)と決定したことが疏明される。

(三)  疏甲第一八号証によれば、第一組合は、会社と合意した給与算定の新基準を同組合所属の組合員に知らしめるため作成した基準表に、「新賃金早見表」との表題を付し、その末尾に「上記の通り賃金改訂を致しました。」と記していることが疏明されるが、このことはとりも直さず第一組合が<臨給相当額>を毎月支給されるべき賃金の一部と把握していたことを推認させるものである。

(四)  <臨給相当額>が会社の従業員に対する貸付(消費貸借)であることを疏明するに足る賃料は全く存在しない。

2  右(一)ないし(四)の各事実に前記三(給与の支給方法)の諸事実を総合すれば<臨給相当額>は、支給の形式的相違はともかくとして、期末に支給されるべき臨給の一部というよりも、一月ごとに支給される賃金としての実質を有するものと見るのが相当である(東京地方裁判所昭和五〇年七月二八日判決、労民集二六巻四号六九二頁、その控訴審東京高等裁判所昭和五二年三月三一日判決、判例タイムズ三五五号三三七頁参照)。そうである以上、申請人らは、会社に対して、<臨給相当額>についても、各月の給与支給日である各二八日に、その支払を求める雇用契約上の権利を有するというべきである。

五  未払賃金額

(一)  疏甲第一号証の一、二、第二号証の二、三、第一五、第一六号証によれば、申請理由3(一)(本件期間における各月の総賃金)の事実が疏明される。

(二)  申請理由3(二)(賃金の既払額)の(1)、(2)の事実のうち、七月分、八月分の既払額については当事者間に争いがなく、疏甲第一五、第一六号証によれば、その余の事実(九月分の既払賃金額)についても疏明がある。

(三)  申請人ら各自について、右疏明のある本件期間中の各月の総賃金額から各既払賃金額を控除すると、申請人らの各月の未払賃金額及びその総額は申請理由3(三)の(1)、(2)記載の金額となる。

六  保全の必要性

申請人らはいずれも会社から支給される賃金を生活の資とするものであるが、既払額はその生活を支える金額としては余りにも少額であるうえ、会社は未払額については昭和六一年一二月一五日まで支払わないと宣し、さらに同年一〇月分及び一一月分の賃金についても申請人らに対しては本件措置が継続して実施されるおそれが高いことを考慮すると、未払賃金について仮払を求める本件申請の必要性は十分に肯認することができる。

七  結論

以上の次第であるから、申請人らの本件申請はいずれも理由があるのでこれを認容し(事案の性質上申請人らには保証を立てさせないこととする。)、申請費用については民訴法八九条を適用して被申請人に負担させることとする。

よって主文のとおり決定する。

(裁判官 野村直之)

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