大阪高等裁判所 平成11年(ネ)511号 判決 2000年11月30日
控訴人・附帯被控訴人(以下「第一審原告」という。)
甲野太郎
右法定代理人親権者母
甲野花子
右訴訟代理人弁護士
松本康之
同
片見冨士夫
同
遠藤比呂通
被控訴人・附帯控訴人(以下「第一審被告」という。その他の第一審被告についても同様である。)
乙野一郎
被控訴人・附帯控訴人
乙野春子
右両名訴訟代理人弁護士
藤木邦顕
同
雪田樹理
被控訴人
丙野三郎
被控訴人
丙野夏子
右両名訴訟代理人弁護士
森野實彦
被控訴人
丁野五郎
外七名
右八名訴訟代理人弁護士
河合勝
被控訴人
大阪市
右代表者市長
磯村隆文
右訴訟代理人弁護士
松浦武
右訴訟副代理人弁護士
福居和廣
主文
一 本件控訴に基づき、原判決主文第一項ないし第三項を次のとおり変更する。
1 第一審被告乙野一郎、同乙野春子及び同大阪市は、第一審原告に対し、各自金二六万九五〇〇円及び内金一二〇〇円に対する平成七年三月三日から、内金一万八三〇〇円に対する平成七年三月三〇日から、内金二〇万円に対する平成七年四月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 第一審原告の第一審被告乙野一郎、同乙野春子及び同大阪市に対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 第一審原告の第一審被告丙野三郎、同丙野夏子、同丁野五郎、同丁野秋子、同甲山七郎、同甲山冬子、同乙山九郎、同乙山月子、同丙山辰郎及び同丙山火子に対する請求をいずれも棄却する。
二 本件附帯控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを三〇分し、その一を第一審被告乙野一郎、同乙野春子及び第一審被告大阪市の負担とし、その余を第一審原告の負担とする。
四 この判決は、主文第一項1に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決中、第一審原告敗訴部分を取り消す。
2 第一審被告大阪市、同乙野一郎、同乙野春子、同丙野三郎及び同丙野夏子は、第一審原告に対し、各自金八八一万九五〇〇円及び内金一二〇〇円に対する平成七年三月三日から、内金一万八三〇〇円に対する平成七年三月三〇日から、内金八〇〇万円に対する平成七年四月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 第一審被告丁野五郎、同丁野秋子、同甲山七郎、同甲山冬子、同乙山九郎、同乙山月子、同丙山辰郎及び同丙山火子は、第一審原告に対し、各自金八八〇万円及び内金八〇〇万円に対する平成七年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁(第一審被告ら)
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は第一審原告の負担とする。
三 附帯控訴の趣旨(第一審被告乙野両名)
1 原判決中、第一審被告乙野両名の敗訴部分を取り消す。
2 第一審原告の第一審被告乙野両名に対する請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
四 答弁(第一審原告)
1 本件附帯控訴を棄却する。
2 附帯控訴費用は第一審被告乙野両名の負担とする。
第二 事案の概要
一 事案の概要は、次項以下に当審における当事者の主張を掲げるほかは、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」欄(六頁一二行目から六一頁八行目まで)と同じであるから、これを引用する。
二 第一審原告の主張
別紙一のとおり
三 第一審被告乙野両名の主張
別紙二のとおり
第三 証拠
証拠関係は、原審及び当審の各記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
一 当事者及び関係者については、原判決「理由」欄の一項(原判決六一頁末行から六二頁八行目まで)記載のとおりである。
二 第一審原告の主張する請求原因2(一)について<省略>
三 第一審被告ら(第一審被告大阪市以外)の責任について
1(一) 小学一、二年生の児童(責任能力はない。)による不法行為があった場合、その親権者は、右児童を監督すべき法定の義務が存する(民法七一四条)のであるから、被害者の被った損害を賠償すべき責任がある。
