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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)599号 判決 1998年7月14日

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を次のとおり変更する(当審において請求を減縮)。

二  被控訴人らは、各自、控訴人鑛納幸子に対し、金一二七三万六二七七円及び内金一二三一万二五八一円に対する平成八年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人らは、各自、控訴人鑛納忠三、同鑛納茂一、同鑛納智和に対し、それぞれ、金四二一万二〇九一円及び内金四〇七万〇八五九円に対する平成八年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

五  仮執行宣言

第二  事案の概要

事案の概要(前提となる事実、争点、争点に関する当事者双方の主張)は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」の第二(事案の概要)記載のとおりである(ただし、原判決七頁七行目の「一五〇万程度」を「一五〇万円程度」と訂正する。)から、これを引用する。

なお、原審における控訴人ら主張の損害の内訳とその額及び原審が損害と認めた額は次のとおりである。

控訴人ら主張額 原審認定額

<1>  葬祭関係費 三五七万九八四四円 一五〇万円

<2>  逸失利益 二一二〇万一六八七円 二〇三〇万〇八一六円

<3>  慰藉料 二八〇〇万円 二二〇〇万円

<4>  後記<5>により填補された損害金に対する遅延損害金 八四万七三九二円 零

小計 五三六二万八九二三円 四三八〇万〇八一六円

<5>  自賠責保険による損害填補 二三二五万五五〇〇円 二三二五万五五〇〇円

小計から<5>を控除 三〇三七万三四二三円 二〇五四万五三一六円

<6>  弁護士費用 四〇〇万円 一九〇万円

合計 三四三七万三四二三円 二二四四万五三一六円

当審において、控訴人らは、原審が<1>の葬祭関係費の一部及び<4>の自賠責保険により填補された損害金に対する本件事故発生日から右填補がされた日までの遅延損害金を損害と認めずにその請求を棄却した部分について本件控訴を提起して原審における請求額を当審でも維持したが、原審が<2>の逸失利益、<3>の慰藉料、<6>の弁護士費用の各一部を損害として認めずにその請求を棄却した部分については控訴せず、同部分について請求を減縮した。

(控訴人の主張)

1 控訴人らは、亮一の葬儀費用として一二〇万八八四四円、及び墓碑建設費として二三七万一〇〇〇円の合計三五七万九八四四円を実際に支出し、その領収書も存在するのであるから、右葬儀費用及び墓碑建設費を本件事故による損害として認めるべきである。確かに、右葬儀費用及び墓碑建設費が交通事故により死亡した者にとって身分不相応に高額なものである場合には、事故と相当因果関係のある損害は右各費用の一部に制限されるべきであり、また、墓碑、仏具については将来にわたって利用されることから、いわば「家産を形成する非一身専属的耐久財」であることを理由に、事故と相当因果関係のある損害を現実の出捐額の何割かに制限する考え方もあるが、本件においては、右葬儀費用及び墓碑建設費が身分不相応に高額なものとは認められないし、特に控訴人らの居住する土地の周辺では、代々夫婦ごとに墓碑を建てるのが慣行になっているのであるから、「家産を形成する非一身専属的耐久財」にあたらないというべきであり、右各費用の全額が本件事故と相当因果関係のある損害になるというべきである。

そうすると、右葬儀費用及び墓碑建設費の合計三五七万九八四四円のうち原判決が本件事故と相当因果関係のある損害と認めた一五〇万円に加えて、その余の二〇七万九八四四円については、その二分の一に相当する一〇三万九九二二円を控訴人幸子の損害として、また右二〇七万九八四四円の六分の一に相当する各三四万六六四〇円を控訴人忠三、同茂一、同智和の損害として、それぞれ認めるべきである。

2 原判決は、本件事故によって控訴人らが被った全損害額から自賠責保険によって填補された(支払われた)二三二五万五五〇〇円を差し引いた残額についてのみ、同残額に対する本件事故日から支払済みまでの遅延損害金の請求を認容しているが、右二三二五万五五〇〇円に相当する損害金に対する本件事故日からそれが支払われた平成九年二月一四日までの間(二六六日間)の遅延損害金についても、本件事故による損害として認めるべきである。

右遅延損害金は、次のとおり八四万七三九二円であるから、控訴人幸子の取得する遅延損害金の額は、右金額の二分の一の四二万三六九六円、控訴人忠三、同茂一、同智和の各取得する遅延損害金の額は、右金額の六分の一の各一四万一二三二円となる。

23,255,500×0.05×266÷365=847,392

847,392÷2=423,696

847,392÷6=141,232

3 控訴人ら主張の損害額は、右1及び2で主張の額を原判決の認容額に加えた額のほかは、原判決の認容額のとおりである。すなわち、控訴人らは、請求減縮のうえ、控訴人幸子につき、一二七三万六二七七円及び内金一二三一万二五八一円(2で主張の遅延損害金を除いた額)に対する平成八年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金、控訴人忠三、同茂一、同智和につき、それぞれ四二一万二〇九一円及び内金四〇七万〇八五九円(2で主張の遅延損害金を除いた額)に対する平成八年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

(被控訴人らの主張)

1 葬祭関係費(葬儀費用及び墓碑建設費)は、その実費すべてが認められるのではなく、妥当な額に制限されるべきであり(最高裁昭和四四年二月二八日第二小法廷判決・民集二三巻二号五二五頁)、本件においては、原判決において認容されたとおり、本件事故と相当因果関係のある損害としては一五〇万円が妥当である。

