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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)2887号 判決 2002年6月21日

控訴人(附帯被控訴人)

アーバンライフ株式会社

同代表者代表取締役

佐瀬一男

同訴訟代理人弁護士

今中利昭

浦田和栄

村林隆一

松本司

辻川正人

岩坪哲

南聡

冨田浩也

深堀知子

奥村徹

田中哲夫

同訴訟復代理人弁護士

山形康郎

控訴人(附帯被控訴人)の補助参加人

芦屋川アーバンライフ管理組合

同代表者理事長

三宅良孝

同訴訟代理人弁護士

九鬼正光

被控訴人(附帯控訴人)

額田順惠

他15名

被控訴人(附帯控訴人)ら訴訟代理人弁護士

藤川義人

松川雅典

米田実

辻武司

四宮章夫

田中等

田積司

米田秀実

上甲悌二

浦中裕孝

軸丸欣哉

松井敦子

名倉啓太

以下、控訴人(附帯被控訴人)を「控訴人」といい、

被控訴人(附帯控訴人)を「被控訴人」という。

主文

一  本件控訴及び附帯控訴に基づいて原判決を次のとおり変更する。

1) 控訴人は、被控訴人額田順惠に対し、八五八万六四二八円及び内金八三六万円に対する平成九年四月一日から、内金一一万九一八八円に対する平成一二年二月二三日から、内金一〇万七二四〇円に対する平成一三年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2) 控訴人は、被控訴人有田スミに対し、七五七万〇七二〇円及び内金七三〇万円に対する平成九年四月一日から、内金一三万九五四八円に対する平成一二年二月二三日から、内金一三万一一七二円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3) 控訴人は、被控訴人荒井實に対し、七三七万一八八一円及び内金七一四万四〇〇〇円に対する平成九年四月一日から、内金一一万七四四三円に対する平成一二年二月二三日から、内金一一万〇四三八円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4) 控訴人は、被控訴人荒井裕子に対し、三八万七九九四円及び内金三七万六〇〇〇円に対する平成九年四月一日から、内金六一八一円に対する平成一二年二月二三日から、内金五八一三円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5) 控訴人は、被控訴人西原清光に対し、一五六七万円及び内金一五三二万円に対する平成九年四月一日から、内金一三万〇〇三六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二一万九九六四円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

6) 控訴人は、被控訴人齊藤長四郎に対し、一五三二万三八〇〇円及び内金一五〇三万円に対する平成九年四月一日から、内金一三万五九〇〇円に対する平成一二年二月二三日から、内金一五万七九〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

7) 控訴人は、被控訴人奥壽二に対し、二二四四万一四九三円及び内金二一八五万円に対する平成九年四月一日から、内金三一万二一五三円に対する平成一二年二月二三日から、内金二七万九三四〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

8) 控訴人は、被控訴人和田恭子に対し、一六六二万二二七五円及び内金一六二三万円に対する平成九年四月一日から、内金二〇万七〇四五円に対する平成一二年二月二三日から、内金一八万五二三〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

9) 控訴人は、被控訴人吉永淑子に対し、七六一万一六二五円及び内金七三九万円に対する平成九年四月一日から、内金一一万六七二五円に対する平成一二年二月二三日から、内金一〇万四九〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

10) 控訴人は、被控訴人齋田朝子に対し、一七九六万三八〇〇円及び内金一七五八万円に対する平成九年四月一日から、内金一二万五七三四円に対する平成一二年二月二三日から、内金二五万八〇六六円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

11) 控訴人は、被控訴人A野花子に対し、二九〇万〇四六三円及び内金二七九万円に対する平成九年四月一日から、内金五万八〇一三円に対する平成一二年二月二三日から、内金五万二四五〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

12) 控訴人は、被控訴人A野二郎に対し、一四五万〇二三一円及び内金一三九万五〇〇〇円に対する平成九年四月一日から、内金二万九〇〇六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

13) 控訴人は、被控訴人A野三郎に対し、一四五万〇二三一円及び内金一三九万五〇〇〇円に対する平成九年四月一日から、内金二万九〇〇六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

14) 控訴人は、被控訴人今泉麻由美に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人の区分所有建物について原判決別紙抵当権目録記載の同被控訴人に関する抵当権設定登記の抹消登記手続を受けるのと引き換えに、六〇七万七九二三円を支払え。

15) 控訴人は、被控訴人永野勝巳に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人共有の区分所有建物について原判決別紙抵当権目録記載の同被控訴人及び被控訴人永野美知子に関する抵当権設定登記の抹消登記手続を受けるのと引き換えに、六三〇万〇二八四円を支払え。

16) 控訴人は、被控訴人永野美知子に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人共有の区分所有建物について原判決別紙抵当権目録記載の上記15)の抵当権設定登記の抹消登記手続を受けるのと引き換えに、八万二三四一円を支払え。

17) 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  控訴人と被控訴人らの間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とし、補助参加によって生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を補助参加人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

三  この判決は、被控訴人ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

(控訴関係)

一  控訴人

1) 原判決を次のとおり変更する。

2) 控訴人は、被控訴人額田順惠に対し、五六七万二〇六五円を支払え。

3) 控訴人は、被控訴人有田スミに対し、三八万八六三八円を支払え。

4) 控訴人は、被控訴人荒井實に対し、一二五万六三七五円を支払え。

5) 控訴人は、被控訴人荒井裕子に対し、六万六一二五円を支払え。

6) 控訴人は、被控訴人西原清光に対し、九三万二一四四円を支払え。

7) 控訴人は、被控訴人奥壽二に対し、一二〇万六五三三円を支払え。

8) 控訴人は、被控訴人和田恭子に対し、一七三万〇七二四円を支払え。

9) 控訴人は、被控訴人齋田朝子に対し、三二四万一三七五円を支払え。

10) 上記被控訴人らのその余の請求及び被控訴人齊藤長四郎、同吉永淑子、同A野花子、同A野二郎、同A野三郎、同今泉麻由美、同永野勝巳、同永野美知子の請求をいずれも棄却する。

11) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件控訴をいずれも棄却する。

(附帯控訴関係)

一  被控訴人ら

1) 原判決を次のとおり変更する。

2) 控訴人は、被控訴人額田順惠に対し、一四二三万一九九七円及び内金一三九九万五三六五円に対する平成八年五月一七日から、内金一二万九三九二円に対する平成一二年二月二三日から、内金一〇万七二四〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3) 控訴人は、被控訴人有田スミに対し、一七八五万六三一三円及び内金一七五七万三三四五円に対する平成八年五月一七日から、内金一三万九五四八円に対する平成一二年二月二三日から、内金一四万三四二〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4) 控訴人は、被控訴人荒井實に対し、一七〇〇万三三一四円及び内金一六七六万二六五六円に対する平成八年五月一七日から、内金一一万七四四三円に対する平成一二年二月二三日から、内金一二万三二一五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5) 控訴人は、被控訴人荒井裕子に対し、八九万四九一一円及び内金八八万二二四五円に対する平成八年五月一七日から、内金六一八一円に対する平成一二年二月二三日から、内金六四八五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

6) 控訴人は、被控訴人西原清光に対し、三二二五万八一〇〇円及び内金三一八九万〇二六四円に対する平成八年五月一七日から、内金一三万〇〇三六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二三万七八〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

7) 控訴人は、被控訴人齊藤長四郎に対し、三六三〇万六四四一円及び内金三五八六万五〇七〇円に対する平成八年五月一七日から、内金二二万八七七一円に対する平成一二年二月二三日から、内金二一万二六〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

8) 控訴人は、被控訴人奥壽二に対し、四七六八万五〇四八円及び内金四七〇六万七三七二円に対する平成八年五月一七日から、内金三三万八三三六円に対する平成一二年二月二三日から、内金二七万九三四〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

9) 控訴人は、被控訴人和田恭子に対し、三二三〇万〇〇一九円及び内金三一八九万〇二六四円に対する平成八年五月一七日から、内金二二万四五二五円に対する平成一二年二月二三日から、内金一八万五二三〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

