大判例

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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)1185号 判決 1990年9月25日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  控訴人

原判決の控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実欄に摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

(当審における控訴人の主張)

1  公序良俗違反について

控訴人の観音竹商法は控訴人が昭和四二年から同五二年までの一〇年間の歳月をかけて自ら考案し、かつ実践した観音竹商人の伝統的商いによる収益追及の基本であって、その中の観音竹の商権を譲るシステムも控訴人自ら確認したものである。栽培水準が園主の域に達していない幹事を独立させて右商権を譲ることは禁じているものである。

2  不法行為の幇助について

昭和五八年頃の貴志園芸や高井園芸の経営は右にいう控訴人の観音竹商法に適うものではなかった。これでは、年間に多額の減収となるのは明らかである。

控訴人は栽培指導はしたが、それ以上に助力したことはない。

3  判決の効力について

控訴人の考案した観音竹商法については、すでに控訴人の損害賠償責任を否定した最高裁判所(第一審大阪地方裁判所岸和田支部昭和六〇年(ワ)第四三四号同六二年六月二三日判決、第二審大阪高等裁判所同年(ネ)第一四二九号同六三年九月二九日判決の最高裁判所同年(オ)第一七七一号平成元年二月三日判決)の確定判決がある。

判決の効力には直接効である既判力のほかに、間接効を認める見解があり、これは判決の理由中の判断も訴訟外の第三者に対しても、訴訟当事者に対すると同様に影響が及ぶことを承認する見解であって、正当な理論である。

右見解によると、本件においても、右最高裁判所判決は本件訴訟に影響力を持ち、これに反する判断は右最高裁判所判決に反することとなる。

(当審における被控訴人らの主張)

1  公序良俗違反について

控訴人の観音竹商法は、それ自体公序良俗に違反し、違法性を有することは明らかである。

2  不法行為の幇助について

貴志園芸や高井園芸の経営はその経営者である貴志進、高井聖造が全観会所属の園主でありその商法は右にいう控訴人の観音竹商法そのものであった。

控訴人はこれを幇助したものである。

3  判決の効力について

判決は事件毎に下されるものであり、各事件毎に主張も立証も異なるものである。同種事件に関する先行判決の判断がどの程度後行事件の判断に対して影響力をもつかについては慎重に検討されるべきである。本件についての先行判決(控訴人主張の大阪高等裁判所昭和六二年(ネ)第一四二九号同六三年九月二九日判決)の判断中には、控訴人の観音竹商法の構造的違法性について主張立証がなく、右判決ではこの商法が常に園主による買取りを伴うものであり、園主が年二割以上の利殖金を付加した額で買取ることによって完結する構造となっていることが看過されている。

このような先行判決は本件において参考とされるべきではない。

第三  証拠関係<省略>

理由

第一  前提となる事実

原判決一七枚目表二行目から二二枚目表末行までを引用する。

ただし、次のとおり付加、訂正する。

1  原判決一七枚目裏三行目の「第一七、」の次に「第二二、第二三、」を同四行目の「第四一号証、」の次に「第二四号証の一、二」を同七行目の「第四一」の次に「、第四六、第四七」を、同一八枚目表三行目の「第二九」の次に「、第四七」を、同行目の「第三三」の次に「、第三四、第三五、第三六」を挿入し、同四行目の「被告本人尋問の結果」を「原審、当審控訴人本人尋問の各結果」と訂正する。

2  原判決二一枚目裏二行目の「約一一名の業者が活動していた。」を「園主が増加し、これに伴い顧客も増えて、園主相互間、園主顧客間の調整を要することとなり、その調整を実施するため全観会内部に執行部を設置した。」と訂正する。

3  原判決二二枚目表四行目において引用する原判決添付の別紙売買一覧表(一)の三行目の証券番号GS四三―一〇の売買の日付欄の「60・3・27」を「60・3・22」と訂正する。

4  原判決二二枚目表末行の次に行を変えて、

「7現在でも控訴人は観音竹の販売業に関与しているが、和歌山県内では自らは販売せず、顧客からの売買の申し出を受けて仲介をする方法で対処しており、その顧客からの販売方法は売り切り方式であり、一方和歌山県外の顧客を対象として昭和六〇年五月日本観音竹業者組合を結成してその会長となり、同組合員は売り切り方式で販売している。」を挿入する。

