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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)1716号 判決 2001年4月18日

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件控訴人 韓基徳

他4名

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件控訴人兼同第一七一八号事件被控訴人 李相鎬

平成一〇年(ネ)第一七一八号事件被控訴人兼平成一一年(ネ)第六一三号事件附帯控訴人 金康治

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件控訴人兼同第一七一六号事件被控訴人 丁基和

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件控訴人兼同第一七一七号事件被控訴人 金徳煥

他2名

同一一名訴訟代理人弁護士 中北龍太郎

同 森博行

同 空野佳弘

同 永嶋里枝

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件被控訴人 国

同代表者法務大臣 高村正彦

同指定代理人 北佳子

他8名

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件被控訴人 東京都

同代表者知事 石原慎太郎

同指定代理人 江村利明

他3名

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件被控訴人兼同第一七一八号事件控訴人兼平成一一年(ネ)第六一三号事件附帯被控訴人 神奈川県

同代表者知事 岡崎洋

同訴訟代理人弁護士 池田陽子

同指定代理人 大澤潤一

他7名

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件被控訴人兼同第一七一六号事件控訴人 広島県

同代表者知事 藤田雄山

同訴訟代理人弁護士 福永宏

同指定代理人 神保誠

他3名

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件被控訴人兼同第一七一七号事件控訴人 大阪府

同代表者知事 太田房江

同訴訟代理人弁護士 井上隆晴

同 細見孝二

同指定代理人 村田雅信

他7名

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件被控訴人 北海道

同代表者知事 堀達也

同訴訟代理人弁護士 斉藤祐三

同指定代理人 谷崎清貴

他6名

平成一〇年(ネ)第一七一九号事件被控訴人 三重県

同代表者知事 北川正恭

同訴訟代理人弁護士 倉田嚴圓

同指定代理人 福島隆司 他3名(以下、控訴人・被控訴人の如何を問わず、一審での呼称に従い、「一審原告」、「一審被告」という。)

主文

一(1)  一審被告神奈川県の控訴に基づき、原判決主文一、二項を取り消す。

(2)  一審原告李相鎬、同金康治の一審被告神奈川県に対する各請求を棄却する。

二(1)  一審被告広島県の控訴に基づき、原判決主文三項を取り消す。

(2)  一審原告丁基和の一審被告広島県に対する請求を棄却する。

三(1)  一審被告大阪府の控訴に基づき、原判決主文四項を取り消す。

(2)  一審原告金徳煥、同洪仁成、同徐翠珍の一審被告大阪府に対する各請求を棄却する。

四  一審原告ら(一審原告金康治を除く。)の一審被告国に対する控訴、一審原告韓基徳の一審被告北海道に対する控訴、一審原告ロバート・ディビット・リケットの一審被告東京都に対する控訴、一審原告李相鎬の一審被告神奈川県に対する控訴、一審原告丁基和の一審被告広島県に対する控訴、一審原告崔久明の一審被告三重県に対する控訴、一審原告金徳煥、同洪仁成、同徐翠珍、同李敬宰、同高康浩の一審被告大阪府に対する各控訴及び一審原告金康治の一審被告神奈川県に対する附帯控訴をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じ、一審被告国との関係で生じた費用については一審原告らの、一審原告韓基徳と一審被告北海道との関係で生じた費用については同一審原告の、一審原告ロバート・ディビット・リケットと一審被告東京都との関係で生じた費用については同一審原告の、一審原告李相鎬、同金康治と一審被告神奈川県との関係で生じた費用については同一審原告らの、一審原告丁基和と一審被告広島県との関係で生じた費用については同一審原告の、一審原告崔久明と一審被告三重県との関係で生じた費用については同一審原告の、一審原告金徳煥、同洪仁成、同徐翠珍、同李敬宰、同高康浩と一審被告大阪府との関係で生じた費用については同一審原告らの各負担とする。

事実及び理由

第一一審原告ら(一審原告金康治を除く)の控訴の趣旨

一  原判決を次のとおり変更する。

二  一審被告国と一審被告北海道は各自一審原告韓基徳に対し、一審被告国と一審被告東京都は各自一審原告ロバート・ディビット・リケットに対し、一審被告国と一審被告神奈川県は各自一審原告李相鎬に対し、一審被告国と一審被告広島県は各自一審原告丁基和に対し、一審被告国と一審被告三重県は各自一審原告崔久明に対し、一審被告国と一審被告大阪府は各自一審原告金徳煥、同洪仁成、同徐翠珍、同李敬宰、同高康浩それぞれに対し、各一〇〇万円及びこれに対する訴状送達日の翌日(一審被告国につき平成元年六月一七日、一審被告北海道につき同月一八日、一審被告東京都につき同月一七日、一審被告神奈川県につき同月一八日、一審被告広島県につき同月一七日、一審被告三重県につき同月一八日、一審被告大阪府につき同月一七日)から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二一審原告金康治の附帯控訴の趣旨