2 自賠責保険による保険金給付がなされた場合には、当然損害の填補があったものとして損害賠償額から控除すべきであり、その控除の時期は交通事故時と考えるべきであり、遅延損害金は、右控除後の残額に対するもののみが認められるべきである。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人らの被控訴人らに対する請求は、原判決主文一、二項掲記の限度で理由があるから認容すべきであり、その余の部分は理由がないから棄却すべきものと認定判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決に付加すべき事項)

原判決一〇頁一行目の「葬儀費」を「葬儀費用」と、同四行目の「墓石代」を「墓碑建設費(墓石代)」と、各改め、同五行目の「支出されたこと」の次に「、右墓碑は、控訴人らの先祖の墓碑がある敷地内に、新たに亮一夫婦の墓碑として建設されたものであること」を加え、同六行目の「金額は、一括して一五〇万円と認められる。」を「損害額は、右の葬儀費用及び墓碑建設費を一括して葬祭関係費として一五〇万円とするのが相当であると認められる。」と改める。

(控訴人らの主張に対する判断)

一  (葬祭関係費について)

控訴人らは、実際に拠出した葬儀費用及び墓碑建設費を、本件事故による損害として認めるべきである旨を主張するところ、先に付加した事項を含む原判決一〇頁の二行目ないし同六行目において認定のとおり、控訴人らが葬儀費用として一二〇万八八四四円、及び墓碑建立費として二三七万一〇〇〇円の合計三五七万九八四四円を支出したことが認められる。

ところで、葬儀費用、墓碑建設費等の葬祭関係費についても、交通事故によって生じた損害でないとはいえないが、その支出した費用すべてが損害として認められるものではなく、その支出が社会通念上相当と認められる限度において、不法行為により通常生ずべき損害として、その賠償を加害者に請求することができるものと解するのが相当である(最高裁昭和四四年二月二八日第二小法廷判決・民集二三巻二号五二五頁)。

しかしながら、控訴人ら主張の右墓碑建設費は、通常の場合に比較して高額であり、代々夫婦ごとに墓碑を建てる慣行があるとの控訴人らの主張については、仮にそのとおりであるとしても、そのような特別の事情に基づく出費までも本件事故により通常生ずべき損害と認めることは到底できないというべきである。そして、葬儀費用及び墓碑建設費について社会通念上相当と認められるのは、前記原判決が説示するとおり、葬儀費用及び墓碑建設費の両者を合計して一五〇万円とするのが相当であるから、これに反する控訴人らの主張は理由がない。

二  遅延損害金について

控訴人らは、本件事故日から自賠責保険により二三二五万五五〇〇円が支払われた平成九年二月一四日までの間(二六六日間)の遅延損害金についても、本件事故による損害として認められるべきである旨主張する。

なるほど、不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解され(最高裁昭和三七年九月四日第三小法廷判決・民集一六巻九号一八三四頁)、この理は、交通事故による損害賠償債務についても変わらない。そして、交通事故における損害賠償請求に関し、公平の見地や交通事故の被害者の救済を厚くする必要性を考慮し、その損害が、交通事故時には発生しておらずその後に日々発生する性質のものや、交通事故に基づく損害賠償請求訴訟の提起、追行のための弁護士費用など、本来は交通事故後にその損害発生が現実化したときに初めて請求できるはずの損害についても、交通事故時に損害が発生したものと擬制して、交通事故時からの遅延損害金を請求することができることとされている(弁護士費用につき最高裁昭和五八年九月六日第三小法廷判決・民集三七巻七号九〇一頁参照)。一方、交通事故による損害に関しては、種々の保険制度が整備され、本件で問題になっている自賠責保険に限ってみても、交通事故の加害者が被害者と直接交渉することはほとんどなくなり、保険会社等の担当者が加害者に代わって被害者と交渉するため多少の時間を要するものの、事故が被害者の一方的な過失によるものでない限り、被害者に対する損害賠償金の支払いが確実に保障されるようになっており、また、被害者からの直接請求(自賠法一六条)の方法もあることなどもあわせて、比較的早期の被害者救済が確保されるようになったのであるが、このことと損害賠償債務が事故発生時に遅滞となることと調和させる方法の一つとして、自賠責保険による損害賠償がなされた場合には、その支払いの日までの分に対する遅延損害金を考慮しないとする取り扱いが実務一般の慣行として是認されているところである。本件においても、本件事故による損害の填補のため前記のとおり自賠責保険金の支払いがなされているのであるが、右実務の慣行と公平の見地に照らすと、自賠責保険金支払事務の担当者において、故意に支払いを遅延させたなどの特別な事情がない限り、被害者において、自賠責保険によって填補された損害に対する交通事故日から自賠責保険金支払いの日までの遅延損害金を請求することはできないものと解するのが相当である。そして、本件においては、証拠(乙二の一ないし三、控訴人智和本人(原審))及び弁論の全趣旨によれば、自賠責保険(兵庫県共済農業協同組合連合会)の担当者において、故意に支払いを遅延させたなどの特別な事情はなく、亮一の収入の認定に問題があったことや、控訴人ら代理人と自賠責保険の担当者との間の交渉において、書類の不備等のために時間を費やしたなど、自賠責保険金支払いまでに多少の時間を要したことはやむを得ない事情が存することが窺えるのであるから、これらの事情からすると、右控訴人ら主張の遅延損害金の請求は認められないというべきであり、控訴人らの主張は採用することができない。

第四  よって、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法六七条一項、六一条、六五条一項に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 岨野悌介 古川行男 鳥羽耕一)

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