10) 控訴人は、被控訴人吉永淑子に対し、一四〇六万四三二五円及び内金一三八三万二七三五円に対する平成八年五月一七日から、内金一二万六六九〇円に対する平成一二年二月二三日から、内金一〇万四九〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

11) 控訴人は、被控訴人齋田朝子に対し、三一三一万二一三五円及び内金三〇九一万一二〇一円に対する平成八年五月一七日から、内金一二万五七三四円に対する平成一二年二月二三日から、内金二七万五二〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

12) 控訴人は、被控訴人A野花子に対し、七〇三万一八一三円及び内金六九一万六三六八円に対する平成八年五月一七日から、内金六万二九九五円に対する平成一二年二月二三日から、内金五万二四五〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

13) 控訴人は、被控訴人A野二郎に対し、三五一万五九〇六円及び内金三四五万八一八三円に対する平成八年五月一七日から、内金三万一四九八円に対する平成一二年二月二三日から、内金二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

14) 控訴人は、被控訴人A野三郎に対し、三五一万五九〇六円及び内金三四五万八一八四円に対する平成八年五月一七日から、内金三万一四九七円に対する平成一二年二月二三日から、内金二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

15) 控訴人は、被控訴人今泉麻由美に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人の専有部分につき、同被控訴人が原判決別紙抵当権目録記載の同被控訴人に関する抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引き換えに、一四八二万七六三六円を支払え。

16) 控訴人は、被控訴人永野勝巳に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人共有の専有部分につき、同被控訴人が原判決別紙抵当権目録記載の同被控訴人及び被控訴人永野美知子に関する抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引き換えに、一三八五万五七七九円を支払え。

17) 控訴人は、被控訴人永野美知子に対し、原判決別紙区分所有権目録記載の同被控訴人共有の専有部分につき、同被控訴人が原判決別紙抵当権目録記載の上記16)の抵当権設定登記の抹消登記手続をするのと引き換えに、一七万九九四六円を支払え。

18) 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

19) 仮執行の宣言。

二  控訴人

本件附帯控訴をいずれも棄却する。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは、原判決の事案の概要のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書の補正

1) 原判決書一三頁五行目の末尾に続けて「控訴人は被控訴人らから各専有部分の引渡を受けていない。」を加える。

2) 同一四頁五行目の末尾に続けて「その内訳は本判決別紙一「請求債権計算表」のとおりである。」を加え、同頁八行目の「価額」の次に「(ただし、評価の基準時については、現実に復旧工事をした時あるいは引渡及び所有権移転登記がされた時などとするのではなく、買取請求権が行使された時とすることを争うものではない。)」を加え、同行目の「共用部分復旧工事費分担額」の次に「等」を加え、同頁九行目の「等」を削る。

3) 同一五頁一〇行目の「復旧工事等」を「復旧工事費等」に改める。

4) 同一六頁六行目の「補修費用」を「共同部分の補修費用」に改める。

5) 同一七頁一〇行目の「限定されない。」の次に「すなわち、復旧費用には、市場性回復のために必要な工事費用も含まれる(共用部分の復旧工事についてみると、共用玄関電気錠、集合インターホン設置工事、集会室リフォーム工事、北側共用廊下天井改修工事、一階バルコニー改修工事、地下一階ピロティー外構工事、地下一階店舗前アプローチ床面改修工事等の費用は、いずれも市場性回復のための共用部分の復旧工事費用である。専用部分の工事費用についても、傾斜した床面の修正に要する工事費用をはじめとして、市場性回復のための改良工事費用が含まれる。)。なお、このように販売可能な状態まで修繕工事をしたとしても、本件マンションについては、震災により被った本件マンション全体の相当ひどい傾斜は全く修復されないまま残るなど、被災しなかった場合の市場価格まで回復することは不可能である。復旧工事後の価格を評価するについては、このような市場性減価事由のあることが十分考慮されるべきである。」を加える。

6) 同二三頁一行目の「対しては」を「対して」に改める。

7) 同二四頁七行目の「③」を「④」に、同頁八行目の「④」を「⑤」にそれぞれ改める。

8) 同二九頁五行目の「七〇六号室の」を「七〇六号室を」に改める。

9) 同別紙「区分所有権目録」の六枚目裏五行目の次に改行して「駐車場部分の表示 番号P―3」を加える。

二  当審における被控訴人らの新たな主張

被控訴人らは、買取請求権行使後も各買取請求に係る区分所有建物の固定資産税等を納付している。その内訳は本判決別紙二「附帯控訴請求債権一覧表」の該当欄及び本判決別紙三「固定資産税一覧表」の該当欄にそれぞれ記載のとおりである。これらは控訴人が負担すべきものを立て替えたのであるから、控訴人は、被控訴人らに対し、その返還をする義務がある。よって、被控訴人らは、控訴人に対し、上記立替金及びこれに対する上記附帯控訴請求債権一覧表の該当欄に記載の金額に対しては平成一二年二月二三日(これらの返還を請求した附帯控訴状送達の翌日)から、固定資産税一覧表の該当欄に記載の金額に対しては平成一三年九月二八日(これらの返還を請求した附帯控訴の追加的変更申立書送達の翌日)から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう請求する。

三  当審における控訴人の新たな主張

1) 控訴人は、平成一一年九月一四日の当審第四回口頭弁論期日において、法六一条九項に基づいて、本件買取請求に基づく代金の支払について期限の許与を請求した。許与期間は、専有部分の現実の引渡を受けた上専有部分の改装工事を施工して売却するための期間として、現実の引渡後一年間とするのが相当である。

2) 法八条により、未払管理費債務及び未払積立金債務は控訴人が承継するのであるから、引渡及び所有権移転登記がされるまでの間についてこれらの未払債務がある時は、その額を時価の算定について考慮すべきである。本件の場合の未払額は、本判決別紙四「未払管理費等一覧表」に記載のとおりである(原審の主張より増加した。)。

四  三の主張に対する被控訴人らの反論

1) 被控訴人らは平成八年に買取請求権を行使した。控訴人は大資本の企業である。現在に至って期限の許与をする必要性は皆無である。なお、期限の許与がされた場合でも、許与の裁判は弁済期を変更するものでなく期限を猶予するものに過ぎないから、買取請求の時から許与された期限までの遅延損害金支払債務が消滅するものではない。

2) 買取請求により各区分所有建物は控訴人の所有になったから、それ以後の管理費等は控訴人が支払義務を負担する。また、被控訴人らは、本件訴えの提起前に引渡を完了している。したがって、いずれにしても、未払管理費等を時価の算定について考慮する余地はない。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

法六一条七項に基づく買取請求権の法的性質は形成権と解するのが相当であるから、その意思表示により直ちに当事者間に売買が成立した効果が発生する。したがって、買取請求の相手方は、特段の事由のない限り、買取請求により直ちに請求に係る建物及び敷地に関する権利を取得し、その引渡及び移転登記の各請求権を取得するとともに、相手方には、時価による売買代金債務が発生すると解すべきである。このような性質に鑑みると、時価の算定の基準時は、買取請求権が行使された時とするのが相当である(控訴人も当審においてはこのことを争わない。)。

なお、控訴人は、買取請求権に係る専有部分に担保権が設定されている場合には、買取代金の支払は担保権の抹消と同時履行関係になると主張する。本件買取請求に係る専有部分のうち、被控訴人今泉麻由美所有のもの並びに被控訴人永野勝巳及び同永野美知子共有のものに抵当権が設定され、その登記がされていることは、同被控訴人らが自ら主張するところである。このように抵当権が設定されている専有部分(及び敷地共有持分)についても、買取請求がされたときは、その意思表示により直ちに売買の効果が発生すると解するのが相当であるが、その場合、買取請求の相手方は、民法五七七条により、滌除の手続が終わるまで買取代金の支払を拒む旨の抗弁を主張することができると解するのが相当である。そうすると、控訴人は、上記被控訴人らに対しては、民法五七七条に規定する抗弁を主張することができるのであるが、控訴人はこの抗弁を主張せず、かえって、前記の趣旨の同時履行の抗弁を主張しているのであり、他方、上記被控訴人らも、自ら、同様の引換給付の判決を求める旨申し立てている。したがって、本件では、前記抵当権の関係は、上記被控訴人らからそのように申し立てられているという限度で斟酌するにとどめるべきことになる。

