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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)2909号 判決 1999年2月26日

控訴人(被告) 株式会社ダイヤモンドリゾート

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 明尾寛

同 臼山正人

被控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 植田勝博

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人から別紙会員証書目録記載のゴルフクラブ会員証書の交付を受けるのと引換えに、金四〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  控訴費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  事案の概要は、次のとおり訂正、付加し、次項のとおり付加するほか、原判決事実及び理由第二 事案の概要(原判決三頁五行目から同八頁九行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三頁五行目の前に行を改めて、次のとおり加える。「本件は、控訴人の経営するゴルフクラブ会員であった被控訴人が、控訴人に対し、預託金の返還を求めた事案である。」

2  原判決三頁六行目から七行目にかけての「ダイヤモンドカントリークラブゴルフ」を「ゴルフクラブであるダイヤモンドカントリークラブ(以下「本件クラブ」ともいう。)」と、同九行目から一〇行目にかけての「ダイヤモンドカントリークラブゴルフをを」を「本件クラブを」とそれぞれ改める。

3  原判決六頁三行目から同七頁三行目までを次のとおり改める。

「(二) 本件会則による据置期間の延長又は事情変更の法理の適用

(1) 預託金は、施設経営企業により、施設建設資金として利用されることが予定されており、本件会則には、天災地変、その他不可抗力の事態が生じた場合、理事会の承認を得て預託金の据置期間を延長することができるとの規定が設けられているところ、現在のような未會有の不況が続き、本件クラブ会員権を含むゴルフ会員権価格が大幅に下落し、しかも本件クラブ会員の半数が据置期間を経過しており、控訴人は、右会員らから預託金返還請求を受ける状況にある。

右の事態は、本件会則八条但書にいわゆる「天災事変その他不可抗力の事態が生じた場合」に当たるから、二年の据置期間の延長が認められるべきである。

(2) 控訴人を含むゴルフ場経営企業者ら及び被控訴人を含むゴルフクラブ会員権者らは、被控訴人の入会時に今日のゴルフ業界の不況、会員権価格の下落を予想できなかったのであるから、事情変更の法理を適用して、会員である被控訴人からの預託金返還請求に対しては、相当期間の支払猶予が認められるべきである。」

二  控訴人の当審における追加主張

(引換給付の抗弁)

本件会則一〇条には、預託金は、ゴルフ会員証書と引換えに支払う旨定められているのであるから、控訴人は、被控訴人から別紙会員証書目録記載の会員証書の交付を受けるまで右支払を拒絶する。

第三判断

一1  当裁判所の事実認定は、原判決一〇頁五行目の「努め」を「務め」と、同九行目の「その後の会則(ただし、施行日に関する定めが記載されない。)」を「その後の会則(ただし、施行日に関する定めが記載されていない。以下、以上の各会則を併せて「本件会則」という。)」と、同一一頁二行目の「証券発行日より一二間」を「証券発行日より一二年間」とそれぞれ改めるほか、原判決第三、一

争点に対する判断1(原判決九頁一行目から同一二頁四行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

2(一)  被控訴人に対する控訴人理事会による退会承認が存在しない故に本件預託金返還請求をなし得ない旨の控訴人の主張の当否について検討する。

右1で認定した事実によれば、本件クラブは、いわゆる預託金会員組織であり、控訴人の意向に沿って運営され、控訴人と独立して権利義務の主体となるべき社団としての実態を有しないことが明らかであるから、本件クラブの会則は、これを承認して入会した会員と控訴人間における契約上の権利義務の内容を構成するということができ、会員は、右会則に従ってゴルフ場を優先的に利用し得る権利を有し、年会費納入等の義務を負担し、入会の際に預託した預託金を右会則に定める据置期間経過後に、退会したうえ返還請求できるということができる。

ところで、本件会則によれば、預託金返還請求の要件である、本件クラブからの退会をするには理事会の承認を要することとされている(甲三、ダイヤモンドカントリークラブ会則一〇条)ところ、そうすると会員の退会ひいては預託金返還の許否は専ら債務者である控訴人の恣意に委ねられているに等しいことになる。しかしながら、被控訴人が入会の際、会則上の据置期間の到来にも拘わらず、退会及び預託金の返還が控訴人の一方的意思にかかっていることにつき、控訴人から個別に説明を受け、これを承認の上入会したとは認め難いのみならず、預託金返還請求権の成立要件をなす退会の許否が右返還債務者の一方的意思によりなし得るとすることは、債務者の意思のみにかかる停止条件付法律行為を無効とする民法一三四条の法意に照らしても、合理性を欠き許されず、右会則の規定は、全員の基本的権利を侵害するものであってその効力を有しないというべきである。

