大阪高等裁判所 平成11年(ネ)3557号 判決 2001年6月14日
<住所省略>
第3557号事件被控訴人,第3558号事件控訴人
1審原告
X
同訴訟代理人弁護士
三木俊博
同訴訟復代理人弁護士
片岡利雄
東京都中央区<以下省略>
第3557号事件控訴人,第3558号事件被控訴人
1審被告
野村證券株式会社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
澤辺朝雄
主文
1 1審原告の本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
2 1審被告は,1審原告に対し,344万4941円及びこれに対する平成10年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 1審原告のその余の請求を棄却する。
4 1審被告の本件控訴を棄却する。
5 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その7を1審原告の負担とし,その余を1審被告の負担とする。
6 この判決の金員支払部分は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 1審原告
原判決を次のとおり変更する。
1審被告は,1審原告に対し,1150万3095円及びこれに対する平成10年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第1,2審とも1審被告の負担とする。
仮執行の宣言。
1審被告の控訴を棄却する。
2 1審被告
原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
1審原告の請求を棄却する。
訴訟費用は第1,2審とも1審原告の負担とする。
1審原告の控訴を棄却する。
第2事案の概要
事案の概要は,原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決書15頁9行目の「業者間取引原則として」を「業者間取引は原則として」に,同29頁7行目の「参考資料としての位置付けられる」を「参考資料として位置付けられる」にそれぞれ改める。)。当審における双方の主張は,原審の主張と同様であるが,原判決の認定判断について,以下のとおり批判している。
(1審原告の控訴理由)
1 適合性原則違反について
原判決は,1審原告の投資経験を過大評価している。1審原告には証券取引の経験があり,かつ,従前の投資傾向には短期売買の傾向はあった。しかし,1審原告は,本件ワラント取引を開始する前には,Bに,1500万円以上の投資はしないことを明言していた。従前の投資対象は現物株式か投資信託であり,しかも,ほとんどBの勧めるままに行っていた。決して多額の資金を投入し,多量の売買をしていたわけではない。1審原告には,Bの提供する情報を吟味したり,独自に情報収集を行うだけの知識,経験,能力はなかった。
また,原判決は,1審原告が1審被告で信用取引をする気持ちがあったことを指摘して,ワラント取引は1審原告の取引意向に反しないとするが,信用取引とワラント取引では取引形態と危険性が異なるから,このような比較による判断は相当でない。
ワラントは,銘柄ごとのパリティ,権利行使残期間,ポイントにより,取引の危険性が著しく異なる。本件各ワラントは,いずれも低ポイントでかつ残期間が短期のものであり,危険性が極めて高く,無価値になる危険が大きかった。このようなワラント取引は1審原告の投資意向に反するから,これを勧誘した点でも,適合性原則違反の違法がある。
2 助言義務違反について
原判決の助言に関する認定は,Bの証言をほぼ全面的に採用するものであるが,事実誤認である。1審原告にはBからの情報以外には情報源はなかったし,ワラント時価評価のお知らせ(乙5の1ないし8)はその当時保護預かり中のものに限られる。しがたって,品川WRが売却後に急騰して20.00ポイントをつけたため1審原告が売り急いだことを悔しがっていたという認定は明らかに誤っているから,これを前提とするそのほかの認定(品川WRのように急騰する場合もあるから損してまで売りたくないといって売却に応じなかった等という認定)も事実誤認である。
1審原告は,ニッショーWRについては,最初に下落した時点で損切り処分している。カスミWRについて同様にしていないはずはなく,1審原告が損切り処分をしなかったのは,Bが,リズムというワラントの例を持ち出して,急反発する例もあるから辛抱して持っておこうというアドバイスをしたためである。同旨をいう1審原告の供述が採用されるべきである。Bは,京急WR,ラクダWR,中外WRについても同様の助言をして保有を勧め,あるいは何も助言することなく無価値同然になるまで放置した。
3 過失相殺について
原判決は1審原告に8割の過失を認めた。しかし,1審被告に帰責事由がある以上1審原告に過失があるとしてもこれを斟酌するのは相当でないというべきであるし,1審原告に豊富な経験やワラント取引の危険性に関する認識及びこれを理解する能力があったという認定自体相当でないから,前記過失割合の認定は不当である。
(1審被告の控訴理由)
原判決は,理論価格がゼロで権利行使残期間が2年余り以下のワラントはそのほかのワラントとは異質な点があり,その売却は困難で,かつギアリング効果を期待し得ないという認定を前提として,Bに説明義務違反があったと認定している。しかし,上記前提の認定には根拠はないから,Bに説明義務違反を認めた点は誤りである。このことは,本件各ワラント取引のうち,権利行使残期間及び理論価格が上記のようなものであっても,その大部分は買付後価格が上昇し利益を得て売却されていること,及び,大和WR(4取引),品川WR,文化WRは,権利行使期間内に株価が権利行使価格を上回るようにさえなったことに照らしても明らかである。