二  争点2について

買取請求権は、前記のような意味の形成権であるところ、買取請求がされる時には、大規模に損壊(一部滅失)した状態ではあるが、復旧工事を加えて存続すべき建物が現存するのであるから(本件各専有部分が存続することも争いがない。)、「時価」は、損壊した状態のままの、前記評価基準時における建物及び敷地に関する権利の価格をいうと解するのが相当である。

このような時価は、具体的に評価するのは相当困難であるが、被控訴人らからは、建物が被災しない状態で買取請求時点まで存在したものと仮定して、その場合の専有部分(本件ではいずれの専有部分も完全には滅失していない。)の買取請求時点における価格を想定し、これから、現実には被災している建物(共用部分及び専有部分)を被災しなかった状態に復旧するための復旧工事費用(復旧工事によっても回復しきれない減価要因がある場合にはこれを含む。)等を控除して算定する手法(双方で直接法と仮称されている手法)が主張され、控訴人からは、買取請求時点で復旧工事が終了しているものと仮定して、その場合の専有部分の買取請求時点における価格を想定し、これから、そのように復旧するのに要する復旧工事費用等の被災による減価を控除して算定する手法(双方で間接法と仮称されている手法)が提唱されている。

直接法は、基本的には、実在した被災前建物と同じ状態の建物が買取請求時にも存在することを想定して、そのような建物の専有部分の買取請求時の評価額から、被災前の状態に復旧するのに必要な復旧工事費用を中心とするマイナス要因を減額するという考え方のものであり、損壊してはいるが既存のマンションの買取請求による売買であることに比較的なじみやすく、かつ、間接法と比較する限りでは、復旧後の建物の状態、したがってまた復旧工事の内容を比較的想定しやすく、その意味である程度客観的に検討できるとも考えられるから、評価手法の一つとして重視すべきものと考えられる。

なお、この手法による場合には、復旧後の建物として想定される建物は被災前の建物であるから、復旧工事の内容は、安全性を回復するための工事のほか被災前の状態に復旧するために必要な工事に限られることになり、機能性向上自体を目的とする工事は含まれないし、使用する設備材料の選択においても、価値の向上を目的とするものは含まれないことになる。しかし、実際の復旧工事では設備器具等の更新をする必要もあるであろうが、このような場合にも、特別の事情のない限り、ことさら更新により結果的に生じる増加価値を取り上げ、現実に必要な復旧工事費用からこの増加価値分を控除した残額をもって復旧工事費用とするような計算を行う必要はないと思われる。その工事が直接法の観点からも必要であると考えられる限り、その一部をもって復旧工事費用ととらえることは必ずしも合理的とは認めがたいし、買取請求者との相手方との公平を欠くことになると考えられるからである。

また、減価要素としては、復旧工事費用にとどまらず、復旧工事によってもなお回復し得ない事情の有無及びその程度をも考慮する必要がある。

間接法は、基本的には、買取請求時点で既に復旧工事がされていることを想定して、復旧工事後の専有部分の買取請求時点における想定価格(現実に復旧工事がされた時点の価格ではない。そのような価格を基準とすることは相当でない。)から復旧工事費用等のマイナス要因を減額するというものであるが、復旧工事後の建物として被災しなかった場合の建物を想定し、復旧工事内容としてそのような建物に復旧するための工事を想定するのであれば、直接法と相違は生じないことになる。

しかし、控訴人の主張する間接法の趣旨は、復旧後の建物ないし専有部分は中古マンションの売買市場で商品とするのにふさわしいものをいい、したがって、復旧工事はこのような意味で市場性のある建物に再生させるための工事をいうものである。控訴人は、本件買取請求により一三戸もの買取を請求されたのであり、これらを中古マンションとして売却処分するのが最も有効活用になるから、そのような控訴人の主張として、理解し得るところである。ただし、控訴人の主張する意味の間接法では、復旧後の建物は、被災前の建物と同じものであることが重視されず、良好な市場性を得る観点から、機能の向上を含み、諸仕様の点でも被災前よりも良いものにすることにもなるから、直接法と比較すると、復旧工事費用が高額になりやすい。公平の見地からは、その場合の復旧工事費用の増加分は、復旧工事後の建物の価値の増加分に見合うものとして均衡性及び相当性がある場合に限り、全額を減価することができるというべきである。そして、このような均衡性等があることの立証は、実際上相当困難な場合が多いであろう。

そのほかにも、被控訴人ら、控訴人及び補助参加人(以下「管理組合」という。)から、時価について種々の主張がされているが、いずれにしても、的確な証拠による裏付けが必要であるという意味で、立証の問題に帰する部分が多い。本件では、以上のような点に留意しながら、双方が提出援用した証拠から合理性があると認められる事実を認定し、これらを総合的に判断して、双方に公平と認められる時価を算定する必要がある。

三  争点3ないし7について(時価の認定)

争点3ないし7について、証拠の評価とともに検討する。

1) 鑑定

ア  原審の鑑定は、被控訴人ら主張の直接法を基本として、本件の時価を試算するものであり、その結論は本判決別紙五「C.鑑定評価額の決定」のとおりである。同別紙の「鑑定評価額」欄記載の各金額が対応する「物件」欄記載の本件各専有部分の買取価格である。「Aの価格」欄記載の金額は本件マンションが被災しなかったものとした場合の各専有部分の買取請求時点の想定価格、「G1+G2+G3」欄中「G1」は共用部分の復旧工事費用のうち被控訴人ら負担分、「G2」は本件各専有部分の復旧工事費用、「G3」は観察・市場性減価、「G4」は建物再使用開始可能時点(平成九年三月末)までに期間があることに伴う期間補正である。G1ないしG3の内訳は本判決別紙六「G1ないしG3の内訳」に記載のとおりである。

鑑定の手法は、前記の直接法を基本とするのであり、また、本件で提出されている他の証拠による試算結果と比較すると、訴訟上の鑑定である点で、相対的に重視すべきものということができる。

イ  鑑定については、双方から種々の主張がされている。

① 建付増価について(既存不適格建物であることの評価)

控訴人は、鑑定が本件マンションの敷地価格を査定するについて標準価格にいわゆる既存不適格建物の敷地であることに伴う二〇パーセントの増価をしていることが不当であると主張する。しかし、前記評価基準時点における敷地の指定容積率(基準容積率も同じ)が二〇〇パーセントであるのに、本件マンションの実効容積率は四六〇パーセント程度であって、本件マンションがいわゆる既存不適格建物に該当することは、控訴人も認めるところである。そして、鑑定は、積算法による場合の本件マンションの敷地の価格を試算するのに際して、同敷地は、現に四六〇パーセントの容積率による建物が適法に建築されている以上、標準価格(二〇〇パーセントの容積率とするものである。)の土地よりも、建物が存在する限りは建付増価が発生しているとして、増額修正をしたものである。鑑定に示された判断は相当であり、誤りがあるとは認められないのであって、乙二六号証のうちこれに反する部分は、採用することができない。もっとも、本件マンションも将来における建替えの可能性があることは否定できないから、その敷地価格は容積率四六〇パーセントの土地と同じ評価をすることは相当でないと考えられ、増額修正率の決定にはこの点が斟酌される必要があるが、鑑定は、このような観点を含めて二〇パーセントの増額修正率を採用しているものと認めることができる。そして、この増額修正率に関する鑑定の認定が著しく不合理であると認めるに足りる証拠はない。

