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大阪高等裁判所 平成10年(う)1392号 判決 2001年9月28日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は,京都地方検察庁検察官外岡孝昭作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,弁護人塚本誠一,同河本光平,同堀和幸,同金京冨,同中田政義連名作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。

第1控訴趣意

論旨は,要するに,原判決は,「ア同盟イ委員会(ウ派)に所属する被告人は,同派所属の他の者と共謀の上,(1)平成5年4月19日午後7時30分ころから同月25日午前3時30分ころまでの間,京都市甲区所在のエ寺院境内のオ院において,時限式発火装置を施した火炎びん3個を設置し,同年4月25日に同装置を発火させて火を放ち,同建物の天井及び板壁の一部を焼燬し,もって火炎びんを使用するとともに,非現住建造物の一部を焼燬した,(2)同月19日午後7時30分ころから同月25日午前3時30分ころまでの間,同市乙区所在のカ寺院境内の資材倉庫において,時限式発火装置を施した火炎びん1個を設置し,同建物を焼燬しようとしたが,時限の到来により着火炎上しなかったため,その目的を遂げなかった」旨の各公訴事実について(以下,(1)を「エ寺院事件」,(2)を「カ寺院事件」という。),被告人を各犯行の犯人と断定できず,いずれも証明不十分として無罪を言い渡したが,エ寺院及びカ寺院にそれぞれ遺留された証拠品から採取された各臭気と被告人の臭気との間に同臭性があるとする警察犬による臭気選別結果の信用性は高く,これに加えて,本件各犯行は,ウ派が敢行した同時多発ゲリラ事件の一環としての事件であり,被告人は,関西ウ派の最高幹部,かつ,滋賀アジトの総括責任者であるところ,同アジトから本件時限式発火装置の構造・使用部品と同一内容の文書が発見されていること,エ寺院事件の発覚の前日に同境内で被告人と似た人物を見たという目撃者の供述及び被告人が虚偽のアリバイ主張をしていることなどを総合すれば,被告人の各有罪を優に認定できるのであって,原判決は,証拠の評価及びその取捨選択を誤った結果,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実を誤認したものである,というのである。

ところで,本件各訴因については,検察官は,原審公判において,被告人は,実行共同正犯であって,時限式発火装置の設置が実行行為にあたる旨を釈明している(なお,検察官は,控訴趣意書においても,被告人は,本件各犯行の実行行為者である旨主張する。)ので,被告人がエ寺院及びカ寺院でそれぞれ本件の時限式発火装置の設置という実行行為を担当したかどうかが主要な争点となる。

第2捜査段階及び当審における警察犬による各臭気選別

1  捜査段階における臭気選別

(1)  臭気選別に用いられた証拠品

エ寺院事件では,オ院における本件放火が発覚した平成5年4月25日に同所北東部の鴨居上に掛けられた扁額の裏側から時限式発火物の残滓1個が発見され,また,同所北西部の鴨居上に掛けられた扁額の裏側から時限式発火物の残滓2個が上下重なるような形で発見され,それぞれ証拠品として保管された。これらの時限式発火物を包んでいたフェルト様布地の証拠品が後記のキ関係選別の原臭として用いられた。

カ寺院事件では,資材倉庫内には,大文字送り火の観覧席組立用の多数の材木等の資材が土台として間隔を置いて並べられた垂木の上に積み重ねられていたところ,同年8月11日,作業者らが観覧席設営のためにこれら資材を順次取り出していたとき,垂木の横の土間上に時限式発火物1個(点火用ヒーターに通電したものの,着火炎上せずに終わったもの)が置かれているのを偶然に発見し,警察に連絡した。その後,警察官らは,この発火物の手前側にあたかもこれを隠すように置かれていた木片2本(長さ約26センチメートル,幅約6センチメートル,厚さ約6センチメートルのものと長さ約26センチメートル,幅約6センチメートル,厚さ約4センチメートルのもの,以下「目隠し棒」ともいう。)とともに押収した。警察官らは,この時限式発火物を犯人が資材の下の隙間に押し込むに当たっては,腕を伸ばすだけでは距離的に難しいと考えて,同年10月3日,同倉庫内を再検索した結果,入口付近に置かれていた角材1本(長さ約1.06メートル,幅約6センチメートル,厚さ約2.7センチメートル,以下「押し込み棒」ともいう。)がその押し込み用に利用された可能性があるとして,これを押収した。これら時限式発火物1個,木片2本,角材1本等の証拠品も後記のキ関係選別の原臭として用いられた。

(2)  臭気選別経過

警察は,捜査段階において,警察犬を利用して,エ寺院及びカ寺院にそれぞれ遺留された前記の証拠品から採取された各臭気と被告人から押収した靴等から採取された臭気との間の同臭性を判定する実験を行った(以下,「キ関係選別」という。)。

