大阪高等裁判所 平成11年(ネ)1983号 判決 2001年2月02日
控訴人
福西幸夫
外三二名
右控訴人ら三三名訴訟代理人弁護士
山下潔
同
関戸一考
同
伊賀興一
同
石川元也
同
宇賀神直
同
笠松健一
同
金子武嗣
同
鎌田幸夫
同
木下和茂
同
國府泰道
同
白倉典武
同
谷田豊一
同
豊川義明
同
豊島達哉
同
乕田喜代隆
同
永岡昇司
同
畑中和夫
同
藤木邦顕
同
細川喜子雄
同
森信雄
同
森下弘
同
山田二郎
同
吉岡良治
被控訴人
国
右代表者法務大臣
高村正彦
右指定代理人
吉田悦教
外三名
被控訴人
大阪市
右代表者市長
磯村隆文
右指定代理人
江野一
被控訴人
高概市
右代表者市長
奥本務
右指定代理人
東勉
被控訴人
茨木市
右代表者市長
山本末男
右指定代理人
深谷隆昭
被控訴人
吹田市
右代表者市長
阪口善雄
右指定代理人
後藤一郎
被控訴人
門真市
右代表者市長
東潤
右指定代理人
渡辺義行
被控訴人
八尾市
右代表者市長
仲村晃義
右指定代理人
西川琢也
被控訴人
河内長野市
右代表者市長
橋上義孝
右指定代理人
溝端秀幸
被控訴人
岸和田市
右代表者市長
原曻
右指定代理人
山本憲明
被控訴人
泉南市
右代表者市長
向井通彦
右指定代理人
池上安夫
被控訴人
泉佐野市
右代表者市長
新田谷修司
右指定代理人
昼馬剛
被控訴人
西脇市
右代表者市長
内橋直昭
右指定代理人
内橋敏彦
被控訴人
加古川市
右代表者市長
木下正一
右指定代理人
片山茂
被控訴人
姫路市
右代表者市長
堀川和洋
右指定代理人
原達広
被控訴人
大内町
右代表者町長
中條弘矩
右指定代理人
大森忠明
被控訴人
奈良市
右代表者市長
大川靖則
右指定代理人
野田昌弘
右被控訴人ら一六名指定代理人
比嘉一美
外五名
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 別紙請求目録に記載のとおり
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 被控訴人ら
主文同旨
第二 事案の概要
本件事案の概要、争点及び争点に関する当事者の主張は、以下のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」、「第三 争点」及び「第四 争点に関する当事者の主張」(原判決二頁一行目から七二頁四行目まで)中、控訴人ら・被控訴人ら関係部分のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二〇頁一行目の「本件評価替え」の次に「及び控訴人安田鎭男(以下「控訴人安田」という。)が所有する本件土地16に関する本件評価替え(当審における追加主張)」を加える。
2 原判決三五頁末行、三六頁一行目、八行目及び一二行目の各「原告ら五名」をいずれも「控訴人ら五名及び同安田」と改める。
3 原判決五一頁一行目の「損害額欄」の次に「及び別表4の損害額の計算欄〔ただし、河邉昭彦については一四〇〇円〕に」を加える。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も控訴人らの本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」の「第五 当裁判所の判断」の「一 争点1について」ないし「三 争点3について」(原判決七二頁六行目から一〇二頁四行目まで)中、控訴人ら・被控訴人ら関係部分を引用するほか、後記二以下のとおりである。
二 争点4について
1(一) 適正な時価の意義
地方税法にいう適正な時価(三四一条五号)とは、前記説示のとおり、社会通念上正常な取引において成立する当該土地の取引価格をいうものと解すべきである。固定資産評価基準は、公示価格の算定と同様の方法で評価した標準宅地の価格のおよそ七割をもって適正な時価として扱うこととしているが、そのことから逆に、地方税法にいう適正な時価が、地価公示価格そのものであるとか地価公示価格の七割であるとかいうことはできない。適正な時価であるかどうかは、固定資産評価基準や通達等による評価方法とは別途、鑑定その他のより適切かつ合理的な評価方法によりこれを算定することを妨げないものというべきである。
(二) 適正な時価の算定基準日