② 販売費、一般管理費及び関発利益等について

控訴人は、鑑定が販売費等の上記費用等を増額修正要素として用いていることを批判している。しかし、上記修正は積算法による試算価格を求めるのに際して行われているのであり、マンション価格がこれらの要素を斟酌して決定される性格のものであることは明らかであるから、中古マンションの価格の積算法による試算に際してもこれらの費用を斟酌するのが相当である。また、その斟酌割合についても、鑑定の採用した程度が著しく不合理であると認めるに足りる証拠はない。

③ 共用部分復旧工事費用について

鑑定の認定した共用部分復旧工事費用の各戸負担額(前記G1)は、被控訴人らの主張と一致し、控訴人の主張ともほとんど一致しており、鑑定の認定判断の合理性を覆すに足りる証拠はない。

控訴人は、このほかにも原判決別紙費用明細の「共用負担費用」中「追加共用部」欄記載の各金額を要するところ、鑑定ではこれが欠落していると主張する。控訴人主張の追加工事の具体的内容は、共用玄関電気錠及び集合インターホン設置工事、集会室リフォーム工事、北側共用廊下天井改修工事、一階バルコニー改修工事、地下一階ピロティ外構工事、地下一階店舗前アプローチ床面改修工事等であるが、《証拠省略》によると、これらの追加工事は、本件買取請求がされた後の管理組合の総会でこれを行うことが決議されたように認めることができる。しかし、鑑定は直接法により買取代金額の鑑定をするものであるから、そこで控除される復旧費用は、安全性の確保や被災前の建物に復旧するために必要かつ相当なものである必要があり、機能向上を目的とし、あるいは市場性増加を目的とする工事は、原則的に控除すべき復旧工事費用に該当しない。ところが、本件の全証拠によっても、これらが上記の意味で必要かつ相当な工事費用であると認めることはできない(控訴人は、これらが市場性回復のための工事であると主張している。なお、控訴人は、鑑定中でも、上記工事が必要なものとされていると主張する。しかし、鑑定が補修の必要を認めるとしている工事と上記工事とは必ずしも一致していない。)。他方、本件の全証拠によっても、これらの工事が市場性回復のため必要であること、あるいは価値が増加する程度を確認することはできない。そうすると、控訴人の主張は、採用することができない。

④ サッシュ・ガラス工事費用について

控訴人は、原判決別紙費用明細の「サッシュ・ガラス工事」欄に記載の費用も復旧工事費用に該当すると主張する。《証拠省略》によると、控訴人主張の「サッシュ・ガラス工事」欄記載の費用を要する工事は、各専有部分外部のサッシュ及びガラス工事並びに玄関ドア取替工事であると認められるが、《証拠省略》によると、サッシュ並びに玄関ドアの錠及び内部塗装部分は共用部分とされていることが認められるから、これらの工事が必要であれば、全体として共用部分の復旧工事費用に計上することができると認めることができる。そして、鑑定の結果によると、これらの工事が必要であると認められ、このことと乙二号証によると、その費用は少なくとも控訴人主張のとおりであると認めることができる。もっとも、これらの工事は専有部分と紛らわしい部分の工事であるから、鑑定中でこれに要する費用が専有部分の工事費用に含まれているのであれば二重計上になるが、鑑定がこれを専有部分の工事費用に含ませている形跡はない。したがって、鑑定は、この点で補正されるべきである。

⑤ 専有部分の復旧工事費用について

控訴人は、鑑定中の専有部分復旧工事費用は過少であり、原判決別紙費用明細の「専有部負担費用」欄記載の金額程度の費用を要すると主張する。そして、乙二六号証も専有部分の復旧費用として控訴人主張の金額とおおむね同額の金額を計上している。控訴人主張の金額は、《証拠省略》の平成九年八月の清水建設の見積と同額であり、乙二六号証の前記金額も清水建設の見積に依拠するものである。鑑定による金額と清水建設の見積金額の間には、相当大きな差がある。

《証拠省略》によると、控訴人主張の金額は、本件各専有部分について、おおむね、全面的解体・撤去の上、設備については従前と同程度の物に取り替え、床面の傾斜はこれを修正する床材を設置すること等を基本とする工事の費用であるとされている。

他方、鑑定の工事費用は、全戸について、床、壁、天井については総貼替(床はカーペットの貼替又は畳の入替、壁及び天井はクロスの貼替)と一部又は相当部分の下地の修正、施工をし、照明器具については一部取替、建具については修復を基本とし、水回り特に風呂及び台所システム等の取替を要する場合には震災時の状況と比べて機能性向上及び市場性向上の効果が生じるのが通常であるから工事費の全額を復旧工事費用として控除するのではなくその一部だけを復旧工事費用と認めるべきであるという認識に立っている。そして、現地測量及び具体的な数量計算は、近視眼的でありかつ手間と費用を要するという理由でこれを行わず、マンションのスケルトン状態からの一般的な内袋一式の工事費(水回り等の設備を含む。)を一平方メートル当たり九万円と想定した上、被災の程度が最も大きな専有部分についてその七〇パーセントの六万三〇〇〇円の内装・設備施工費用をまず計上し、更にその三〇パーセントに当たる一万八九〇〇円を毀損部品等の撤去、処分、下地補修費用として計上し、これらの合計八万一九〇〇円のうち四〇パーセントを機能性及び市場性向上分などとして控除して、結局その約六〇パーセントである五万円を一平方メートル当たりの復旧工事費用としている。それより損傷の程度が下回る専有部分については、一平方メートル当たりの復旧費用を順次四万五〇〇〇円、三万五〇〇〇円及び二万五〇〇〇円としている。

以上の認定と《証拠省略》によると、控訴人主張の金額は、前記控訴人主張の意味における間接法に立つものであり、したがって、本件各専有部分を被災当時の状態に回復すること以上の変更工事を含むと認められる。《証拠省略》によると、清水建設は、平成八年二月八日付けで、少なくとも被控訴人永野、同荒井実、同齊藤及び同和田宛に各区所有建物の改修費用見積書を作成して提出しているところ、これらの見積は、作成日付が本件復旧決議の日より前であること及びその記載内容に照らして、自用の専有部分として復旧工事を行う場合の見積であると認めることができるが、その見積額はその後の同社の前記見積より大幅に下回っていることも、上記認定を裏付けるものである。ところが、控訴人主張の間接法により試算するとしても、本件の全証拠を検討しても、後の見積による工事が市場性回復ないし市場性増加のため必要なものであること及び増加した復旧工事費用が当該専有部分についてそれに見合うだけの価格の増加をもたらす均衡性があって、不相当といえないことまでを認定するに足りる的確な証拠があるとは認めがたい。したがって、控訴人主張の復旧工事費用は、その全額が控除されるべき金額に該当するとまで認めがたいといわざるを得ない。

他方、鑑定による復旧費用は、前記のようにして算出されたものである。専門家の裁量的判断であり、かつ訴訟上の鑑定である点で軽視できないところではあるが、その過程の合理性及び客観性が必ずしも的確に確認できるとはいいがたい。とりわけ、機能性及び市場性増加を目的としない工事であって復旧のため現実に必要であることを前提とする復旧工事費用でありながら(この点に関する鑑定の説明は明瞭とはいいがたいが、そのように理解できる説明であると認めるべきである。)、その四〇パーセントをも機能性及び市場性向上分として復旧工事費用から減額するのは、合理的とはいいがたい上、控訴人に著しく不利益なものであって、相当性を欠き、採用しがたいといわざるを得ない。なお、鑑定の「Aの価格」が、鑑定の認める必要な工事を施工することにより生じる価格であることは、鑑定の説明に照らして明らかである。公平の観点から、上記減額をしないこととする修正が必要であると認められる。その計算をすると、本判決別紙八「買取価格の計算及び認容元本額」の「修正後G2」欄記載のとおりになる。

