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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)3350号 判決 2001年8月30日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人らの請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人

主文第1項と同旨

第2  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第二事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決書の補正

(1)  原判決書4頁2行目の「という。」の次に「ただし、現在も所有しているかどうかは後記のとおり争いがある。目録三土地についても同様である。」を加える。

(2)  同7頁13行目の「検査済証」を「検査済証(旧住宅地造成事業に関する法律12条に基づくものである。本件造成住宅地の造成工事は同法による住宅地造成事業であった。)が控訴人に」に、同頁6行目の「覚え書き」を「覚書」にそれぞれ改める。

(3)  同9頁12行目の「請負代金等請求事件」を「請負代金残等請求事件」に改める。

(4)  同頁13行目の「一日」を「10日」に、同10頁3行目の各「給排水管」をいずれも「排水管」にそれぞれ改める。

(5)  同12頁2行目の「管理整備費」の次に「、和解金」を、同頁4行目の「(九一・三五坪」の次に「。前記5のランドル社所有名義の2筆の土地である。」をそれぞれ加え、同頁10行目の「水道・排水加入金」を「水道・排水負担金」に改める。

(6)  同13頁2行目の次に改行して次のとおり加える。

「(覚書)

前記約定書と同日の平成2年7月17日付けで、永光商事及び控訴人を当事者とし、やぶの地所の薮野を立会人とする覚書も作成され、同覚書により、「永光商事の売買扱いとなる・・22筆・・31区画についての訴訟に関連する債権債務は存在しないこととする」旨約された。(乙7)」

(7)  同14頁2行目の「本件解決金等の合意」を「本件解決金等の合意中第1回支払分の7区画(すなわち本件各土地)に関する部分」に改め、同頁8行目の「検査済証が」の次に「被控訴人らに」を加える。

(8)  同20頁10行目の「使用の」を「使用に」に改める。

(9)  同27頁4行目の「二区画」を「24区画」に改める。

2  当審における当事者の主張

(1)  控訴人

ア 本件給排水管設備は、控訴人が多額の費用を費やして設置し、維持している控訴人の所有物である。したがって、この施設は、控訴人に一定の金員を対価として支払うことによって初めて使用の認められる施設である。控訴人は、控訴人が定めた給排水加入金等を支払う者には、本件給排水管施設の使用を認めている。現に、被控訴人ら以外の周辺土地所有者は控訴人に給排水加入金等を支払っており、控訴人は、同人らの本件給排水管施設への接続を認めている。したがって、被控訴人らも控訴人に給排水加入金等を支払って本件給排水管施設の使用許諾を求めるべきである。そうでないと、被控訴人らは、対価の支払をしないうちに本来対価の必要な本件給排水管施設を利用することができることになり、使用の対価は被控訴人らの使用開始後に控訴人が裁判上ないしは裁判外で請求して初めて支払われることになる。このような処理によると、使用の対価の額について新たな紛争が生じることは確実であり、訴訟経済の観点からも妥当な解決とはいいがたい。

イ 被控訴人らは、一旦は、控訴人に対し、対価を支払って本件給排水管施設を使用することに同意した。それにもかかわらず、被控訴人らが、その約束を履行しないで、相隣関係に関する規定による解決を求めるのは不当である。

ウ 本件排水管施設は、小野市三井堰土地改良区が水利権を有する水路に接続されていて、同土地改良区は、控訴人に対し、一定の水質基準を遵守することを条件として同施設から同水路への排水を認めている。控訴人は、上記の水質基準遵守のため、本件排水管施設の使用許諾にあたっては、利用者に対し、浄化槽の設置等を義務づけている。しかし、相隣関係の規定に基づいて、控訴人の意思とは無関係に本件排水管施設の使用ができるようになれば、上記の水質基準を確保することが困難となってしまう。

