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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)257号 判決 1999年10月08日

控訴人(被告) 破産者株式会社a商店破産管財人 Y

被控訴人(原告) 株式会社東京三菱銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 露木脩二

同 鈴木達郎

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  事案の概要(事案の骨子、争いのない事実、争点及び争点に関する当事者双方の主張)は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

二  当審における控訴人の補充主張

1  破産手続において、全部義務者である連帯保証人による債務の一部消滅は、届出債権額に影響はなく、破産法二四条による破産宣告時における債権全額がそのまま行使し得る。

他方、物上保証人は全部義務者でないので、破産法二四条は適用されず、破産宣告後に担保権の実行(競売)による場合はもちろん、任意売却代金によって債権者(被控訴人)が債権の一部の満足を受けたにすぎない場合においても届出債権額は影響を受け、満足を受けた額が減額される。そのため、破産管財人は、被担保債権全額について認めざるを得ない場合であっても、担保権実行による債権額の減少の可能性を考慮し、債権認否において、異議を述べるのが実務上の慣例となっている。

右の点で、連帯保証人と物上保証人の一部弁済は、破産手続において異なる結果を生じる。

2  本件は、被控訴人が、連帯保証人兼物上保証人であるBから、b不動産の任意売却により弁済を受けたのであるが、連帯保証人であるBが被控訴人に負担しているのは連帯保証債務であり、他方、物上保証人Bが担保しているのは主債務者(破産会社)に対する貸金債務である。

そうすると、被控訴人が、b不動産の任意売却により弁済を受けたのが連帯保証債権であるはずはなく、当然、担保不動産の実行によってなされた弁済とみなされるべき貸金債務である。

3  このことは、仮に、連帯保証人兼物上保証人であるB本人が破産した場合を想定すれば明らかである。すなわち、物上保証の被担保債権は、主債務者(本件での破産会社)に対する貸金債権であって、連帯保証債権ではないから、物上担保権者である被控訴人が、別除権者となって競売申立等の担保権の実行ができる別除権付債権は、破産会社に対する貸金債権であって、連帯保証債権でない。そして、連帯保証債権は、B本人の一般財産である破産財団からしか弁済を受けられない。換言すれば、別除権者として受領する弁済は、物上保証人からの弁済である。

右の点は、連帯保証人兼物上保証人であるB本人が破産していない場合においても同様で、連帯保証債務の責任財産は債務者の一般財産であり、他方、物上保証人として担保に供した物件の被担保債務は連帯保証債務ではない。

したがって、担保目的物件からの弁済は、担保権の実行と同じく、連帯保証債務の弁済ではなく(換言すれば、連帯保証人からの弁済ではなく)、物上保証人からの弁済である。

よって、この場合、破産法二四条の適用はなく、この点で原審の判断は誤っており、取り消されるべきである。

三  当審における控訴人の補充主張に対する被控訴人の反論

連帯保証人兼物上保証人が、担保権の実行によるのではなく、任意に弁済した場合において、それが連帯保証人としての弁済であるのか、それとも物上保証人としての弁済であるのか、ということは極めて主観的な問題であり、当該連帯保証人兼物上保証人の社会的、経済的状況、債権者と当該連帯保証人兼物上保証人との関係、当事者の意思、その他諸々の具体的事実によって左右されるものであるし、また、そのいずれであるかが定まらないこともある。破産手続のような当事者の債権債務の関係を画一的に定めることを目的としている制度において、結論がかかる主観的な事情によって左右されるという解釈は到底容認されるべきものではない。

したがって、物上保証人が任意に担保不動産を売却して債権者に支払った場合には、破産法二六条三項によるのではなく、同法二四条の適用によるべきであり、被控訴人がBから弁済を受けたものの、なお債権が残存しているのであるから、破産宣告時における債権全額、すなわち五五〇〇万円が破産債権として認められるべきである。

