大阪高等裁判所 平成10年(行コ)20号 判決 1998年10月28日
主文
一 原判決主文第一項中別紙(一)の内申書中の第一次指名審査会に係る分の「等級」欄の「等級」・「評点」及び第二次指名審査会に係る分の「ランク」欄をいずれも非公開とした処分を取り消した部分及び原判決主文第二項を取り消す。
二 右取消に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを三分し、その一を控訴人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 主文一、二項と同旨
2 取消部分に係る訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
一 当事者の主張は、次に訂正するほか、原判決の「第二 当事者の主張」(原判決五頁三行目から二五頁末行まで)のとおりであるから、これを引用する(但し、予定価格調書に関する部分を除く。)。
1 原判決二〇頁二行目の「関するものであり」を「関するものであるが」に、同三行目の「大きくなり」を「大きくなるため」に、同四行目の「受けることになり」を「受けることになるし、これらは、大阪府が独自かつ一方的に定めるため」にそれぞれ改める。
2 原判決二〇頁八行目の次に改行して、次の文を加える。
「しかも、右格付の結果の意味を正しく評価することは、建設業者はともかくとして、少なくとも一般の住民においては、極めて困難である。」
第三 証拠
原審及び当審各訴訟記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 次に訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する(但し、予定価格調書に関する部分を除く。)。
1 原判決四二頁一行目から四三頁五行目までを次の文に改める。
「 本件内申書は、本件工事について、指名競争入札参加資格をもつ建設業者の中から指名基準を勘案して、本件工事に応じた建設業者を選定して、本件工事や選定した建設業者に関する事項を記載した文書であり、右内申書中の第一次指名審査会に係る分の「等級」欄の「等級」及び「評点」の部分には、選定された建設業者の大阪府建設工事入札参加資格者審査調書の「等級」及び「評点」の記載が、同じく右内申書中の第二次指名審査会に係る分の「ランク」の欄には右審査調書の「等級」の記載がそれぞれ転記されているが(弁論の全趣旨)、審査調書中の等級や評点の情報については、本件審査調書中の右の情報についての後記3の判断で説示するとおり、本件条例八条一号の非公開事由があると認められる。」
2 原判決四八頁九行目から五二頁一〇行目までを次の文に改める。
「(一) 総合評点は、各建設業者についての経営事項審査の結果と大阪府において算定評価した地元要素や労働福祉状況の総合的な評価の結果であり、等級は、総合評点に基づいて大阪府が発注する工事の規模に応じて入札に参加できる建設業者の格付をしたもので、その内容は、いずれも、各建設業者の経営規模、経営状態、それに地元要素等の評価の結果であって、各建設業者の業務上の信用に関する情報であることは明かである。
そして、以下に述べるとおり、右総合評点は、大阪府が公共工事の実施機関として、業者を選定する目的のもとに評価したものであるが、これらの情報を公開すると、それが各建設業者の経営状態や工事施工能力等の重要な評価であるとされる結果、各建設業者の社会的活動や事業活動の面において不利益を与えることが予測され、これらの情報は本件条例八条一号に該当するというべきである。
(1) 証人Aは、府下に本店を有する、資本金八〇〇〇万円、平成五年度の年商が約四〇億円の中堅の建設業者の専務取締役であるが、同証人は、「最高級のランク付けをされた業者ならともかく、低いランクを付けられた業者の場合は、これが公表された場合、他からの受注に際して影響がある。特に、伝統はあるもののなかなか業績が思うように伸ばせず、背伸びして営業をやっているような中堅クラスの企業では、低いランクを公表されることについては、相当強い抵抗がある。受注の際、同じ見積を出したときは、高いランクの方に客を奪われてしまうという懸念を抱いている。また従業員募集の際にも低いランクが公表されると影響がある。特に、途中でランクが変動し、下がるようなことがあると融資を受ける際にも影響があるのではないかと危惧する。」と証言している。
右は、ある特定の企業の専務取締役の供述ではあるが、右の情報が公開された場合、同様の懸念を有する企業が他にも存することが容易に想像できる。
(2) なお、北海道大学教育学部産業教育研究室助教授である証人Bの証言、同証人作成の意見書(甲二七)によると、同証人が行った中小建設業者を対象とした調査の結果によると、「ランクづけはその基準や決定内容に疑問があるので、基準や決定内容を公表してほしい」という意見に対して六九・二パーセントの賛成があったことが認められる。しかし、右意見はランク付けの基準の公表を含む意見に対する賛否であるが、決定内容のみの公表がなされた場合、これに対してどの程度の賛成があるのかは不明である。また、右調査結果によると、ランク付けに満足している業者が一七・六パーセントであったのに対し、不満を抱いている業者はその倍程度の三六パーセントであったことが認められるが、自己のランク付けに不満を抱いている業者の中には、そのランクを公表されることを望まない者が存することを否定できない。