地方税法は、固定資産税の賦課期日を当該年度の初日の属する年の一月一日としている(地方税法三五九条)。しかし、土地に関する固定資産税の算定は、全国の土地を同一の基準で評価し、さらに、市町村が土地の評価をした後、都道府県間及び各都道府県内の市町村間の評価の均衡を図るためにそれぞれ所要の調整を行うことが必要であるなど(固定資産評価基準第1章第3節参照)一連の評価事務に相当の期間を要する。したがって、地方税法が固定資産の評価に基づいて固定資産税を賦課する制度を採用している以上、賦課期日から遡る一定時点を価格調査時点としたとしても、そのこと自体が地方税法に反するものではない。
しかし、地方税法は、土地に対する固定資産税の課税標準を基準年度にかかる賦課期日における時価で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたものをいうとしている。そうすると、適正な時価の算定基準日は賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日であり、平成六年度の評価替えについて見れば、適正な時価の算定基準日は、賦課期日である平成六年一月一日であると認めるのが相当である。
証人堤は、膨大な事務作業が必要であることを理由に、地方税法にいう適正な時価の算定基準日は、賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日ではなく、本件評価替えについて見れば、価格調査基準日である平成五年一月一日である旨証言する。しかし、価格調査基準日を可能な限り賦課期日に近接させることにより、価格の変動を一定の範囲内において予想することは可能であって、その場合、課税処分の謙抑性の見地から、適正な時価を一定の範囲で下回った評価をしたとしても地方税法の趣旨に反するものではない。このように、控えめな評価によって、価格調査基準日において、賦課期日における適正な時価を上回らない評価を行うことは十分可能であること、さらに、適正な時価とは賦課期日におけるそれを指すことは条文上明白であることからすれば、適正な時価の算定基準日は賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日であると認めるのが相当である。証人堤の証言中前記部分は採用できない。
2 控訴人ら五名及び同安田にかかる本件評価替えの違法性
(一) 本件評価替えは、標準宅地の適正な時価の評価に当たり、平成四年七月一日時点における地価公示価格等を求めた上で、これに平成五年一月一日までの地価下落の変動率を乗じ、さらに、その七割を目途として実施されている。しかし、1の(一)、(二)で検討したとおり、地方税法にいう適正な時価とは、一概に、地価公示価格そのものであるとか地価公示価格の七割であるとかいうことはできないし、その算定基準日は、本件評価替えについていえば、賦課期日である平成六年一月一日である。
そうすると、本件評価替えにおいては、① 平成四年七月一日(価格調査基準日)から平成五年一月一日までの時点修正しか施されていないが、その後も地価の下落傾向は顕著なのであるから、平成六年一月一日(賦課期日)までの時点修正を施さなくてもよいのか、② 平成六年一月一日までの時点修正を施さなくとも、平成五年一月一日における評価額の三割を減じておれば、適正な時価の評価方法として合理性が担保されているといえるか、③ 平成五年一月一日における評価額の三割を減ずる方法に合理性があるとしても、このように算定された固定資産税評価額が、個別的に平成六年一月一日(賦課期日)時点における客観的な評価額を上回るならば(いわゆる逆転現象)、当該固定資産の評価は、地方税法三四一条五号に違反する違法な評価となるのではないかということが問題となる。
(二) ①については、平成四年七月一日から平成五年一月一日までの間に地価が下落傾向にあるときは、平成六年度の固定資産税評価額の評価に当たり、平成五年一月一日までの時点修正を行うことでは足りず、その後、地価が下げ止まり、上昇に転ずることが明らかとなるなどの特段の事情のない限り、さらに平成六年一月一日(賦課期日)までの時点修正を評価に反映すべきものと認めるのが相当である。
