大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 平成10年(行コ)31号 判決 1999年2月09日

大阪府枚方地大垣内町二丁目九番九号

控訴人(被告)

枚方税務署長 右原正卓

右指定代理人

黒田純江

益野貴広

岸本卓夫

小谷宏行

大阪府枚方市町楠葉二丁目一二番二〇号

被控訴人(原告)

中村勇

右訴訟代理人弁護士

梅田章二

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  右部分につき被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

主文と同旨

第二事案の概要

(以下、控訴人を「被告」・被控訴人を「原告」と略称する。)

本件事案の概要は、次に付加する他は、原判決「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  被告の当審主張

1  本件土地が被相続人中村清弌から原告に譲渡されたとの事実は存在しない。

(一) そもそも本件土地譲渡の前提となっている寺内の土地を中村清弌が原告に売却したとの事実は存しない。

親子とはいえ少額の金額の負担についても領収書を作成していた中村清弌が本件土地の売買という重要な行為につき契約書も作成せず移転登記も経由していないのは不自然である。

中村清弌が原告から受領した金銭を記載していたとされる手帳(甲八)からは、金銭授受の趣旨は明らかではなく、それが寺内の土地の売買代金の授受を記載したものと特定することはできない。

原告は、寺内の土地を売買したとされる当時、結婚や居宅取得のために多額の資金を要した時期であって、それに加えて寺内の土地を購入するだけの経済力があったとはいえない上、原告が寺内の土地を購入した動機は実弟進の居宅購入資金を捻出するためであったというのに、原告が同土地の売買代金を支払ったとされる時期は進の居宅購入代金の支払時期より相当遅れているのであって、不合理である。

(二) 本件土地の譲渡に関しても契約書は作成されず移転登記も経由されていない。中村清弌は、後日弁護士を証人として本件土地を原告に相続させるとの公正証書遺言をしている上、「貴言状」(甲五の一、表題は「遺言状」の誤りと認められる)にも本件土地を原告に譲渡する旨を記載しているが、これらの文書から推認される中村清弌の意思は本件土地を相続により原告に承継させることにあったと理解されるのであって、本件土地を生前に原告に譲渡したとの原告主張の事実とは相容れないというべきである。

2  本件土地が仮に中村清弌の生前に原告に譲渡されたとしても、本件土地は右譲渡当時もその後も農地であったから、農地法所定の許可を得ない以上所有権移転の効果は生じない。しかるに、本件土地については昭和三五年以降中村清弌が死亡した平成二年一二月二一日までの間所有権移転のための農地法所定の許可申請手続はされていない。したがって、本件の相続開始当時、本件土地の所有権は中村清弌であり、同人の相続財産に帰属するものであるから、原告の相続税の更正請求について本件土地が中村清弌の相続財産に属することを前提にしてした被告の更正処分は適法である。

3  原告の後記自由の撤回には異議がある。

二  原告の当審主張

1  本件土地が中村清弌の生前に原告に譲渡された経緯については、中村清弌の従兄弟である証人中村弥一郎が具体的に証言しているとおりであり、原告と不仲とされる長兄中村敬一も本件土地は原告が取得したことを裏付ける証言をしているのであって、本件土地は中村清弌の相続財産に属するものでないことは明らかである。

2  本件土地につき農地法所定の許可手続を経由していないことは被告主張のとおりであるが、中村清弌の相続人らは原告に対し農地法所定の手続を完了して完全な所有権を取得させる義務があるのであるから、本件土地が相続財産であるとの主張は許されない。

本件土地は、かつては、現在長兄中村敬一が所有する自宅の土地とともに一体の田であったが、右敬一の土地を宅地化する際、将来同様に宅地として使用することを予定してコンクリート塊や石塊を混在させたもので、大半は荒れ地である。その後、本件土地の一部を畑にしたが、全体を畑地にして肥培管理を施したものではない。原告の本業は印刷業であって約二〇〇坪もの土地を畑として日常的に管理することは不可能である。本件土地は隣接する長兄中村敬一の土地が宅地化された昭和七年の時点で非農地化したものというべきであり、中村清弌の相続開始時も同様に非農地であった。

3  原告は、当審において本件土地の現況は農地であると自白したが、右自白は錯誤によるもので真実に反するから撤回する。

第三当裁判所の判断

当裁判所は、本件土地は被相続人中村清弌(原告の亡父)の本件相続財産に帰属するもので、原告の本件請求は理由がないものと認定判断する。

その理由は次のとおりである。

一  被相続人中村清弌の死亡に伴う相続税の課税の経緯は、原判決別表1記載のとおりであり、原告が右相続税につき更正の請求を行った理由は、本件土地は中村清弌が生前に原告に譲渡したもので本件相続財産には帰属しないというものである(乙一、弁論の全趣旨)。

(なお、原告は、原審では右譲渡の時期を昭和四六年二月以降とのみ主張し、必ずしも明確なものではなかったが、当審において右譲渡の時期を昭和四七年頃と主張している。)。

二  本件土地のうち三二〇番一の土地は、元三二〇番の土地の一部が昭和四七年一月一二日に分筆されたものであり(甲一、乙二の一)、本件土地のうち三二二番一の土地は、元三二二番の土地の一部が昭和四七年一二月一八日に分筆されたものである(甲二、乙二の二)。

