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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)1315号 判決 1999年4月23日

控訴人 横守アサ子

<他1名>

右両名訴訟代理人弁護士 原田弘

被控訴人 数田正一

右訴訟代理人弁護士 藤野季雄

同 藤野智規

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  原判決添付物件目録記載の土地、建物を、いずれも控訴人らの持分各二分の一の割合による共有とする。

2  控訴人らは、被控訴人に対し、次項の各登記手続を受けるのと引換えに、それぞれ三〇〇〇万円を支払え。

3  被控訴人は、控訴人らに対し、前項の各金員の支払を受けるのと引換えに、原判決添付物件目録記載の土地、建物の持分六分の一について、それぞれ持分一部移転登記手続をせよ。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人らの、その余を被控訴人の、各負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人ら

1  原判決を次のとおり変更する。

2  原判決添付物件目録記載の土地、建物を、全面的価格賠償の方法により分割し、控訴人らの持分各二分の一の割合による共有とする。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

本件は、被控訴人において、控訴人らと被控訴人とが、各三分の一の割合の持分により共有している原判決添付物件目録記載の土地、建物(以下「本件不動産」といい、個別には「本件土地」「本件建物」という)について、競売に基づく売得金を分配する方法により、その分割を求めたのに対し、控訴人らにおいて、右申立てが権利の濫用にあたると主張したほか、仮に本件不動産を分割するのであれば、全面的価格賠償の方法により、控訴人らにこれを取得させるべきであると述べた事案である。

第三証拠《省略》

第四判断

一  控訴人らと被控訴人とが、各三分の一の持分の割合により、本件不動産を共有していることは、当事者間に争いがなく、右事実及び《証拠省略》によると、次の事実が認められる。

1  被控訴人、辻村寛文及び横守松太郎は、昭和三〇年代から、本件土地の近隣の市場(浅香センター)において、いずれも小売業を営んでいたが、付近に団地が造成されることになり、顧客の増加が見込まれたことから、新たに三人で市場を共同経営することを計画し、昭和四〇年九月五日、各三分の一の持分割合により、本件土地を買い受け、同年一〇月二三日に、その旨の所有権移転登記手続を行った(但し、松太郎の持分については、同人の妻である控訴人横守の姉の重田タマ子の登記名義とした)。

2  そして、右三名は、昭和四〇年一一月末ころ、本件建物を新築し(なお、同年一二月二二日、各三分の一の持分割合により、所有権保存登記手続を行った)、そのころ、「浅香デパート」の名称で、スーパーマーケット(三恵興業)と地元の小売業者(約二〇店舗)に本件建物を賃貸して、市場を開業した。

3  その後、三恵興業が本件建物から退去することとなり、右三名は、昭和五二年九月五日、大手の小売業者である株式会社万代百貨店(現在の商号は株式会社万代。以下「万代」という)との間に、本件建物のうち三恵興業が使用していた部分を、マーケットとして賃貸する契約を締結した。

4  なお、松太郎は、昭和五三年一〇月一日に死亡し、控訴人横守が、相続により同人の権利義務を承継し、本件建物の持分については、昭和五四年五月一五日に、本件土地の持分については、昭和六二年五月一九日に、それぞれ移転登記手続をした。

5  しかるに、「浅香デパート」は、幹線道路からは遠く、駐車場所も少なかったうえ、周辺の開発が遅れていたことから、集客力が徐々に落ち、万代を除く小売業者は、その半分が撤退していたところ、平成七年五月、小売店舗の改装などを手がける太陽実業株式会社の社員である小金知義が、控訴人横守、被控訴人及び寛文に対して、本件建物を全面的に改装する企画を持ち込んだことから、右三名は、「浅香デパート」の収益力を回復するには、右企画によるほかないものと考え、万代の賛成も得て、これを実行に移すこととし、同年七月一八日には、控訴人横守や被控訴人、小金らによって、「浅香デパート」の賃借人らに対する説明会が実施された。

6  ところが、被控訴人は、右改装にあたり、廃業する賃借人に対しては、賃借権の買い取り(立退料の支払)には応じないことを控訴人横守らと約束していたにもかかわらず、同年八月ころ、同控訴人が、被控訴人の了解を得ないで、一部の賃借人に立退料を支払う約束をしたことに立腹し、同控訴人や小金に対し、「浅香デパート」の共同経営から離脱することや、本件建物の共有者として右改装を承知しないことを宣言した。

被控訴人は、その後も、同控訴人と小金とが、右改装を専行していることに反発し、平成八年三月一五日、堺簡易裁判所に対し、寛文ともに、同控訴人を相手方として、万代から受領していた賃料の配分を求めて、調停を申し立て、その話合いの中で、被控訴人は、同控訴人に対し、本件土地の持分を買い取るよう申し出たが、代金が折り合わず、物別れとなった。

この間、被控訴人は、同控訴人が、小金に対する被控訴人の委任状を偽造したとして、同年七月三〇日に、同控訴人を告訴するに至っている。また、被控訴人は、堺市の建築指導課に赴いて、右改装について調査を求めたことから、本件建物の改装が建築基準法に違反していることが発覚し、本件建物について、同市から建築工事の停止、使用禁止が命じられている。

7  本件建物は、平成八年七月ころに改装が完了し、同月一二日から、万代などにより、新たに営業が開始されている。

なお、控訴人横守は、同年一月三一日に、被控訴人の同意を得ずに、万代との賃貸借契約を締結している。

8  寛文は、平成元年に病に倒れ、「浅香デパート」の経営については、妻子に委ねていたが、平成一〇年一月一九日に死亡し、子である控訴人辻村が、相続により同人の権利義務を承継した。