しかし、そのような時点修正が施されていないとしても、②のように平成五年一月一日において時点修正された評価額から三割を減ずることにより、固定資産税評価額が平成六年一月一日時点における適正な時価を上回るという事態を回避できるのであれば、三割の開差が価格調査基準日と賦課期日とのタイムラグによる地価の下落を調整する機能を果たしているものとして、それなりの合理性を認めることができる。これを本件評価替えについてみると、甲第三二号証(平成六年一月一日における大阪府下公示価格一覧表の抜粋)には、平成五年一月一日から平成六年一月一日にかけて地価公示価格が三割以上下落した地価公示の標準地は大阪市西区に所在する九か所である旨の記載がある。また、控訴人福西は、税金オンブズマンの代表委員を務める税理士であるが、平成六年度の評価替えに際し、大阪市内において固定資産税評価額が地価公示価格を上回るいわゆる逆転現象が生じたのは九か所であったと聞いている旨供述する。このように、甲第三二号証及び控訴人福西の供述によれば、大阪市内の地価公示の標準地において逆転現象が生じていたのは西区の九か所のみであることがうかがわれ、実際、原判決添付別紙下落率一覧表記載のとおり、同一覧表に掲記の控訴人ら五名が所有する土地の近隣に位置する地価公示の標準地の平成五年一月一日から平成六年一月一日にかけての地価公示価格(ただし、控訴人河邉については大阪府基準地価格)の下落率は、いずれも三割を下回っている。そうすると、本件評価替えにおいて、平成六年一月一日までの時点修正を施すことなく、平成五年一月一日における評価額の七割とする(三割を減ずる)評価方法によったとしても、それなりの合理性が担保されているものと認めるのが相当である。
もっとも、このように算定された固定資産税評価額であっても、それが③のように、個別的に平成六年一月一日(賦課期日)時点における客観的な評価額(時価)を結果的に上回るような場合(いわゆる逆転現象)には、当該固定資産評価は、地方税法三四一条五号に違反する違法性を帯びることになる。
(三) そこで、以下、控訴人らが指摘するように個別的に逆転現象が発生しているかどうかについて検討する。
(1) 控訴人小森関係
控訴人小森にかかる平成六年度固定資産税評価額は二億七四五一万一〇〇〇円であるのに対し、甲第七五号証(以下「高島鑑定1」という。)によれば、本件土地の客観的交換価値は二億二九五二万五〇〇〇円となる。
そこで、高島鑑定1の手法をみると、まず、標準画地の価格を算定するのに、収益還元法は単一事例の試算であることや長期的な還元利回りの査定の困難性などから規範性が相対的に低いとしてこれを除き、取引事例比較法による比準価格(二四九万円)と公的な評価である近隣の地価公示規準価格(三〇〇万円)とを一対一の割合で配分調整して、標準画地として一平方メートル当たり二七五万円の評価額を引き出している。次いで、本件土地の個別要因として、画地条件(形状)が鋭角的な一角を有する三角地であることによる減価比率を九パーセントとみて一平方メートル当たり二五〇万円と算出した上、これに面積を乗じて二億二九五二万五〇〇〇円と評価したものである。
被控訴人らは、① 標準画地の基礎資料について、取引事例四例の選択が不動産鑑定士の判断に委ねられていること、地価公示価格に加えられた事情補正、時点修正、標準化補正、地域格差補正等の鑑定評価上の補正も専ら鑑定士の技術的判断に基づくものであること、取引事例比較法による比準価格と地価公示規準価格との比重が一対一とされている根拠が明確でないこと、② 個別的要因による減価率が固定資産評価基準所定の八パーセントと異なり九パーセントとして評価されていることなどを問題点として指摘する。
しかし、標準画地についていえば、取引事例の選択が不動産鑑定士の判断に委ねられているとしてもそれが恣意的に選択されたというような事情は見い出し難いし、鑑定評価上の補正・修正についても、比準価格と地価公示規準価格との比重の割合も含め(これを一対一とすることに格別の不合理はない。)、不動産鑑定士の合理的な技術的判断の範囲内のものというべきである。また、個別的要因については、減価率を八パーセントとするのか九パーセントとするのかという程度の開差は、不動産鑑定士の合理的な裁量の範囲内のものである。高島鑑定1にはこれを採用できないような格別の不合理はない。
(2) 控訴人河邉関係
控訴人河邉にかかる平成六年度固定資産税評価額は二億三二〇四万五〇〇〇円である(同控訴人の持分は三分の一であるが便宜上全体について考える。)のに対し、甲第七六号証(以下「高島鑑定2」という。)によれば、本件土地の客観的交換価値は二億一三五四万一〇〇〇円となる。
