大阪高等裁判所 平成元年(ネ)909号 判決 1991年8月29日
平成元年(ネ)第九〇九号事件控訴人兼同第九三二号、同第九四三号事件被控訴人(以下「一審原告」という。) 株式会社 クリスタル(旧商号 株式会社花紋)
右代表者代表取締役 安田順子
右訴訟代理人弁護士 宮下靖男
同 東野修次
同 森田宏
同 久保隆
平成元年(ネ)第九〇九号事件被控訴人兼同第九三二号事件控訴人(以下「一審被告ショウキン」という。) 株式会社 ショウキン
右代表者代表取締役 村上勝哉
右訴訟代理人弁護士 若原俊二
同 土井平一
同 藤本尚道
平成元年(ネ)第九〇九号事件被控訴人兼同第九四三号事件控訴人(以下「一審被告島津」という。) 島津せい子
右訴訟代理人弁護士 西村眞悟
主文
一 本件各控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
1 一審被告ショウキンは、一審原告に対し、金一三一九万九二六四円及びうち金一二一九万九二六四円に対する昭和五五年一〇月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
2 一審被告島津は、一審原告に対し、金一三一九万九二六四円及びうち金一二一九万九二六四円に対する昭和五五年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
3 一審原告のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを四分し、その三を一審原告の負担とし、その余を一審被告ショウキン及び一審被告島津の負担とする。
三 この判決は、一、1、2項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 一審原告(平成元年(ネ)第九〇九号控訴事件につき)
1 原判決を次のとおり変更する。
(一) 一審被告ショウキンは、一審原告に対し、金五〇五〇万円及びうち金四七五〇万円に対する昭和五五年一〇月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
(二) 一審被告島津は、一審原告に対し、金五〇五〇万円及びうち金四七五〇万円に対する昭和五五年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
4(一審被告らの各控訴に対する答弁)
(一) 一審被告らの各控訴を棄却する。
(二) 右各控訴費用は各控訴人の負担とする。
二 一審被告ショウキン(平成元年(ネ)第九三二号控訴事件につき)
1 原判決中一審被告ショウキン敗訴部分を取り消す。
2 一審原告の一審被告ショウキンに対する請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。
4(一審原告の控訴に対する答弁)
(一) 一審原告の控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は一審原告の負担とする。
三 一審被告島津(平成元年(ネ)第九四三号控訴事件につき)
1 原判決中一審被告島津敗訴部分を取り消す。
2 一審原告の一審被告島津に対する請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。
4(一審原告の控訴に対する答弁)
(一) 一審原告の控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は一審原告の負担とする。
第二当事者の主張及び証拠関係
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか原判決事実摘示及び原当審記録中の証拠目録記載のとおりであるからこれを引用する。
一 原判決の事実摘示の訂正
原判決三枚目裏一〇行目、同四枚目表五行目、同裏六行目の各「不全」を「不完全」と、同四枚目裏末行の「本件ビルの立ち上がり部分の排水管」を「本件ビル一階パイプスペースの排水管の立ち上がり部分」とそれぞれ改める。
二 一審原告の当審における主張
1(店舗内装、家具補修費について)
(一) 原判決は、クラブの店舗においては七年間位で店舗の内装を改める例が多く、一審原告店舗においても昭和四九年に一審原告において全面改装をしており、その後本件浸水まで六年を経過していることが認められるから、店内補修費は本件浸水による被害に関する費用のうち七分の一(通常の改装まであと一年の部分)に限り損害と認めるのが相当である旨判示する。