記録によると,その方法と結果の詳細は,原判決の「理由」中の「第七 警察犬による臭気選別結果の検討」の「三 本件臭気選別の実施状況及び選別結果等」の「2 選別に使用した臭気について ー 臭気の採取,移行臭の作成・保管状況等」の項以下に説示するとおりであるところ,その概略は以下のとおりである。

① 移行臭布作り

前記証拠品(たとえば,オ院北東部のフェルト)の各1個を水洗いをした晒木綿の布片(約15センチメートル×約20センチメートル大,以下,「無臭布」という。)の一定数と共にビニール袋に一定期間同封して,それぞれ各証拠品の臭気(原臭)を無臭布に移行させ,原臭布を作成する。同様に,被告人が使用していたと思料された靴あるいは登山帽を一定数の無臭布と共にビニール袋に一定期間同封して,その臭気(対照臭)を移行させ,対照臭布を作成する。さらに,警察官らの靴あるいは制帽を一定数の無臭布と共にビニール袋に一定期間同封して,その臭気(誘惑臭)を移行させ,誘惑臭布を作成する。

② 警察犬による選別方法

選別場所のク警察犬訓練所内に,直径約2センチメートルの穴が約35センチメートルの間隔で5つ空いている選別台(幅約18センチメートル,長さ約1メートル80センチメートル,高さ約22センチメートル)が置かれる。その選別台の各穴に担当警察官らが対照臭布1枚と誘惑臭布4枚を適宜それぞれピンセットを用いて差し込む。その選別台から約10メートル離れた地点に警察犬と同訓練所長のケ訓練士が選別台を背に後ろ向きで待機している。選別台上に対照臭布と誘惑臭布が並び終えられた後,同訓練士は,手元に置かれた原臭布の入ったビニール袋の中から原臭布1枚をピンセットで取り出して,これを警察犬にかがせる。その後,警察犬が選別台のところまで行き,5枚の臭布のうちの1枚をくわえて(場合によっては何もくわえないで),同訓練士のところに帰る。犬が対照臭布をくわえて帰れば,原臭と対照臭との間に同臭性があると判断される仕組みである。通常は,同じ原臭,対照臭,誘惑臭をセットにした選別(使用するそれぞれの臭布は1回毎に取り替え,選別台上での配列も1回毎に変える。)を5回連続して実施する。その中で1回ほど,選別台の穴に対照臭布を差し込まず,誘惑臭布だけを5枚差し込んで,犬が何もくわえないで同訓練士のもとに帰るかどうかをみる,いわゆるゼロ選別も試される。本選別の前には,犬の体調等を確認するため,本選別とは別種類の臭気等を用いた予備選別が実施される。

③ 選別結果

別紙Ⅰ「キ関係選別一覧表」(※省略)に記載のとおりである。

2  当審が実施した臭気選別(検証)

当審は,鋭く対立するキ関係選別の評価にかんがみ,判断の一助とするために,検察官の請求に基づき,裁判所主導のもとに,検証として,一定条件下での警察犬の臭気選別能力を観察する実験を以下のとおり行った(以下,この検証を「当審選別検証」という。)。

(1)  準備作業

① 原臭

カ寺院事件で犯人がさわって現場に置いたとされ,その後約3か月半ないし約5か月半後に発見された木片ないし角材(別紙Ⅰ「キ関係選別一覧表」の番号5ないし7で原臭となっているもの)とそれぞれ材質,形状,大きさのほぼ同じ材木合計4本(別紙Ⅱ「当審選別検証一覧表」(※省略)記載の材木A,B,C,D,このうちAとBは角材対応,CとDは木片対応)を準備した。これらの材木の合計6か所(材木AとBについてはそれぞれ上部と下部)に裁判所職員合計20名(後にこれら臭気提供者にAからTのアルファベット記号を当てて区別した。)がそれぞれ分担して臭気を付着した(1か所に5人がそれぞれ1分間ないし3分間しっかり把持した混合臭)。その後,これらの材木をカ寺院の資材倉庫に木片・角材が発見されたときとほぼ同じ位置・状態に設置し(平成12年12月5日),90日後(平成13年3月5日)にこれを回収した。その後,これらをそれぞれ20枚の無臭布と共にビニール袋に同封し,同封期間を約1日とする6種類の移行臭布を作成し,これを原臭とした(後にこれらに1から6の数字を当てて区別した。以上の点につき,別紙Ⅱ「当審選別検証一覧表」参照)。

② 対照臭及び誘惑臭

前記の裁判所職員20名が靴下(同製品の新品を水洗いした上乾燥させたもの)をそれぞれ約6時間半履いた後,これを脱いで,それぞれ20枚の無臭布と共にビニール袋に同封し,同封期間を約1日とする20種類の移行臭布を作成し,これを対照臭ないし誘惑臭とした(前同様にAからTの記号を当てて区別した。別紙Ⅱ「当審選別検証一覧表」参照)。