右各分筆当時、元三二〇番の土地・元三二二番の土地はともに田であり、中村清弌が従前より耕作していた土地であった(甲一・二・一〇、原審における原告本人尋問の結果)。

三  原告は、原審において、譲渡を受けた時期はともかくとして、本件土地の譲渡を受けた後自らのその耕作を行っていたと主張し、原告本人作成の陳述書(甲一〇)でも、本件土地は「引き渡しを受けた後、私自身が耕作を行ってきました。私が、当初からこの土地を耕していたということについては、農業委員をしておられた内山平さんという方がよく承知しておられます。」と述べている。

また、原告は、原審における本人尋問(平成八年二月二〇日)においても、「中村清弌は本件土地を含む約五〇〇坪の一体の田を耕作していたが、付近に大阪市水道局の取水場に関連する道路が建設されたのに伴い、右土地のうち約三〇〇坪を宅地化して自宅を建設し、残る約二〇〇坪(本件土地)を原告に譲渡したので、原告は本件土地を畑として耕作していた。以前の水田を畑にしたので転作ということになり、その後農業委員が毎年転作の確認にきていた。」旨を供述し、その後作成した陳述書(甲二三)でも、「(本件土地は)代替地として取得した時から、盛土されており、畑として私が管理していました。」と述べている。

甲一四、原審証人中村敬一の証言によれば、中村清弌は、右約五〇〇坪の一体の田の一部を宅地化するのに伴い、昭和四七年二月、当時加入していた土地改良区から脱退の手続をとったが、同時に本件土地の部分は畑に転作したとしてその旨の届出をしていることが認められる。

そして、中村清弌作成の「昭和六二年度資産税」と題するメモ(甲二二)には、中村清弌所有名義の土地のうち同人が原告の資産と考えていた土地として本件土地を挙げているが、その税額欄には本件土地が「農地猶予」として税額上の優遇措置を受けている旨が記載されている。

四  右のように、本件土地は、原告に譲渡されたという時期以前は田として中村清弌が耕作していたものであるが、昭和四二年二月頃畑に転作する手続がされ、以後は原告が現況畑として利用してきたことが明らかである。

農地についてその所有権を移転するには農地法所定の許可を要することはいうまでもないところ、本件土地について右許可を得ていないことは当事者間に争いがない。したがって、右許可のない以上、原告の主張する本件土地の譲渡によってはその所有権が原告に移転する効果は生じないといわざるを得ない。

五  農地について農地法所定の許可なしに権利移転の合意がされた場合であっても、その後当該農地の現状が非農地化したときは、非農地化の時点において権利移転の効力が生じるものと解されるところ、原告は、当審において、本件土地は従前は田であったが、隣接する原告の兄中村敬一の土地が宅地化されたのに伴い一旦宅地化され、その後原告がその一部を肥培管理して畑として耕作するようになったにすぎないので、右宅地化の時点で農地性を喪失したと主張する。

しかし、右三の原告本人の供述内容に照らしても、本件土地が宅地化されたとの事実は認めがたいという他なく、また、乙一一(平成元年一二月二八日撮影の航空写真)・一二(平成三年一月四日撮影の航空写真)によれば、右撮影のいずれの時点においても、本件土地の現状は全体として畑であると認められるのであって、右事実からすれば、中村清弌が死亡した平成二年一二月二一日当時においても、本件土地は現況農地であったと認めるのが相当であり、本件土地が非農地化したとの事実を認めるだけの証拠はないといわざるを得ない。

なお、原告は、当審において、本件土地の現況が畑であることを自白したが、右自白は錯誤に基づくもので真実に反するので撤回すると主張し、被告は右撤回に異議を述べている。

しかし、甲三一の四ないし一九・三二ないし三四、乙一一・一二・一五、調査嘱託の回答結果によれば、本件土地は現在も全体として農地と認めるべきであるから、右自白は真実に合致するもので錯誤によるものとは認められず、右撤回は許されない。

六  以上検討したとおり、本件土地は中村清弌の生前に原告に譲渡されたものであっても、右当時から本件相続の開始時まで現況農地であったから、農地法所定の許可を得ない以上原告への所有権移転の効果は発生せず、したがって、本件相続財産に帰属するものであったといわなければならない。そうすれば、本件相続税につき本件土地が右相続財産に帰属するものとして本件更正をした被告の処分に違法はなく、本件土地が原告の所有であるとして本件更正の違法をいう原告の主張は理由がない。

七  そして、原告は、本件更正のうちその余の部分については明らかに争わず、原判決別表2ないし7の被告主張額欄及び同8記載の事実によれば、本件相続税の原告に係る課税価額は二億六四八九万五〇〇〇円、納付すべき税額は六九〇〇万七三〇〇円となるから、右範囲でなされた本件の更正処分は適法である。

なお、原告は、主位的請求として、本件更正のうち課税価格一億七〇七四万九〇〇〇円、納付すべき税額三八二〇万七七〇〇円を超える部分を取消す旨の申立てをしているが、原告は、更正後の課税価格一億七六三〇万四〇〇〇円、納付すべき税額三九九七万六九〇〇円として更正の請求を申立てているのであって、更正の請求が、納税者の側から自己の利益に申告を是正する唯一の方法として法定されている以上、本件相続税のうち更正の請求額を超えない部分については、納税者の側からはもはやこれを是正する途はなく、納税額は申告により確定しているものというべきである。

そうすると、本件訴えのうち、右更正の請求額を超えない部分の取消しを求める部分は訴えの利益を欠き、不適法として却下を免れず、その余の請求はいずれも理由がなく棄却すべきものである。

第四  以上の次第で、原判決中これと異なる部分は失当であるから同部分を取り消すこととして、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一〇年一二月九日)

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 山田陽三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例