(二) 学校内における児童間の軋轢には、重傷を負う程の暴行・傷害を伴う行為から、暴行あるいは暴行ということもできない程の極く軽微なやり取りまでその程度において様々なものがある。また、有形力の行使が全く伴わないやり取りにおいても、それが、何のたわいもない言葉による告げ口のような程度のものから、相手がそれによって自殺に追い込まれる程の酷い精神的苦痛を受ける言葉(いわゆる「言葉の暴力」)に至るまで、その態様・程度は様々である。そして、これら種々の行為・態度が相手に対する関係で、「いじめ」となる場合と「いじめ」の範疇に含まれない場合を明確に区別することは、それがなされた時点においても、また、事後的に判定する場合においても、なかなか困難である場合が多い。さらに、小学校低学年の児童という責任能力のない年齢の者らの間の右軋轢においては、自らその行為が違法であるか否かといった点についての認識が不十分なままに、自分勝手な考えのもとに、右行為・態度に及ぶことが多々あると考えられ、その場合の行為・態度についての違法性の程度も強弱様々なものがあるといえる。右軋轢等が発生した場合、学校生活を中心とする場においては、小学校低学年の場合は、一般的にいうと、中学年・高学年に比して、右行為・態度を取った児童の判断能力が不十分であること、素直である反面、自分勝手な面も強いという傾向があることを指摘することができ、このような児童については、特にそのクラス担任を中心とした教師に対し、右軋轢等が発生する前後の措置・判断及び適切な指導が要求され、また、これが重要であると考えられる。そして、右軋轢等により被害が生じた場合、事後的措置として右のように担任を中心とする教師による指導がなされることが要求され、右行為・態度があった以後、そのような事態が極力発生しないよう適切な指導がなされることが期待され、要求される。それと共に、右行為・態度に違法性を認めることができる場合であっても、それが微弱である場合に、被害を発生させた個々ないし一連の行為・態度について、その行為を行い、態度を取った児童の親権者に、不法行為による損害賠償責任まで認めるべきではない場合もあり得る(本件でいうと、訴外甲山は、クラスのほとんどの児童が訴外乙野にいじめられていた旨を述べる[甲二六]。また、第一審原告も、クラスのほとんどの児童が訴外乙野にやられていた、右行為について訴外乙野がいじめているのか、いじわるしているのかよくわからなかった、訴外乙野は、児童の肩を肘でつついたりした旨を述べる[第一審原告本人]。訴外甲山、第一審原告が右に述べるように、訴外乙野による他の児童に対する行為が全て「いじめ」に該当する、あるいは、全て「いじめ」に該当しないと断定することはできないし、また、右行為が全て違法である、あるいは違法でないと断定することもできない。そして、右行為のうち、仮に、違法性が認められるものがあったとしても、その行為の対象となった児童に、直ちに、不法行為による損害賠償請求権の存在が肯定されるということにはならない。これまでに述べたように、その違法性が微弱であるから、また、被った被害を填補して被害者を救済し、究極的には損害を公平妥当に配分することを目指す不法行為制度の目的をも勘案すると、法的に損害賠償請求権を認める程のものではないというべき行為が存在する。)というべきである。
(三) 第一審原告は、別紙一の1以下で「いじめ」の概念等につき詳しく述べている。一般社会、特に学校・勤務先等において、いわゆる「いじめ」が問題となっており、通常、「いじめ」とは自分より弱い者、弱い立場・状況にある者に対し、一方的に身体的、精神的な攻撃的行為、態度を継続的・集中的に加えて、相手に深刻な苦痛を与えている場合、右行為・態度をいわゆる「いじめ」行為であると理解されているということができる。しかし、右にいう「いじめ」行為に該当するか否かは、「いじめ」行為をしたとされる者とその相手との間で、より弱い者、弱い立場・状況にある者であったか否か、攻撃的行為・態度が一方的か否か、また、それが継続的・集中的といえるかどうか、相手に深刻な程に苦痛を与えるものであるか否か等につき、判断が困難な場合が多くあり、結局、右の「いじめ」行為に該当するといえる場合は不法行為制度において相手の法益が侵害され、違法であると評価される場合がこれに当たるということができるのであるから、本件においても違法性の有無の判断の問題として扱うものとする。
2 第一審被告乙野両名の責任
(一) 訴外乙野は、前記二1(一)ないし(一〇)の全てに関与している。
(二) 前記二1(一)の行為について、一年生の一学期が始まって間もない時点である四月中旬ころに、小学一年生の児童であった訴外乙野が、入学するまで顔見知りでもなかった(証人乙野、第一審原告本人)第一審原告に対し、訴外乙野が強者、第一審原告が弱者という立場で、「いじめ」行為として加えた暴行であるとまでいうことはできず、喧嘩あるいはそれに類似した行為の範囲内のものであるというべきであり、右二1(一)の行為をもって違法であるということはできない。
(三) 前記二1(二)ないし(四)の行為については、これらが「いじめ」行為の一環としてなされたものであると認めるに足りる的確な証拠はない。また、右各行為の違法性の程度は微弱であると考えられ、右各行為について第一審被告乙野両名に法的な損害賠償責任を負担させるほどのものであるとはいえない。