右判示のうち「クラブの店舗においては七年間位で店舗の内装を改める例が多く、」との部分は、一修理業者の付属的供述を絶対的なものであると信用して認定されているが、本件店舗が存在するいわゆる「北新地」にはクラブ、ラウンジ、スナック等だけでも約三千店舗あり、それらはその経営状態、経済的能力、顧客の種類程度等を考慮して個別に改装期間を決定しているから、右認定のごとくクラブの店舗の改装期間を七年間位とするのは経験則に合致しない。右一修理業者の付属的供述のほか右判示部分を認めるに足りる証拠はない。
右判示のうち「店内補修費は本件浸水による被害に関する費用のうち七分の一(通常の改装まであと一年の部分)に限り損害と認めるのが相当である」との部分も不当である。仮に本件浸水による店舗改修が前改修より七年を経過していたら、店内補修費についての一審原告の損害は零となるのか。
(二) 原判決は、本件修理改装工事の中には本件浸水とは関係のないタイル工事や玄関、洗面所に関する工事が含まれている旨認定するが、右「タイル工事や玄関、洗面所に関する工事」も内装の調和統一を重んじるクラブ営業の特質上浸水被害回復のために必要不可欠のものといえる。
(三) 原判決は、店内補修費は本件浸水による被害に関する費用のうち七分の一を損害と認めるのが相当である旨判示していながら、一審原告請求の店舗内装費、家具補修費金二八八〇万円の七分の一に相当する金額を損害額と認定せず、店舗内装費、家具補修費として金一七七万円を認定しているにすぎない。原判決は、計算を間違ったか、あるいは金一七七万円の特定を忘却したか、いずれにしても違法である。
(四) 原判決が七年間位で改められる例が多いと判示している店舗の「内装」とは、通常の内装すなわち建物本体部分以外の店舗内部の装飾・装備等をいい、その前提となる基礎部分すなわち建物の構造部分を含まないというべきである。ところが、本件では多量の浸水のため通常の内装のほかこの建物構造部分の補修を余儀なくされた。この建物構造部分の補修は通常の店舗改装の際は行われないから、仮に原判決判示の店内補修費の七分の一を損害とするとの論理に従ったとしても、建物構造部分の補修に要した費用については全額損害賠償の対象とされるべきである。本件店舗の総工事費金三二四〇万円のうち建物構造部分の補修に要した費用は別紙「建物構造部分補修費用一覧表」記載のとおり合計金二七七八万七九八〇円であり、残額金四六一万二〇二〇円が通常の内装工事費である。一審原告は右総工事費金三二四〇万円を二八八〇万円に値引きさせた(〇・八八の割合で値引き)ので、一審原告が実際に支払った建物構造部分の補修費用は金二四四五万三四二二円となる。したがって、少なくとも右金二四四五万三四二二円については全額損害賠償がなされなければならない。
2(ホステス、従業員給与について)
一審原告がホステス、従業員給与相当分の損害(休業による損害)として金一二〇二万六九九〇円を請求したのに対して、原判決は、本件店舗の修理改装工事は事前に計画的に行えば一か月で終了できるものであるが、突然の事故であったため本件では一か月と五日間を要したこと、及び、前記のとおり、クラブの店舗においては七年間位で店舗の内装を改める例が多く、一審原告店舗においても昭和四九年に一審原告において全面改装をしており、その後本件浸水まで六年を経過していることを理由として、「休業による損害は昭和五五年六月二日から七月六日まで休日を除く三〇日のうち、五日分と、残りの二五日の七分の一の期間に相応する分を本件浸水による損害と認めた」うえで、右請求金額のうち金三四三万円を認容したにすぎない。
しかし、原判決判示の「七分の一の期間に相応する分」を本件浸水による損害と認める点については、前記1(一)に述べたと同様の誤りがある。
また、工事期間は、事前計画のある場合は一か月で、突然の事故の場合には更に五日間を要するとの原判決の判断については、これを認めるに足りる証拠もなく、合理的理由もない。通常の予め準備して行う内装工事の場合、一か月もの長期間従業員の給料を支払いながら休業してこれを行うことは、企業の損益に照らして、考えられない。本件においては、突発的事故のため一か月あまりの期間休業を余儀なくされたのである。そして、その間一審原告はホステス、従業員の雇用を確保するため給料として金一二〇二万六九九〇円を支払った。
それゆえ、右金一二〇二万六九九〇円全額が本件浸水による損害として認容されるべきである。
三 一審被告ショウキンの当審における主張
1 一審原告の前記主張をすべて争う。