右の認定説示に照らすと、控訴人が右会則の条項により、控訴人の事情により、被控訴人の退会を拒み、或いはこれを保留する権限を有するということはできない。

したがって、被控訴人の退会の効果は、右据置期間の経過及び被控訴人への平成九年四月になした退会の意思表示(右意思表示は、右据置期間の経過により退会する趣旨の意思表示と解し得る。)の到達によって、発生していることになるから、この点に関する控訴人の主張は採用できない。

(二)  本件会則並びに事情変更の法理の適用による預託金据置期間延長の可否について検討する。

控訴人は、現在の不況の中で、ゴルフ会員権価格が大幅に下落し、しかも本件クラブ会員の半数が預託金の据置期間を経過しており、その返還請求に及ぶならば控訴人の経営破綻に陥るとして、右の事情が本件会則八条の「天災地変など不可抗力の事態が生じた場合」に当たるから、本件クラブ理事会の承認を得た上で、又は事情変更の法理の適用により、右据置期間の延長が認められるべきであると主張する。

しかしながら、被控訴人が入会の際に預託した預託金を会則に定める据置期間経過後に退会のうえ返還請求し得る権利は、会員の契約上の基本的権利であって、右会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約上の権利を変更することになるから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾を得ていない会員に対しては、据置期間の延長を主張することは許されない。そして、控訴人の主張する不況等の経済的事情の変動は、本件会則の定める「天災地変など不可抗力の事態が生じた場合」には当たらないと解すべきであるから、右会則の規定を根拠として、据置期間の延長を主張することはできない。

また、ゴルフ業界及び控訴人に主張のような経済的事情があったとしても、会員価格の下落については、大幅な相場の変動があり得ることはこの種取引業界の常であるし、据置期間の到来した会員から預託金返還請求を受けるであろうことは控訴人が事前に容易に予測し得ることであり、営利企業としての控訴人が自らの責任においてこれらに対処すべきである。

したがって、これらの事実をもって事情変更の法理を適用すべき場合に当たるということはできず、この点に関する控訴人の前記主張は失当である。

(三)  控訴人主張の内在的制約(原判決第二の二2(三))の点については、営利企業である控訴人が本件クラブ会員全体の利益を考慮して調整機能を果たすことは困難と考えられる上に、右主張は要するに、控訴人が、被控訴人を含む多数会員からの預託金返還請求に応じることによる控訴人の経営破掟を阻止するために据置期間延長の権限を有するというにあるところ、これを肯定するならば、控訴人の経営状態が回復するまで幾度となく猶予期間の延長がなされ、本件会則に明示してある据置期間経過後に返還するとの約定が無意味なものとなるばかりか、右延長にも拘わらず、万一控訴人が経営破綻に至った場合被控訴人を含む会員全員が右返還不能を甘受しなければならず、著しく妥当性を欠くことになる。

したがって、控訴人の右主張も失当である。

3  控訴人主張の、本件会員証書との引換給付の要否について検討するに、証拠(甲三)によれば、本件クラブ会則(甲三)一〇条には、預託金預かり証券と引換えに預託金を返還する旨定められているのであるから、被控訴人は、右条項により本件預託金の返還を受けるためには、控訴人に対して右預かり証券としての機能を合わせ持つ本件会員証書(甲一)を提出することを要する。

したがって、被控訴人は、本訴請求の金員の支払を受けるのと引換えに、控訴人に対し、本件会員証書を交付しなければならない。なお、右証書の交付は、本件預託金の支払と対価的関係にあるものではなく、右証書は、本来、控訴人が、右預託金返還債務をすべて弁済した後に、返還を請求し得る性質のものである(民法四八七条)が、会則により特に弁済との同時履行が定められたものにすぎないから、被控訴人が、右証書を所持し、何時でも返還できる態勢にある(弁論の全趣旨により明らかである。)以上は、被控訴人が控訴人に対して預託金の返還を請求することによって、控訴人は、履行遅滞の責を負うというべきである。したがって、控訴人は、右返還請求を受けた日の翌日である平成九年一二月一一日以降遅滞の責を免れない。

二  以上によれば、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し、控訴人に本件会員証書を交付するのと引換えに預託金四〇〇万円及びこれに対する請求の日の翌日である平成九年一二月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却すべきところ、原判決中、これと一部結論を異にする部分は相当でないから、原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条、六四条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 鎌田義勝 小野木等)

<以下省略>

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