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大阪高等裁判所 平成11年(く)238号 決定 1999年10月08日

少年 G・Z(昭和57.11.25生)

主文

原決定を取り消す。

本件を大阪家庭裁判所堺支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年の附添人弁護士○○作成の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

一  決定に影響を及ぼす法令違反の抗告趣意について

論旨は、要するに、本件非行は、さきに中等少年院送致(特修短期処遇勧告付き)決定がなされた事件の余罪に当たるところ、少年は少年院における矯正教育を経て仮退院中であって、その成果により要保護性は格段に減じているにもかかわらず、原決定には、本件事件の重大性や事件における少年の役割にしたがって、画一的、形式的に要保護性の判断を行った点において、少年の健全育成を目的とする少年法の理念に反する違法があるから取り消されるべきである、というのであるが、原決定が、非行事実に顕在化した要保護性のみならず、少年院における矯正教育の成果を含めた審判時における少年の要保護性全般を検討した結果に基づき、審判したことは明らかであるから、原決定に所論の違法は認められず、論旨は理由がない。

二  処分の著しい不当の抗告趣意について

論旨は、要するに、少年を中等少年院送致の処分に付した原決定は著しく不当であるから取り消されるべきである、というのである。

本件は、暴走族「○○」の構成員である少年が、同総長ら同構成員多数と共謀の上、「○○」を中傷したとして、被害者に対し、多数の共犯少年らとともに、長時間にわたり、一方的に手挙や金属バットで殴る、蹴る、原動機付自転車の前輪をその腹部等に数回突き当てるなどの暴行を加え、入院加療24日間を要する外傷性クモ膜下血腫等の傷害を負わせ、被害者において一時は生命の危険すらあった傷害の事案であるところ、少年において、被害者に対し、殴る、蹴るの暴行を加えるなど、その非行の態様が悪質であることに加え、記録にあらわれた少年の資質、性格、生活環境上の問題点等、殊に、少年は、高校入学後、暴走族に加入し暴走行為等に参加するうちに、非行集団になじんで規範意識の乏しさが目立つ状態にあったことなどをも併せ考慮すると、本件非行当時、少年の要保護性は高かったといわなければならない。

しかしながら、記録によれば、少年は、本件非行後に犯した強盗致傷の非行(共犯少年と共謀の上、共犯少年において鉄パイプで被害者を殴るなどの暴行脅迫を加えて金品を強取し傷害を与えた事案で、少年自身は暴行脅迫は加えていないもの)により、大阪家庭裁判所堺支部の審判に付され(その際、少年は、本件非行や暴走族「○○」の構成員であることは秘していたものの、「○○」の暴行行為に参加していたことは認めていた。)、平成11年1月14日、少年は中等少年院送致処分(特修短期)に付され、和泉学園で矯正教育を受けて同年4月27日仮退院し、高校復学を果たして休むことなく登校を続け、2号保護観察は良好に推移していたこと、少年院での教育等により、少年の易刺激性、慎重さや責任感の欠如など資質面の問題性は、いまだに十分ではないとはいうものの、かなり改善されつつあり、内省的に物事を考えられるようになるとともに、前向きな更生意欲を持続するなど、少年は、順調に社会適応が進みつつある状態にあったことが認められる。以上の事実のほか、殊に、少年院・2号保護観察を通して、従前の少年の個別処遇計画は、少年が高校生活を全うすることを目標に計画立案されていたものであり、これが順調に推移していたこと、高校側も少年を受け入れる意向であること、両親が指導監督を誓約していること、また、平成11年8月13日、被害者に対し、共犯少年らと共同して総額1400万円を支払って示談が成立したことを併せ考慮すると、現在2号保護観察中の少年を、本件につき、直ちに、少年院送致の処分に付することは相当でなく、更に時間をかけて、本件非行を秘していたことを含め、少年の本件非行についての内省の深まりを経過観察し、少年の要保護性を慎重に見極めた上、審判する必要があるものと認められる。したがって、少年を現時点で直ちに中等少年院に送致した原決定の処分は重すぎて著しく不当である。論旨は理由がある。

よって、本件抗告は理由があるから、少年法33条2項、少年審判規則50条により原決定を取り消して、本件を原裁判所である大阪家庭裁判所堺支部に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西田元彦 裁判官 杉森研二 岡田信)

〔参考1〕原審(大阪家堺支 平11(少)1221号 平11.9.16決定)<省略>

〔参考2〕平成11年8月27日付け送致書(甲)記載の犯罪事実

犯罪事実

被疑者は、暴走族「○○」の構成員であるが、A(当18歳)が右「○○」を中傷したとして、同人に制裁を加えようと企て、同総長B及び同構成員Cほか約20名と共謀の上、平成10年9月28日午後10時ころから翌29日午前4時ころまでの間、大阪府松原市○○×丁目所在の○○公園において、右Aに対し、手挙や金属バットで多数回その顔面、身体等を殴打し、その頭部、顔面、身体等を多数回足蹴にし、右Cにおいて、原動機付自転車の前輪を右Aの腹部等に数回突き当てるなどしてその後頭部を付近のコンクリートの縁石に打ち付けるなどの暴行を加え、よって、同人に対し、入院加療24日間を要する外傷性クモ膜下血腫、後頭蓋窩急性硬膜下血腫、硬膜下水腫等の傷害を負わせたものである。

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