一審原告は店舗改装の期間を七年間位とする原判決の判断を非難するが、株式会社阪急百貨店室内装飾部の証人田中正信も一審原告代表者も、一般的には、北新地のクラブ、バーの通常の営業を維持するためには、少なくとも六ないし七年間の期間内に改装しなければならないことを認めており、原判決の右判断は正当である。
一審原告の旧店内設備費は、当然に資産として計上され減価償却の対象となりその計算がなされている筈であり、その計算方法が定額法であれ、定率法であれ、本件被害の対象物は既に耐用年数(一般には四年ないし六年)を経過し、その資産価値は消滅しているか、または極めて低額となっているものである。したがって、一審原告は、本件店舗設備の損害額については決算書類をもって事故日現在の簿価を立証すべきである。
一審原告のなした工事は、本件浸水の被害回復のための補修工事にとどまるものではなく、店舗のイメージを旧店舗のクラシック調の暗いものからモダンな明るいものに変えることをも目的とした全面的な改装改造工事であるから、その工事費用をもって直ちに本件浸水事故の損害とすることはできない。
2 証人石井満彦の証言等によれば、本件浸水の原因となった排水管の詰まりは、一審被告ショウキン管理にかかる一二五ミリメートル排水本管にではなく、一審被告島津の専用部分である排水支管に生じていたと認めるべきであるから、一審被告ショウキンには本件浸水についての責任がない。
四 一審被告島津の当審における主張
1 一審原告の前記主張をすべて争う。
2 原判決は、理由六項で、「本件浸水は、被告島津店舗のカウンター床に溜まった水とこれより客席床に溢れた水とが、被告島津店舗床のコンクリート躯体を通過して原告店舗に落下して生じたものである。」と判断しているが、約二トンとみられる大量の漏水が短時間のうちに一審原告店舗内にもたらされたと考えられること及び本件漏水時島津店舗内のカウンター内には深さ五センチメートル程の水が溜まっていたが、同店舗客席は乾いていたことなどから考えて、本件浸水がすべて島津店舗内から落下したとする原判決の右判断は誤っている。
また、原判決は、理由二項5で、島津店舗の排水管は「被告島津店舗下から出て、同店舗玄関脇で直径一二五ミリメートルの排水管と合流する。ここまでには被告島津店舗以外からの排水は合流していない。」と認定している。排水管の形状を示す図面は、乙第一一号証、乙第一六号証の三及び検乙第三五号証添付図面であるが、現実に地面を掘り起こし、排水管を露呈させたうえ作成された図面が右検乙第三五号証添付図面であるから、この添付図面によって排水管の形状を認定すべきである。右検乙第三五号証添付図面及び検乙第三五号証の七によって判断すれば、ビル内部からビル外部の一二五ミリ排水管に接続する排水管は一本である。してみれば、島津店舗内からの排水管が一二五ミリ排水管に接続する以前のところで、島津店舗玄関脇のパイプスペースからの排水が、島津店舗内からの排水管に合流していることは明らかである。すなわち、島津店舗内からの排水管は、二階以上に入居する各テナントからの排水を集めたパイプスペースの立ち上がり排水管からの排水を合流させて、一二五ミリ排水管に至るのである。このパイプスペースからの排水管は、垂直方向から水平方向に折れて北上し、島津店舗内からの排水管に接続されている。そして、この形状から判断され得ることは、島津店舗内の排水管は水平方向に通っているのに対し、パイプスペースからの排水管は垂直方向に通っており、この排水管には複数のテナントからの排水が集中しており、当然その水圧も高く排水量も多いから、島津店舗内からの排水管とパイプスペースからの排水管との右合流地点以降で排水管が詰まれば、島津店舗方向に排水が逆流するということである。
原判決は、理由三項で、パイプスペースからの排水管が本件浸水当時破損していたとは認められない旨判示するが、パイプスペースからの排水管がビル一階のコンクリート床面を貫いてその下で水平方向に折れ曲がる直前の部分に亀裂があり、ここから本件浸水のほとんど全部が漏水したと判断すべきである。なぜなら、右排水管はビニール管であるので、その垂直部分に亀裂がある場合、通常では大事に至らずに通過する水も、本件のように排水管が閉塞し、排水が逆流して水圧が高まれば亀裂が開口し、そこから水が噴出すると考えられるからである。また、一審原告店舗天井面が均等に水びたしになっている状態からみて、一階のコンクリート床面の裂け目から水が右天井に落ちたと考えるよりも、右排水管の亀裂から直接右天井に水が流れ出したと考える方が合理的だからである。
結局、本件浸水は、一審被告島津の管理占有する範囲の外で生じているので、一審被告島津は本件浸水について責任を負わない。