(四) 前記二1(五)、(六)の行為は、いずれも二年生の六月ないし夏以降に行われたものであり、前記二1(七)ないし(九)の行為は、二年生の二学期に行われている。右のように、二年生の六月ないし二学期ころ以降から、訴外乙野の第一審原告に対する各行為が集中してきており、また、右(九)の行為については、第一審被告乙野春子が、訴外乙野から直接の言葉で聞いた内容ではないが、母親として訴外乙野から聞いた内容を総合して判断すると、訴外乙野が第一審原告に対し「ちょうだい」といって要求すると、第一審原告がお金をくれるという関係になってきていたと認識していること(甲四四)等を指摘することができ、これらを総合勘案すると、訴外乙野は、第一審原告に対し、遅くとも二年生の六月ないし二学期ころ以降、両者を比較すると、訴外乙野が強い立場に立ち、第一審原告を弱い立場の者として(後記(五)のとおり、第一審原告が訴外乙野に対し、いやがらせ、あるいは「いじめ」行為等をしたことを認め得る証拠はない。)、継続的かつ集中的に、身体的、精神的な攻撃を一方的に違法に加えたものということができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、第一審被告乙野両名は、訴外乙野が第一審原告に対してなした前記二1(五)ないし(一〇)の行為につき、民法七〇九条、七一四条に基づき、不法行為による損害賠償責任を負うというべきである。
(五) 第一審被告乙野両名は、本項の認定・説示に関し、別紙二の三のとおり主張する。
しかし、訴外乙野と第一審原告の関係が純然たる強者・弱者の関係ではなかったとしても、第一審原告が訴外乙野に対し、訴外乙野が第一審原告に対して行っていた前記1の各行為のごとき行為を加えていたことは認められない。逆に、訴外乙野は、第一審原告を含むクラスの児童のほとんどの者に、「いじめ」行為あるいは「いじめ」行為ではないにしても、相手方が嫌がるような種々の行為をしていたことが窺え(甲二六、第一審原告本人)、その中で、訴外乙野は、二年生の二学期ころ、第一審原告から少なくとも二回、金員を無理やり交付させるという小学二年生の児童としては問題視せざるを得ない行為をするに至っているのであり、第一審原告に対し、遅くとも右のころには、右金員を交付させた行為(前記二1(九))を含め、種々の違法行為を第一審原告に集中させる傾向が始まっていたということができるのであって、右は、訴外乙野が第一審原告に対し、違法な行為を繰り返し加えたものと評価できるから、第一審被告乙野両名の右主張は理由がない。
3 第一審被告丙野両名の責任
訴外丙野は、前記二1(二)の行為をしているが、右行為が一対一で行われたのか、あるいは、訴外乙野ら五名が集団で、代わる代わるという形でなされたのか的確な証拠はない。また、前記二1(三)、(四)の各行為は、その違法性の程度が微弱であるということができ、訴外丙野の右各行為につき、親権者である第一審被告丙野両名に不法行為責任があるということはできない。さらに、前記二1(五)の行為について、訴外乙野は、約五秒間、第一審原告の首を絞めたことがあったが、右プロレスごっこをした際、訴外乙野以外の加害児童の一人である訴外丙野が具体的にどのような行為をしたのか、訴外丙野が、右の際、必ず、叩いたり、四の字固め等の技をかけたのか明らかではない。そして、訴外丙野以外の加害児童の行為を訴外丙野の行為と同視できると評価し得るだけの意思連絡があったうえで右プロレスごっこがなされたことを認めるに足りる証拠もないから、右プロレスごっこにおける訴外丙野の行為につき、親権者である第一審被告丙野両名に不法行為責任を負わせなければならないということはできない。前記二1(六)の行為について、なされた回数は不明であり、また、訴外丙野が「いじめ」行為の一環として右行為を行ったと認めるに足りる的確な証拠はない。次に、前記二1(七)の行為については、訴外乙野から一緒に付いてこいと命令的にいわれて第一審原告宅付近まで訴外乙野と一緒に行ったことが認められ(証人丙野)、訴外乙野と同丙野の右のような関係、これまでに指摘したとおり第一審原告と訴外丙野の間に友達付き合いがあったこと、第一審原告が本件事故の後に、訴外丙野からいじめられたと分かりびっくりしたという気持ちを持つに至ったこと等に鑑みると、右二1(六)の行為について訴外丙野の親権者である第一審被告丙野両名に不法行為責任を負担させるべき程の違法性があるとはいえない。さらに、前記二1(一〇)の本件事故は、訴外乙野と第一審原告の間で発生したものであり、訴外丙野が第一審原告を通せんぼしたことはあるが、このような行為をしたにすぎない訴外丙野において、その後、訴外乙野と第一審原告が、すもうの如きとっ組み合いの形になった以降の行為まで予見し得る可能性はなかったというべきである。そして、右にも述べたとおり、第一審原告と訴外丙野の間に友達付き合いがあったこと、第一審原告が本件事故の後に、訴外丙野からいじめられたと分かりびっくりしたという気持ちを持つに至ったこと等を勘案すると、本件事故において、訴外丙野が第一審原告に対し、「いじめ」行為として加担したということはできない。他に、本件事故に関し、訴外乙野による第一審原告に対する違法行為につき、訴外丙野が加担し、あるいは訴外乙野の第一審原告に対する「いじめ」行為を利用して、第一審原告を積極的にいじめたことを認めるに足りる証拠もない。したがって、第一審被告丙野両名に第一審原告が主張するような不法行為責任があるとはいえない。