第二  不法行為の成否

一  被控訴人らの本訴請求は、要するに、控訴人が高井聖造(以下高井という)と共同して不法行為をなし、そうでなくても高井の不法行為を幇助して、被控訴人らに損害を与えたと主張して、損害賠償を請求するものである。

二  共同不法行為の成否について

本件全証拠をもってしても、被控訴人ら主張の共同不法行為を認めることができない。

かえって、以下認定の事実及び前掲(前記引用に係る原判決の説示所掲。以下「前掲」というときはこの場合を含む。)<証拠>によれば、各園主は独立採算性により経営し、かつその観音竹販売もそれぞれの判断により実行していたことが認められ、これに基づいて考えると、後記のとおり高井の本件観音竹売買に関する一連の行為が被控訴人らに対する不法行為を構成するとしても、控訴人が高井と共同して不法行為をしたとはいえない。

三  高井の不法行為の成否について

ここでは、高井が全観会システムを利用して被控訴人らに観音竹を販売し、その後買い取りができなくなって被控訴人らに損害を与えた行為が全体として、故意又は過失による違法な権利侵害となるか否かについて判断すれば足り、全観会システム自体を違法評価の対象とする必要はない。

以下この点について検討する。

1  以上認定の事実並びに<証拠>によると、次の事実が認められ、<証拠判断略>。

高井は昭和三一年に和歌山県警に採用され、同五六年八月に後記のように本件に係る分園を出すために退職するまで、警察官の職務にあったのであり、その住居地付近においては住民の信頼を得ていたものであった。高井は昭和五四年頃貴志園芸の貴志進から勧められて、観音竹一鉢を三三万円で買い受け、以後自己の妻の買受分を加えると二七ないし二八鉢、約一〇〇〇万円分を買い受ける結果となった。高井はそれだけでなく、知人、友人にかなりの数の鉢を貴志園芸から買い受けてもらうべく、勧誘した。高井はそうするうちに全観会の常任理事となった。高井は紹介先の園主が倒産するなど経営に異常が生じたとき自己の勧誘した顧客に対して申し訳ないと考えるようになり、家族、同僚の反対を押し切って前職の警察官の職を退職して園主になろうと決意し、昭和五六年八月辞職し、一月余貴志園芸で研修を受けて、同年一〇月にその分園を出して幹事となったが、取引の名義はすべて貴志園芸となっていた。ところが、昭和五八年七月貴志進が家出して行方不明となり、買い取り請求が相次いだ。それまでに高井の分園で約一二〇〇鉢を売渡していたため、貴志進家出後同人の妻が営業を引き継いでいた貴志園芸から一〇〇〇万円の贈与を受けて、右約一二〇〇鉢を引継ぎ、高井園芸の園主となって営業することになった。その頃になると、和歌山県下では、園主も増加し、商品も行きわたったため、観音竹の需要が低迷してきた。貴志進の家出もこれを裏書きするものであった。高井は園芸能力に優れず、右開園当時はすでに県下の観音竹の需要は頭打ちになっており、何らかの動因が加わると買い取り要求が殺到する危険もあったが、高井は前記のような事情から、止むなく園主となった。

その後、高井は、全観会システムを利用した観音竹販売の一環として、前記認定のとおり被控訴人らに対して原判決添付別紙売買一覧表(一)、(二)各記載のとおり観音竹を販売し、売買代金を受け取ったが、その後買取義務を履行することができなくなり、被控訴人らに対し右代金相当額の損害を与えた。

2  全観会システムは次のような問題点を内包していた。

原判決二五枚目表二行目の「前記認定」から二九枚目表八行目末尾までを引用する(ただし、原判決二六枚目表末行の「観音竹を」の次に、「栽培して仔を分けて親木と併せて」を挿入し、同二七枚目表二行目の「被告本人」を「原審控訴人」と訂正し、同一〇行目の「3」及び同二八枚目表三行目の「4」をそれぞれ削る。)。

<証拠>(収益表)は当審控訴人本人尋問の結果によるといずれも実際の商業帳簿又はこれに準ずる帳簿に基づき作成されたものでなく、控訴人の想定した数字を基に作成されたものに過ぎないことが認められ、そればかりでなく、模範例として掲げる<証拠>の内容をみると、通常予想される肥料代等の営業経費、園主の生活費、公租公課等の経費が考慮されていないので、右<証拠>は当審控訴人本人尋問の結果と併せて考慮しても、右認定を覆すに足りる証拠とはなしがたい。