(2)  被控訴人らの主張

ア 本件給排水管施設は、本件造成住宅地内の各宅地のための使用に供する目的で設置されたものであり、将来小野市に寄贈され、同市が管理することになっている。しかるに控訴人はいまだにこれを同市に寄贈しない。これは、控訴人がこの施設を利用する必要のある者から不当な利益を得ようとしているのであり、そのことに合理的な理由はない。本件給排水管施設は本来公共の利益に供するものである。これを一私人である控訴人がその私利私欲のために所有し続け、不当な利益を得ることは容認できない。

イ 本件各土地は、本件給排水管施設を使用できないとすれば家を建てられない状況にあり、他に代替手段はない。また、被控訴人らは、本件給排水管の設置費用を負担している。したがって、控訴人は、被控訴人らに本件給排水管の利用を認めるべきである。

ウ 本件排水管施設の水質基準の遵守に関しては、被控訴人らは、本件排水管施設の使用が認められれば、本件各土地について排水の簡易処理槽を設置する予定である。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も、被控訴人らの選択的請求中原判決が認容した部分は、理由があると判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決書33頁11行目の「ものして」を「ものとして」に改める。

(2)  同34頁11行目の次に改行して次のとおり加える。

「 控訴人は、控訴人が本件請求に係る意思表示をすることによりどのような法律効果が生じるか明らかでないと主張するが、以上の認定によると、採用することができない。また、控訴人は、被控訴人らに検査済証が交付されていない以上本件各土地に建物を建築することはできないから、本件訴えは無意味であると主張するが、前記のとおり既に検査済証は事業主に交付されているところ、これが更に被控訴人らに交付されない以上本件各土地に建物を建築することが許されないと解すべき根拠はないから、同主張も、採用することができない。」

(3)  同38頁5行目の「一九、」の次に「20、」を加える。

(4)  同42頁6行目の「本件解決金等の合意」の次に「中本件各土地に関する部分」を加える。

(5)  同44頁7行目の次に改行して次のとおり加える。

「 前記前提となる事実と前記(一)の認定によると、ランドル社及び被控訴人らは、本件解決金等の合意内容を認識し、かつこれにより前記の請負代金及び本件給排水管施設の使用許諾に関する紛争を解決することを望んでいたことが明らかであり、また、控訴人においても、ランドル社ないし被控訴人らが承諾していることを前提として前記紛争解決のため本件解決金等の合意をしたものと認めることができる。控訴人は、このような実質上の観点から、本件解決金等の合意はランドル社ないし被控訴人らと控訴人の間に成立したものと主張するのである。しかし、前記認定によると、本件解決金等の合意は、ランドル社あるいは被控訴人らが直接の合意当事者とならないよう注意深く取り決められている。また、実質的に見ても、永光商事は、本件解決金等の合意前に問題の土地全体を買っていた者であるから、ランドル社ないし被控訴人らでなく永光商事が本件解決金等の合意の主体となることに不合理な点はない。したがって、前記のとおり、控訴人の主張は採用することができない。もっとも、前記認定によると、本件解決金等の合意は、売主側は控訴人が別訴の控訴を取り下げることに同意し(訴えの取下という形で実行された。)、別訴で係争中の債権債務は存在しないこととするという合意(本件請負契約上の残存債権債務がないこととされたものと解される。以下「附帯合意」という。)とともにされているところ、この附帯合意も、形式上被控訴人らと永光商事あるいは控訴人と永光商事の間でされたものであり、ランドル社ないし被控訴人らと控訴人の間の合意とはされていない。しかし、附帯合意は、直接ランドル社ないし被控訴人らと控訴人の間の法律関係に関するものであるところ、このことと前記認定の合意がされた経緯及び合意が実行された経緯に照らすと、附帯合意については、永光商事(及び薮野)を介してランドル社ないし被控訴人らと控訴人が直接そのようにすることを合意したと認めるのが相当であろう。しかし、このことは、本件解決金等の合意が前記のとおり永光商事と控訴人の間の合意であるという認定を覆すに足りるほどのものということはできない。」