4 第一審被告甲山両名の責任
前記二1、2に述べたとおり、訴外甲山は、第一審原告とはクラスの友達であったということができ、また、前記二1(一)ないし(一〇)の行為につき、訴外甲山がこれに加わっていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。そして、前記2に指摘した訴外甲山の各行為が第一審原告に対する不法行為とならないことは、同項で認定・説示したとおりである。したがって、第一審被告甲山両名には、第一審原告が主張するような不法行為責任があるとはいえない。
5 第一審被告丁野両名、第一審被告乙山両名及び第一審被告丙山両名の責任
(一) 訴外丁野、同乙山及び同丙山は、前記二1(二)ないし(五)の行為に加わっている。しかし、右(二)ないし(四)の各行為について、これら各場合に、右三名の者が「いじめ」の一環として右各行為を行ったと認めるに足りる的確な証拠はない。そして、右各行為の違法性も微弱であるということができ、これらの行為につき、不法行為が成立するということはできない。右(五)の行為についても、前記三3で訴外丙野の行為について述べたと同様、加害児童である右三名の者が、それぞれ具体的にどのような行為をしたのか、あるいは、右三名の者が、右の際、必ず、叩いたり、四の字固め等の技をかけたのか明らかではない。また、右三名の者以外の者の行為を右三名の者の行為と同視できると評価し得るだけの意思連絡がなされたうえで右プロレスごっこがなされたことを認めるに足りる証拠もないから、右プロレスごっこにおける右三名の者の各行為について、不法行為が成立するということはできない。
(二) 訴外丁野及び同乙山は、前記二1(六)の行為に加わっている。しかし右(六)の行為がなされた回数は不明であり、また、その際の具体的状況は明確でなく、右両名の右行為が違法であると断定することはできない。
(三) したがって、第一審被告丁野両名、第一審被告乙山両名及び第一審被告丙山両名にはいずれも第一審原告主張のような不法行為責任があるとはいえない。
四 第一審被告大阪市の責任
1 第一審原告と第一審被告大阪市の間に、教育諸法上の在学関係が存在し、学校設置者である第一審被告大阪市は、児童である第一審原告に対し、学校教育活動ないしこれに密接に関連する生活関係において、「いじめ」その他の加害行為を防止し、加害行為から児童の身体の安全を保護すべき安全配慮義務を負っているといえる。また、第一審被告大阪市においては、右内容の安全配慮義務の他に、児童が安全に学校生活を送ることができるように環境整備を行い、児童間に問題が生じたときは、原因を調査し、適切な指導を行うべく配慮する義務を校長及び教職員が負い、また、教育委員会は、校長及び教職員を監督する義務を負っているといえる。
2 右各義務に関し、前記二1に認定した事実のほか、前記二1冒頭掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 第一審原告は、元々は明るい性格の児童であり、(転校後の)三年生一学期の通知票にも、明るく意欲をもってのびのび生活するという点で積極的評価を受けている。
(二) 第一審原告は、一、二年生の間の学校生活につき、訴外乙野らによる加害行為があったので、いじめられている訴外乙野らに対しては嫌になったりしたが、他の人にはいい人もいるので、そういう人との間では楽しい気持ちでいると感じていた。
(三) 第一審原告は、主に二年生になってから、何回か、訴外乙野らにより「いじめ」行為等を受けて泣き出し、丁山教諭が教室に来て授業が始まってからも泣いていたので、丁山教諭から「どうして泣いているの。」と尋ねられ、第一審原告やクラスの女児らが、「乙野君がやった。」旨を答えたことがあった。その際、丁山教諭は、「そんなことをしたらあかんよ。」という注意はしたが、それ以上の対策を講ずることはしなかった。
(四) 乙田は、右のようなことが何回かあったことを記憶しており、いじめられていた第一審原告について、何時からか「弱い子」と評価し、第一審原告を馬鹿にする気持ちを持つようになった。
(五) 丁山教諭は、第一審原告について、性格的に明るく、大人とも物怖じせずに話をし、授業中も積極的に発言する子であると理解していた。しかし、第一審原告が訴外乙野と仲良しであるとは理解していなかった。
(六) 丁山教諭は、訴外乙野につき、いわゆる手の早い子であり、本件事故時までに蹴ったりする程度のことが常々ある、訴外乙野には、右のような点を含めて自分勝手な言動をする等の種々の問題があるということを把握しており、また、これはある意味では愛情不足の面があり、それが遠因であるのかも知れないが、精神的に不安定になって他の子に暴力を加えるということがあると認識していた。