被控訴人らは、本件復旧決議の前に、専有部分の復旧工事の費用は一戸当たり三〇〇万円程度と聞かされていたから、時価を試算する場合の復旧工事費用はそれに限られるべきであると主張する。しかし、集会でそのような説明がされたとしても、控訴人がこれに拘束される理由は見出しがたいから、採用することはできない。

⑥ 仲介料、登録免許税等について

控訴人は、原判決別紙費用明細の「仲介料」及び「登録免許税他」欄に記載の金額が控除されていない鑑定は不当であると主張する。控訴人が買取後第三者に売却する時に要すると見込まれる仲介手数料及び所有権移転登記の費用並びに控訴人が買い取ることになったことに伴う所有権移転登記等の費用(不動産取得税、登録免許税、司法書士手数料)であると主張されている。

このうち、後者は、不動産を取得した者の利益に着目して課される租税とその関係の経費であって、売主に転嫁されるべき性質のものではないと考えられるから、時価の認定について斟酌するのは相当とは考えられない。また、前者、すなわち転売費用についても、本件買取請求の目的物件はもともと転売物件として売り出す目的で保有されていたものではないこと、ところが、本件復旧決議の結果被控訴人らが取得した法律上の権利の行使として買取請求されたものであること、したがって、転売物件として値付けをするのは控訴人の強調する公平の見地からも必ずしも相当でないこと、なお、被控訴人らの側でも代替物件の取得のため代金以外の費用が必要な場合があること等を考えると、控訴人が転売するほかないとしても、時価の算定についてその仲介手数料を斟酌するのは相当とはいいがたい。控訴人の主張は、採用することができない。

⑦ 未払管理費等について

控訴人は、買取請求された翌月である平成八年六月分以後の管理費及び積立金について、被控訴人らが支払をしていないからこれらが減額されるべきであるのに、これをしていない鑑定は不当であると主張する。控訴人は、その理由として、通常のマンション売買において未払の管理費がある場合には全額売買代金から管理組合に支払われるのが一般的であること、本件買取請求の場合に控訴人は買取請求のあった専有部分について買取請求後一度も事実上の支配を行ったことがないから管理費の支払義務を負う合理性がないこと、仮に控訴人が管理費の支払義務を負うにしても(法八条)、控訴人は未払管理費を売買代金に転嫁することが当然であること等を主張している。しかし、控訴人が被控訴人らとの関係でいつの時点から管理費用等を負担する義務があるかという問題はあるが、管理費用そのものは買取に係る時価とは別個のものであるから、控訴人が本来は負担する義務のない期間の管理費用を実際に支払ったのであれば被控訴人らにその返還を求めることができ、あるいは相殺を主張することができることは別として(控訴人が支払をしたことを認めるに足りる証拠はない。)、時価の認定について当然減額されると解することはできない。なお、通常のマンションの売買においても、約定代金額から未払管理費等が当然に減額された金額が代金額になるわけではない。

⑧ 片づけ費用について

控訴人主張の原判決別紙費用明細の「片づけ費用」欄記載の金額は、本件買取請求の対象となった区分所有建物の清掃費用や不要物の処分費用であるところ、これらの費用は復旧工事に関連して必要なものと考えられるから、時価の認定に際して考慮すべきである。鑑定がそのとおりに考慮していると認めるに足りる証拠はない。そして、《証拠省略》によると、その金額は控訴人主張のとおりと認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、これを斟酌しなかった鑑定は、相当でない。

⑨ 専用駐車場の価値について

A 控訴人は、鑑定がいわゆる分譲駐車場の価格を買取代金に加えるべきものとしている点を批判している。そこで検討するに、《証拠省略》によると、次の事実が認められる。

a 本件マンションのいわゆる地下二階には駐車場があるが、本件マンションは地下一階地上七階の建築物として登記されている。

b 組合規約には次のような定めがある。

一五条(賃貸駐車場、自転車置場の専用使用権)

一項 区分所有者は賃貸駐車場について、管理組合が特定の区分所有者もしくは占有者に対し、駐車場専用使用契約により専用使用権を設定することを承認する。(後略)

二項 前項に基づき専用使用権を有している区分所有者もしくは占有者は、別に定めるところにより、管理組合に専用使用料を納入しなければならない。

三項 区分所有者がその所有する住戸部分、店舗部分及び事務所部分を、他の区分所有者、または第三者に譲渡、または貸与したときは、その区分所有者の専用使用権は消滅する。

ただし、当該譲渡、または貸与の相手方が同居人であるときは、この限りではない。

一六条(分譲駐車場及び倉庫の処分の制限)

一項 駐車場及び倉庫の所有者は、自己所有の駐車場及び倉庫を本件マンションの区分所有者に限り譲渡することができる。

二項 前項の駐車場及び倉庫を賃貸する場合、その相手方は区分所有若しくは住戸部分、店舗部分、または事務所部分の賃借人等、本件マンションの占有者でなければならない。

三項 対象物件敷地内で別図(省略)に定めるNo1からNo26の駐車場は、駐車場としての使用目的で権利を取得した者が、建物存続期間中専用使用できるものとする。ただし、別に定める駐車場管理費を管理組合に支払わなければならない。

c 組合規約には、規約の変更並びに敷地及び共用部分等の変更等については組合員数の四分の三以上及び議決権総数の四分の三以上で決し、その際はその変更により特別の影響を受ける組合員等の承諾を得る(組合員等は正当な理由がなければ拒否できない)との規定はあるが、組合規約一六条の規定する駐車場の変更や廃止について直接の規定はない。

d 本件マンションのいわゆる地下二階の駐車場は二九区画あるが、そのうち賃貸駐車場が三区画あり、残りの二六区画が上記No1からNo26までの駐車場である。被控訴人西原、同齊藤、同奥、同和田及び同齋田は本件マンションの駐車場を専用に使用していたが、その駐車場はいずれも上記No1からNo26に含まれている。そして、上記被控訴人らは、本件買取請求に際して、控訴人に対し、上記駐車場使用権の買取も請求した。

B 上記認定によると、本件マンションの駐車場は、登記されていないいわゆる地下二階に存在するものであり、いわゆる分譲駐車場を利用する権利も共用部分の専用使用権であると認めるのが相当である。しかし、これらの駐車場は、組合規約上分譲駐車場と規定されており、区分所有建物取得等に対価を支払ったことが窺われ、他の区分所有者はこれを承認していると認められること、区分所有建物の敷地にある専用駐車場であり区分所有建物の所有及び利用と密接な関連があると認められること、駐車場の使用権は譲渡先が制限されてはいるものの管理組合の承諾を得ずに処分することができ、規約上も所有者と表現されていること、組合規約には分譲駐車場の変更や廃止についての直接の規定はなく、組合規約変更等の場合でも駐車場使用権者がこれを受忍すべき理由がない限りその者の承諾が必要であると考えられることからすれば、上記駐車場専用使用権は、敷地に関する権利として控訴人に対し買取を請求することができると解するのが相当である。

その場合の駐車場専用使用権の価格については、鑑定の認定を著しく不相当であると認めるべき証拠はない。乙二六号証中この点に関する部分は、極めて低額に過ぎて採用することができない。

⑩ 耐震壁の設置に伴う費用について

被控訴人奥の買取請求に係る二つの区分所有建物は事実上一戸として使用されていたところ、控訴人は、新たにその間に耐震壁の設置工事が必要となり、そのため二戸の区分所有建物として水回り等各戸に必要な設備を新たに施工する必要があるから、これによって生じた費用は時価の算定に当たって考慮すべきであると主張する。しかし、本件の全証拠によっても、上記場所に耐震壁を設けることが必要であったことまでを確認することはできないから、控訴人主張の工事は、控訴人主張の市場性を向上させるためのものではないかという疑問がある。なお、これによりどの程度の価値の増加があるものかも分からない。したがって、控訴人の主張は、採用しがたいものといわざるを得ない。