一  原判決を次のとおり変更する。

二  一審被告神奈川県は、一審原告金康治に対し、一〇〇万円及びこれに対する訴状送達日の翌日(平成元年六月一八日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第三一審被告神奈川県、同広島県、同大阪府の控訴の趣旨

一  一審被告神奈川県

主文一項(1)、(2)同旨

二  一審被告広島県

主文二項(1)、(2)同旨

三  一審被告大阪府

主文三項(1)、(2)同旨

第四事案の概要

事案の概要(事案の骨子、争いのない事実、当事者双方の主張及び争点)は、別紙一(一審原告らの補充主張)及び別紙二(一審被告らの補充主張)のとおり補足するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に記載のとおり(ただし、原判決三五頁末行の「一〇月」を「一月」と訂正する。)であるから、これを引用する。

第五争点に対する判断

一  指紋押なつ制度の憲法違反、B規約違反等の主張について

(1)  次に訂正、補足するほかは、一審原告らの、指紋押なつ制度が憲法及びB規約等に違反する旨の主張に対する判断は、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」の「一」ないし「七」に、指紋押なつ強要行為の違法性の有無、外国人登録証明書に「指紋不押なつ」と記載した行為の違法性の有無についての判断は、同「九」及び「一〇」に、大赦の違法性の有無についての判断は同「一一」に、各記載のとおりであるから、これを引用する。

(2)  原判決の訂正

ア 原判決一五九頁五行目の「認めらず」を「認められず」と訂正する。

イ 原判決一六五頁四行目の「一律押なつ制度」の次に「が」を加える。

(3)  一審原告らの補充主張に対する判断

一審原告らは、指紋押なつ制度が憲法及びB規約等に違反する旨主張し、その理由を縷々述べるが、指紋押なつ制度は、本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって、在留外国人の公正な管理に資するという目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制度として制定されたもので、その立法目的には合理性があり、かつ、必要性も肯定でき、その強制も罰則による間接強制にとどまるものであって、許容される限度を超えて精神的、肉体的に過度の苦痛を伴うものとまではいえず、憲法一三条、三八条一項に違反するとか、あるいはプライバシー権を違法に侵害するというものではない(最高裁判所昭和四四年一二月二四日大法廷判決・刑集二三巻一二号一六二五頁、同昭和五三年一〇月四日判決・民集三二巻七号一二三二頁、同昭和五六年一一月二六日第一小法廷判決・刑集三五巻八号八九六頁、同平成七年一二月一五日第三小法廷判決・判例時報一五五五号四七頁、同平成八年二月二二日第一小法廷判決・判例時報一五六二号三九頁ほか参照)。また、外国人登録法一四条は、B規約七条、二六条に違反すると解することもできないことも同様で(最高裁判所平成八年二月二二日第一小法廷判決)あって、これに反する一審原告らの主張は採用できない。

二  再入国不許可処分の違法性について

(1)  再入国不許可処分の違法性についての判断は、原判決「第三 争点に対する判断」の「八」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(2)  一審原告丁基和の補充主張に対する判断

一審原告丁基和は、当審において、規約人権委員会が一九九八年一一月五日に採択した「最終見解」の「主要な懸念事項および勧告」で、日本に対し、自由権規約一二条四項「自国に戻る権利」の「自国」は国籍国のみでなく、在日韓国・朝鮮人の二世、三世などの永住者が日本へ帰る権利を認めるものであり、これらの人びとが出国する際に再入国許可申請を課し、法務大臣の裁量で不許可にできる現行入管法二六条は、同規約違反であるとして、違法理由を追加して主張するが、入管法は再入国の拒否の判断を法務大臣の広範な裁量権に委ねる趣旨であると解されるところ、再入国の申請をした外国人が外国人登録法に違反して指紋の押なつを拒否しているという事情を同申請を許可することが相当でない事由として考慮することは、法務大臣の裁量権の合理的な行使として許容し得るものというべきであり、裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったものとして違法であるとまでいうことはできない(最高裁判所平成一〇年四月一〇日第二小法廷判決・民集五二巻三号七七六頁参照)。