(6)  同45頁1行目の次に改行して次のとおり加える。

「 なお、前記認定によると、本件解決金等の合意は大部分について履行されたものの、本件各土地に関する部分は履行されないまま解除により終了したのであるが、この解除により前記附帯合意まで解消される効果が生じたものと認めるべき理由はない。そうすると、被控訴人らは、もともとは本件請負契約に基づいて本件給排水管設備を使用すべき立場にあったが、この契約上の関係も前記附帯合意により双方とも主張しないものとすることが合意されたと認めるほかない。また、本件協定書(甲7)は、その記載内容からして、被控訴人らが主張するような被控訴人らの使用権を定めたものとは考えられず、単に本件造成住宅地の宅地造成工事の事業主である控訴人が各区画所有者に対して検査済証(写し)を交付するあたり各区画所有者が遵守すべき事項及びその不履行の場合の措置について定めた文書にすぎないというべきである。そして、いずれにしても、前記附帯合意により、本件協定上の合意も主張しないものとされている。そうすると、控訴人と被控訴人らの間には、本件給排水管使用に関する契約関係は存在しない状態になっているのであるから、もともと本件請負契約の当事者関係にあったことも、前記相隣関係等規定の類推適用を排除すべき理由とすることはできない。」

(7)(控訴人の当審における主張に対する判断)

控訴人は、本件給排水管設備は、控訴人が多額の費用を費やして設置し維持しているものであるから、控訴人に一定の金員を対価として支払うことによって初めて使用の認められる施設である、控訴人は、控訴人が定めた給排水加入金等を支払う者には、本件給排水管施設の使用を認め、現に、被控訴人ら以外の周辺土地所有者は控訴人に給排水加入金等を支払っており、控訴人は、同人らの本件給排水管施設への接続を認めている旨主張する。しかし、引用した原判決の理由説示のとおり、控訴人は、本件給排水管施設の設置及び維持管理の費用について、被控訴人らの利用の割合に応じた負担を求めることができると解されるから、控訴人主張の点は、これにより解決をはかることが可能である。

控訴人は、相隣関係規定等に基づく本件請求が認容されると、被控訴人らは本件給排水管施設を利用することができるようになるのに、その負担は被控訴人らの使用開始後に控訴人が裁判上ないしは裁判外で請求して初めて支払われることになり、訴訟経済上も不都合である旨主張する。しかし、控訴人は、そのように主張しながらも、本件訴訟で被控訴人らが負担すべき金額を確定すべき旨の申立てをしていないのみならず、この金額を確定するのに必要な主張立証もしていない。控訴人の主張のうちには、本件造成分譲地のほかの所有者から受け取っている負担金の実績を主張する部分があるが、それが相当な負担金であるかどうかを検討するに足りる資料は何も提出されていないし、前記認定によると、被控訴人らが負担すべき金額は、控訴人が支払を受けることができた前記6200万円等をも斟酌して定められるべきものである。したがって、控訴人の主張は、採用することができない。

控訴人は、被控訴人らが本件解決金等の合意により一旦は控訴人に対価を支払って本件給排水管施設の使用許諾を得ることに同意したのであるから、その約束を履行しないで相隣関係規定等による解決を求めることは不当である旨主張する。しかし、前記認定によると、上記主張は採用することができない。

控訴人は、本件排水管施設は小野市三井堰土地改良区が水利権を有する水路に接続されていて、控訴人は、同土地改良区から、一定の水質基準を遵守することを条件として、同施設から同用水路への排水を認められているものであり、上記の水質基準遵守のため、本件排水管施設の使用許諾にあたっては、利用者に対し、浄化槽の設置等を義務づけているが、相隣関係規定等に基づいて、控訴人の意思とは無関係に本件排水管施設の使用ができるようになれば、上記の水質基準を確保することが困難となる旨主張する。しかし、被控訴人らに相隣関係規定等の類推適用により本件排水管施設の使用が認められるとしても、その使用の態様は本件排水管施設の所有者である控訴人に損害を及ぼすようなものであることは許されず、水質基準があればこれを遵守する限度で認められるものであることは当然である(そして、被控訴人らもこれを遵守することを本件請求の前提としている。)。そうすると、控訴人の上記主張も被控訴人らの請求を拒む理由とすることはできない。

2  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法67条、61条を適用して、主文のおり判決する。

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