大阪高等裁判所 平成11年(ネ)3589号 判決
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、別紙物件目録記載2の土地上の建物(マンション)の賃借人が同目録記載3の通路(別紙図面の赤色部分)に自転車又は単車を置いたり、ごみを散らかすなどするがままにして、控訴人とその家族が同通路を通行することを妨害してはならない。
三 訴訟費用は一、二審を通じて被控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 控訴人
主文同旨。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
一 控訴人(請求原因)
1 控訴人は、別紙物件目録記載1の土地を所有し、同土地に木造瓦葺二階建居宅を建築し、家族と居住している。
2 被控訴人は、同目録記載2の土地を所有し、同土地上に鉄骨造陸屋根三階建共同住宅(いわゆるワンルームマンション。以下、本件マンションという)を建築している。被控訴人は、本件建物の各部屋を複数の賃借人に賃貸して居住させている。
3 控訴人と被控訴人は、同目録記載3の土地を右各土地への通路として共有(控訴人の持分三分の一、被控訴人の持分三分の二)し、これを通路として使用している(以下、本件通路という)。以上の土地及び通路の位置関係は別紙図面のとおりである。
4 被控訴人は、本件マンションの賃借人の自転車等の放置、ごみの放棄などを管理せずにマンションの賃貸を継続している。そのため、本件マンションの賃借人らが、本件通路に自転車又は単車を放置したり、ごみを散らかすなどして、控訴人とその家族が本件通路を通行するのを妨害している。
5 そこで、控訴人は、所有権に基づく妨害排除請求として、被控訴人に対し、主文同旨の裁判を求める。
6 また、被控訴人は、本件マンションの所有者として、廃棄物の処理及び清掃に関する法律を遵守し、本件マンションの賃借人、管理人たる有限会社よろず産業の違法行為を適正化する義務を負担している。
二 被控訴人(請求原因に対する認否及び反論)
1 認否
(一) 請求原因1ないし3を認める。
(二) 同4を否認する。
2 反論
(一) 控訴人は、被控訴人が何人をしていつ如何なる妨害行為をさせているというのか、その妨害行為ごとに行為主体と態様を具体的に特定しなければならない。誰だかわからないが何しろ被控訴人の賃借人であるというのでは、被控訴人としては防御も反撃もしようがない。
(二) また、控訴人は、賃借人の違法行為を放置することがマンション所有者たる被控訴人の不作為による違法行為にあたるようにもいう。しかし、それだけでは被控訴人が賃借人をして妨害行為をさせているということにはならない。
仮に賃借人による通行妨害行為があるとしても、それを放置することが如何なる論理のもとに賃貸人たる被控訴人の不作為による違法行為たりうるというのか。賃借人の第三者に対する違法行為を、賃貸人として制止あるいは予防すべき如何なる権利、義務が法律上あるというのか。日常生活上の心得ないし感情論としてはともかく、建物所有者だからとてことさら法律上そのような義務を負うべきいわれはない。まして、控訴人自陳のとおり「被控訴人は管理会社に依頼してごみ、単車、自転車を整理整頓し、清潔を保つように努めている」においては、たとえ感情論としてでも、とやかくいわれる筋合でない。
(三) 控訴人の本訴請求は、以上のとおり主張自体失当であり直ちに棄却されるべきである。原判決は被控訴人による妨害行為を認めることができないとして、事実認定で片を付けているが、事実認定以前の問題であり、その理由付は承服しがたい。
理由
第一判断の大要
一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
そして、証拠によると、被控訴人の経営する本件ワンルームマンションの賃借人らが、本件通路に自転車又は単車を放置し、あるいは粗大ごみを散らかすなどしており、被控訴人はこれを整理せず放置し、本件通路の通行を妨げていることが認められる。
二 控訴人の妻らは、数年前から右通行妨害の件について、再々にわたり、被控訴人あるいは被控訴人から管理を委託されている管理会社に改善を求めてきた。しかし、被控訴人は、なんら実効性のある対策を講じないで、賃借人らが一のような態様で本件通路の通行を妨げるに委せてこれを放置したまま本件マンションの賃貸を続けてきた。
三 自宅建物に至る私道として開設供用されている通路について、その通行を妨害する者に対して、私道の共有者は、その妨害の排除と予防を求めることができる。通路を共用するワンルームマンションの経営者が、その賃借人らの通行妨害行為を放置してなんら実効性のある対策を講じないでこれを黙許して賃貸を続ける場合も、同様である。