そこで、高島鑑定2の手法をみると、まず、標準画地の価格を算定するのに、収益還元法は、単一事例の試算であることや長期的な還元利回りの査定の困難性などから規範性が相対的に低いとしてこれを除き、取引事例比較法(一八二万円)と近隣に地価公示価格地がなかったため、別の公的評価である地価調査規準価格(二二六万六〇〇〇円)とを三対二の割合で配分調整して、標準画地として一平方メートル当たり二〇〇万円の評価額を引き出している。次いで、本件土地の個別要因として画地条件のうち主として形状(間口対奥行の比)を考慮して五パーセントの減価を施し、一平方メートル当たり一九〇万円と算出した上、これに面積を乗じて二億一三五四万一〇〇〇円と評価したものである。
被控訴人らは、① 標準画地の基礎資料について、取引事例四例の選択が不動産鑑定士の判断に委ねられていること、地価公示価格に加えられた事情補正、時点修正、標準化補正、地域格差補正等の鑑定評価上の補正も専ら鑑定士の技術的判断に基づくものであること、取引事例比較法による比準価格と地価調査規準価格との比重が三対二とされている根拠が明確でないこと、② 個別要因による減価率が固定資産評価基準所定の3.97パーセントと異なり五パーセントとして評価されていることなどを問題点として指摘する。
しかし、標準画地についてみると、取引事例の選択が不動産鑑定士の判断に委ねられているとしてもそれが恣意的に選択されたというような事情は見い出し難いし、鑑定評価上の補正・修正についても、比準価格と地価調査規準価格との比重の割合も含め(高島鑑定1とは異なり両者の比重が三対二とされたのは、本鑑定では近隣に地価公示価格地がなかったため、別の公的評価である地価調査規準価格が採用された点が考慮されたものと推測される。)、不動産鑑定士の合理的な技術的判断の範囲内のものというべきである。また、個別的要因についても、減価率を3.97パーセントとするのか五パーセントとするのかという程度の開差は、不動産鑑定士の合理的な裁量の範囲内のものである。高島鑑定2にはこれを採用できないような格別の不合理はない。
(3) 控訴人安田関係
控訴人安田にかかる平成六年度固定資産税評価額は一〇〇七万円であるのに対し、甲第七四号証(以下「森田鑑定」という。)によれば、本件土地の客観的交換価値は四〇〇万円となる。
そこで、森田鑑定の手法をみると、まず、標準画地の価格を算定するのに、被控訴人大阪市が平成六年度固定資産評価を行うに当たり評価した対象地の前面道路に付した路線価一平方メートル当たり二六万五〇〇〇円を地価公示価格水準とすべく七割で割り戻した一平方メートル当たり三七万八五七一円が平成五年一月一日現在の標準画地の時価であることを前提として、これに平成六年一月一日現在の時点修正を加えて、標準画地として一平方メートル当たり二八万八〇〇〇円を引き出している。次いで、本件土地の個別要因として、本件土地の形状が間口1.9メートル、奥行18.3メートルという極端に細長い不整地形を呈し、建築基準法上も建物を建てることができないところから、標準宅地と比較して路地状敷地(0.75)、幅狭少(0.7)及び建築不能地(0.5)としての各減価を重畳的に施して(減価率73.75パーセント)、一平方メートル当たり七万五六〇〇円と算出した上、これに面積を乗じて四〇〇万円と評価したものである。
しかし、被控訴人らが指摘するように、森田鑑定は、個別的減価要因を、形状不整形と建築不能とに分け、さらに前者を路地状敷地としての減価と有効宅地部分の減価とに分けた上、これらすべてを乗じて減価率73.75パーセントを導いているが、このような見方は、各減価要因を重畳的に算定している点で相当でない。また、建築不能地による減価率を特別高圧送電線直下に位置する場合に準じて五〇パーセントとしているのも高きに失するというべきである。本件では、路地部分(約一五平方メートル)の価値率(0.75)と有効宅地部分(約三八平方メートル)の価値率(0.7)にそれぞれの面積を乗じた合計価値(37.85)を総面積(約五三平方メートル)で割った28.5パーセントをもって形状不整形による減価率とし、建築基準法上の建築不能による減価率については三五パーセントとみて、両者を総合して減価率五〇パーセントと査定するのが相当である(乙共通第二五号証の一)。これによれば、安田所有地の客観的な交換価値は七六〇万円(一平方メートル当たり一四万四〇〇〇円)となる。
(四) 以上検討したところによれば、控訴人小森、同河邉及び同安田に対する平成六年度固定資産税評価額は、いずれも平成六年一月一日における本件各土地の客観的な交換価値、すなわち地方税法所定の適正な時価を上回っていることになる。