3(因果関係)
本件浸水は数日後、島津店舗のカウンター内に水を溜めたところ、一審原告の店舗にポタポタと水滴が落下した。仮に、右水滴の落下が本件浸水当日にもあったとするならば、それは、本件浸水発見時の直前ころから排水作業により島津店舗のカウンター内の水が排水されるまでの一時間以内の時間内のことである。そして、その落下水滴量は、せいぜい一審原告店舗内の絨毯を湿らせる程度のものである。ところが、一審原告の主張立証する本件浸水は、天井からは夕立のように水が落下し、床には長靴を履かなければ歩けないほど水が溜まっており、島津店舗のカウンター内の水が排水されてからもなお長時間天井から水が落下し続けていたというものである。そうすると、仮に島津店舗のカウンター内の水の滴下があったとしても、右水滴落下と本件浸水との間には因果関係がないことになる。
4(公平の原則)
一審原告店舗内に落ちた大量の水の中に、たとえ少量とはいえ一審被告島津店舗からの水滴も混じっていた事実だけをもとに、一審被告島津にも本件浸水による全損害の賠償責任を負わすという考え方は、損害の公平な填補を目的とした不法行為の趣旨を没却したきわめて不合理な考え方で、公平ではない。なぜなら、本件は、二階から階下に生活上水滴が落下したというような日常的な水漏れの事案ではなく、これとは異質のビル給排水設備の欠陥による大量出水の事案であり、不法行為法はこの具体的な損害発生を回避できたのにそれをしなかった者を探し出し、その者をして損害を賠償させることを目的としているところ、前記のとおり、島津店舗からの水滴落下がなくても本件浸水による損害は発生したからである。このことは、企業の工場による流水汚染に関し、住民の一人が生活排水により、その汚染にかすかに加わっていることが否定できないので、その住民もたまたま被告にされれば、その汚染による損害の賠償をしなければならないことになるとするのが不合理であるのと同様である。不法行為においては、あくまでも具体的な損害を前提とし、それを回避し得た者を探究するという観点から、関与の無限定な拡がりを制限しなければ損害の公平な填補という目的は達せられないのである。
理由
一 当事者間に争いのない事実
原判決理由「一 当事者間に争いのない事実」に記載のとおりであるから、これを引用する。
二 本件浸水に関する基礎的事実
次に付加、訂正するほか原判決理由「二本件浸水に関する基礎的事実」記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決五枚目裏四行目から同五行目にかけての「乙四号証の一ないし七、」を「乙四号証の一ないし五、」と改め、同六行目から同七行目にかけての「被告ショウキン代表者村上勝也本人尋問の結果」を「原審証人村上勝哉の証言」と改め、同九行目から同一〇行目にかけての「三五号証の一ないし九」の次に「(添付図面を含む)」と付加し、同末行から同六枚目表一行目にかけての「証人井上好男及び証人国次敏孝の各証言、被告ショウキン代表者村上勝也、」を「原審証人井上好男、原審証人国次敏孝及び原審証人村上勝哉の各証言、」と改める。
原判決六枚目表二行目の「原告代表者安田順子」を「原審における一審原告代表者安田順子」と改め、同六行目の「駆体」を「躯体」と改め、同裏二行目の「便所内手洗」を「便所内洗面器」と改める。
原判決七枚目表七行目及び同八行目の各「駆体」をいずれも「躯体」と改め、同九行目から同裏九行目までを次のとおり改める。
「この排水管は島津店舗のカウンター床排水口の一か所から直径四〇ミリメートルの太さで始まり、次いで他の一か所の排水を流入させ、さらに直径五〇ミリメートルの太さとなって便所内洗面器と便器からの排水を流入させ、島津店舗便所(化粧室)下で直径一二五ミリメートルの排水管(以下「一二五ミリ排水管」という。)と合流する。ここまでには島津店舗以外からの排水は合流していない。一二五ミリ排水管は、右合流地点より東進し、途中で後記パイプスペースからの排水管を接続させそれからの排水を流入させたうえで、本件ビルの東壁コンクリート躯体を貫いて本件ビル外に出て、すぐに南に九〇度近く曲がって本件ビルの東外側に沿って南進し、途中クラブオークラからの排水管を後記会所から約四・五メートル北の箇所で接続させそれからの排水を流入させたうえで、公道に出たところにある会所に流入している。なお、一二五ミリ排水管の右曲折部から右会所までの長さは約一六メートルである。」
