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大阪高等裁判所 平成10年(ウ)1188号 決定 1999年2月26日

控訴人 株式会社第一勧業銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 阪口彰洋

被控訴人 X

右訴訟代理人弁護士 真鍋正一

同 大深忠延

同 国府泰道

主文

一  控訴人は、被控訴人に対し、別紙一の一の1ないし5各記載の文書のうち、禀議書及び禀議書附箋を、本決定送達の日から七日以内に提出せよ。

二  被控訴人のその余の申立てを却下する。

理由

一  被控訴人は別紙一の一の1ないし5各記載の文書について文書提出命令の申立てをした。その理由は別紙一の二ないし五及び同二記載のとおりであり、控訴人の意見は別紙三、四のとおりである。

二  そこで、一件記録によって検討する。まず、本件本案訴訟は、被控訴人が相続税対策として変額生命保険を締結するにあたり控訴人から被控訴人が保険会社(平成九年(ネ)第二二八八号事件控訴人第一生命保険相互会社)に一括払いする保険料等の融資を受けた際、控訴人に適合性原則遵守義務違反、説明義務違反などの違法行為があったとして損害賠償の請求をしているものであるところ、本件申立ての対象たる各文書のうち稟議書及びこれと一体をなす禀議書附箋(以下単に「稟議書」という。)は、銀行である控訴人が融資を実行するにあたって作成する文書であり、融資に関する事務の担当者がどのような情報に基づいてその事務にどのように関与し、控訴人としてどのような意思決定をしたかといった過程が明らかにされているものである。そして、本件においては、控訴人の銀行としての組織内での被控訴人に対する右融資に関する意思決定過程には複数の者が関与していることが明らかであり、稟議書は、このような組織内の意思決定のための事務手続及びそれに基づく判断の適正を担保する目的で、各段階での担当者がそれぞれの責任の所在を明らかにするため決裁印を押していくものであり、その稟議が終わった段階においては、当該稟議書は、控訴人の被控訴人に対する融資(金銭貸付け)という法律関係の形成についての控訴人の最終的な意思決定に直結する文書となるものであるから、本件における稟議書は、挙証書である被控訴人と文書所持者である控訴人との間の法律関係について控訴人の組織内においていわば公式に作成された文書として民訴法二二〇条三号後段所定の法律関係文書に該当すると解するのが相当である。

仮に、稟議書が、契約書などと異なって、本来的には作成者の組織内部における利用のみを目的とし、外部の第三者に提示することを予定していない文書であることから、法律関係文書には該当しないと解する余地があるとしても、右にみたところによれば、稟議書は、控訴人とその組織の外部の第三者である被控訴人との間の法律関係形成のための控訴人の意思決定に直接的に関わりをもつ重要かつ基本的な文書であることが明らかであり、こうした法律関係形成のための意思決定とそれに至る過程を客観的に明らかにする基本的な文書である稟議書は、その文書の作成者かつ所有者である控訴人において、その意思決定が適正な手続を経て妥当に行われたことを説明するために、法律関係の相手方(被控訴人)から求められればこれを提示すべきであると解するのが相当である。要するに、本件における稟議書は、控訴人のいわゆる内部文書に属するものであっても、民訴法二二〇条四号ハの専ら文書の所持者の利用に供するための文書に該当するものではなく、同条同号によって提出義務を負う文書に当たると解せられる。もっとも、稟議書に、企業秘密その他の秘密が含まれていたり、要証事項と関係のない事項が記載されていたりすれば、文書提出の要否についてなお考慮すべきであるが、本件においてそのような記載部分があることを窺わせる事情はない。

三  しかしながら、本件申立ての対象たる文書のうち、審査記録表は、一件記録に徴しても、稟議書と同視できるような文書であるとは認められず、むしろ、単に禀議書作成にあたっての銀行内部での備忘録的な内部文書であって、民訴法二二〇条四号ハ所定の文書にすぎないものと推認されるから、右文書に関する被控訴人の申立ては理由がない。

四  よって、被控訴人の本件申立てのうち、稟議書の提出を求める部分は理由があるからその提出を控訴人に命じることとし、審査記録表の提出を求める部分は理由がないからこれを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岨野悌介 裁判官 古川行男 鳥羽耕一)

<以下省略>

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