(3) また、前記三3、4のとおり、入札参加の資格審査は、経営規模や経営状況など客観的事項の審査と、工事成績、地元要素、労働福祉の状況などの主観的事項の審査を行い、九〇〇点満点の客観的評点と、一〇〇点満点の主観的評点の合計点(一〇〇〇点満点)を総合評点としてその審査を行い、右総合評点の点数に応じて等級を付している。
そうすると、客観的評点が同じでも等級が異なることが生じたり、客観的評点が低い業者間では、主観的評点の比率が高くなるが、右のようにして定められた総合評点や等級の趣旨が、大阪府独自の目的のもとに算定されていることを一般の住民において正確に理解されず、右の評点や等級を建設業者に対する客観的な評価と誤解される可能性を否定できないというべきである。そうすると、これらの情報が公表されることにより、建設業者が他の顧客から受注しようとするに際して、弊害の生じるおそれがないとはいえない。
なお、主観的評点と客観的評点を分けて記載することや、全国各地の地方自治体で同様の情報が広く公開されることによって、右の誤解が将来解消されることも考えられないではないが、本件審査調書の評点は、主観的評点と客観的評点の合計点である総合評点のみが記載されているにすぎず、また、全国各地の地方自治体で同様の情報が広く公開されるべきであるか否かはともかく、現時点では、これを公開している例は少ないというべきであるから、これらの点をもって、本件において右情報の非公開事由の該当性の有無を左右するものということはできない。
(4) また、前記三冒頭掲記の各証拠によれば、建設業者便覧等の公刊物(甲一四、一〇五)に相当数の建設業者について取材あるいは各種資料から予測される格付の評点が掲載され、建設業者の間では、その情報が既に流布されており、掲載された建設業者の格付は、公刊された資料等により事実上ほぼその概要が知り又は予測できる状態になっていることが認められる。しかし、右公刊物はもとより民間調査機関の調査に基づくものであり、全ての業者の格付の評点が掲載されているわけではなく、公刊物において掲載された建設業者の中には、その公表を望まなかった業者が存する可能性は否定できず、そのような業者にとっては、仮に、本件審査調書に記載された総合評点等の情報が公刊物に掲載された格付の評点と符合するものであったとしても、これを公開することを望まないと考えられる。さらに、公開された情報が、公刊物に掲載された評点と符合しない場合は(公刊物に掲載された格付の評点が客観的に相当なものであったとしても、前記(3)の事情により、大阪府の総合評点や等級と符合しないことは十分ありうる。)、建設業者に対する評価について誤解を生じさせ、建設業者間での競争上の地位を害するおそれがあるというべきである。
(二) 以上のとおり、右の情報は、これを公開した場合、各建設業者の競争上の地位その他正当な利益を害すると認めることができ、本件条例八条一号所定の事由があるというべきであり、「人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の財産若しくは生活に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報」に該当しない限り、これを公開するか否かは知事の裁量に属するというべきである。
(三) たしかに、右の情報の中には、建設業法二七条の二四第四項、二七条の七により、指定経営状況分析機関が秘密として保持しなければならない情報もなく、むしろ、経営事項審査や総合評点の算定、それに格付が適正に行われ、そして経営事項審査や入札参加資格者の格付の制度が正しく理解される限りにおいては、基本的には、各建設業者の大阪府における合理的な根拠に基づく客観的な評価の一つとなるべきものであって、公正な競争秩序の維持の観点からも、公開が検討されるべき情報であるともいえる。実際、総務庁行政監察局の調査によれば、等級については、既に幾つかの地方自治体で公開されており(甲一二)、建設省においても、平成一〇年から各建設業者の経営事項審査の結果を公表する方針を採っており、さらに、地方自治体がする入札参加の資格審査の公開も検討することとされている(甲二四)。また、等級や総合評点は、それが公開されることによりそれらが適正であるかどうかについて広く一般に検証あるいは批判することが可能になり、ひいては大阪府が発注する建設工事の入札手続がより一層透明になって経営事項審査や格付の適正化に資するものと考えられないわけではない。
しかし、これらの事由を考慮して、右の情報を公開すべきか否かは知事の裁量に属するというべきであり、これを非公開とした知事の処分に裁量権の逸脱濫用があるとまでは認められず、また、右の情報が、本件条例八条一号の例外規定に該当するとの主張、立証もない。
(四) 以上によると、右の情報を本件条例八条一号に該当するとして、非公開とした処分に違法は認められない。」
二 結論
以上によると、その余の非公開事由の存否を判断するまでもなく、控訴人敗訴部分中控訴人が被控訴人に対して平成五年一一月二日付けでした公文書の非公開決定処分のうち、別紙(一)の内申書中の第一次指名審査会に係る分の「等級」欄の「等級」・「評点」及び第二次指名審査会に係る分の「ランク」欄を非公開とした処分、並に平成五年一一月四日付けでした公文書の非公開決定処分のうち、別紙(三)の入札参加資格者調書中の「等級」部分を非公開とした処分の取消を求める請求は理由がないので、これを棄却すべきである。
したがって、これと異なる原判決の右部分を取り消し、右取消に係る被控訴人の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 山田陽三)