これに反する同一審原告の主張は採用できない。

三  逮捕の違法性等について

(1)  任意出頭の要請及び取調べの違法性、並びに逮捕の違法性についての判断は、次に訂正、補足するほか原判決「第三 争点に対する判断」の「一二」及び「一三」に各記載のとおりであるから、これを引用する。

なお、一審原告らは、一審原告ロバート・ディビット・リケット、同李相鎬、同金康治、同丁基和については、逮捕及びその後の留置継続が、同金徳煥、同洪仁成、同徐翠珍、同李敬宰については、逮捕が違法であったと主張する。

確かに、同一審原告らの生活は比較的安定したものであったし、本件各逮捕状の請求時までに、関係警察署においては、既に同人らが指紋押なつを拒否した事実についてある程度捜査を進めていたから、逃亡のおそれや、指紋押なつの拒否それ自体に関する罪証隠滅のおそれが、それ程強いものであったということはできない。しかし、同一審原告らは、関係警察署の署員から多数回(三ないし九回)にわたって任意出頭を求められながら、正当な理由なく出頭せず、また、同人らの行動にはそれぞれ組織的な背景が存することが窺われたこと等に鑑みると、明らかに逮捕の必要がなかったとまでいうことはできず、同一審原告らの逮捕は適法になされたものであるから、国家賠償法一条一項の適用上、これが違法であるとする余地はないといわねばならない(最高裁判所平成一〇年九月七日第二小法廷判決・裁判集民事一八九号六一三頁参照)。

また、留置の継続の点については、司法警察員が、その時までに収集した捜査資料を総合勘案し、留置を必要とする合理的根拠が客観的に欠如しているのに、あえて留置を継続したと認め得るような事情がある場合に限り、国家賠償法一条一項の運用上違法の評価を受けるものと解するのが相当である。そして、ここにいう「留置の必要性」は、犯罪の嫌疑のほか「逃亡のおそれ」又は「罪証隠滅のおそれ」等からなるものである(最高裁判所平成八年三月八日第二小法廷判決・判例時報一五六五号九二頁参照)。

この見地に立って、本件をみるに、一審原告ロバート・ディビット・リケット、同李相鎬、同金康治、同丁基和については、後記「原判決の付加、訂正」の項で認定、判断のとおり、いずれも逮捕及びその後の留置継続が、同金徳煥、同洪仁成、同徐翠珍、同李敬宰については、同様に逮捕が、違法であったと認めることはできない。

これに反する同一審原告らの当審における主張は採用できない。

(2)  原判決の付加、訂正

ア 原判決二一〇頁九行目末尾の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「 また、一審原告ロバート・ディビット・リケットは、少なくとも三回は直接又は間接に任意出頭の要請を受けながら、正当な理由なく出頭せず、また、団体名で、警察署に捜査中止の申入書が提出されたり、支援があるなど、同一審原告の行動には組織的な背景が存すると窺われてもやむを得ない事情があったこと等に鑑みると、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、この点からも、同一審原告に対する逮捕は、適法である。」

イ 原判決二二六頁九行目から二三〇頁三行目まで(一審原告李相鎬関係)を、次のとおり訂正する。

「 以上の認定事実によれば、一審原告李相鎬は、自らの信念に基づいて指紋押なつ拒否を行っていたもので、指紋押なつ拒否の事実を公言していたことや、本件逮捕当時、定職に就き、妻子とともに居住しており、妻は妊娠七か月の状態であったことが認められ、また、川崎臨港警察署においては、逮捕状の請求時までに、既に指紋押なつの拒否それ自体に関する証拠は収集していたのであるから、同一審原告について、逃亡のおそれや指紋押なつの拒否それ自体に関する罪証隠滅のおそれが、それ程強いものであったということはできない。しかし、同一審原告は、同警察署の署員から四回にわたって任意出頭を求められながら、正当な理由なく出頭せず、また、同人の押なつ拒否の行動に数名の者が同行するなど、組織的な背景が存することが窺われてもやむを得ない事情があったこと等に鑑みると、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、同一審原告に対する逮捕は適法であるから、国家賠償法一条一項の適用上、これが違法であるとすることはできない。

