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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)1437号 判決 1990年6月28日

大阪府交野市梅が枝四二番二一〇号

控訴人

向井一

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

長谷川信

右指定代理人

下野恭裕

辻浩司

龍神仁資

芳賀貴之

大阪市中央区淡路町二丁目二番九号

被控訴人

株式会社ニチイ

右代表者代表取締役

小林敏峯

右訴訟代理人弁護士

小蔦信勝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人らは連帯して控訴人に対し六一二円を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

仮執行宣言

二  被控訴人ら

主文同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実欄に摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(当審における控訴人の主張)

別紙記載のとおり。

(当審における被控訴人らの主張)

すべて争う。

第三証拠関係

原審の記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由がなく、棄却を免れないと判断するところ、その理由は、次に付加するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれをここに引用する(ただし、原判決三枚目表一〇行目及び同裏七行目の各「を徴収した」をそれぞれ「の支払を受けた」と、同裏九行目の「徴収」を「価格転嫁」と訂正する。)。

(当審における控訴人の主張に対する判断)

憲法違反の主張を除くその余の主張は、被控訴人株式会社ニチイが消費税相当分六一二円の価格転嫁により控訴人から支払を受けたことを論難するに尽きるところ、この点についての判断は原判決理由説示(原判決三枚目裏五行目から四枚目表一行目まで)のとおり、被控訴人株式会社ニチイの右の行為は税制改革法(同日法律第一〇八号)に基づいてなされた適法の行為であるので、法律上の原因のない利得行為とはいえず、右金員の取得は不当利得とはなりえない。それゆえ、右の価格転嫁等の消費税の実施、運用について指導した被控訴人国の不当利得の責任はない。

次に、憲法違反の主張について検討する。

控訴人の主張は、要するに、第一に、消費税が、低所得者になるほど税の負担が重くなつており、これを定めた前掲税制改革法及び消費税法は憲法の保障する税の公平、公正性に反するということ、第二に、価格転嫁により消費者が支払つた消費税相当額の金員が必ずしもすべて国庫に納付されないのであり、消費者は買物の度に取られ損という不愉快なまま買物をするのが現実であり、このことを結果する前掲税制改革法及び消費税法は憲法二五条に違反するということであると解される。

右税制改革法は、昭和六三年六月一五日に行われた税制調査会の答申の趣旨にのつとつて行われる税制の抜本的な改革の趣旨、基本理念及び方針を明らかにし、かつ、簡潔にその全体像を示すことにより、右の税制改革についての国民の理解を深めるとともに、右の税制改革が整合性をもつて、包括的かつ一体的に行われることに資するほか、右の税制改革が我が国の経済社会に及ぼす影響にかんがみ、国等の配慮すべき事項について定めることを目的として制定された法律であり(同法一条)、消費税は、現行の個別間接税制度が直面している諸問題を根本的に解決し、税体系全体を通ずる税負担の公平を計るとともに、国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定化に資するため、消費に広く薄く負担を求める消費税を創設するとして採用された税制であり(同法一〇条一項)、右消費税法は、これに関する課税標準及び税率、税額控除等、申告、納付、還付等につき定めたものである。

憲法は租税法律主義を定め(憲法八四条)、その法律の内容については国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態について正確な資料に基づく立法府の政策的、技術的な判断に委ねているものと解すべきである。

控訴人主張について、立証としてはレシート一通(甲第一号証)を提出するのみで、証明不十分というよりほかなく、仮にその主張事実が認められるとしても、前記税制の抜本的改革の一環としての消費税制度創設の目的からみると、そのことは右立法府の政策的、技術的な判断において容認される裁量を逸脱したものとはいえない。

二  してみれば、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳澤千昭 裁判官 東孝行 裁判官 松本哲泓)

別紙(当審における控訴人の主張)

一 課税方法について

(1) およそ課税と言うものは直接税であろうと間接税であろうと、その課税すべき基本法に基づき為されるべきは衆知の通りであり、本件については消費税法がその基本法であることは言うまでもあるまい。