四 したがって、右妨害の排除と予防を求める控訴人の請求は理由がある。
第二事実の認定
証拠(甲二ないし一八号証[枝番を含む])によると、以下のとおり認定判断できる。
1 本件通路及び関係土地の位置関係は、別紙図面のとおりである。本件通路は、幅約一・一メートルの未舗装の通路であり、控訴人と被控訴人は、これを各所有地への通路として共有している。道路側からみて本件通路の東側には約五〇センチ幅で醤野所有地のアパートの敷地があり、空調機の室外機がおかれたりしている。また、本件通路の西側に沿って、幅約一メートルの被控訴人所有地の通路部分がある。この部分はコンクリート及びタイル張りで、本件通路より数センチないし一〇センチ程度高くその間に段差がある。ここは、その形状及び建築基準法に照らすと本件マンションへの道路であるが、この部分が本件マンションの駐輪場やゴミ置場などとして使用されている。
2 控訴人は、平成七年二月から前示の現住所に居住するようになった。当時は、本件マンションのごみ集積用のプラスチック製籠二個が醤野土地側にあったが管理が行届かず、控訴人の妻冨美子や近所の者が清掃をしていた。しかし、軽いごみ籠はしばしば本件通路中央に移動してしまい通行の妨害になった。冨美子らは、その事情を本件マンションの管理をしているよろず産業に訴えたが、一年以上も、全く対応がなかった。やむなく、平成九年九月になって、冨美子が自分でごみ籠を被控訴人所有地に移動した。その後、駐輪の妨害になるためか、ごみ籠はさらに左側の西野住宅所有地に移動させられている。
3 ごみ籠の管理は、回収業者による平日の回収と月四回の清掃があるだけで、随時出される生ゴミは、異臭を発し、野良猫による生ゴミあさりで本件通路にまで飛散している。また、度々ある本件マンションの引越時の小型冷蔵庫、マットレスや簡易家具などの粗大ごみが酷いときは数か月も野ざらしで放置されているありさまで、その管理がはなはだずさんで不十分である。本件通路上にも灯油のポリタンクや石油ストーブ、小型家具や古本などが長く放置されていた。
4 本件マンションの前示駐輪場部分は幅が自転車の長さに足りないので、壁に直角に駐輪しようとすると、前輪を斜めにしても後輪部分が本件通路にはみ出してしまう。段差があるから、後輪部分の全部が本件通路に突出することになる。これを避けて自転車等を壁と斜めにして段差内に駐輪すると、駐輪可能な台数が少なくなる。そのため、本件通路に駐輪する自転車が多く、しばしば通路の通行を妨害している。また、駐輪場に空きがあるときでも醤野土地側のアパートの壁際に駐輪する状況が連日みられた。冨美子らは再々本件マンションの管理会社であるよろず産業の野村に状況を訴えて改善を求めたが、対応がなかった。その後、平成一〇年四月になってようやくよろず産業が迷惑駐輪防止の張紙をして、迷惑駐輪の自転車を冨美子自身が移動するようになってから、本件通路に駐輪する自転車は一時的にはかなり減少した。しかし、しばらくすると、後輪部分を本件通路にはみ出して駐輪する自転車が多くなり、通行妨害の状態が続いた。また、自転車の間隔を詰めて駐輪すると、出し入れの時転倒する場合が増え、本件通路に転倒したままの自転車が何台も放置されていることが、しばしばある。その後も冨美子は、自転車の移動を続けたが、迷惑駐輪は改善せず、通行の妨害が続いた。
5 他方、本件マンションの入口には二二個の郵便受が設けられており、多くの賃借人が入居している。しかし、本件マンションはそれに見合う駐輪施設を当初から大幅に欠いていることが明らかである(被控訴人は賃借人やその保有自転車及び単車の数と駐輪施設の容量について主張さえしない。)。その上さらに、本件マンションの前示の駐輪場所には、一年近く駐車位置の変らない単車が二台、何か月も駐車位置の変らない自転車三、四台が放置されていたこともある。これらが、駐輪場所を一層狭くしており、被控訴人ないしはよろず産業が、駐輪場所の管理を怠っていることは、このことからも明らかである。
そのような状態であれば、本件通路上に違法駐輪が生ずることは必然であり、現にそのような状況が長く続いていることを知りながら、被控訴人及びよろず産業はなんら実効性のある措置を講じないで、放置して本件マンションの経営を続けてきた。