これに対し、被控訴人らは、控訴人小森、同河邉及び同安田の各所有地の近隣に位置する地価公示地点(大阪府地価調査地点)においては、平成五年一月一日から平成六年一月一日までの間に公示価格(地価調査価格)が三割を超えて下落した事実は認められないのであるから、高島鑑定1、2及び森田鑑定による評価額と平成六年度固定資産税評価額との開差は、控訴人ら主張のように地価下落のみに起因するものではなく、固定資産評価と不動産鑑定評価における技術的手法の相違や、不動産鑑定評価人の主観的判断に基づく個人差に起因するものと推認され、地価下落に伴う逆転現象の立証としては不十分なものであると主張する。
しかし、前記説示のとおり、地方税法所定の適正な時価であるかどうかは、固定資産評価基準や本件通達等による評価方法とは別途、個別具体的に鑑定その他のより適切かつ合理的な評価方法によりこれを算定することを妨げない。したがって、平成五年一月一日現在の評価額を所与のものとして、右時点から平成六年一月一日までの間の対象土地の地価の下落率が三割を超えることを立証しなければ逆転現象の立証として不十分であるということはできないというべきである。被控訴人らの主張は採用できない。
そうすると、控訴人小森、同河邉及び同安田の平成六年度固定資産税評価額は、前記認定のとおり客観的な交換価値を上回る限度で合理性を失ったものというべきであり、地方税法三四一条五号に違反する違法な評価であるというほかない。
3 据置制度について
(一) 据置制度を採用している土地の評価に関しては、基準年度である平成六年度のみならず、平成七年度及び平成八年度における地価の動向をも勘案して評価することが求められるのか否かについて検討する。
(二) 控訴人らは、地方税法にいう適正な時価とは、当該賦課年度における適正な時価をいう以上、基準年度のみならず、第二年度である平成七年度及び第三年度である平成八年度における地価の動向をも勘案して本件評価替えを行うべきであり、地価の下落により、平成七年度及び平成八年度との関係においてもその適正な時価を上回る評価となっている控訴人ら五名の所有土地に関する本件評価替えは違法である旨主張する。
しかし、地方税法の法文上は、第二年度及び第三年度においても、固定資産税の課税標準は原則として基準年度に係る賦課期日における適正な時価とされているから、固定資産税評価額は、第二年度及び第三年度においても基準年度における適正な時価(本件でいえば平成六年一月一日における適正な時価)であると解することが地方税法の文理解釈としては最も正当である。また、地価は、国の土地政策の内容のみならず、景気の動向及び土地需要の程度等種々の事情により変わり得るものであり、価格調査基準日において賦課期日における時価を予想するだけでなく(価格調査基準日を設けるとしても、可能な限り賦課期日に近接させるべきことは前記説示のとおりである。)、第二年度及び第三年度の賦課期日における地価の動向まで基準年度の評価替えにおいて予測することは事実上困難なところである。むしろ、地方税法が据置制度を採用している以上、その後の急激な地価の変動等予定外の事態が生じた場合には、固定資産の評価方法に関する地方税法の改正や課税標準の特例措置、さらには税率の調整等によって対処することが予定されていると考えられる。現に、平成七年度及び平成八年度には、地価の下落傾向に対応するため、二年間の時限措置として、平成六年度評価替え時点の評価額の上昇割合に応じて課税標準額をさらに四分の三、五分の三又は二分の一とする臨時的な課税標準の特例措置が導入されているし(平成七年改正法附則一七条の二第三項)、平成八年度においては地価の動向や経済情勢を背景とした負担感の増大に配慮し、税負担を緩和するために負担調整率の変更措置も講じられている(平成八年改正法附則一八条四項)。このように、据置年度における地価下落傾向は、負担調整の仕組みの中に反映されており、据置年度内における税負担の増加は緩和されてきている(証人堤の証言〔原審〕)。
これらの事情に照らすならば、基準年度における固定資産税評価に当たっては、基準年度に係る賦課期日における適正な時価をもって評価すれば足りるというべきである。
(三) これに対し、控訴人らは、そもそも地方税法は地価の下落をまったく予想していないのであって、据置制度は次の基準年度までの間に地価が上昇していくことを前提に、納税者の負担が第二年度、第三年度の予定している負担よりも軽くなること、それゆえ、評価事務の負担軽減と課税の謙抑性を兼ね備えた制度として正当化されてきたものであるから、基準年度で逆転が発生していなければ法文上許されるということを地方税法は許容するものではないと主張し、甲第七三号証中にはこれに沿う部分がある。