③ 移行臭布作成の経過

前記①及び②の各移行臭布を作成するにあたっては,それぞれ事前にコ警察本部の臭気選別に習熟した警察官から作業上の指導を受けた上,原則として裁判所書記官,職員及び裁判官が具体的作業をし,臭気付着,資材倉庫内における設置・回収,移行臭布の同封,材木・靴下の抜き取り,封印など基本的な作業の場では,作業をする者は,手袋を装着し,ピンセットを用いるなど他の臭気が付着しないようにできる限り慎重な方法を採った。また,これら基本的な作業の場には,検察官,弁護人,被告人のほか担当警察官が立ち会った。一連の作業に関し当事者から特段の異議は出ていない。

(2)  検証

① 日時  平成13年3月22日午前10時開始

② 場所  コ警察直轄警察犬訓練所

③ 実験担当者 前記ケ訓練士

④ 選別犬 アルノ・オブ・ベローブロニー号(ゴールデンレドリバー,雄,8歳)(以下,「アルノ号」という。)

⑤ 原臭布

前記(1)①の方法で作成したそれぞれ5人の混合臭からなる6種類の移行臭布(別紙Ⅱ「当審選別検証一覧表」の原臭番号1から6)

⑥ 対照臭布及び誘惑臭布

前記(1)②の方法で作成した靴下からの20種類の移行臭布(別紙Ⅱ「当審選別検証一覧表」記載の記号AからT)

⑦ 選別の方法

a 以下の諸点を除いて基本的にはキ関係選別と同じである。選別の方法については,事前に検察官,弁護人に意見を聞く機会を設け,裁判所の取り決めた基本的な方針については,予め検察官,弁護人に伝えた。

b 合計15回の選別を実施した。

c 当初3回は原臭と対照臭をそれぞれ一定のものに固定し,誘惑臭のみを毎回変化させ,その後の12回は1回毎に原臭及び対照臭を変えた。ただし,いずれの回についても,選別台に2つ以上の対照臭が並ばないようにし,また,適宜ゼロ回答を入れるようにした。

d 裁判官等の裁判所関係者を含めた本検証に立ち会う関係者らが選別台の対照臭の有無やその位置については全く知らない状態にして(原臭,対照臭,誘惑臭の組み合わせを作成した当審裁判長は本検証に欠席した。),弁護人の主張する「クレバーハンス現象」あるいは「関係者の指図,誘導」の疑いなどを排除するため,次のような方法を用いた。

すなわち,当審裁判長において,事前に15回分の原臭,対照臭,誘惑臭の組み合わせを順番を定めた上で番号及び記号で1回毎1枚のカードに記入し,このカードは選別開始まで封筒に入れて密封し封印しておく(なお,数字と記号とからなる組み合わせは,それだけ見ても,対照臭の有無はもとよりどの記号が対照臭かも分からない。)。選別開始後は,隔離された別室の担当裁判所書記官が,選別の1回毎に前記カードの1枚を順番に取り出し,その記号の組み合わせを他で待機する選別台配列担当裁判所書記官に伝達し,他方,手元で管理する原臭袋の中からその番号に対応するものを他で待機する運搬担当警察官に渡す。選別台配列担当裁判所書記官は,伝達された記号の対照臭布ないし誘惑臭布の入ったビニール袋5袋を配列台まで担当警察官5人に運ばせ,配列台の場でこれら臭布の配列を自らが裁量により適宜決め,これに従って担当警察官に配列させる。同じころ,原臭袋配置担当警察官は原臭布の入ったビニール袋をケ訓練士のもとに運ぶ(ただし,第2回目,第3回目は,原臭袋の差し替えはしない。)。

e ケ訓練士については,さらに,選別台上の対照臭布の有無及びその位置を知る可能性を一切排するために,選別開始の合図まで,選別台が見えないように三方をベニヤ板で塞いだ囲いの中で選別台を背にアルノ号とともに待機した。

f 裁判所関係者,検察官,関係警察官,弁護人及び被告人は,選別犬に影響を与えないような場所,位置で待機ないし立会いをするよう配慮した。

⑧ 選別の結果

15回の選別の結果は,別紙Ⅱ「当審選別検証一覧表」記載の選別結果記載のとおりであった。選別犬は,対照臭布を1度もくわえることはなかった。

3  当審選別検証に対する検察官の評価

検察官は,次のような理由によって,当審選別検証の結果の証拠価値は低いと主張する。

(1)  犯人の心理等背景を認識し得ない第三者的立場である裁判所職員が興奮することなく1分間ないし3分間把持しただけであるから,臭気があまり付着していなかったことが考えられる。