原判決八枚目表一行目の「この排水管には」の次に「、二階以上から排出される汚水(便所からの排水)と雑排水(汚水、雨水以外の排水)が流入しているが、」と付加し、同裏三行目の「客席部分」の次に「の床板下」と付加し、同四行目の「この際には」の次に「島津店舗内の」と付加し、同五行目の「便所内手洗と」を「便所内洗面器の蛇口や」と改め、同一〇行目の「排水口」を「同排水口」と改める。
三 本件浸水の発生場所
次に付加、訂正するほか原判決理由「三本件浸水の発生場所」記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決九枚目裏一行目の「客席床」の次に「板下」と付加し、同二行目の「駆体」を「躯体」と改め、同四行目の「立ち上がり部分の配水管」を「本件ビル一階パイプスペースの排水管の立ち上がり部分」と改める。
四 排水管が詰まった地点
次に付加、訂正、削除するほか原判決理由「四 排水管が詰った地点」記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決九枚目裏一一行目の「排水口」を「カウンター床排水口」と改める。
原判決一〇枚目表一行目から同二行目にかけての「島津店舗からの排水管が一二五ミリ排水管に合流する点」の次に「(以下単に『合流地点』という。)」と付加し、同裏七行目の「面積は約六平方メートルであることは」を「面積は約六平方メートルであり、ここに深さ約一〇センチメートルの水が溜まっていたこと(そうすると約六〇〇リットルの水が溜まっていたことになる。)は」と改め、同一〇行目の「もっとも、」から同一一枚目表四行目の「ない。」までを削除する。
原判決一一枚目裏四行目から同五行目にかけての「可能性もあり、右認定のように製氷機から室内への溢水の事故事例があること、」を「可能性もあること、」と改め、同七行目の「一二五ミリ配水管が」を「後記のとおり一二五ミリ排水管が」と改め、同末行の「排水口」を「同排水口」と改める。
原判決一二枚目表三行目の「昭和六〇年一〇月六日」を「昭和六二年一〇月八日」と改め、同六行目及び同八行目の各「排水口」をいずれも「同排水口」と改め、同七行目の「入らなかったことが認められ、」の次に「また、《証拠省略》によると、同排水口の近くで、南進する排水管が九〇度下方に曲がりすぐに九〇度南方に曲がっている箇所があり、この二か所の曲管部によってスネークワイヤーの進行が阻まれる可能性があることが認められ、」と付加し、同末行の「居て」を「いて」と改め、同裏一行目から同二行目にかけての「前記製氷機についての判断」を「聞いた音のみによって排水管内の出来事を推察することの困難さ」と改める。
原判決一三枚目表五行目の「このことから」を「右のことから直ちに」と改め、同一〇行目の「昭和六〇年」を「昭和六二年」と改め、同裏一行目の「一の」を削除し、同二行目の「回数」を「場合」と改め、同四行目の次に行を改めて「また、前記認定事実によれば、一審原告店舗にきわめて多量の浸水があったうえ、島津店舗カウンター内にも約六〇〇リットルの水が残留していたし、前記パイプスペースからの排水管は二階以上からの排水を一二五ミリ排水管の途中(合流地点と前記曲折部との間)に流入させているので、右パイプスペースからの排水管の接続地点より公道寄りで一二五ミリ排水管が詰まって二階以上からの排水が島津店舗からの排水管に逆流してカウンター内排水口からカウンター床に溢れ出たという可能性も考えられないわけではないが、他方、前記認定のとおり、右パイプスペースからの排水管には雨水は流入しておらず、汚水と雑排水のみが流入していること、しかし、本件浸水は透明で匂いもなかったことが認められ、また、本件全証拠によるも、島津店舗内カウンターが逆流水で汚染された形跡が認められないので、これらの点から考えても排水管が詰まったところが右パイプスペースからの排水管の接続地点より公道寄りであると推認することはできない。」と付加し、同五行目の「本件全証拠によっても」を削除し、同六行目から同七行目にかけての「認定することはできない。」を「認定するに足る証拠はない。」と改め、同九行目の「排水口」を「カウンター内排水口」と改める。
五 一審被告ショウキンの責任
次に付加するほか原判決理由「五 被告ショウキンの責任」記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決一四枚目表一二行目の「責任」の次に「(債務不履行による損害賠償責任)」と付加し、同裏三行目の次に行を改めて「なお、一審被告ショウキンは、同社が本件ビルの排水管の管理又は保全に不完全のところはなかったと主張するが、一審被告ショウキンの右主張を認め、前記判断を覆すに足る証拠はない。」と付加する。