(七) 丁山教諭は、訴外乙野に右のような問題があることを認識したうえで、訴外乙野に対し注意を払い、また、訴外乙野の良いところはできるだけ認め、精神的に落ち着くようにすべきであると考えて学級運営に当たっていた。しかし、第一審被告乙野一郎が、訴外乙野の問題行動について心配し、丁山教諭に相談してきた際、丁山教諭は、手が早いということは告げていたが、右以上に、学校生活における訴外乙野の問題点の内容を具体的に説明し、積極的に右問題点を指摘して、その改善策等を双方で協議し、検討するということはなかった。
(八) 二年生の三月三日、本件事故発生後、丁山教諭は、本件事故につき、第一審原告から何らその事情、経緯等を聴取しなかった。しかし、丁山教諭は、三月三日の連絡帳に、「今日、休み時間、友達に押されて、机の角で額を打ちました、ふざけて押した子ども二人には、厳しく注意しておきました。」という旨を記載し、これを第一審原告に持ち帰らせた。
(九) 母花子は、三月三日、第一審原告が持ち帰った右連絡帳を見た。第一審原告は、帰宅後、本件事故による受傷により頭がふらっとする感じになり、また、痛みも感じるようになった。そして、母花子から、丁山教諭が本件事故につき、ふざけによるものであると理解し、判断しているということを聞かされて、第一審原告は、それは本当のことではないという思いを抱いた。第一審原告は、三月四日以降、頭痛等の理由により欠席し、母花子は、三月四日(土曜日)の朝、連絡帳に(本件事故について)「不意打ちは、ふざけたうえでの事か疑問です。」と記載し、これを近所の女子に学校へ届けてもらった。
(一〇) 右記載を読んだ丁山教諭は、右同日、母花子に電話し、本件事故につき丁山教諭自身はふざけによるものであると判断していると告げたため、母花子は、丁山教諭に対し、もう一度、調べるよう要請した。そして、母花子は、三月六日(月曜日)の朝、本件事故により受傷した第一審原告の診断書(甲一号証)を連絡帳に貼付し、「これが先生のおっしゃる、ふざけたうえの結果です。」と記載して学校に届けてもらった。丁山教諭は、右記載を読み、再度、母花子に電話し、母花子が本件事故について診断書を取ったことを問題視し、右時点でも、本件事故は、ふざけによるものであるという自らの判断を母花子に伝えた。
(一一) 母花子は、丁山教諭が右のとおり本件事故がふざけによるものであると主張するものの、これに納得できなかったので、丁山教諭に対しては何度いっても聞き入れてもらえないから校長に話を聞いてもらうことにした。
(一二) 母花子は、三月七日、第一審原告の伯父である訴外甲野酉郎を伴って、学校を訪れ、丁山教諭・戊谷校長等と第一審原告に対する「いじめ」行為等について話し合った。
(一三) 丁山教諭は、三月九日、第一審原告宅を訪れ、これまでの自らの言動・姿勢等につき謝罪し、第一審原告に早く登校してもらいたい旨を伝えた。また、その後(三月中旬)、丁山教諭及び戊谷校長は、母花子宛にそれまでの言動・態度につき反省し、詫びる趣旨の書面をそれぞれ提出した。
3 前記二1に認定した事実及び前項(2項)で認定した事実を総合すると、丁山教諭は、一年生時以降、訴外乙野が第一審原告を含むクラス児童に対し、傷害に至る程の加害行為ではないが、暴行程度の加害行為を加えることが常々あることを認識していたこと、そして、二年生になってから(必ずしもその時点を具体的に特定することはできない。)、第一審原告が訴外乙野らから、「いじめ」行為等を受けて泣き出し、授業が始まっても泣いていることがあったこと、丁山教諭は、前記2(六)(七)のとおり、訴外乙野に関する問題点を認識し、第一審被告乙野両名に対し、手が早いということは告げていたものの、右以上の改善策等を具体的に検討し、第一審被告乙野両名と協議・検討するということはなかったこと、第一審原告は、本件事故につき、丁山教諭がふざけによるものであると判断していることを聞き、それは本当ではないと感じ、本件事故の翌日である三月四日以降、登校しなくなったこと、以上の点を指摘することができる。
4 小学校低学年の担当であった丁山教諭としては、右23に認定・説示したとおり、暴行を繰り返していたという訴外乙野の素行を、一年生時から把握し、これが二年生時になっても改まることなく続いていることも分かっていたのであって、クラスの児童の間で、「いじめ」行為等の軋轢があった場合に、訴外乙野に関しては、その場で注意を与えることに留めるだけでは、同じことの繰り返しであり、何ら問題行動が改まらない状態のままで推移したということができる。したがって、訴外乙野がクラスの児童全ての者に対し、常々、暴行を加えているのか、また、第一審原告が授業が始まっても泣いていることが複数回あり、訴外乙野からやられた旨の訴えが第一審原告、女児から告げられていたのであるから、その時点で、訴外乙野が第一審原告に対し、継続的・集中的に、加害行為を行っているのではないかという点につき、さらに児童から聴取すること、あるいは、訴外乙野から直接聴取することは容易にできたであろうと推測することができる。そして、丁山教諭は、遅くとも二年生の後半に至った段階では、第一審被告乙野両名と共に、より具体的な事実関係を調べ、原因及びその改善策を協議・検討する、あるいは戊谷校長をはじめとする学校の他の教師とともに、有効な改善策を検討し、学校全体で問題解決に当たるべきであった。