(2)  キ関係選別に用いた木片等は,梅雨の時期をはさんだ4月から8月までの臭気の保存にとって適度な湿気を含んだ季節に放置されていたのに対し,当審選別検証の材木については,臭気の保存にとって好ましいとはいえない12月から3月までの冬季の乾燥した季節に設置されたことから,設置期間中に臭気が飛散してしまったことが考えられる。

(3)  アルノ号にとって,ずっと訓練し続けていた自分のテリトリーであるク警察犬訓練所ではなく,環境も大幅に異なるコ警察直轄警察犬訓練所で実施したことが影響した可能性もある。

(4)  通常の事件選別では,原臭及び対照臭を固定して3回から5回を1セットとして実施し,アルノ号も8歳になるまでこの実施方法で訓練を重ねており,同方法に慣れている状態であるのに,当審選別検証では,4回目以降,原臭と対照臭とを1回毎に変え,しかも,1人の臭気が原臭や対照臭になったり,誘惑臭になるなど役割を変えて登場する方法をとったため,犬を混乱させ,戸惑わせた可能性が考えられる。

検察官の以上の評価は,これをまとめると,①そもそも材木には,検証当時,選別犬が識別できる程に臭気が残存していなかった,②仮に一定の臭気が残存していても,当審選別検証における選別の方法が通常と異なったため選別犬が能力を発揮できなかった,との2点に尽きる。

4  当審選別検証の結果についての検討

そこで、当審選別検証の結果に関する検察官の上記主張について検討する。

(1)  まず,検察官の上記主張の(1)についてであるが,犯人が本件の時限式発火物を設置した際の考えられる木片・角材の用途(目隠し用あるいは押し込み用)に応じてその把持状況を想像すれば,当審選別検証における材木の把持時間の3分間はもとより,1分間でもこれが短すぎるとは考え難い。また,ケ訓練士は,握れば数秒から10秒,つまんで1分であれば,警察犬の選別が可能な臭気が付着する旨繰返し証言しているのであり,検察官の主張はこのケ証言と矛盾する感がある。

さらに,当審選別検証においては,裁判所職員が材木を把持するに当たっては,「両手で木材を握り込むようにして持ち上げていただき,できれば,もし自分が犯人であった場合に「捕まるかもしれない。見つかるかも知れない。」という手に汗握るような緊張感のある気持ちでしっかりと把持してください。把持時間は提供者によって,1分であったり,3分であったり,異なりますが,中間あたりで一度木材を握り直していただきます。」と神経を使った慎重な指示を行っているのである。キ関係選別に比較して,当審選別検証における原臭の付け方等に特段の欠点があったと認めることはできない。

そうすると,当審選別検証における材木の把持時間や犯人と第三者との緊張感の違いなどを考慮しても,当審選別検証においては裁判所職員の臭気があまり付着していなかった旨の検察官の主張は当を得ているとは思えない。

(2)  次に,時間の経過による臭気の変化について考えるに,確かに,物の把持によって付着した人の臭気の発生源となる脂肪酸等の化学物質が時間の経過によって変化していくことが当然考えられ,当審選別検証の場合も,材木の約3か月間の設置により当初付着していた臭気がもはや残存しなくなっていた可能性もあり得ないことではない。しかしながら,カ寺院事件の証拠品の木片・角材は,当審選別検証に用いた材木とほぼ同質、同形状,同じ大きさであるはもとより,同じ資材倉庫内で,しかも,それより長い期間(角材においては2か月以上も長く)放置されていたものである。また,検察官のいう放置した時節の違いも,カ寺院事件の木片・角材が梅雨の後の夏の高温時を相当期間経過している点(角材に至っては10月まで)を加味すると,梅雨の時期の湿気の多さなどを決定的に重視するのが適切とも思えない。なお,ケ訓練士は,同人の実験結果では,約9年前のものでも選別が可能であった旨証言するが,この証言を前提とするならば,当審選別検証における材木の約3か月間の設置の間に臭気が飛散してしまったとは考えにくいということになる。

そうすると,キ関係選別の場合と当審選別検証の場合とで,放置ないし設置期間中の臭気の変化に格別の差があったとは認めがたい。そして,仮に,検察官の主張のとおり,当審選別検証の材木に臭気が残っていなかったとすると,キ関係選別における木片・角材にも犯人の臭気が残っていなかったのではないかという疑問が生じるのであり,この点,原判決が,カ寺院に遺留された木片・角材について,長期間放置されていた点などを理由に「犬による臭気選別ができるほどの臭気が残存していたかどうか疑問である」と指摘して,キ関係選別の結果を不自然と評価しているところ,この指摘は,それなりの合理性があり,にわかに排斥できないというべきである。

(3)  当審選別検証の行われたコ警察直轄警察犬訓練所が,選別犬であるアルノ号が訓練を受けてきたク警察犬訓練所とは異なった場所であって,同所とは環境も異なるところであることは検察官主張のとおりであるが,当審選別検証をコ警察直轄警察犬訓練所で行うことについては,検察官の意見も採り入れた上でのことであり,また,なに故にアルノ号が訓練を受けてきたク警察犬訓練所でなければ適切な選別を全くと言っていいほどに行うことができなかったかについての合理的な根拠が見当たらない。