二  右事実によると、被控訴人と控訴人らの先代とが、本件不動産を共有し、共同で市場を経営することにより、築きあげてきた相互の信頼関係は、本件建物の改装を巡る対立により、すでに破綻しており、その修復はもはや不可能であることが認められるのであり、その責任が専ら被控訴人にあるとはいえない本件では、被控訴人において、本件不動産の共有関係を解消したいと考えることは、やむを得ないというべきであり、他に、現時点で本件不動産を分割するについて、控訴人らに不当に不利益を与える事情も窺うことができないから、本件不動産の共有物分割を求める被控訴人の本件請求は、権利の濫用にあたるということはできない。

そして、前認定の事実及び弁論の全趣旨によると、本件建物の規模、構造は、原判決添付図面のとおりであり、本件建物は、専ら市場としての機能を高めるために、全面的な改装が行われ、賃借人との賃貸借が改められてから間もない時期にあるところ、本件建物にさらに改装を加えて、等価の三戸の区分建物として、各当事者にそれぞれ分配するなどの現物分割を実行することは、物理的にも不可能であることが認められ、その敷地である本件土地のみを、現物分割により各当事者に取得させることも、本件建物の分割との均衡を考えると、ふさわしくないというべきである。

三  そこで、本件不動産の共有物分割については、本来ならば、競売による売得金を配分する方法に基づいて実行されるべきこととなるが、前認定の事実及び《証拠省略》によると、一般に競売による売却価格は公正な市場価格に比して低廉となることは否めないところ、控訴人らは、被控訴人との関係を解消して、本件不動産を互いに平等の割合で所有して、先代の興した市場の経営を共同で継承し、万代をはじめとする賃借人からの安定的な賃料収入を得ることを希望しており、従前の歴史的経緯からみて、その希望は首肯するに足りる現実的、合理的なものであること、本件不動産の被控訴人の持分三分の一の価格は、当審における口頭弁論終結時において、六〇〇〇万円であるところ(なお、その評価にあたったのは、当裁判所が、本件事案の性質に鑑み、その経歴や経験を考慮して鑑定人に選任した不動産鑑定士であり、鑑定の手法や過程からみて、本件不動産の価格を適正に評価しているものと認められる。被控訴人は、右鑑定においては、本件不動産の積算価格が考慮されていないことを非難するが、本件建物は、専ら市場として長期にわたり賃貸されることが予定されているのであるから、その評価は、土地とともに、収益価格によるのを相当とするのであり、積算価格によるときは、本件建物の賃貸借が被控訴人に対抗することができないものであることを前提にしても、賃借人との紛争や、預託を受けた敷金の返還を考慮することになり、本来の価格からこれらの負担を直ちに控除する必要が生じ、右の収益価格よりも低廉な評価しか得られなくなるのであって、これは被控訴人の意思にも反することが明らかである)、控訴人らは、借入金を控除した銀行預金残高として、合計で五五〇〇万円を保有していて、さらに、今後は本件建物の賃料収入も期待することができることから、資金繰りも比較的容易であると考えられるのであって、ともに被控訴人に対する各自の価格賠償金を支払う資力があることが認められるのであり、本件では、前認定にかかる本件不動産の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、本件不動産の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての各当事者の希望及びその合理性を総合的に考慮すると、本件にあっては、本件不動産を共有者である控訴人らの持分各二分の一の割合による共有として取得させ、被控訴人に対して持分の価格(六〇〇〇万円)を控訴人らに平等に賠償させる全面的価格賠償の方法による分割をすることが相当であり、かつそのような分割方法をとったとしても、控訴人らと被控訴人との間の実質的公平を害さないと認められる特段の事情があるものというべきである。

四  右の次第で、本件不動産の分割については、右のような全面的価格賠償の方法によるべきところ、全面的価格賠償の方法により共有物を分割する裁判の主文において、他の共有者の共有持分を取得する共有者に賠償金の支払義務があることを確認するに止まらず、すすんで、申立てがないにもかかわらず、右共有者にその支払を命じて、他の共有者に金員給付の債務名義を反射的に取得させることは、共有物分割が共有関係を解消して新たな権利関係を形成するに過ぎないものとすれば、必ずしもその内容に包含されるものとは言いがたいが、右賠償金は他の共有持分を取得する対価ともいうべきであり、裁判の確定により、共有持分を取得する共有者において、無条件に共有物の所有者となることとの均衡上、賠償金の支払を即時に強制される状態に右共有者が置かれるのも、また公平に合致するというべきであり、これが共有物分割の内容となっているものと解することができる。なお、全面的価格賠償による共有物分割にあたって、賠償金の支払につき、期限を許与することや、分割払を命ずることは、賠償金の支払能力があることが右分割の条件となっていることから、許されないものと考える。

さらに、共有物分割の結果に伴う登記などの対抗要件の具備については、右にみた共有物分割の目的を考えると、共有物分割の内容ではなく、分割の結果の履行の問題に過ぎず、将来の請求としての申立てがないのに、これを命ずることは、家事審判規則四九条と同様の規定をもたない共有物分割の手続にあっては、処分権主義に反するという考えも成り立ち得ないではない。しかしながら、共有物分割の内容として、裁判の主文において、賠償金の支払を命ずることができると解する以上は、同じ主文において、その反対給付となるべき対抗要件の具備の手続について、できるだけ履行を確保する手段を講ずることも、また許されるものと思料される(裁判により共有物の分割が形成されるものである以上、賠償金の支払がない時には、当該共有物を改めて競売に付して、その売得金の分配を命じることは、理論上は困難であると思料される)。

五  よって、本件不動産は、前記のとおり分割するのを相当とするから、右と結論を異にする原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 菊池徹 宮本初美)

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