⑪ メゾネットタイプの評価について

控訴人は、メゾネットタイプである被控訴人齊藤所有の区分所有建物は、そうでないタイプの区分所有建物より低額になると主張するが、メゾネットタイプであることにより評価が高まる点もあるから、メゾネットタイプであることだけで他の区分所有建物より評価を減じる必要性があると認めるに足りる証拠はない(ただし、鑑定はそのほかの理由で割安に評価している。)。

⑫ 自殺の可能性がある建物の評価について

当事者間に争いのない事実及び《証拠省略》によると、本件マンション七〇六号で、被控訴人A野花子の子が約一〇年前に死亡したこと、その死亡は自殺であった可能性のあることが認められる。そして、鑑定の結果によると、このように死亡原因に疑念のある区分所有建物は、通常の売買の価格に影響を及ぼすものであることが認められるところ、鑑定中この減額率に関する部分が著しく不当であることを認めるに足りる証拠はない(《証拠判断省略》)。

⑬ 控訴人主張の売却予想額について

控訴人は、本件各区分所有建物の復旧工事後の売却予想額(市場価格)を、原判決別紙費用明細の「売却予想額」記載のとおり主張している。鑑定の「被災しなかったものとした場合の価格」(本判決別紙五「C.鑑定評価額の決定」の「Aの価格」欄記載の金額)と比較すると、著しく下回っている。控訴人主張の上記価格は、アーバンライフ販売株式会社(控訴人の関連会社)のした評価(乙一九)に基づくものであるが、同程度の評価は第三者の立場にある株式会社長谷工アーベストでもされている(乙一八)。これらの評価は、前記判示の評価基準時より一年程度後の時点の評価であり、上記証拠によると、この間マンション価格は下落しているし、通常の評価手法を踏むものでもないが、これらの証拠と後記甲六号証によると、前記鑑定価格は、その試算過程に著しく不合理な点があるとまでは認められないものの、実情から見ると、高めの評価がされているように窺うことができる。なお、乙一八、一九号証の評価額は、本件マンションが一旦倒壊と判定されたことで知られているマンションであり、相当大きな傾斜が復旧されていないことなどを理由として、割安の評価をしているものであるが(上記証拠自体で明らかである。)、鑑定でも、同様の考慮は、次の⑭で見るように、「Aの価格」から一定割合を減額する方法でされている(すなわち、正確には、比較すべき価格は、この減額後の価格である。)。そうすると、ここでの問題の相当部分は、上記減額率をどのように見るべきかという問題に解消されるように思われる。

⑭ 観察・市場性減価について

鑑定は、観察・市場性減価として「Aの価格」から一〇パーセントを減額している。その趣旨は、復旧工事によっても一度被災により相当のダメージを受けた建物であることは避けられない事実であり、かつ、復旧工事は本件マンション全体の傾斜をそのまま残した工事であるから、これらの事実は各区分所有建物の市場性に大きな影響を及ぼすことが明白であることに鑑みると、下限値として一〇パーセント程度の減額をすべきであり、もっと大きな率の減額をしてもおかしくはないかもしれない、というのである。《証拠省略》によると、本件マンションは、震災により、基礎構造には被害がないが、平成七年八月の清水建設の第一次建物調査(構造)で、構造体の損傷割合による判定が「倒壊」、建築物の被災度区分判定も「倒壊」という深刻な損壊を被った上、全体が相当大きく傾斜したこと、その程度は、最大一〇〇分の一程度に達していること、復旧工事ではこの傾斜は全く復旧できず、そのままの傾斜を残していること、専有部分の駆体の床もおおむね傾斜しているが、この傾斜は内装の床で補正することになることを認めることができる。そうすると、これらの事実は鑑定の指摘する意味で減額要因になるというべきである。鑑定では、その程度について、最低限一〇パーセントの減額要因であり、それ以上の減額率としてもおかしくないとされているが、マンションの場合、復旧不可能な前記のような傾斜がある場合の減価の程度は、取引事例が少ないため特段拠り所となる基準がなく、幅があるものの、本件の場合に一〇パーセントとすることは、鑑定も指摘するとおり、売主側に相当有利な数値と考えても取引の実情に合わなくないものであることは、当裁判所も職務上の経験から知っているところであり、乙一八、一九号証も同旨のものである。このようなことのほか、被控訴人らが立証責任を負う時価については控えめに見るのが相当であるという見地と、先に⑬で見たところを考慮すると、鑑定のG3の減額率のところで、これを二〇パーセント程度に修正すべきものと認めるのが相当である。この計算をすると、本判決別紙八「買取価格の計算及び認容元本額」の「修正後G3」欄記載のとおりになる(駐車場の評価額を加えたものから減額する。)。

被控訴人らは、本件の傾斜は目視では認知不能の程度のものであって、安全性及び機能性に問題はなく、復旧工事によりかえって耐震性が向上したから、前記の意味の減額要素はないと主張するが、前記認定に照らして、採用することはできない。被控訴人らが本件復旧決議の前に管理組合から安全性、機能性及び耐震性について上記のとおり説明されたとしても、同様である。

ウ  そのほかには、鑑定については、その過程に著しく不合理な点があると認めるに足りる証拠はない。

2) 甲六号証

甲六号証は、株式会社立地評価研究所所属の不動産鑑定士及び一級建築士が、平成八年二月二六日付けで管理組合に提出した鑑定評価書である。その時期と依頼主及び依頼内容に照らすと、本件復旧決議の少し前に、買取請求がされた場合の参考として予め時価の見当を付けるために管理組合が依頼して行った鑑定評価であると認めることができる。

甲六号証の評価書は、被控訴人主張の直接法に立って、標準的住戸(三階の三〇四号室・壁芯面積六三・二五平方メートル)の買取価格について評価し、結論的に、一一五〇万円(一平方メートル当たり一八万二〇〇〇円、一坪当たり約六〇万円)としているものであり、鑑定より低めの結論を採るものということができる。この評価書は、鑑定について検討したところに照らすと、既存不適格建物であることの評価及び販売経費の取扱等が異なっているが、積算法による試算価格を求める段階で既存不適格建物であることに基づく建付増価をしていない点は、結論的に積算法による試算価格を採用していないからあまり問題になるところではなく、また、建付増価消滅減価をしている点は、鑑定について見たとおり、将来における建付増価の消滅を斟酌すること自体は相当なところであると考えられ、甲六号証は、鑑定の結果を基本的に覆すほどのものとは認めがたいが、前記のような性格のものであるから、前記1)イの⑬、⑭のように判断する資料とすることができると認められる。

3) 乙二六号証

乙二六号証は、控訴人の依頼に基づいて、弁護士兼不動産鑑定士が平成一一年五月三一日付けで控訴代理人に提出した鑑定意見書等である。この意見書等については、次のようにいうことができる。

直接法と名付けられた試算過程で、取引事例比較法が全く考慮されていない。しかし、買取請求時点あるいはその前後の比較検討に耐える期間内に取引事例があるのであれば、これと比較検討することにより取引事例比較法による試算価格を求めることができないとはいえない。そして、《証拠省略》によると、そのような比較対象を得ることができると認めることができる。また、上記直接法は、被控訴人主張の直接法とも異なり、具体的な復旧費用を求めずに被災による滅失割合を乗じて時価を求めているが、これが相当であるかどうか問題がある。

間接法と名付けられた試算過程は、基本的に控訴人主張の意味の間接法に立つものであるが、そこで用いられている専有部分の復旧費用額は、前記清水建設の見積に依拠するものであり、この見積は、被災しなかったとした場合の建物に復旧することよりも、時代に合ったマンションとするための改良及び機能向上を目的とする工事を含む場合の見積であると考えられ、したがって、鑑定及び前記甲六号証の採用する復旧費用額よりも著しく高額になっている。しかし、そのような復旧工事を前提とする場合には、その必要性のほか、被災しなかったとした場合の状態に復旧するだけの工事をする場合と比較して増加する復旧工事費用部分が復旧後の専用部分の価格の増加分に見合うだけの合理性があるかどうかを検討することが必要であると考えられる。ところが、乙二六号証では、このような観点からの検討が行われているとは認められない。したがって、上記試算価格は、にわかに採用することができない。もっとも、乙二六号証の意見書では、前記直接法と名付けられた手法による試算価格も考慮して、これに〇・三の、間接法に〇・七の各ウエートを与え、加重平均した価格を最終的に相当な時価と評価している。しかし、そのような調整により上記のような問題が適正に解決されるかどうか相当に疑問がある。