六 一審被告島津の責任
次に付加、訂正、削除するほか原判決理由「六 被告島津の責任」記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決一四枚目裏六行目の「客席床」の次に「板下」と付加し、同七行目の「駆体」を「躯体」と改め、同九行目の「検丙五号証の一、二、」の次に「原審証人村上勝哉、」と付加し、同一〇行目の「被告ショウキン代表者村上勝也、」を削除する。
原判決一五枚目表七行目から同八行目にかけての「ビル部屋において、」の次に「右コンクリート床面部分及び排水口部分が」と付加し、同九行目の「土地の工作物」の次に「の保存」と付加する。
原判決一五枚目裏五行目の次に行を改めて、次のとおり、付加する。
「なお、一審被告島津は、島津店舗からの水滴落下がなくても本件浸水による損害は発生したのであるから、一審原告店舗内に落ちた大量の水の中に島津店舗からの少量の水滴が混じっていたからといって、一審被告島津に対し本件浸水による全損害の賠償責任を負わすのは、損害の公平な填補を目的とした不法行為の趣旨を没却し、公平ではない旨主張する。しかし、前記三で判示したとおり、本件浸水は、島津店舗内のカウンター床に溜まった水と客席床板下に溢れた水とがコンクリート躯体を通過して一審原告店舗に落下したことによって生じたものと推認され、その他の箇所から生じたものと認めることはできないから、その前提事実を欠く一審被告島津の右主張はこれを採用することができない。
そして、本件浸水による損害についての一審被告ショウキンの債務不履行に基づく損害賠償債務と一審被告島津の民法七一七条一項の損害賠償債務とは不真正連帯債務の関係にある。
七 一審原告の被った損害
1 店舗内装、家具補修費 金二四六万九八六四円
《証拠省略》によると、一審原告店舗改装工事費用として合計三二四〇万円の見積りがなされ、その後右見積り金額が値引き(見積り金額の〇・八八八八の割合に値引き)されて店舗改装工事費用合計二八八〇万円が施工した株式会社阪急百貨店に支払われたことが認められる。しかしながら、以下に述べるとおり、右合計二八八〇万円はその全額が本件浸水と相当因果関係のあるものとは到底いえない。
《証拠省略》によると、本件浸水により被害をうけて濡れたのは、一審原告店舗全体ではなく右原告店舗浸水状況図表示の青色部分すなわち同店舗北側部分であり、同店舗の南側に位置する玄関、便所、クローク、厨房、カウンターなどの部分は本件浸水による被害を受けていないことが認められる(《証拠判断省略》)。また、本件浸水の及んだ店舗北側部分の範囲内においても、金属、硝子、合成樹脂等で構成された浸水被害を受けない特質を有する内装部分や乾燥すれば継続使用に耐える内装部分も存在していた可能性があることが考えられる。ところが、《証拠省略》によると、一審原告は、本件浸水による被害回復の目的の範囲を越え、店舗全体のイメージを暗くて落ち着いた雰囲気のものから明るくて派手でモダンな雰囲気のものに一新し、趣向も新たに新装開店することをも目的として、店舗の部分改装の方途を検討することなく全面改装することにしたことが認められる。そうすると、本件浸水と相当因果関係のある店舗改装、家具補修費を判定するためには、まず、本件浸水による被害回復の目的の範囲を越えた改装部分に相当する工事費用額を判断し、これを前記合計二八八〇万円の支払済み店舗改装工事費用から除外しなければならないことになる。右判断はかなり困難であるが、前記のとおり、一審原告店舗の南側に位置する玄関、便所、クローク、厨房、カウンターなどの部分は本件浸水による被害を受けていないこと、本件浸水の及んだ店舗北側部分の範囲内においても、金属、硝子、合成樹脂等で構成され浸水被害を受けない特質を有する内装部分や乾燥すれば継続使用に耐える内装部分も存在していた可能性があることに鑑み、前記甲六号証の一の見積書の費用のうち別紙「除外費用一覧表」記載の改装工事が本件浸水被害回復の目的ではなく、専ら店舗全体のイメージを一新して新装開店する目的で行われたと認めたうえで、同一覧表記載の工事費用の合計金額一二九五万一一一五円に前記〇・八八八八の値引き割合を掛けて算出した金額一一五一万〇九五一円が「本件浸水による被害回復の目的の範囲を越えた改装部分に相当する工事費用額」であると認めるのを相当と判断する。そして、前記二八八〇万円から右一一五一万〇九五一円を控除すると、その残額は一七二八万九〇四九円になる。