しかし、基準年度価格据置制度導入時の担当者の考え方としては、据置期間中に全体的に物価の著しい変動があり、土地・家屋の価格に激変が生じた場合には、特別の立法措置を講じ、評価の改訂を行うか又は税率の調整を行う等によって負担の均衡を図ることとなるであろうとする見解もあるから(乙共通第二二号証)、据置制度が次の基準年度までの間に地価が上昇していくことを前提に納税者の負担が第二年度、第三年度の予定している負担よりも軽くなることを想定した制度であるということはできない。前記の主張は、地価が下落傾向にある場合には、結果的に、据置制度が評価事務の負担軽減と課税の謙抑性を兼ね備えることになることをいうにすぎないというべきである。甲第七三号証中前記部分は採用できない。
(四) 以上によれば、本件評価替えに当たり、平成七年度及び平成八年度における地価の下落をも勘案すべきであったとまではいうことはできないというべきである。控訴人らの主張は採用できない。
三 争点5について
1 自治大臣の義務違反
(一) 控訴人らは、自治大臣は、告示により適正かつ精度の高い固定資産評価基準による評価を実施させ、固定資産税評価額が賦課期日における適正な時価を超えるような事態(いわゆる逆転現象)を発生させないようにすべき職務上の法的義務があるのにこれを怠り、明らかに不合理な固定資産評価基準の改訂もせずに、本件通達を自治事務次官に発遣させて、いわゆる逆転現象を発生させたものであるから、右行為は国家賠償法上の違法行為に該当すると主張する。
しかし、本件通達の内容に不合理とすべき点は認められないことは前記説示のとおりであって、自治大臣が自治事務次官に本件通達を発遣させた行為にはなんらの違法はないし、その他職務上の法的義務違反に該当するような行為もないというべきである。
(二) 控訴人らは、平成四年七月一日(価格調査基準日)から平成五年一月一日のみならず、平成五年七月一日ないし平成六年一月一日(賦課期日)までにおける時点修正を行わなかった自治大臣の不作為は違法である旨の主張をする。
しかし、控訴人小森、同河邉及び同安田を除くその余の控訴人らについては、平成六年度固定資産税評価額が賦課期日における適正な時価を上回っていると認めるに足りる証拠はないから、本件において、価格調査基準日後の地価の下落を考慮して時点修正を行うべき義務が自治大臣にあったということはできない。右控訴人ら三名については、平成六年度固定資産税評価額が賦課期日における適正な時価を上回るものの、前記説示のとおり、右控訴人ら三名の近隣に位置する地価公示地点(大阪府地価調査地点)においては、平成五年一月一日から平成六年一月一日までの間に公示価格(地価調査価格)が三割を超えて下落しているわけではない。したがって、右控訴人ら三名が準拠する高島鑑定1、2及び森田鑑定による評価額と平成六年度固定資産評価額との開差は、地価の下落に起因するというよりはむしろ課税ベースの決定を目的とし一度に大量の土地を一括して評価する固定資産評価と、鑑定目的に応じて個別的になされる不動産鑑定評価における技術的手法の相違や、不動産鑑定評価人の主観的判断に基づく個人差に起因するものと推認される。そうすると、本件においては、自治大臣において、価格調査基準日から賦課期日までの地価の下落を考慮して時点修正を行ったとしても、それだけでは前記の逆転現象を防止できたとはいえない側面があるから、逆転現象の発生と自治大臣の不作為との間には因果関係も認め難いというべきである。
(三) 控訴人らの主張はいずれも採用できない。
2 被控訴人大阪市の長の義務違反
(一) 控訴人らは、被控訴人大阪市の長は、本件通達に従い平成五年一月一日における地価公示価格の七割をもって賦課期日である平成六年一月一日における固定資産評価額とした場合には、固定資産評価額が地方税法にいう適正な時価を上回る事態(いわゆる逆転現象)に至ることを認識し又は認識し得たのに、漫然と本体通達に従った固定資産の評価をしたことにより、控訴人小森、同河邉及び同安田の固定資産評価において逆転現象を発生させたものであるから、被控訴人大阪市の長の右行為は、国家賠償法上の違法行為に該当すると主張する。