なお、乙二六号証による鑑定意見は、前記甲六号証及び鑑定と対比すると、試算過程に用いられた数値中には控訴人に有利で被控訴人らに不利益なものが少なくないのであり、このことと、上記鑑定意見が本件の係属中に控訴人の依頼で行われた私的鑑定であることも考慮すると、全体として採用しにくいものであるといわざるを得ない。

4) 乙二三号証、丙六ないし八号証

乙二三号証及び丙六、七号証は、本件マンション七〇二号に関する競売の評価書であり、著しく低額の評価がされ、著しく低額で売却されている(丙八)。しかし、競売は特別の売買であって、その評価及び売却価格は、買取請求の場合の価格を認定する際の資料とするのに適切でないと考えられるから、これらの証拠はにわかに採用することができない。

5) これまでのまとめ

以上によると、本件の時価は、基本的には鑑定により認定するのが相当であるが、前記1)、イ、④のサッシュ・ガラス工事及び玄関ドア取替工事費用並びに同⑧の片づけ費用を加える修正をすべきである。また、同⑤及び⑭の修正を行うべきである。そうすると、買取価格は、本判決別紙八「買取価格の計算及び認容元本額」の計算により、同別紙の「買取価格(端数切捨)」欄記載の金額になる。

四  利息請求について

被控訴人ら(ただし、引換給付の請求をする被控訴人らを除く。)は、買取請求の目的物件を引渡済みであることを理由として、買取代金に対する買取請求をした翌日である平成八年五月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求めている。被控訴人らの主張のうちには遅延損害金請求とする部分もあるが、他の主張とあわせ考えると、民法五七五条二項による利息請求であると解することができる。そこで、引渡の有無について検討するに、《証拠省略》によると、次の事実を認定することができる。

被控訴人らは、平成八年五月一六日の本件買取請求のころには、各専有部分の鍵を管理組合に預けていた。その後も、被控訴人らは、今日まで、鍵を明示的、積極的に控訴人に交付するための手段を講じていない。この間の平成八年五月二四日、被控訴人らは控訴人を相手方として適正な買取価額(時価)を定めることについて民事調停を申し立てた。管理組合は、平成八年五月中には、被控訴人らに対し、各専用部分内部の家財等の処理に関する承諾書と題する書面(回答用紙)を送付し、その中で各専有部分の家財等を廃棄しても良いかどうか、あるいは四階ないし七階の専有部分については共用部分の復旧工事期間中各専有部分内に他の専有部分の家財等を無償で置いて良いかどうか等を質問したが、被控訴人大塚、同和田、同齋田、同A野三郎はこれに回答し、被控訴人大塚は廃棄や無償使用を承諾する旨、同和田は廃棄は承諾し、無償使用は困る旨、同齋田は無償使用は困る旨、同A野三郎は廃棄も無償使用も承諾する旨それぞれ回答した。被控訴人らは、同年一一月一日、本件訴えを提起した。そのころまでには、被控訴人らの各専有部分の家具什器類は清水建設により撤去されていた。原審の審理中には被控訴人らは明示的に引渡済みの主張をせず、控訴人も特に引渡末了の主張をしなかったため、この点は争点にならなかった。同審理中の平成九年一月二三日付けで、控訴人の訴訟代理人中の一名は、被控訴人らの訴訟代理人中の一名に対し、「管理組合とも協議の上、被控訴人らが本件マンションの各区分所有建物を見ることについて承諾します。尚、工事中ですので、事前に清水建設現場事務所までご連絡をいただき日時を確認の上建物を見ていただくようにお願いします。」という趣旨の書面を交付した。本件復旧決議に賛成した者の専有部分については、特に問題のあるものを除き、平成九年三月末日ころまでには復旧工事が終了し、再入居できるようになった。管理費及び積立金も同年四月分から徴収されるようになった。本件控訴は平成一〇年九月七日に提起された。控訴人は、平成一一年九月一四日の当審口頭弁論期日において、引渡もその提供も受けていない旨主張した。被控訴人らの訴訟代理人中の一名は、平成一二年一月一四日に、控訴人の訴訟代理人中の一名に対し、「本日下記の鍵を受け取りました。」と記載した受取書を交付して本件各区分所有建物の鍵を受け取った。被控訴人らは、平成一二年三月二二日の当審口頭弁論期日において、買取請求の時点で既に引渡済みである旨主張した。なお、管理組合は控訴人と協力関係にある。

以上の認定によると、被控訴人らは、控訴人に対し、明示的に特定の方法で現実の引渡ないしその提供を行ったとはいいがたい。もっとも、前記認定と弁論の全趣旨によると、本件マンションは、震災後居住者がなくなり、各専有部分の鍵は管理組合に預けられていたところ、その状態で本件復旧決議と買取請求が行われたため、被控訴人らが鍵を所持しないまま売買の効果が生じたのであり、その後の共用部分の復旧工事等の過程で被控訴人らの専有部分の鍵が使われて同専有部分について一定の手入れが行われたことは認められるが、これらの専有部分自体の復旧工事は未了であって、管理組合は別として、控訴人がある特定の時に特定の原因で支配占有を取得したという明瞭な状況があることまでを認めるに足りる証拠はないのである。しかし、控訴人は原審で引渡未了の主張はしていなかったのであって、その後も具体的に被控訴人ら側に占有使用の実体がある旨の主張はしていなかったこと及び控訴人が既に平成八年五月に被控訴人らに対して家具の廃棄について問い合わせ、これに対して被控訴人らのうちにこれを拒絶した者がいる形跡はないこと、控訴人が前記各専有部分について復旧工事をしようとすれば被控訴人らにこれを拒絶するかもしれないような状況があったとは認められないこと及び控訴人と管理組合の関係などに照らすと、買取請求の直後から既に事実上引渡の提供がされたのと同様の状況が見られ、双方ともそのように感じていたのであって、遅くとも一般に専有部分の使用が可能となる期間が経過した平成九年三月末日までには、控訴人及び被控訴人らの双方について、本件各区分所有建物の引渡が終了した旨了解されていると認められる客観的な状況にあったと認めるのが相当であるから、信義則上、遅くとも同日までに引渡が終了したと認めるのが相当である。

五  期限の許与請求について

控訴人は、法六一条九項に基づく買取代金の期限の許与を求めている。しかし、前記認定によると、平成九年三月末日までには復旧工事が終了するに足りる期間が経過し、この間復旧工事を行うことができたのであるところ、そのころまでには本件復旧決議のときからは一年余りの期間が、本件買取請求のときからも一〇か月程度の期間がそれぞれ経過しているのであり、なお、控訴人は大証二部上場の会社でありマンションの開発販売事業をする会社であることを考えると、それより更に後の時まで期限の許与をすべき状況があるとは認めがたい。もっとも、期限の許与請求は、前記条項の文言に照らすと形成の訴(反訴)をもって請求すべきものと考えられるところ、控訴人はその手続を踏んでいない。したがって、期限の付与請求については、請求棄却の判決をしない。