5 第一審原告は、本件事故に至るまで傷害の結果が発生するような暴行を受けたことはなく、また、丁山教諭も、訴外乙野が、いわゆる手が早い、あるいは蹴るというような態様の暴行を繰り返すにすぎないと把握していた。しかし、年齢が上がるつれて、右の手が早いという訴外乙野の素行が、いつまでもその程度でおさまるわけではない場合も可能性としては考えられるところである。したがって、丁山教諭としては、第一審原告が訴外乙野らによる暴行等を内容とする「いじめ」行為を受けているのではないか、それにより、場合によっては、けがをするかも知れないという限度で、暴行・傷害が発生することについての予見可能性があったということができるのであり、右判断を覆すに足りる証拠はない。
6 また、第一審原告は、本件事故につき、ふざけによるものであるという丁山教諭の下した判断を聞かされて、それは本当のことではないと思ったのであるが、右の点につき、丁山教諭は、本件事故当日、第一審原告自身からその経過等を聴取したことはなく、訴外乙野らを含むクラスの児童(第一審原告を除く。)から聴取した事実だけに基づき、ふざけであると判断し、右判断を三月七日の話合い(前記2(一二))の時点に至るまで維持していた。第一審原告にとっては、前記2(一)(二)のとおり、学校生活につき、「いじめ」行為等が加えられて嫌な面と、いい人がいるから楽しい面があると思っていたのであって、丁山教諭に対しても、後記9のとおり肩を揉んだり、誕生日に自ら積極的に花をプレゼントするという面もあったのであり、このような第一審原告と丁山教諭の間で形成されていた一定の信頼関係を前提とすると、本件事故について、ふざけによるものであるという丁山教諭の判断を聞かされ、第一審原告としては、少なからず精神的苦痛を受けたものと推察することができる。
7 以上によれば、丁山教諭は、訴外乙野らによる第一審原告に対する違法行為が継続していた点につき、遅くとも二年生の後半以降の違法行為(ただし、学校内の行為に限る。具体的には前記二1の(五)、(六)、(一〇)である。(五)、(六)については二年生の後半以降のものに限る。)の発生を防止するため、小学校低学年の担任に要求される義務を尽くしていたということはできず、丁山教諭が右義務を尽くしていたならば、本件事故を含む右違法行為を防止できたものと考えられるから、丁山教諭には、右義務違反による過失があったというべきである。また、本件事故後の丁山教諭による右(六)のふざけによるものであるとする判断内容につき、第一審原告がそれを聞かされた際に被った精神的苦痛は大きいと考えられ、右聞知したことが第一審原告が本件事故の後、登校したくないという気持ちになった大きな要素であるといわざるを得ず(第一審原告は、右点につき丁山教諭が嘘をついた、本件事故の後も、いじめられて辛い思いをしたくない旨述べている。―甲九の1、第一審原告本人)、本件事故の発生原因・経緯につき三月九日までの時点で、丁山教諭が本件事故につき十分調査しないで、本件事故がふざけによるものであると判断し、右判断内容を維持していた点についても、丁山教諭に過失があったといわざるを得ない。
8 丁山教諭は、第一審被告大阪市教育委員会により任命された公務員であるから(弁論の全趣旨)、これまでに判断したとおり、丁山教諭には、遅くとも二年生の後半以降、本件事故の前後を通じ、二年生の三月九日より前までの一連の行為につき一括して、その職務を遂行するにつき前記四1の教職員として課せられる各義務違反があったものといえるから、第一審被告大阪市は、国家賠償法一条により第一審原告の被った損害を賠償する責任がある。
9 第一審被告大阪市は、第一審原告が大阪市内で行われた祭りの際の踊りを披露する等明るく振る舞い、また第一審原告が丁山教諭の肩を複数回揉んであげたこと、本件事故直前の丁山教諭の誕生日には、第一審原告が丁山教諭に対し、花をプレゼントしたことがあり、第一審原告と丁山教諭の関係は良好であったのであり、丁山教諭が第一審原告から教師として失格であると評価されるような関係にはなかったと主張する。
