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大阪高等裁判所 平成元年(行コ)52号 判決 1990年9月06日

控訴人

中川菊雄

右訴訟代理人弁護士

末永善久

被控訴人

天満労働基準監督署長松田巌

右指定代理人

山本恵三

三好正幸

田原恒幸

加藤久光

山本勝博

奥田勝儀

垣内久雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和五七年九月三〇日付で控訴人に対してした労働者災害補償保険法による休業補償給付を支給しない旨の処分を取消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決事実欄に摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(当審における控訴人の主張)

1  控訴人は本件転倒により精神的肉体的ショックを受け急激な血圧の上昇をもたらし、これによって脳出血を発症しうる。これは、本件転倒の際にダクトの角でヘルメットをかぶった上から頭を打ったこと、作業環境の劣悪、現場監督との軋轢等による興奮状態等が加わればその可能性は大きくなる。

2  控訴人は本件転倒等によるショックの直後に脳出血を発症した。

3  本件転倒等によるショックがなければ、脳出血を発症しなかった。

4  控訴人には脳出血の素質はなかった。

5  以上の事情から、本件転倒等と本件脳出血との間には相当因果関係があるものと認めるべきである。

(当審における控訴人の主張に対する認否)

控訴人の主張を争う。すなわち、本件転倒の事実自体に疑問があるだけでなく、本件転倒の後に脳出血が発症したことは必ずしも明らかではなく、むしろ脳出血の発症が本件転倒に先行した可能性も相当に高い。

第三証拠関係

原審、当審の記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する(略)。

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべきものと判断するところ、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(原判決の訂正等)

1  原判決七枚目裏五、六行目の「一〇号証」(本誌五五四号<以下同じ>60頁2段15行目の(証拠略))の次に「(ただし、<証拠略>は原本の存在についても争いがない。)、原審控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められ」を挿入する。

2  原判決一二枚目表一〇行目の「認められるが、」(61頁3段29行目)を「認められ、さらに同号証にはその作成者たる医師大成功一の意見として、本件転倒による著しい精神的感動を誘因として脳内出血をきたしたものと推論する旨の記載があるが、」と、同一〇、一一行目の「証言によれば、」(61頁3段30行目)を「証言中には、」と、同一三行目の「ことが認められるので、」(61頁4段2行目)を「旨の供述があり、彼此対比すると、」とそれぞれ訂正する。

3  右引用に係る原判決の認定は、当審における証拠調の結果によっても左右されない。

(当審における控訴人の主張について)

控訴人は、「控訴人は本件転倒により精神的肉体的ショックを受け急激な血圧の上昇をもたらし、これによって脳出血を発症しうる。これは、本件転倒の際にダクトの角でヘルメットをかぶった上から頭を打ったこと、作業環境の劣悪、現場監督との軋轢等による興奮状態等が加わればその可能性は大きくなる。」ことを前提として、控訴人が本件転倒等によるショックの直後に脳出血を発症したこと、控訴人に脳出血の素質はなかったことから考えると、本件転倒等と本件脳出血との間には相当因果関係があるものと認めるべきである、と主張する。

しかしながら、控訴人が本件転倒により精神的肉体的ショックを受け急激な血圧の上昇をもたらし、これによって脳出血を発症しうる旨の主張にそう証拠として(証拠略)(医師大成功一の意見書)があるが、前記引用にかかる原判決一二枚目表七行目(61頁3段25行目)から同裏二行目(61頁4段5行目)までにおいて認定判断のとおり、(証拠略)は<人証略>の証言に照らして採用しがたく、他にこれを認めるに足りる証拠がなく、さらに、本件転倒の際にダクトの角でヘルメットをかぶった上から頭を打ったことは、原判決一〇枚目裏一行目(61頁1段23行目)から同六行目(61頁1段30行目)までにおいて認定判断のとおり、これを認めることはできないし、作業環境の劣悪、現場監督との軋轢等による興奮状態等が脳出血の一因になっている旨の主張については、原判決一一枚目表九行目(61頁2段22行目)から同一二枚目表六行目(61頁3段24行目)までにおいて認定判断するように、これを認めがたい。

このように控訴人の主張はその前提において認めがたいので、右事実を前提とする控訴人の主張は採用しがたい。

二  してみれば、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳澤千昭 裁判官 東孝行 裁判官 松本哲泓)

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