しかし、右残額一七二八万九〇四九円もその全額が直ちに本件浸水と相当因果関係のある損害額になるとはいえない。《証拠省略》を総合すると、一審原告店舗と同程度のクラブ店舗においては七年間くらいで店舗の内装を改めることが多く、現に一審原告店舗においても昭和四二年の本件ビル完成直後の新内装から七年を経過した昭和四九年に一審原告において店舗改装をしており、その後本件浸水まで六年を経過していることが認められる。《証拠判断省略》 右認定事実によると、一審原告の店舗においては、本件浸水がなくてもあと一年くらいで店舗の全面改装がなされた可能性が高いことが推認でき、《証拠省略》によると、本件浸水当日一審原告代表者安田順子が島津せい子にいずれ店舗改装をしようと思っていた旨話したことが認められること(《証拠判断省略》)も右可能性を裏付けるものである。してみると、本件浸水によって一審原告が被った店舗改装関係の損害は、七年間くらいの間隔で行われることが通例の店舗全面改装が一年間くらい早まったことによる損害であるということができ、前記残額一七二八万九〇四九円のうちその七分の一に当たる金二四六万九八六四円が本件浸水と相当因果関係にある店舗内装、家具補修費と認めるのが相当である。
一審原告は、仮に原判決判示の店内補修費の七分の一を損害とする論理に従ったとしても、別紙「建物構造部分補修費用一覧表」記載の補修部分は、建物構造部分についてのものであって、通常の改装においてはその補修がなされることはなく、本件浸水があって始めて補修を余儀なくさせられたものであるから、右一覧表記載の補修費用についてはその全額が損害賠償の対象とされるべきである旨主張する。そして、当審証人田中正信は、右一覧表記載の補修は通常の店舗改装においてはこれを行う必要はなく、本件浸水があって始めてこれを行うことを余儀なくされた旨供述する。しかしながら、前記認定のとおり、右一覧表記載の補修のうち別紙「除外費用一覧表」記載の補修と重複する①「撤去工事」のうちコンクリート並ブロック斫り②「木工事」のうち玄関入口枠チーク練付、洗面所入口枠、クローク窓枠、厨房入口枠、洗面所照明ボックス枠共③「雑工事」のうち電話ボックス、カウンター大理石別ト、地袋チーク、クローク棚七万五〇〇〇円、クローク棚一八万円、クローク机④「建具工事」のうち玄関扉金物吊込共、洗面所扉デコラ金物吊込共⑤「石工事」の全部⑥「左官工事」の全部⑦「タイル工事」の全部⑧「硝子工事」の全部⑨「厨房家具」の全部⑩「家具」のうちカウンター椅子肘掛付⑪「塗装工事」のうち化粧室、クローク階段室吹付⑫「給排水衛生工事」の全部⑬「ガス設備工事」など多数のものが、本件浸水被害回復の目的ではなく、専ら店舗全体のイメージを一新して新装開店する目的で行われたと認められるのであるから、これと矛盾する当審証人田中正信の右供述部分は措信し難く、また、前記「建物構造部分補修費用一覧表」記載のその他の補修についても、通常の店舗改装に伴うものとみられるものもあるし、通常の店舗改装の補修の範囲を越えるとみられるものも、主として店舗全体のイメージを一新して新装開店する目的で行われたとみる余地があるから(すなわち、一審原告のいう建物構造部分が浸水被害にあったとしても、一審原告は、右建物構造部分までを含んだ広範な全面改装をする予定であったから、右建物構造部分を乾燥させて継続使用が可能か否かの検討をすることなく、右全面改装の便宜のために、右建物構造部分をも除去改装してしまう挙に出たとみる余地があるから)、結局当審証人田中正信の右供述部分は全体として措信し難いこととなる。また、当審において一審原告代表者安田順子は、甲四号証の一ないし三の原告店舗浸水状況図表示の青色部分以外の店舗南側部分にも水が回っていてこの部分も残すのがむずかしいので店舗全体を改装し、什器備品も乾かして使える状態ではなかったので新調した旨供述するが、前記認定のとおり、本件浸水により被害をうけて濡れたのは、一審原告店舗全体ではなく右原告店舗浸水状況図表示の青色部分すなわち同店舗北側部分であり、同店舗の南側に位置する玄関、便所、クローク、厨房、カウンターなどの部分は本件浸水による被害を受けていないことが認められることに照らして、右供述部分は措信できない。そして、他に一審原告の右主張を認め前記判断を左右するに足りる証拠はないから、右主張は採用できない。
2 ピアノ、アンプ買替え費用 金三六万五四〇〇円
《証拠省略》によると、一審原告は、本件浸水により使用できなくなったピアノ、アンプの買替え費用として合計金七三万〇八〇〇円を支出したことが認められるが、債務不履行ないし不法行為における動産の損害額は、被害当時の動産の中古品としての価額というべきところ、従前のピアノ、アンプの購入時期が不明であるが、少なくとも右新規購入価額の二分の一の中古品価額はあったと推認されるから、金三六万五四〇〇円をもって本件浸水と因果関係のある損害金額と認めるのが相当である。