しかし、第一審原告が、前記2(一)(五)で認定したとおり、基本的な性格としては明るい子であり、学校生活において、「いじめ」行為等を加える訴外乙野らに対しては、嫌になったりしたが、他の人にはいい人もいるので、そういう人との間では楽しい気持ちでいたというのも、小学一、二年生の児童の言動・態度・心持ちとしては、あり得る内容であると考えられ、「いじめ」行為等を加えられていたとしても、右年齢の児童が一日中、終始、暗い態度で過ごすものであるとはいい切れないと考えられるのであって、右指摘のような事実が認められても、これをもって、直ちに、第一審原告が毎日、何の苦痛も感じないで学校生活を送っていたと即断することはできない。また、保護者は、学校生活における児童の言動等を正確に把握できない部分がほとんどであり(前記二項等で、第一審原告に対する「いじめ」行為の存否を認定・判断するにつき、第一審原告の主張に沿う母花子の供述があってもこれだけでは「いじめ」行為の存在を認めるに足りないと認定・説示する点は、右行為の存在について第一審原告に主張立証責任が存することからやむを得ないところである。)、かつ、「いじめ」行為等を受けていても、当該児童が直ちに、この事実を保護者に詳細を伝えることを期待することはできない(甲三四)のであるから、母花子から丁山教諭に対し、第一審原告が「いじめ」行為等を受けて困っている趣旨の連絡がなされなかったといっても、これを重要視することは相当ではない。
10(一) 第一審原告は、校長及び教職員が前記四1に述べた教育的配慮義務を負い、また、教育委員会が校長及び教職員を監督する義務を負うと主張し、平成七年三月九日以降(平成七年三月八日までの丁山教諭を中心とする学校側の問題点についてはこれまで[前記四の1ないし9]に述べたとおりである。)の経過についても縷々主張する(別紙一の7以下)。
(二) しかし、訴外乙野らによる第一審原告に対する違法行為等につき、平成七年三月九日以降、第一審原告と学校側及び保護者らの間の右問題の収拾・対策・解決等に関する経過として、前記二1冒頭掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、丁山教諭及び戊谷校長が第一審原告に対し謝罪するとともに、これを書面化して第一審原告に提出したこと、学校側は、訴外乙野ら加害児童とされる者の各保護者を学校に呼び寄せあるいは電話連絡により、各保護者が各児童から、第一審原告に対する「いじめ」行為等があったか否かの事実関係を尋ねるよう要請したこと、丁山教諭は、母花子らに対しても第一審原告がどのような「いじめ」行為等を受けたのか、教えてほしい旨申し入れたが、第一審原告側からは、年月日及びその日にあった内容を特定した形での具体的事実を指摘することはなかったこと(この点、第一審原告は、三月七日の時点で、丁山教諭ら学校側は、既に作文等により二年間にわたる第一審原告に対する加害行為の内容を把握していた旨主張するが、右事実を認め得る的確な証拠はない。乙田は、陳述書[甲三一号証]において、右のころ作成した作文に第一審原告に対する加害行為があったことを記載しなかった趣旨を述べている。また、第一審原告が作成し、三月一四日に学校側に対して提示された甲九号証の1ないし3も丁山教諭、訴外乙野及び同丙野に対する関係での記載がなされているだけであり、甲一七号証が作成されたのは、約一年後である。)、学校生活を中心とする場における児童間の右のような行為を聞き出すことは、即座にできるものではないこと(母花子も同趣旨を述べている。―母花子)、丁山教諭は、クラスの児童から教室で、口頭によりあるいは作文を書かせて「いじめ」行為等があったか否かを尋ねたこと、学校側は、三月一八日、保護者らを参集させ、話合いの場を持ったこと、訴外乙野とその両親(第一審被告乙野両名)、訴外丙野とその両親(第一審被告丙野両名)は、その翌日(三月一九日)、第一審原告宅を順次訪れ、第一審原告及び母花子らに対し、謝罪文を交付して、それぞれ謝ったこと(右謝罪については、学校からの要請に基づいてしたという側面もあったものの、訴外乙野及び第一審被告乙野両名、第一審被告丙野両名において、謝罪の気持ちもあったことが認められる。しかし、訴外丙野については、三月三日に丁山教諭から叱責され、また、第一審被告丙野両名からも、その後、同様に叱られたため、第一審原告に対し、謝る姿勢を示したにすぎないと推認することができ[証人丙野、弁論の全趣旨]、右認定を覆すに足りる証拠はない。また、第一審被告丙野両名についても、訴外丙野が仮に、第一審原告に対し、「いじめ」行為等をしていたのであれば、謝らなければならないという気持ちから右のような行為・態度を取ったということができるのであって、右認定を覆すに足りる証拠はない。)、三月二一日、学校で、第一審原告、母花子ら、訴外乙野らの保護者らが集って、話合いがなされ、その後、学級集会が持たれたこと、第一審原告側は、当日、訴外乙野らの保護者が謝罪するために学校に来ると聞き、最初、これに応じて学校に赴いたが、その後、学校側の保護者らに対する事実調査・確認及び指導が全く不十分であると判断し、右以降は、加害児童の各保護者が個別に第一審原告宅を訪れ、個別に謝罪すべきである旨その要求内容を変更したこと、さらに、右同日の席上、第一審原告側は、保護者らに対し、「学校に同調するだけで自らの認識を改めず、子どもへの指導もしないような無責任な態度をとり続けるならば、訴訟の対象として考える。