検察官の上記主張の(4)については,その内容等に照らして項を改めて検討する。

第3当審選別検証における選別方法の評価及びキ関係選別における選別方法に対する疑問

1  原臭・対照臭の固定と変化

当審選別検証における選別の方法がキ関係選別におけるそれと最も大きく違う点は,検察官指摘のとおり,4回目以降は,原臭を基本的に1回ずつ別種類のものに変え,これに従って対照臭も1回毎に変わり,しかも,前の回の対照臭が次の回では誘惑臭にもなり得る点である(以下,これを「毎回変化方式」という。)。キ関係選別では,犬の臭気選別に採用されている通常の方法と同様に,原臭を定めるとこれに対応する対照臭,誘惑臭についてもそれぞれ固定し(ただし,個々の臭布は1回毎に取り替える。),これら原臭,対照臭,誘惑臭の組み合わせを1セットとしてこれを変更せず,選別台の配列だけを毎回変える方法で5回程度連続して犬に選別させる方式(以下,これを「セット固定方式」という。)を採っているのである。

検察官は,警察犬は,セット固定方式により日常の訓練をしているので,毎回変化方式では混乱し戸惑うという(検察官は,当審選別検証に先立っても,当裁判所の毎回変化方式で実施するとの方針に対して,同様な意見を申し出て,その結果,当審選別検証では,当初の3回はセット固定方式に近いものとした。)。

ところで,キ関係選別はもとより,当審選別検証においても,犬の選別行動の一連の動作過程からは,1回毎にそれぞれ原臭と対照臭の同臭性を判断しているようにみえる。そうであれば,毎回変化方式によっても,同臭性の判断ができるはずであると考えられる。それなのに,なぜにセット固定方式でないと犬が対照臭の選別ができ難いのであろうか,はたして犬は,常に1回毎に原臭と対照臭との同臭性を判断して選別をしているのであろうか,何か別の識別根拠によって対照臭を持来しているのではなかろうかという疑問を禁じ得ない。この点,容易に思いつくのは,セット固定方式で選別する犬は,少なくとも2回目以降に関しては,1回目に選択した臭布を記憶していて,その記憶により同じものを持来しているのではないか,毎回変化方式では,その記憶が生かせないので,犬は混乱し戸惑うことになるのではないかということである。

この点に関して,ケ訓練士は,当審選別検証の前に,当審証人として,「犬が原臭を確実に記憶し得たら,原臭,対照臭を1回毎に変えても選別できるのであって,アルノ号は選別犬として完成しており,その訓練もできている」旨供述し,現に,原審段階の平成7年11月30日の実験では,同訓練士は,「完成犬」であるとするマルコ号を使って,警察官延べ6名(実人員5名)の肌着からの移行臭を原臭,対照臭,誘惑臭のそれぞれに用い,順次原臭(対照臭)を変え,前回原臭(対照臭)としたものを次回には誘惑臭に入れる方法の毎回変化方式で6回実験選別を試み,6回とも正解の対照臭を持来させていることが認められる。しかしながら,この実験選別では,確かに,毎回原臭・対照臭は変わるが,どの回においても,原臭と対照臭は,ともに同じ物品(警察官の肌着)に同封された移行臭布であって,キ関係選別のように,原臭が現場遺留品であり,他方,対照臭が被告人の靴であるといった物品の違いはない(以下,原臭布と対照臭布とが同一物品からの移行臭を「原対同一物品臭」,別個の物品からの移行臭を「原対異物品臭」ともいう。)。

同実験のように,原臭布の臭いをかいだ後に選別台に向かう犬が,原対同一物品臭の対照臭布を識別することは,原対異物品臭の対照臭布を識別する場合と比べて,ずっと容易なことと考えられ,この方法ならば,訓練された選別犬が毎回変化方式でも正解を選別できるとしても理解し得る。

しかしながら,原対同一物品臭の対照臭布の識別ができるからといって,犬が毎回変化方式によって,原対異物品臭の選別が常にできるかどうかは別問題であって,当審選別検証の結果は,この点の困難さを示したものとみることもできる(日本警察犬協会主催の「日本訓練チャンピオン決定競技会」においても,毎回変化方式による競技が行われるが,原対同一物品臭が用いられ,原対異物品臭による選別は行われていない。なお,ケ訓練士が毎回変化方式も訓練できていると証言するのに対し,検察官がセット固定方式にこだわっていて両者に矛盾があるようにみえるが,以上のような背景を考えると,ケ訓練士のいう毎回変化方式は原対同一物品臭を念頭に置き,検察官はこれと違って原対異物品臭の毎回変化方式を考慮していたと考えられるのであって,両者間の主張に特に矛盾があるわけではないと理解することができる。)。