しかし、本件通達の内容に不合理とすべき点は認められないことは前記説示のとおりであって、被控訴人大阪市の長は、本件通達の内容を合理的なものと判断して、固定資産評価基準をこれに従って解釈した上、同評価基準に従い控訴人小森、同河邉及び同安田に対する本件評価替えを実施したものであって、そこに職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件評価替えを行ったものと認め得るような事情は見い出し難い。また、前記説示のとおり、控訴人小森、同河邉及び同安田において逆転現象が発生したのは、控訴人ら主張のように地価下落のみに起因するものではなく、固定資産評価と不動産鑑定評価における技術的手法の相違や、不動産鑑定評価人の主観的判断に基づく個人差に起因するものと推認されるから、被控訴人大阪市の長において、固定資産評価額が地方税法にいう適正な時価を上回る事態を認識し又は認識し得たというにも無理がある。
(二) 控訴人らは、被控訴人大阪市の長は、控訴人小森、同河邉及び同安田の本件評価替えにおいて所要の補正もせずに本件通達を強行して、逆転現象を発生させたものであり、被控訴人大阪市の長は右控訴人ら三名に逆転現象を発生させないために、独自に大幅な所要の補正を行わなければならなかったと主張する。
しかし、被控訴人大阪市の長は、評価の均衡を図るため、宅地の状況に応じて必要があるときは、固定資産評価基準では「画地計算法」の附表等又は「宅地の比準表」について所要の補正をしてこれを適用することができるところ(乙第二号証)、控訴人小森、同河邉及び同安田の固定資産評価額の算定に当たっても、それぞれ右の補正を用いて固定資産評価額を算出しているから、そこに職務上の法令義務違反を見い出すことはできないものというべきである。
(三) さらに、控訴人らは、地方税法の要求する評価基準に適合する評価とは、逆転現象を防止するために、各種の所要の補正の実施や評価基準を実態に適合するように運用・解釈を行った上での評価でなければならず、補正率を引き上げる等の特別の措置を講ずるか、あるいは、補正率を最大限適用する方針を採用することによって適正な時価を算定すべきであった等と主張し、被控訴人大阪市が、平成一二年度に固定資産評価基準の無道路地補正率等を改正し、平成九年度及び一二年度に無道路地補正率を修正していることを捉えて、従前の固定資産税評価基準の不備を指摘する。
しかし、評価基準の見直し自体は従来から時勢の変化に応じて適宜行われてきたものであるから、各年度の見直しは、従前の評価基準の不備を推認させるものではない。また、そもそも、逆転現象の問題は、地価が下落傾向にあるにもかかわらず、全国の土地評価の均衡化・適正化の観点から、賦課期日における固定資産評価額を算定するのに、これに遡る価格調査基準日の評価額に時点修正を加えた上、三割減価することにより評価することで評価方法としての合理性を担保しうるかという問題であるのに対し、所要の補正の問題は、時間的経過とか地価の下落傾向とかとは異なり、当該土地の個別事情に着目した技術的な問題である。したがって、被控訴人大阪市において、逆転現象の防止のために所要の補正率を引き上げる等の特別の措置を講じたり、補正率を最大限適用する方針を採用しなかったからといって、職務上の法令義務違反があったとまではいえない。
(四) 控訴人らの主張はいずれも採用できない。
四 まとめ
以上要するに、本件評価替えは、控訴人小森、同河邉及び同安田を除くその余の控訴人らとの関係では、地方税法上も国家賠償法上も違法の問題は起こらないが、控訴人小森、同河邉及び同安田らとの関係では、地方税法上は違法性を帯びる(したがって、右控訴人ら三名は、固定資産の評価に不服があるときは固定資産評価審査委員会を相手方として審査決定の取消しを求めたり、固定資産税額に不服があるときは、自治体の長を相手方として課税処分の取消しを求めたりすることができる。)けれども、国家賠償法上は違法とまではいえないということになる。
第四 結論
以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人らの本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきである。よって、原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法六七条一項、六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・根本眞、裁判官・鎌田義勝、裁判官・松田亨)
別紙請求目録<省略>