その消費税法第五条には、明らかに之が税の負担者は事業者である旨明記されている。

(2) 仮に之が法に関連する法律が他に存在したとしても、基本法たる消費税法第五条を改正せぬ限り憲法の租税法律主義に違背していることは明らかである。

二 商品代金と税との異質性について

(1) およそ商品代金はその商品の仕入代金及び諸経費並びに事業者の利益等全てを含めて決定されるべきものである。

(2) 然るに本件「甲第一号証」に明かなように商品代金額の他に消費税「金六一二円」を明示されており、国の代理人でもない事業者が税を徴収する権限は何もない筈である。

(3) 然かも商品代金が前記の通りに決定されるものである以上、その商品に付随する如何なる税も全て諸経費の中に吸収されており、その余に如何なる名目にしろ金員を請求するのは「二重取り」と言うことになる。

三 新たなる事実の主張

本件に於いて代金支払の際、事業者の代理人たる従業員に対し控訴人は本件消費税額名目の金六一二円也の支払は不当であるので支払えない旨抗議したが、之が従業員は商品の引渡を拒否したので、やむなく控訴人は支払わざるを得なかつた事実を主張する。

四 改革法第一一条との関連について(予備的主張)

(1) 前述の通り基本法たる「消費税法」以外の法の存在は無効である旨の主張にかわりはないが念の為、予備的主張をしておく。

(2) 改革法第一一条の規定は何が何でも消費税をユーザーに転嫁すべき趣旨ではない。即ち「円滑に」との規定あり。元に事業者によつては消費税を要求しないものも多数存在している事は衆知の通りである。

(3) およそ商取引は売主と買主との合意によつて成立するものである。

にも不拘らず前述の事実主張の如く本件に於いては、国の代理人でもない事業者が明らかに「税」と「レシート」に明示し、あたかも商品代金とは別のものであるかの如く装い控訴人から徴収したのは違法行為以外の何者でもない。

五 憲法違反について

(1) 被告等が本件の正当性の主張の根拠にしている「二法」は、いずれも憲法に保障されている「税の公平、公正性」に違背している。

(2) 即ち本件課税が全ゆる品目を対象にしている点である。人は「カスミ」を吸つて生きているものではない。

憲法に保障されている最低限度の文化的生活を営む為には、それなりの生活必需品の購入を避けて通れない。

然るに消費税は低所得者になる程「税の負担」が重くなつているのは顕著なる事実であり、これは「税の公平、公正」さを欠いているのは明白であり、憲法に違反している。

(3) 税の徴収方法の矛盾について

元来租税というものは正当なる方法(計算算出方法等)により課税されたるものが全て公庫に納付されてこそ初めて税負担者たる国民は課税の妥当なるを納得するものである。

然るに現行の本件税制は簡易方式にしろ免税業者制度にしろいずれも最終消費者が販売業者に徴収されたる三パーセントの金員が国庫に納付されるという確信が得られないのが現実である。

例えば免税業者から「物品」を購入した場合、その支払つた金員の中三パーセント相当の金員は全てその業者の懐に入り国庫とは無縁のものと理解し、買物の毎に「取られ損」と不愉快な儘買物をするのが現実である。然り如何なる理屈も、この現実を論破することは不可能である。

「最高裁昭和五一年(行ツ)第三〇号同五七年七月七日大法定判決・民集三六巻七号一二三五号」にある如く憲法第二五条の規定は具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用と見ざるをえないような場合を除き裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなけるばならない云々とある。(控訴人の利益に援用する。)

然るに前述の矛盾は該「合理性を欠き裁量の逸脱、濫用云々」に当たるのは明白である。

即ち本件税法の著しき欠陥であり、その法に基く本件請求金員は違法なるもので国は連帯責任があり、直ちに控訴人に返還すべきものである。

以上

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