結局,原対異物品臭でしかも毎回変化方式による当審選別検証の結果は,セット固定方式によるキ関係選別の結果に対して,必ずしも1回毎に原臭と対照臭の同臭性を識別しているのではないのではないかという疑問を残し,これに万全の信頼を置くことをためらわせるものとなったといわざるを得ない。

2  対照臭と誘惑臭との対比

セット固定方式において,犬が2回目以降は,「原対同定」ではなく,前回持来した臭気の記憶を保持していてそれと同じものを持来しているのではないかなどとの疑いは,それだけでは,同方式による第1回目の場合に対照臭を持来する説明にならないことはいうまでもない。

ところで,当審選別検証の結果は,15回の選別のうち第1回目はもちろん,相当長い休憩時間を置いた後の第4回目及び第10回目の選別においても持来することができなかったことを示しており,第1回目の選別をことごとく成功させているキ関係選別と著しい差を見せている。

ここでは,キ関係選別と当審選別検証とで異なる今ひとつの側面,すなわち,選別台上の対照臭と誘惑臭との同質ないし異質性の問題に眼を向けざるを得ない。

当審選別検証においては,裁判所職員の履いた靴下から移行臭を作成し,これが対照臭となったり誘惑臭となるなど,時に役割を変えつつ登場するが,いずれも同製品の靴下という点で素材が共通しているはもとより,移行臭布作成の同封期間やビニール袋などにおいても差等を設けておらず,対照臭もその中から偶然的に選ばれるに過ぎず,付着した臭気の質量に関して,対照臭だけが他の誘惑臭と比較して区別されることのない仕組みとなっている。これに対し,キ関係選別の本選別においては,対照臭は,被告人の登山帽や靴であるのに対し,誘惑臭は機動隊員ら警察官の冬制帽や靴であって,警察官の冬制帽が官給品で同質の製品であることはもちろん,警察官の靴も官給品であって,同質の製品である可能性があり,誘惑臭についてはビニール袋での同封期間は一定しているのに対し,対照臭の同封期間は番号2を除いて誘惑臭のそれと異なっている。これらの点からして,キ関係選別においては,誘惑臭の4点については,その物品に付着した臭気の質量に共通性が生じ,そうでない対照臭の1点との関係において,4対1となって,対照臭が際立つことになっていた疑いがある。

当審選別検証とキ関係選別とのこのような違いに注目すると,弁護人が原審以来主張している濃度コントラスト論(単純に言えば,犬は対照臭と誘惑臭との間の臭気濃度の差から選別しているとの論)に基づくキ関係選別に対する批判を一概に排斥できないものがある。すなわち,キ関係選別においては,対照臭と誘惑臭との間には臭気の質量に差があり,いわば5点のうち1点だけ違ったものがある(なお,これは必ずしも臭気が最も濃いものには限らない。)ために,選別犬は,原臭と対照臭との同臭性に着目して選別しているのではなく,対照臭と誘惑臭の間の違いに着目して持来した可能性がないとはいえない。これに対して,当審選別検証では,対照臭と誘惑臭との間に1点だけ臭気の質量が他と違っているといった差がないために,持来することができなかったのではないかとの疑いを否定することはできない。

3  記憶的ないし習癖的選別の疑い

別紙Ⅰ「キ関係選別一覧表」の番号2以下において,対照臭とされたのは,いずれも押収された一足の被告人の靴からの臭気である(なお,被告人の靴は,対照臭としては用いられているものの,原臭としては全く使われていない。)。同一の日に何回も本選別を重ねた番号4から7までの選別作業においてはもちろんのこと,日を置いて実施される場合でも,選別犬は,何度も何度も繰り返し出てくる被告人の靴の臭気をよく記憶し,関心を高めていたとみる余地がある。さらに言えば,あからさまな暗示や誘導は認められないものの,迎合性の強い犬が,被告人の靴からの対照臭を持来することを繰り返すうちに,ケ訓練士や周囲がこれを持来することを期待していると感じ取っていた可能性もないとは言い切れない。そうした習癖的かつ迎合的な持来が,第1回目の選別に現れていないという保証はない。

キ関係選別において,犬がこのような記憶と迎合的本能から選別していたとすれば,対照臭につき全く「記憶」の生じる機会のなかった当審選別検証において,犬がついに持来ができなかったことも説明可能ということとなる。

第4小括

以上検討したところに,原審及び当審で取り調べた関係証拠から認められる諸事情を加えて総合すると,キ関係選別については,その証拠能力を否定することはできないとしても,少なくとも,本件各事件の現場に遺留された各証拠品に被告人の臭気が付着していたとする点の証明力において,検察官の所論にもかかわらず,自ずと限界があり,被告人が本件各事件の実行犯であるとする点の証拠としては信用性が高いとはいえず,本件に関する警察犬の臭気選別の結果をもってしては被告人の犯人性の根拠とすることはできないといわざるを得ない。