第三当裁判所の判断

一  引用した原判決の「第二 事案の概要」「一」の当事者間に争いのない事実、及び証拠(<証拠省略>)並びに弁論の全趣旨によれば、Bは、本件貸金の連帯保証人であるとともに、破産会社の被控訴人に対する債務を担保するため、被控訴人に対し、b不動産について根抵当権を設定していたところ、本件破産宣告(平成九年一二月一〇日)の後に、Bは、b不動産を売却し、被控訴人に対し、平成一〇年六月一日、本件弁済がなされたことが認められる。

二  債権額以上の弁済を受け得ることはないので、第三者が債権者に対して連帯保証するとともに、担保権を設定して物上保証人となっている場合に、破産宣告後、担保権実行としての競売手続きによるのではなく、当該担保目的不動産を任意売却したうえで、その代金をもって債権者に弁済した場合に、破産手続において、物上保証人による弁済として、債権者である控訴人の行使しうる債権額が減額されるべきか否かが本訴の唯一の争点である。

この点につき、原審は、一つの責任財産の不足による危険を分散することを承認した実体法上、破産法二四条の趣旨に鑑み、担保提供の有無は、全部義務の存否に影響を来すものではないとして、債権者である控訴人の行使しうる債権額に影響はないとした。

原審の右法律解釈の当否はともかく、当裁判所も、民法四四一条及び破産法二四条が、債権者は債権全額の満足を得るまで、全部義務者の各破産手続に、各宣告時における債権全額をもって参加し続けることができることによって、債権者の債権の回収をできうる限り貫徹させようとしていること及び担保物件の任意売却による原資は、換価された以上は当該担保物件が負担している義務と牽連させねばならない必然性はないことに鑑み、少なくとも、本件のように担保物件の任意売却代金を原資とする連帯保証人兼物上保証人の弁済は全部義務の存否に影響はなく、よって、本件において破産債権の減額の必要はないことにおいて、原審と結論を同じくする。その理由は以下のとおりである。

1  全部義務者兼物上保証人によって一部弁済がなされた場合に、その弁済の原資が、手持ちの流動資産であったのか、担保目的となっていない不動産の処分によって得られたのか、担保目的不動産の処分によって得られたのかは、弁済者のその時の資産内容という偶然の事情によるものである。また、不動産等が任意の方法により換価された場合に、当該不動産が負担していた義務と絶対的に牽連させねばならない理由はない。

そして、破産法二四条は、破産手続上、債権者は、債権全額の満足を得るまで、全部義務者に、その宣告時における債権の全額をもって参加し続けることができることを承認して、債権者の債権の回収をできうる限り貫徹させようとしていることからすると、本件のように、全部義務者兼物上保証人から、担保目的の任意売却により得られた原資による弁済がなされた場合に、物上保証人による一部弁済であるとして、事後求償権についての破産債権の行使を許すべき理由はなく、同様の理由で全部義務者の義務内容にも異動を生じさせるべきではないとの取扱いが法解釈として一貫しており、且つ破産手続を簡明にするものでもある。

2  控訴人は、全部義務者兼物上保証人が破産した場合、あるいは担保目的物件が競売によって換価された場合を想定し、この場合、被担保債権は全部義務者としての連帯保証人の保証債務ではなく、主債務(原債務)である、よって、物上保証の目的物の任意売却によって得られた原資による弁済も、連帯保証人の保証債務の履行であるはずはなく、物上保証人としての弁済だと主張するが、この主張は、担保目的不動産を原資とする弁済であるから物上保証人としての弁済であるとの見解を、別個の観点から主張しているにすぎないものである。

(執行手続によった債権の充当についてはともかく)不動産の任意売却によって得られた原資によって弁済がなされた場合に、これを物上保証人による弁済と認めねばならない理由がないことは前述のとおりである。

三  以上の次第であって、本件弁済によっては被控訴人の破産債権額には影響を及ぼさないと判断されるから、被控訴人は、本件破産事件において、破産会社に対し、本件貸金債権五五六四万六九一九円のうち異議にかかる五五〇〇万円を破産債権として有するものと認められる。

第四結語

よって、原判決は相当であり、控訴人の本訴控訴は理由がないから棄却すべきであり、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡部崇明 裁判官 白井博文 鳥羽耕一)

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