今後は、個別に対応したい。」と述べたこと、母花子は、二年生から三年生になる段階で他校に転校する第一審原告を、終業式には出席させてやりたいとの気持ちから、終業式当日、登校した際の第一審原告の身の安全を保障して貰いたいという趣旨に基づき、学校に対し文書で右の保障を約束して貰いたいと要求したこと、これに対し学校側は右保障する旨を文書化することを拒否したこと、以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(三) 右認定事実によると、学校は、遅くとも三月九日以降、それまでの第一審原告に対する学校の姿勢に問題があったと反省し、戊谷校長、丁山教諭等が第一審原告側とその後の対応を協議し、第一審原告に対する本件事故時までの「いじめ」行為等の存否を調べ、保護者らにも同様の調査をするよう要請し、事実関係の究明を図っており、学校からの要請もあったためではあるが、訴外乙野、同丙野及びその保護者らは謝罪文を作成して第一審原告宅に赴き、少なくとも本件事故の件について、それぞれ謝罪し、謝罪文も提出しているのであって、また、学校における今後の「いじめ」行為等をなくすという目的から、学級集会を開く等の対策を講じ始めている。右学校側のなした措置・行為は、第一審原告側にとって不十分かつ到底満足できる指導内容ではなかったのであろうが、学校がなすべき措置・行為は、学校限りで行い得るものばかりではなく、「いじめ」行為等について、保護者の認識を深め、かつ保護者とそれぞれの児童とのコミュニーケションが十分形成されて、初めてその結果が得られるという要素が多分にあるといえるのであるから、本件事故発生後、約一か月程度の期間内に、学校が右のような二年にわたる期間中の事実関係を具体的かつ正確に把握し、これに基づいて指導が必要であると考えられる児童の保護者に対し、これらを指摘した上でその認識を深めさせ、右時点以後、各児童毎に、各々どのような指導・措置を取るべきかその方策を検討した上で、これら全ての作業を遂行し、完了させたうえで、これを第一審原告側に報告するということは、到底不可能であるといえる。そして、右以外に第一審原告側は、学校に対し、第一審原告の受けたという「いじめ」行為等につき、日時・態様等の具体的内容を特定して明らかにするということをしなかったこと、第一審原告側が加害児童であると認識していた保護者との話合い、謝罪の場として、三月二一日までは学校においてこれに応じる姿勢でいたが、保護者に対し、訴訟の対象として考える旨告げた右同日以降、個別に第一審原告宅に来るように要求したこと、第一審原告側が右のように訴訟の対象として考えると告げた後は、保護者側としても、第一審原告側からどのような内容の請求を受けるのか不安になり、学校側からの指導・要請等にも容易く応じることは困難となると考えられること、本件事故時以降、訴外乙野及びその保護者らにおいて、第一審原告に対する謝罪の意思が表明され、保護者らも右時点以降は訴外乙野らによる行為につき十分注意を払うようになることが推測され、また、学校側においても丁山教諭、戊谷校長を中心として、それまでの姿勢等を反省し、「いじめ」行為等がないように注意する旨言明していたのであるから、第一審原告に対する「いじめ」行為等がないようにするための配慮・態勢は、それまでよりも格段に改善されたと考えられる。したがって、校長作成名義の文書による保障がなされなくとも、第一審原告の安全は確保できたものと推察できる。そうすると、本件事故後に第一審原告側が要求する内容につき、学校側が全面的に応じるというものではなかったからといって、学校側が(三月九日以降)それまでに採った右に指摘の措置・姿勢は、相当・不相当あるいは適切・不適切の問題はあっても、違法であるということはできず、第一審原告の右主張は理由がない。
五 損害
第一審原告が被った損害についての判断は、原判決「理由」の「五 損害」欄(原判決一〇〇頁七行目から末行まで)記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、同一二行目冒頭から一三行目の末尾までを「また、これまでに認定した違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、五万円と認めるのが相当である。訴外乙野の違法行為による不法行為責任の内容と第一審被告大阪市が負担すべき責任の内容は、必ずしも完全に一致するわけではないが、その多くが相互に密接に関連していると考えられるから、第一審原告に生じた損害につき双方の連帯負担とすべきである。」と訂正する。)。
六 結論
以上のとおり、控訴人の主張は一部理由があり、第一審被告乙野両名の附帯控訴における主張は理由がないから、これと異なる原判決を変更して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・見満正治、裁判官・辻本利雄、裁判官・角隆博)
別紙一、二<省略>