6 本件通路の通行を妨害する駐輪について、実効性のある措置を講ずるとしたら、駐輪の区画を明示するとともに、マンション賃借人に対しては自転車や単車の保有を許可制にするなどして調整するのが本来である。張紙で迷惑駐輪を禁止するのみでは、すぐ傍らに駐輪可能な本件通路がある以上、そこへの迷惑駐輪が生じてくるのは避けられず、到底、実効性のある措置とはいえない。ところが、被控訴人及びよろず産業は、マンション賃借人の保有自転車・単車数に見合う駐輪施設を設けないままに本件ワンルームマンションの賃貸を長年続けてきている。そのことは、むしろ、本件通路への駐輪が事実上可能であることをよいことに、賃借人に対する自転車等の保有の制限あるいは必要な駐輪施設の整備や管理などを怠ってきたものというべきである。ちなみに、他のマンションの管理に際して、よろず産業が駐輪許可証の発行を行っている例がある。被控訴人が本件マンションについてこれらの実効性のある対策をとることを妨げるような特段の事情はない。
第三検討
一 前示の認定判断によると、次のとおりいうことができる。
1 本件マンションの賃借人らが、本件通路に自転車又は単車を放置し、あるいは粗大ごみを散らかすなどして本件通路の通行を妨げている。
2 被控訴人は、賃借人の右のような行為を知りながら、必要な駐輪施設やごみ集積施設を設けないままに、また必要な管理を怠り、本件マンションの賃貸を継続してきた。被控訴人は、本件マンション賃借人の保有数に見合った駐輪施設やごみ集積施設の設置やその管理を行えば、1のような事態が容易に避けられるのにこれもしていない。
これは、私道として開設供用されている他人との共有物に権限がないのに本件駐輪を黙許し賃貸しているのに等しいものというべきである。
3 ワンルームマンション賃貸人(所有者)はマンション各室を賃貸することにより賃借人を占有代理人としてマンションを占有管理しているものというべきである。賃貸人が占有代理人である賃借人の占有に対し、マンション使用に密接に関連するものとして干渉可能性が認められる限り、賃借人の違法な本件駐輪等による本件土地の占有使用は、被控訴人の間接占有の下にあるものとして、他人の物を不法に占有しようとする者、即ち他人の所有権を侵害する者に外ならない。それ故、物の所有者(共有者)である控訴人は、賃貸人である被控訴人に対し所有権(その使用権の一つである通行権)に基づき所有権侵害の排除と予防を請求することができる(なお、大判昭和一三・一・二八民集一七巻一頁参照)
4 したがって、控訴人は被控訴人に対し、本件通路の通行の妨害排除と予防を請求することができる。
二 これに対し、被控訴人は控訴人の請求が主張自体失当であるとして、次のように主張する。
<1> 被控訴人が通路の妨害をさせたことはない。被控訴人の賃借人というだけでは行為主体が特定されていない。
<2> 仮に賃借人による通行妨害行為があるとしても、賃借人の第三者に対する違法行為を、賃貸人として制止あるいは予防すべき法律上の義務はない。
しかし、前示のとおり被控訴人は、干渉可能性のあるマンション賃借人が本件通路を違法に占有使用するに委せて必要な施設の設置や管理を行わないままに本件マンションの賃貸を継続している。そのゆえに、その賃貸の結果として、本件通路の通行妨害が生じているのである。控訴人は、一人一人の賃借人に対して、具体的な個々の行為の禁止を求める趣旨ではない。実効性のある予防措置を講じないままにワンルームマンションの賃貸を継続して、控訴人や家族の通行を妨害している被控訴人自身に対して、その妨害の排除と予防を求めているのである。被控訴人が前示のような実効性のある措置を講ずるならば、このような妨害(賃借人の自転車等の放置やごみなどによる通行の妨害)は生じない。
被控訴人は、自転車やごみ等を放置しているのは被控訴人自身ではないこ
とを強調するが、前示のとおり、被控訴人が本件通路の通行妨害を生じさせているといえる。したがって、控訴人は被控訴人に対し、このような妨害の排除と予防を求める物上請求権がある。被控訴人の主張は採用できない。
なお、被控訴人は、個々の妨害の事実が具体的に明らかでないともいうが、控訴人主張のような通行妨害の事実が継続的に存在した事実は、控訴人が提出した前示の詳細な陳述書や長期間にわたる多数の現場写真によって明らかである。これらに対して被控訴人側からは何らの反証もない。
第四結論
よって、控訴人のその余の主張についてみるまでもなく、控訴人の被控訴人に対する本件請求はすべて理由がある。そこで、これと異なる原判決を取消し、控訴人の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 裁判官 紙浦健二)
別紙物件目録
1 大阪市平野区加美正覚寺一丁目二七七番一一
宅地 一八八・四九平方メートル
2 同所二七七番九
宅地 一六一・一七平方メートル
3 同所二七七番一
宅地(現況通路) 六九・四二平方メートル
別紙図面に二七七-一と表示し赤色に塗った通路部分
別紙図面<省略>