また、同一審原告が指紋押なつを拒否するに至った動機、組織性などの解明にはある程度の時間を要するところ、同一審原告は、本件逮捕後の取調べにおいて、自らの出生地と指紋押なつを拒否した事実だけはこれを認める供述をしたが、その余の質問には一切答えず、供述調書への署名はしたものの指印は拒否するといった状態であったから、その後横浜地方検察庁に送致されるまでの間、留置を継続したことをもって、留置を必要とする合理的根拠が客観的に欠如しているのに、あえて留置を継続したと認め得るような事情があるとは認められず、同一審原告の留置の継続について、何ら違法な点は認められない。」

ウ 原判決二五六頁六行目の「認められることから」から二五九頁一〇行目まで(一審原告金康治関係)を、次のとおり訂正する。

「認められる。もっとも、一審原告金康治は、自らの信念に基づいて指紋押なつ拒否を行っていたもので、指紋押なつ拒否の事実を公言していたことや、本件逮捕当時、生活は一応安定しており、川崎警察署においては、逮捕状の請求時までに、既に指紋押なつの拒否それ自体に関する証拠は収集していたのであるから、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがそれ程強いものであったということはできない。しかし、同一審原告は、第一回目の指紋押なつの拒否については、同警察署に出頭したものの、それは数回に及ぶ呼出しを受けた後であり、しかも、その際の取調べに対しては完全黙秘の態度をとり、供述調書への署名、指印も拒否している。また、第二回目の指紋押なつの拒否については、同警察署の署員から四回にわたって任意出頭を求められながら、正当な理由なく出頭しなかったもので、さらに、同警察署に対して支援者らが出頭要請の中止を求めるなど、同一審原告の行動には組織的な背景が存することが窺われてもやむを得ない事情があったこと等に鑑みると、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、同一審原告に対する逮捕は、適法である。

そして、逮捕後の取調べにはある程度の時間を要することや、同一審原告が取調べに対し完全黙秘の態度をとり、供述調書への署名、指印も拒否したことからすれば、本件逮捕後、横浜地方検察庁に送致するまでの間、同人の留置を継続したことをもって、留置を必要とする合理的根拠が客観的に欠如しているのに、あえて留置を継続したと認め得るような事情があるとは到底いうことができず、同一審原告の留置の継続について何ら違法な点は認められない。」

エ 原判決二七八頁一行目の「認められることから」から二八一頁末行まで(一審原告丁基和関係)を、次のとおり訂正する。

「認められる。もっとも、一審原告丁基和は、自らの信念に基づいて指紋押なつ拒否を行っていたもので、指紋押なつ拒否の事実を公言していたことや、本件逮捕当時、生活は一応安定しており、広島中央警察署においては、逮捕状の請求時までに、既に指紋押なつの拒否それ自体に関する証拠は収集していたのであるから、逃亡のおそれや指紋押なつの拒否それ自体に関する罪証隠滅のおそれが、それ程強いものであったということはできない。しかし、本件逮捕にいたるまで、同警察署の署員から五回にわたって任意出頭を求められながら、正当な理由なく出頭しなかったもので、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、更に同一審原告は、外国人登録証明書を故意に毀損したのではないかと疑われたのであるから、その取調べや、指紋押なつ拒否に至った動機、組織性についての取調べにもある程度の時間が必要であり、本件逮捕後、広島地方検察庁に送致するまでの時間が約二五時間であったことに照らすと、この間、留置を継続したことをもって、留置の必要性についての合理的根拠が客観的に欠如しているのに、あえて留置を継続したと認め得るような事情があるとは認められず、同一審原告の留置の継続について何ら違法な点は認められない。」

オ 原判決二九四頁二行目から二九七頁六行目まで(一審原告金徳煥関係)を、次のとおり訂正する。

「 以上の認定事実によれば、一審原告金徳煥は、自らの信念に基づいて指紋押なつ拒否を行っていたもので、指紋押なつ拒否の事実を公言していたことや、本件逮捕当時、定職に就き、妻子とともに居住していたこと、次男に障害があることが認められ、また、生野警察署においては逮捕状の請求時までに、既に指紋押なつの拒否それ自体に関する証拠は収集していたのであるから、同一審原告について、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがそれ程強いものであったということはできない。しかし、同一審原告は、同警察署の署員から七回にわたって任意出頭を求められながら、正当な理由なく出頭せず、また、同一審原告自身その本人尋問で、その規模活動内容についてはともかく、組織的な活動をしていたことを自認しているのであって、その行動には組織的な背景が存すると窺われたこと等に鑑みると、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、同一審原告に対する逮捕は、適法である。」