3 休業による損害
(一) ホステス従業員給与相当分 金六八三万円
《証拠省略》によると、一審原告は、昭和五五年六月二日から同年七月六日まで休業(三五日間。うち一審原告の休日である日曜日は五日間。残三〇日間が営業日。)し、ホステスの給与として八六一万二四〇五円、従業員の給与として二七七万一三五二円の合計一一三八万三七五七円を支払ったことが認められる。
しかし、《証拠省略》によれば、右休業期間中従業員(従業員の中には一審原告会社役員、マネージャー、ウエーター、店舗掃除婦及びピアノ教師等一般事務に関係ないものも含まれている。)の一部は出勤して業務に携わったが(一般事務も店舗営業が休業のため勤務内容は相当程度軽減されていたものと窺われる。)、ホステスは出勤せず全く業務に関与していなかったことが認められ、しかも右休業は一審原告の責に帰すべき事由によらないものであるから、右支払い金額全額を本件事故による損害ということはできず、右支払い金額の内ほぼ六〇パーセントに相当する六八三万円の限度を以て本件事故と相当因果関係にある損害というべきである。
(二) 逸失利益 金一一六万六〇〇〇円
《証拠省略》によると、本件浸水当時の一審原告の純利益は少なくとも月額一〇〇万円であったことが認められ(る。)《証拠判断省略》
本件事故による一審原告の休業期間が三五日間であることは既に認定したとおりであるから、右月額純収益額に右期間を乗ずると約一一六万六〇〇〇円となり、右金額の限度で本件事故による一審原告の逸失利益相当の損害というべきである。
4 休業によるその他の損害
(一) 休業詫状・開店案内状 金五六万八〇〇〇円
《証拠省略》によると、一審原告は本件浸水による休業詫状、右休業後の開店案内状及び封筒の作成費用として金五六万八〇〇〇円を支出したことが認められるから、右五六万八〇〇〇円をもって本件浸水と相当因果関係のある休業詫状・開店案内状の損害と認めるのが相当である。
(二) ホステス募集費 なし
《証拠省略》によると、一審原告はホステス募集の新聞広告をし、その代金として金二一万六〇〇〇円を支出したことが認められるが、本件全証拠によっても、本件浸水と右ホステス募集の新聞広告との間に相当因果関係があるとは認められない。かえって、《証拠省略》によれば、本件浸水による休業によって辞めたホステスはいなかったから、従前どおりの営業を再開するためにはホステスを募集する必要はなかったことが認められる。
5 慰藉料 なし
一審原告の請求する慰藉料が精神上の苦痛をつぐなうための賠償をいうのであれば、一審原告は法人であり、法人は感情ないし感覚を有しないから、この意味における慰藉料の請求権を取得し得ないことは明らかである。さらに、一審原告の請求する慰藉料を広く財産的損害以外の無形の損害の主張と解してみても、本件においては、全証拠によるも、社会観念上加害者をして金銭でもって賠償させるのを相当とするような無形の損害が発生しているとは認められないから、一審原告の右主張は理由がないことになる。
6 本訴提起の弁護士費用 金一八〇万円
本件事案の内容、審理経過、認容額等の諸事情に照らすと、本件浸水と相当因果関係に立つ損害として賠償を求めうる弁護士費用の金額としては、一八〇万円をもって相当とする。
7 以上の合計金額 金一三一九万九二六四円
八 結論
以上によれば、一審原告の一審被告ショウキンに対する本訴請求は、金一三一九万九二六四円及びうち金一二一九万九二六四円(弁護士費用についての遅延損害金の請求は、内金八〇万円についてのみであるから、弁護士費用一八〇万円から八〇万円を除いた一〇〇万円を金一三一九万九二六四円から控除したもの)に対する訴状送達の翌日である昭和五五年一〇月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容すべきであるが、その余は理由がないから棄却すべきであり、一審原告の一審被告島津に対する本訴請求は、右同様金一三一九万九二六四円及びうち金一二一九万九二六四円に対する訴状送達の翌日である昭和五五年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容すべきであるが、その余は理由がないから棄却すべきである。
よって、本件各控訴に基づき、右と一部異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大久保敏雄 裁判官 中野信也 亀田廣美)
<以下省略>