(なお,付言するに,原判決が,理由中の「第七 警察犬による臭気選別結果の検討」の「四 本件臭気選別の検討」の「3 当裁判所の判断」の項において,「ケは各選別の目的,移行臭の配列順序を予め知っている可能性がある。」旨の説示部分及び「本件選別結果からみて,捜査官の何らかの作為が入った可能性を否定しきれない。」との説示部分はいずれも当裁判所の採るところではない。)。

第5ウ派のアジトからの押収物,犯行声明,目撃供述などについて

1  所論は,前記第1のとおり,本件各犯行は,ウ派が敢行した同時多発ゲリラ事件の一環としての事件であり,被告人は,関西ウ派の最高幹部,かつ,滋賀アジトの総括責任者であるところ,同アジトから本件時限式発火装置の構造・使用部品と同一内容の文書が発見されていること,エ寺院事件の発覚の前日に同境内で被告人と似た人物を見たという目撃者の供述からすれば,被告人が本件各犯行の実行行為者である高度の可能性を推認させるものである,という。

2  しかしながら,この点に関して,原判決が,理由中の「第五 検察官主張の臭気選別結果以外の証拠の検討」の「一 滋賀アジトから押収された各文書について」及び「二 時限式発火物と被告人の関係について」の各「3 当裁判所の判断」並びに「三 目撃証言について」の「4 当裁判所の判断」の各項で説示しているところは大方において正当として是認することができる。

所論にかんがみて以下補足的に検討する。

関係証拠によると,以下の事実を認めることができる。

(1)  被告人は,当時,ウ派の関西における重要な幹部の1人であり,かつては,同派の非公然アジトの一つである「滋賀アジト」の総括責任者でもあった。

(2)  「滋賀アジト」は,平成3年9月に警察により摘発されたが,その際,水溶紙を含む多数の書類等が押収されたところ,これらの書類の分析の結果,当時,同派には,皇室関係の社寺を攻撃目標の一つとする本件と同種のゲリラ計画があり,これらに使用するために時限式発火物等の手造りによる製作計画もあって,その作成図における時限式発火物の時限部のプリント基板のパターン及び部品等は,本件各犯行で用いられたものと合致しており,本件各時限式発火物がこれら作成図と同じ内容の図面から製作されたと推認することが可能である。

(3)  ウ派は,エ寺院事件の放火発覚の数日後,報道機関に声明文を郵送し,その後,同派の機関誌でも報道し,これらによって,本件各事件を含む京都の天皇関連施設などへの一連のゲリラ的攻撃が同派革命軍によって実行されたことを認めた。

(4)  エ寺院の法務部所属の僧侶サは,エ寺院事件発覚の前日である平成5年4月24日午後5時過ぎころ,当日最後の参拝客である男女一組が入場してきたので,同人らの姿を注視していたところ,そのうちの男性から,「出口はこちらではないのですか。」と尋ねられたので,西方門を指して教え,その後,別の職員がこの男女を同門の方へ案内した。サは,オ院の放火事件の発生を知った後,この男女一組を不審な人物として警察に情報を提供し,2日後の同月27日には,似顔絵担当の警察官に供述して男女の似顔絵を描いて貰った。サは,そのうち男について,その絵は似ていると思った。サは,その後,同年5月8日,警察で,被告人を含む6名の男の写真が貼付された台帳をもとに「似ている人がいないか。」と尋ねられて,目元が似ているなと思って被告人の写真を選んだ。その後も警察や検察庁で何回か被告人のそれぞれ別の写真を他の者の写真と一緒に示されるなどして写真面割をしているが,被告人の写真がある場合はそれを選び,そうでない場合は誰も選ばなかった。

前記認定の(1)から(3)の事情は,本件各時限式発火物が被告人ないしその周辺にいる者によって製作された可能性が疑われ,関西におけるウ派の重要な幹部である被告人が,この時限式発火物の製作を含めて,本件各犯行に背後で一定程度関与していたのではないかとの疑いを抱かせるものといい得る。しかしながら,これから直ちに本件各犯行についての被告人の実行行為性が推認できるものではない。

