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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)2387号 判決 1999年11月18日

大阪府和泉市太町四七-一一

控訴人(一審原告)

井上博之

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人(一審被告)

右代表者法務大臣

臼井日出男

右指定代理人

岩松浩之

玉井勝洋

清水直子

鈴木紳

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、三〇万円を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件事案の概要、前提的事実及び当事者の主張は、当審における控訴人の付加的主張を次項に付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載するとおりであるから、これを引用する。

二  当審における控訴人の付加的主張

控訴人のいう著作物とは、封筒等の表面、裏面及び包装関係(帯封等)の三つで構成され、【1】<1>封筒等の表面の差出人の下部の余白にインターネットのホームページ・アドレスが記載され、<2>裏面にはその未使用を利用した広告で資源は有限と意義づけるものが入り、<3>封筒等の包装関係(帯封等)に<1>、<2>に入らなかった図形、言語が入ったもの、又は【2】【1】の<1>及び<3>はあるが、<2>の思想が入っていないものという要件を満たすホームページ・アドレス付き封筒等であり、控訴人論文に示されたこうしたホームページ・アドレス付き封筒等は、封筒等の未使用の利用で、資源を使用せず美観を損わない情報の伝達をし、受取人には、資源は有限を意義づける封筒等であって、著作物であるから、被控訴人封筒等は控訴人の著作権を侵害するものである。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本件請求には理由がなく、その請求は棄却を免れないものと判断する。控訴人の当審における主張・立証(甲一三ないし一六)によっても、右判断は左右されない。

その理由は、以下に付加・訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」に説示するとおりであるから、これを引用する。

二  原判決の補正等

1  原判決九頁一〇行目と末行との間に改行して次の文章を加える。

「著作権は、思想又は感情を創作的に表現したものである著作物の『表現』を保護するものであって、表現された思想や感情そのものを保護するものではなく、著作物の特有の表現を複製・利用することが著作権侵害の問題を生じ得るとしても、翻案の問題を除き、当該著作物の表現を利用しないこと又はその思想内容に従わないことが著作権侵害を構成することはない。また、特許権等と異なり、当該著作物の具体的表現を離れて、著者の思想ないしアイデアを実現する手段として当該著作物中に示された手段、方法等そのものについて何らかの独占権を生ずるものでもない。このことは、当該著作物につき第一公表年月日が文化庁に登録されているか否かによって異なるところはない。

また、ホームページ・アドレスは、インターネットのWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)サーバー上で情報を発信するために開設されたホームページを閲覧用ソフトであるWWWブラウザーを使って閲覧するために必要な識別標識にすぎず、『思想又は感情を創作的に表現したもの』に当たらないことは明らかであるから、著作物には当たらない。したがって、ホームページ・アドレスにつき特定人の著作権が生ずることはなく、一般に、人がホームページ・アドレスの表記上の共通符号等を含む一般的表現形式を用いることや特定のホームページ・アドレスを記載することが、それ自体で特定人の著作権を侵害することはない。」

2  同一一頁二行目冒頭の「は、」の次に「ホームページ・アドレスの表記として」を加え、同頁三行目の「著作物」から同頁五行目の「あるから、」までを削除する。

3  同頁五行目と六行目との間に改行して次の文章を加える。

「また、甲第一、第二号証と甲第六ないし第九号証とを対比すれば、その記載からして、被控訴人封筒等の表記が控訴人論文を複製するものでも、これに改変を加えたり、翻案したりするものでもないことは明らかである。」

4  同頁六行目の「なお、付言すれば、」を「以上によれば、控訴人の前記主張は、結局のところ、自らの著作物の中で推奨している表現形式を用いないことが著作権侵害に当たるというものと解さざるを得ない。しかしながら、」と改め、同頁八行目の「専有するが、」の次に「前示のとおり、著作権を有するからといって、その著作物の利用やその著作物に記載された思想内容に従うことを第三者に求めることができるわけではなく、」を加える。

三  当審における付加的主張に対する判断

1  控訴人は、控訴人論文に示された、【1】<1>封筒等の表面の差出人の下部の余白にインターネットのホームページ・アドレスが記載され、<2>裏面にはその未使用を利用した広告で資源は有限と意義づけるものが入り、<3>封筒等の包装関係(帯封等)に<1>、<2>に入らなかった図形、言語が入ったもの、又は【2】【1】の<1>及び<3>はあるが、<2>の思想が入っていないものという要件から成るホームページ・アドレス付き封筒等は著作物であり、被控訴人封筒等は控訴人の著作権を侵害するものであると主張する。

控訴人の右主張は、控訴人論文の著作権は、控訴人論文に示された要件を満たす封筒等の物件一般に及び、被控訴人封筒等は控訴人論文の著作権を侵害するとの趣旨のものと解される。

しかし、前示のとおり、著作権は、発行・公表された著作物そのものの「表現」を保護するものであって、当該著作物中に示された思想ないしアイデアそのものを保護するものではなく、たとえ当該著作物中に著者の思想ないしアイデアが示され、その思想ないしアイデアを実現するための手段・方法、それを充足すると著者が考える要件等が示されていたとしても、当該著作物に係る著作権が、右手段・方法、構成要件等を満たす物件一般に対してまで及ぶものではない。したがって、控訴人の右主張は、主張自体失当といわざるを得ない。

2  なお、当審における控訴人の主張中には、封筒、折り畳み葉書等にホームページ・アドレスを付したり、三角、矢印といった記号や「めくる」、「剥がす」、「開く」等の言語を記載することをもって、その封筒等が思想を創作的に表現した著作物となる旨主張しているかのような部分もあるが、前示のとおり、自らのホームページ・アドレスを封筒等の未使用部分に通常の方法で表示することは、万人に許されるべき表示方法であって、このような表示方法は著作権の対象となるようなものではなく、こうした通常の表現形態自体に著作権の要件である創作性を認めることはできない。また、前記のようにありふれた図形や前記「めくる」等のありふれた表現を一般的な指示表示として封筒等に記載したからといって、その表現形態に著作物の要件である創作性を認める余地がないことは同様であり、控訴人の右主張も採用の限りではない。

第四  結論

以上によれば、控訴人の本件請求は棄却すべきものであり、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴は棄却を免れない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)

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