カ 原判決三一〇頁六、七行目の「認めることはできないから」(一審原告李敬宰関係)を「認めることはできないし、同一審原告は、同警察署の署員から五回にわたって任意出頭を求められながら、正当な理由なく出頭せず、そして、同一審原告の外国人登録証明書の紛失状況に鑑みると、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、同一審原告に対する逮捕は、適法であるから」と訂正する。

キ 原判決三二一頁二行目から三二五頁一行目まで(一審原告洪仁成)を、次のとおり訂正する。

「 以上の認定事実によれば、一審原告洪仁成は、自らの信念に基づいて指紋押なつ拒否を行っていたもので、指紋押なつ拒否の事実を公言していたことや、本件逮捕当時、定職に就き、妻子とともに居住していたことが認められ、また、高槻警察署においては逮捕状の請求時までに、既に指紋押なつの拒否それ自体に関する証拠は収集していたのであるから、同一審原告について、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがそれ程強いものであったということはできない。そして、同一審原告は、任意出頭を拒否する理由及び逮捕の不当性を訴える書面は、もっぱら弁護士を通じて裁判所、警察署に提出などしているところである。しかし、それら書面は、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれがない旨を強調するものであるから、同一審原告が任意出頭を求められながら六回にわたって出頭を拒否していることからすると、上記のような方法で不出頭の理由を明らかにしたからといって、その行動に組織的背景がないとまではいえないので、同一審原告に、明らかに逮捕の必要がなかったということはできないところであって、国家賠償法一条一項適用上の違法があったとはいえない。」

ク 原判決三三六頁九行目から三三九頁八行目まで(一審原告徐翠珍関係)を、次のとおり訂正する。

「 以上の認定事実によれば、一審原告徐翠珍は、自らの信念に基づいて指紋押なつ拒否を行っていたもので、指紋押なつ拒否の事実を公言していたことや、本件逮捕当時、定職に就き、家族とともに居住していたことが認められ、また、西成警察署においては逮捕状の請求時までに、既に指紋押なつの拒否それ自体に関する証拠は収集していたのであるから、同一審原告について、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがそれ程強いものであったということはできない。しかし、同一審原告は、同警察署の署員から九回にわたって任意出頭を求められながら、正当な理由なく出頭せず、また、同警察署に対して、支援団体からの抗議がなされるなど、同一審原告の行動には組織的な背景が存することが窺われたことに鑑みると、明らかに逮捕の必要がなかったということはできず、同一審原告に対する逮捕は、適法である。」

ケ 原判決三三九頁九行目の「損害」から三四二頁九行目までを、次のとおり訂正する。

「 以上によれば、一審原告ら(一審原告金康治の一審被告国に対する請求は、原審において棄却され、確定しているため、同一審原告については除く。)の一審被告国に対する請求、一審原告韓基徳の一審被告北海道に対する請求、一審原告ロバート・ディビット・リケットの一審被告東京都に対する請求、一審原告李相鎬、同金康治の一審被告神奈川県に対する請求、一審原告丁基和の一審被告広島県に対する請求、一審原告崔久明の一審被告三重県に対する請求、一審原告金徳煥、同洪仁成、同徐翠珍、同李敬宰、同高康浩の一審被告大阪府に対する各請求は、いずれも理由がない。」

2 その他、一審原告らの主張に徴して、全証拠を改めて精査しても、以上の認定、判断を左右するほどのものはない。

なお、一審原告金徳煥、同李敬宰、同洪仁成、同徐翠珍は、平成一一年一〇月二〇日、一審被告大阪府に対して、同一審原告らに逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれ等を裏付ける事実の証明が著しく低かった事実を明らかにするために、同一審原告らに対する「逮捕状請求書及びその添付書類一切(いずれも写し)」の提出を求める文書提出命令(平成一一年(ウ)第九九四号)を申し立てた。しかし、この申立て後、一審原告らは、一審被告大阪府から、これら資料の一部を入手し、同一審原告らは、平成一二年七月五日付上申書で、これ以外に必要な文書の存否を検討中とのことであったが、その後、同一審原告らから必要な文書の申し出はなかった。このような経過からすると、この文書提出命令の申立ては、その必要性がなくなり、却下されるものであることは明らかである。

第六結語

よって、これと一部結論を異にする原判決を主文一ないし三項のとおり変更し、一審原告ら(一審原告金康治を除く。)の各控訴及び一審原告金康治の附帯控訴は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡部崇明 裁判官 白井博文 裁判官鳥羽耕一は転補のため署名、押印できない。裁判長裁判官 岡部崇明)

<以下省略>

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