六  被控訴人らの固定資産税等返還請求について

《証拠省略》によると、被控訴人らは、各買取請求に係る区分所有建物の平成八年度から平成一三年度までの固定資産税及び都市計画税を納付したことを認めることができる。先に見たとおり、本件各区分所有建物は買取請求がされた平成八年五月一六日にその所有権が控訴人に移転したものであるから、被控訴人らが固定資産税等を支払ったのは、真実はこれらの所有者でないのに登記簿上所有者として登記されているために過ぎないことになり、このような場合には、一般には、真の所有者である控訴人に対し、不当利得として上記納付税額に相当する金員の返還を請求することができると解するのが相当であろう。しかし、本件の場合には、前記認定によると、控訴人は買取請求の対象を本来の用途に沿う使用ができず、また処分も事実上不可能な状態で各区分所有建物の所有権を取得したのであり、その状態は平成九年三月末日まで継続したと認めるのが相当である。そして、このような場合には、控訴人は、この間は実質上真の所有者としての利益を享受することができない状態にあったのであるから、被控訴人らとの関係では、この期間に対応する固定資産税等について、不当利得返還義務を負わないものと解するのが相当である。そこで、前記証拠に基づいて平成九年四月から平成一三年までの固定資産税等の金額を計算すると、本判決別紙七「固定資産税等計算書」のようになる。また、被控訴人らが控訴人に対し被控訴人ら主張の日に被控訴人ら主張の額の固定資産税等相当額の返還を請求したことは、本件の審理の経過から明らかである。

七  まとめ

以上によると、被控訴人らの請求(当審における拡張部分を含む。)は、次の金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

1) 被控訴人額田

ア  八五八万六四二八円

本判決別紙八の「買取価格(端数切捨)」欄記載の金額中該当の被控訴人関係の金額(以下「買取価格」という。)と同別紙「固定資産税等」欄記載の金額中該当の被控訴人関係の金額(本判決別紙七の「合計」欄記載の金額と同じ。以下「固定資産税等合計額」という。)の合計額であり、本判決別紙八の「合計認容元本」欄記載の金額である。以下、特に説明しない限り、各被控訴人らのアの金額について同様である。

イ  アのうち買取価格八三六万円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち一一万九一八八円に対する平成一二年二月二三日から、一〇万七二四〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

2) 被控訴人今泉

ア  六〇七万七九二三円(ただし、同被控訴人の申立による引換給付)

イ及びウ

なし。

3) 被控訴人有田

ア  七五七万〇七二〇円

イ  アのうち買取価格七三〇万円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち一三万九五四八円に対する平成一二年二月二三日から、一三万一一七二円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金(本判決別紙七の各「小計」欄記載の金額と異なるのは、同被控訴人の請求態様によるものである。以下、同様の事例は同じ理由による。)

4) 被控訴人永野勝巳

ア  六三〇万〇二八四円(ただし、同被控訴人の申立による引換給付)

被控訴人永野勝巳及び被控訴人永野美知子共有の専有部分の買取価格は六二〇万円である。同被控訴人らの持分割合は被控訴人永野勝巳が二三四分の二三一、被控訴人永野美知子が二三四分の三であるから、その割合により被控訴人永野勝巳が控訴人に請求できる金額は、六一二万円である。

また、被控訴人永野勝巳が控訴人に返還請求できる固定資産税等合計額は一八万〇二八四円である。

イ及びウ

なし。

5) 被控訴人永野美知子

ア  八万二三四一円(ただし、同被控訴人の申立による引換給付)

被控訴人永野勝巳及び被控訴人永野美知子共有の専有部分の買取価格六二〇万円中、被控訴人永野美知子が控訴人に請求できる金額は、前記持分割合によると八万円である。

また、被控訴人永野美知子が控訴人に返還請求できる固定資産税等合計額は二三四一円である。

イ及びウ

なし。

6) 被控訴人荒井實

ア  七三七万一八八一円

被控訴人荒井實及び被控訴人荒井裕子共有の専有部分の買取価格は七五二万円である。同被控訴人らの持分割合は被控訴人荒井實が二〇分の一九、被控訴人荒井裕子が二〇分の一であるから、その割合により被控訴人荒井實が控訴人に請求できる金額は、七一四万四〇〇〇円である。

また、被控訴人荒井實が控訴人に返還請求できる固定資産税等合計額は、二二万七八八一円である。

イ  アのうち買取価格七一四万四〇〇〇円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち一一万七四四三円に対する平成一二年二月二三日から、一一万〇四三八円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

7) 被控訴人荒井裕子

ア  三八万七九九四円

被控訴人荒井裕子及び被控訴人荒井實の専有部分の買取価格七五二万円中、被控訴人荒井裕子が控訴人に請求できる金額は、前記持分割合によると三七万六〇〇〇円である。

また、被控訴人荒井裕子が被控訴人に返還請求できる固定資産税等合計額は一万一九九四円である。

イ  アのうち買取価格三七万六〇〇〇円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち六一八一円に対する平成一二年二月二三日から、五八一三円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

8) 被控訴人西原

ア  一五六七万円

イ  アのうち買取価格一五三二万円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち一三万〇〇三六円に対する平成一二年二月二三日から、二一万九九六四円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

9) 被控訴人齊藤

ア  一五三二万三八〇〇円

イ  アのうち買取価格一五〇三万円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち一三万五九〇〇円に対する平成一二年二月二三日から、一五万七九〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

10) 被控訴人奥

ア  二二四四万一四九三円

イ  アのうち買取価格二一八五万円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち三一万二一五三円に対する平成一二年二月二三日から、二七万九三四〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

11) 被控訴人和田

ア  一六六二万二二七五円

イ  アのうち買取価格一六二三万円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち二〇万七〇四五円に対する平成一二年二月二三日から、一八万五二三〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

12) 被控訴人吉永

ア  七六一万一六二五円

イ  アのうち買取価格七三九万円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち一一万六七二五円に対する平成一二年二月二三日から、一〇万四九〇〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

13) 被控訴人齋田

ア  一七九六万三八〇〇円

イ  アのうち買取価格一七五八万円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち一二万五七三四円に対する平成一二年二月二三日から、二五万八〇六六円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

14) 被控訴人A野花子

ア  二九〇万〇四六三円

被控訴人A野花子、同A野二郎及び同A野三郎共有の専有部分の買取価格は五五八万円である。同被控訴人らの持分割合は被控訴人A野花子が二分の一、同A野二郎及びA野三郎が各四分の一であるから、その割合により被控訴人A野花子が控訴人に請求できる金額は、二七九万円である。

また、被控訴人A野花子が控訴人に返還請求できる固定資産税等合計額は、一一万〇四六三円である。

イ  アのうち買取価格二七九万円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち五万八〇一三円に対する平成一二年二月二三日から、五万二四五〇円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

15) 被控訴人A野二郎

ア  一四五万〇二三一円

被控訴人A野花子、同A野二郎及び同A野三郎の専有部分の買取価格五五八万円中、被控訴人A野二郎が控訴人に請求できる金額は、前記持分割合によると一三九万五〇〇〇円である。

また、被控訴人A野二郎が控訴人に返還請求できる固定資産税等合計額は、五万五二三一円である。

イ  アのうち買取価格一三九万五〇〇〇円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち二万九〇〇六円に対する平成一二年二月二三日から、二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

16) 被控訴人A野三郎

ア  一四五万〇二三一円

被控訴人A野花子、同A野二郎及び同A野三郎の専有部分の買取価格五五八万円中、被控訴人A野三郎が控訴人に請求できる金額は、前記持分割合によると一三九万五〇〇〇円である。

また、被控訴人A野三郎が控訴人に返還請求できる固定資産税等合計額は、五万五二三一円である。

イ  アのうち買取価格一三九万五〇〇〇円に対する平成九年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息

ウ  アの固定資産税等合計額のうち二万九〇〇六円に対する平成一二年二月二三日から、二万六二二五円に対する平成一三年九月二八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

八  結論

上記七と異なる原判決は相当でないから、本件控訴及び附帯控訴に基づいて、原判決を上記のとおり変更することとし、訴訟費用及び補助参加費用の負担について民訴法六七条、六一条、六四条、六五条、六六条を、仮執行の宣言について同法二五九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小見山進 大竹優子 裁判長裁判官加藤英継は転補されたため署名押印することができない。裁判官 小見山進)

<以下省略>

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