ところで,(4)の事情についてであるが,サは,原審公判廷で,①被告人が逮捕された後,警察本部から出て来た被告人の実際の顔,姿を直接に見たが,その際と以前の目撃とを比較した印象について,「体つきがもっとがっしりしてたと思う」旨,「もっと日に焼けて,浅黒いような顔をしていたように思う」旨,「土建業者の人のように思ったが,実際の被告人は土建業者というような印象は受けず,普通のサラリーマン風に見えたので,全然違うと思った」旨,「身長も多少低く見えた」旨,「歩き方も,弱々しく見え,断定はできないが,違うと思った」旨,「一回り小さいと思った」旨,「髪型,長さも違っていて,白髪ももっと少なかったように思う」などと印象の違いを述べ,その時の捜査官にも,ほぼ同様の感想を述べて「全体的に違う」旨を説明したと述べ,さらに,②最初に写真面割をし,6人の男の中から被告人のものを選んだときの印象についても,サは,原審公判廷で,「もう少しほっぺに肉をつけたり,おでこにしわを描いたりすると,ひょっとしたら似ているのかなというような面もあると思う」旨,「とりあえず似ている人をというつもりで選んだ」旨も述べているのである(なお,その証言内容等に照らし,サが被告人の面前であることなどから影響を受けてあえて虚偽の証言をしたと認めることはできない。)。

サの同一性識別に関するこれら一連の供述に前記似顔絵等の関係証拠を総合してみると,サの目撃した男が目元等において被告人と似た人物であることは否定できないものの,髪型,白髪の有無,顔色,面長の程度,頬のふくらみ,身長,体つき,歩き方,職業の印象など,必ずしも似ているとはいえない面も相当ある。

そうすると,直面割りの消極面をことさら重視すべきではないなど所論指摘の点を考慮してみても,サの目撃供述とその関連証拠の全体をもってしても,エ寺院内で出会った前記の男性が被告人とは別の人物である疑いがなお払拭できないのであって,結局のところ,その男が被告人である高度の蓋然性があるとまで認定するには至らない。

アジトからの押収物,犯行声明,目撃供述,写真及び似顔絵による面割に関する一連の各証拠によって被告人が本件各犯行の実行犯である高度の可能性があるとする所論は採用できない。

第6アリバイ供述の虚偽をいう点について

所論は,被告人のアリバイに関する供述については,(1)平成5年4月21日から23日にかけて妻と和歌山方面に小旅行をしていたという点は,当時のウ派をめぐる状況からすると、家族旅行などしている余裕はなかったはずで,この小旅行は到底信用できない,(2)同月24日の夕方は兵庫県西宮市内の実家に帰って一泊したとの点は,翌朝午前10時ころ,ス某の運転する車で実家を出てシ社関西支社に戻ったというのであるが,関西のウ派関係者の中でス某に該当するセは,同月25日は沖縄にいたのであるから,実家に戻ったとの供述全体が虚偽である,などの諸点が指摘できるのであって,このような虚偽の供述は,とりもなおさず,被告人が本件の実行行為者であることを裏付ける重要な情況証拠である,という。

しかしながら,(1)については,被告人とソが同月21日に丙町内のホテル「タ」及び同月23日に海南市の旅館「チ」に宿泊した事実はそれぞれの宿泊者名簿の筆跡からある程度裏付けられていることからすると,所論にもかかわらず,この点に関するソ及び被告人の供述の信用性には相応の根拠があるといえこそすれ,これをもって,被告人の有罪性を裏付ける虚偽の供述と認定することは到底できない。なお,所論は,仮に,被告人がこの時期に前記ホテル等に宿泊したとしても,それは,付近にあるウ派の武器製造所としての秘密アジトから本件各犯行に使用した時限式発火物を受け取るためであったとするのも1つの合理的な推測であるなどというが,この推測は,地域的及び時間的近接性だけを根拠に,具体的証拠を欠くものであって,これを肯定する余地はない。

次に,(2)については,同月24日に被告人と共に西宮市の被告人の実家に赴き,1泊した経過を述べる関係者である原審証人ツの供述中には客観的事実にそぐわない点があるが,4年以上前の出来事について述べた際のツのこの供述が,単なる記憶違いではなく,あえて虚偽に出たものと決めつけるに足りる資料はない。また,この両日の被告人のアリバイに関する被告人の母親やツの供述の信用性の評価には自ずと限度があるとはいえ,これらの供述があえて虚偽を述べているとまで断ずることもまたできない。そうすると,この点に関する被告人を含めた一連の供述が,被告人が本件各犯行の実行正犯であることを裏付ける情況証拠であるともいえない。

その他,アリバイに関する被告人及び関係者らの供述をもって被告人が本件各犯行の実行正犯であることを示す情況証拠であると主張する点を検討してみても,これを首肯するに足りるものはない。

第7結論

以上のとおりであって,本件の証拠関係の中には,被告人が本件各犯行の背後にいて,これと何らかの関係を持ったのではないかと疑わせるものも存するが,被告人が本件各犯行の実行犯であるかについては,それぞれに前記のとおり疑問の残る警察犬のキ関係選別の結果とその他の関係証拠を総合してみても,到底合理的疑いを入れる余地のない確信にまでは至らない。原判決に所論のような事実誤認はないというべきである。

論旨は理由がない。

よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊田健 裁判官 伊東武是 裁判官 永渕健一)

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