本件各ワラントに低ポイントのものが多かったのは,1審原告の投機的意向によるものである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は,1審原告の請求は本判決主文第1項記載の限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。その理由は,次のとおり付け加えるほかは,原判決「事実及び理由」中の「第三 判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決書33頁6行目の「分離型新株引受権社債」を「分離型新株引受権付社債」に,同48頁7~8行目の「一月二九日」を「10月29日」にそれぞれ改め,同49頁10行目の「二万二三九八円、」の次に「同月14日に昭和WRを単価6.50ポイントで売却して83万2985円,」を加え,同61頁2行目の「中心に」を「含む」に改める。
(2) 同65頁8行目の「その価格が」から同頁9行目の「意味があること,」までを削り,同66頁9行目の次に改行して次のとおり加える。
「 顧客がワラント取引の投機性に惹かれ,そのためワラント取引の前記のような危険性を知りながらもこれをあまり考慮しない投資意向を示している場合であっても,その顧客が1審原告のようなもっぱら株式だけの取引をしてきた個人投資家でワラント取引の経験がなく,投資資金に限度があることを表明している場合には,株式取引をすべてワラント取引に移行させ投資資金全額をワラント取引につぎ込むようなことになるワラント取引の勧誘は控えるべきである。顧客がこれを望む場合にも,これが適切な投資とはいえないことを十分に説明し,それにもかかわらずあえてこれを希望する場合にだけ,上記のようなワラント中心の取引の勧誘をするべき注意義務があるというべきである。」
(3) 同66頁10行目から同68頁4行目までを次のとおり改める。
「(2) Bの説明について
前記認定によると,Bは,最初に大和WRの取引をするまでに,1審原告に対し,ワラントの前記特質及びワラント取引の前記危険性についてひととおり説明し,また1審原告にも十分理解可能な説明資料を交付してその説明をしているから,一般的な説明にはあまり足りないところはなかったと認めることができる。
しかし,Bの勧誘したワラントは,その大部分が10ポイント以下の価格帯で理論価格がゼロのものであり,かつ,残存権利行使期間は,住友WRとコスモWRを除くと,2年を少し上回るもの2銘柄のほかは,すべて2年を下回るものであった。そして,証拠(甲37,38,39の1,2,45)によると,少なくとも本件各ワラント取引が行われた当時は,このような価格帯及び残存権利行使期間のワラントは流通性が低いため一般投資家の投資対象としては適切でなかったことを認めることができる。1審被告はこの点を争っているところ,たしかに,本件各ワラント取引でも利益を出した取引があり,その回数は損失を出した取引の回数よりも多い。また,証拠(証人B,1審原告本人)によると,このようなワラントは資金力が豊かとはいえない投資家が短期決済取引の対象として好むことがあり,1審原告はこのような投資家の一人であったと認めることができる。しかし,上記甲号各証に示された見解は,これを誤りとする適切な主張立証がされているとは認められないし,B自身も,1審原告の上記のようなワラント取引はリスクが大きいと認識し,1審原告はギャンブルが好きだと思っていたというような証言をしているから,実際に利益を出した取引回数が多いことなどは,前記認定を覆すに足りるものということはできない。そして,本件各ワラント取引に固有の上記のような問題について,Bが1審原告に十分に説明したことを認めるに足りる証拠はない。Bが1審原告のためを思って真摯に説明をしていれば,1審原告の投資意向もそれなりに変化した蓋然性がある。
また,証拠(甲13,証人B,1審原告本人)によると,1審原告は,本件ワラント取引を開始するまでに既に1審被告で1500万円程度の株式投資をし,これを1審被告に預託していたこと,1審原告は,本件ワラント取引を始める前に,Bに対し,投資資金の限度がこの1500万円程度であることを明示していたこと,したがって,本件ワラント取引は,基本的には,1審原告が保有する株式を売却して購入資金を作り,またワラント取引を開始してからはワラントを売却して別のワラントの購入資金に充てるという態様のものであったこと,このようにして取引が進められたが,平成8年になってからは,投資の全額がワラント取引に当てられる状態になったことを認めることができる。1審原告が初めてワラント取引をする一般投資家であり,投資資金が前記のとおりであったこと及び取引されたワラントが前記のようなものであったことに照らすと,たとえ1審原告がワラントに魅力を感じワラント取引に積極的であったとしても,このような状態は好ましい取引ということはできず,かえって危険の大きい不適切なものというべきであるから,Bは,このような状態になるような勧誘を差し控え,仮に勧誘するとしても,危険性が大きいことを十分1審原告に説明して,それでも1審原告が希望する場合にだけ取引に応じる注意義務があったというべきである。Bがそのような注意義務を尽くしたと認めるに足りる証拠はない。」
(4) 同68頁8行目の「右勧誘行為は」の次に「全体として」を,同71頁2行目の「いわざるを得ない。」の次に「また,本件ワラント取引は客観的には全体として投機的色彩を帯びるものであったが,これは,1審原告の投資意向に沿うもので あった点も,1審原告の過失を考慮する際に1審原告に不利益な事情として斟酌せざるを得ない。」をそれぞれ加える。
(5) 同71頁3行目の「八割」を「7割」に,同頁5行目の「二〇八万九九六一円」を「313万4941円」に,同頁8行目の「二〇万円」を「31万円」に,同頁12行目の「二二八万九九六一円」を「344万4941円」にそれぞれ改める。
(6) 1審原告及び1審被告の当審における主張のうち以上の認定判断に沿わない部分は採用することができない。
2 よって,これと異なる原判決は相当でないから,これを上記のとおり変更することとし,訴訟費用の負担について民訴法67条,61条,64条,仮執行の宣言について同法259条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤英継 裁判官 大竹優子 裁判官伊東正彦は,転補されたため署名押印できない。裁判長裁判官 加藤英継)