大判例

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大阪高等裁判所 事件番号不詳 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す。大阪地方裁判所が控訴人被控訴人間の昭和二十一年(ヨ)第一六二号仮処分申請事件に付て、昭和二十一年八月六日爲した仮処分決定を認可する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするという判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人の方で「被控訴人は仮処分の目的たる土地を占有することができる本権を持つて居ないから、該土地に対する控訴人の賃借権の悪意の侵害者である。かような者は仮処分によつて受ける損害が通常受けるものより大であると主張する資格がなく、又かようの者のために本件仮処分を取消してその欲するまゝに建築をさせたならばその不法行爲を助長させる結果となるから、結局被控訴人は本件仮処分によつて通常こうむるより大なる損害ありとし特別の事情を理由として民事訴訟法第七百五十九條に依る仮処分取消の保護を求める利益がない。

仮に控訴人の右の主張が正当でないにしても被控訴人と高木保昌との土地賃貸借はその地代額が統制法規に違反する無効の契約であるから、かようの契約の当事者たる被控訴人は本件仮処分に付て同法條の保護を受けるのに値しない」と述べ被控訴代理人の方で、控訴人及び高木保昌間の賃貸借契約の解除は双方の合意によるものであると釈明した外は、何れも原判決の事実の摘示と同様であるからここにこれを援用する。

(疏明省略)

理由

控訴人が大阪地方裁判所に被控訴人を債務者として大阪市北区曾根崎中一丁目七十番地四十六坪二合五勺に対する仮処分の申請をし、この申請に基いて同裁判所が昭和二十一年八月六日同廰昭和二十一年(ヨ)第一六二号仮処分申請事件として、前述の宅地に付て、被控訴人に対して立入つたり又は建物その他の建設等一切の行爲をしてはならぬなどの仮処分決定をしたことは、当事者間に爭がなく本件仮処分に依つて保全される権利が控訴人の右の宅地に対して有する占有の妨害排除請求権であることは前記仮処分申請事件の記録から明らかな所である。そこで先ず本件仮処分の異議の当否に付て審査する。

控訴人が高木保昌から昭和二十一年一月十四日同人所有の前述の宅地を控訴人主張のような約定で賃借したことは、当事者間に爭がなく、当時控訴人が高木からこの土地の引渡を受けたことは、当審証人正司愛原審並びに当審証人高木保昌の各証言でその疏明があつたものとすることができる。

ところが被控訴人は控訴人と高木との前述の賃貸借契約は同年七月十八日に契約当事者の合意で解除されたというのであるが、前述の証人等の証言に依ると、控訴人の方では店舖を建築するために戰災跡地である右の宅地を借受けたのに、いつまでも整地せず建築に着手する模様がなかつたので、昭和二十一年七月下旬ごろ高木から賃貸借を解除して宅地を返してもらい度いと申込んだが、控訴人の方で、之を承諾しなかつたことがあつたばかりで、被控訴人の主張するような合意解除がなかつたことが判り、被控訴人の他のあらゆる疏明資料に依つてもその主張事実をこう定することができぬ。

そうして見れば控訴人は前述の賃貸借関係によつて本件仮処分において保全される占有の妨害排除請求権を持つている訳でこの保全される権利がないとする被控訴人の本件假処分の異議は理由がないといわなければならぬ。

次に被控訴人の予備的主張である特別の事情に基く假処分取消の申立の当否に付て審査する。

本件假処分に依つて保全される権利が前記宅地に対する占有の妨害排除請求権であることは前述の通りであつて、かような権利は金銭的補償に依つてその終局の目的を達し得られることは疑のない所である。その上成立に爭のない乙第二号証同第五号証原審証人〓栄三郞の証言で正しく作成された文書と認める同第六乃至第九号証、原審証人高木保昌の証言で正しくできたものと認める同第一号証同第三、四号証に前述の証人等の証言を照らし合わせると、被控訴人はこれまで手廣く機械工具類の販賣を営んでいた所、空襲で罹災したので本件宅地に梅田営業所を設けて店舖の再建を志し、昭和二十一年七月中旬高木から被控訴人の主張するような約旨で本件宅地を賃借し、同時に〓栄三郞と店舖建設に付て被控訴人主張のような請負契約を結び、次で同年八月一日大阪府から建築許可を受けたので、右〓は既に整地工事を終り金一万一千円余の建築材料を買入れ建築に着手するばかりになつていた所、本件仮処分によつて建築を差止められ工事を進行することができなくなつた事実、そうしてこのままで放置すれば、一方では前に得た建築許可を取消されるかも知れず、時節柄貴重な建築資材が腐朽する恐れがあるばかりでなく、被控訴人は請負契約における特約によつて〓に多額の損害賠償をしなければならなくなり、他方では、被控訴人は店舖の開設ができないために営業上の利益を失うことになりばく大の損害をこうむる事実が疏明されたものと認められるから、被控訴人は本件仮処分によつて通常よりはるかに大きい損害を受けるものといわざるを得ない。

以上のような次第であるならば、被控訴人に民事訴訟法第七百五十九條にいわゆる特別の事情のあるものとして保証を立てさせて本件仮処分の取消の申立を取消すべきで右の保証金は本件に付て認められる色々の状況を考え合わせて金一万円を相当と認める。

控訴人は被控訴人には本件宅地を占有することのできる本権がないから被控訴人は控訴人の賃借権の悪意の侵害者であるとか、被控訴人と高木保昌との本件宅地の賃貸借はその地代が統制法規に違反する無効の契約であるとか、又被控訴人は控訴人が先に高木から本件土地を借受けていることを知つて二重に同人からこれを借受けたものであるなどといつて、このような場合には民事訴訟法第七百五十九條に依る仮処分取消の申立は許さるべきものではないと主張するけれども、元來仮処分申請はその性質上急速の処理が必要とされるので簡易の手続に依つて行われ、仮処分の要件である被保全権利や仮処分の理由を明らかにするためには、証明を要せず疏明で足りるものとされるので、右の権利とかその発生原因となつた権利そのものの存在は一應疏明の程度で認められたのに過ぎず、從つてこれ等の権利は後日本案訴訟で否定されるかも知れない運命を持つのである。そこで仮処分債務者はこの点において不利益な地位に立つので、特定の場合に保護する必要を見る。

これが即ち民事訴訟法第七百五十九條の規定する所で特別の事情のあるときは仮処分債務者に保証を立てさせて仮処分の取消を許すのである。そうして特別の事情がある場合には仮処分債務者でさえあれば何人たるを問わずこの仮処分の取消を申立てることができる。

されば被控訴人に対して控訴人の主張するような事実があるかどうかを判断する必要は全くない訳であるから、控訴人のこのいい分は失当であるといわざるを得ない。

そこでこの認定と同趣旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないのでこれを棄却すべきものと認め民事訴訟法第三百八十四條第九十五條第八十九條を適用して主文の通り判決する。(昭和二三年二月四日大阪高等裁判所第二民事部判決)

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