右の問題点を現実化させないためには、少なくとも園主が株分けにより仔をつくり出す等の点で園芸能力に優れていなければならず、観音竹の需要が伸びていなければならず、さらに一挙に観音竹の買い取り要求が集中しないことが必要であった。

以上認定の事実に基づいて考えると、高井は全観会システムの右のような問題点を認識し、その問題点が現実化しない要件が満たされないことを知りながら、行き掛かり上止むを得ないと考えて園主となり、被控訴人らを含む顧客を勧誘したというべきであり、また少なくとも、高井は全観会システムの問題点をおぼろげながらも認識し、かつ右開園当時はすでに観音竹の需要が弱まっていること、前記貴志進の家出前後に買い取り要求が相次いだことは知っていたのであるから、全観会システムをもって観音竹販売をすれば場合によっては顧客に損害を与えることになると認識すべきであるのに、これを怠った過失があるものといわなければならない。そして、右のような故意、少なくとも過失行為により買い取り要求に応じることが不可能になって被控訴人らに損害を与えた場合にはその行為は違法の評価を免れない。

それゆえ、高井の被控訴人らに対する本件観音竹販売から始まり買い取り不能に陥って損害を与えた一連の行為は不法行為を構成するものといわなければならない。

四  控訴人の幇助について

原判決三一枚目表八行目から同三四枚目表三行目までを引用する(ただし原判決三一枚目表八行目の「第三五、」の次に「第三七、」を挿入し、同一〇行目の「第四一」の次に「、第四六、第四七」を挿入し、同一一行目の「甲第三七号証」を「甲第四五号証」と訂正し、同裏一行目の「被告本人尋問の結果」を「原審、当審控訴人本人尋問の各結果」と訂正する。)。

右認定事実及び前記一、二認定事実並びに前掲<証拠>を総合すると、控訴人は高井が園主として独立して開園する直前に貴志進が家出し、その前後の貴志園芸に対する買い取り請求が相次いでなされたことを熟知しており、観音竹の需要が頭打ちになり、その頃には全観会システムが円滑に機能せず、前記の問題点が具体化する様相を呈していたこと、加えて控訴人は高井の園芸の技能が低いことも認識していたこと、そして貴志園芸に対する買い取り請求が相次いだことから、同園の買い取り請求に全観会から買い取り資金を援助したり、高井に対し資金援助の斡旋をしたり、研修を主催したりして、全観会システムの考案者として、自ら率先してこのシステムによる観音竹販売を推進したことが認められる。

それゆえ、遅くとも右研修を実施した昭和五八年一二月一日以後の行為は高井の前記不法行為に対する幇助の行為をしたものというべきである。

五  判決の効力について

控訴人主張のように判決の間接効を法的な拘束力ある効力として承認することは、控訴人独自の見解であり、当裁判所はこの見解には何ら法律上の根拠がなく採用しがたいと解するが、そればかりでなく、<証拠>によると、控訴人の指摘する最高裁判所昭和六三年(オ)一七七一号平成元年二月三日第二小法廷判決によって是認された大阪高等裁判所昭和六二年(ネ)第一四二九号同六三年九月二九日判決は、全観会システムの内包する園主が不法行為を犯す危険性についての次のとおり判断しており、その判断は前記当裁判所の判断と相反するものではない。

すなわち、「観音竹に趣味がなく、これを愛好しない人々にまで無制限にその顧客の範囲を広め、専らその利殖のみを目的とする人々に対し、広く観音竹を販売したり、或いはまた、その資質がないのに、無暗に園主となる人を増やして、観音竹を管理・栽培する技術の拙劣な人が園主となって、全観会システムによる観音竹売買の事業をしたりすれば、やがてはその弊害が現われて経営が破綻し、違法に顧客の権利を侵害して、不法行為を犯すことにもなりかねないから、右全観会システムの運用には細心の注意を払い、慎重にその運用をしなければならないことは勿論であって、右システムによる安易な事業の拡大や顧客の増加を図ることは、厳に慎まなければならないのである。」と判断している。

それゆえ、控訴人の判決の効力に関する主張は採用しがたい。

第三  損害

原判決三八枚目表五行目から同三九枚目表五行目までを引用する(ただし、原判決三八枚目表七行目及び末行の各「前記五で」をそれぞれ「前記第一及び第二、三で」と訂正する。)。

第四  結論

してみれば、結論において右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳澤千昭 裁判官 東孝行 裁判官 松本哲泓)

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